お話

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コーイチ物語 「秘密のノート」 29

2022年08月29日 | コーイチ物語 1 4) コーイチとゆかいな仲間たち 2  
 電車をいくつか乗り換えて会社のある地下鉄駅で降りる。すたすたと歩いているまわりの人たちを避けるように、コーイチはホームのコンクリートの柱に額を当てた姿で寄りかかっていた。
 あぁ、ここまでは来たけれど、やっぱり行きたくないなぁ…… こんなに妙な出来事が降りかかってしまったのに、ボクには相談できる相手もいないんだ。元はと言えばあのノートをボクのカバンに入れた人が悪いんだ。いったい誰なんだ! 
 コーイチは額をぐりぐりと柱にこすりつけていた。次の地下鉄が入って来てホームに乗客があふれ出したが、皆、ぐりぐりしているコーイチを避けて改札までのエスカレーターへ向かって行った。
 吉田課長はどうなってしまうんだ! 何を言ってるんだ、それを確かめに来たんじゃないか! もし、何かあったらどうしよう…… でも、ボクにどれだけの責任があるって言うんだ! それに何かあっても、ボクにノートを使わせた課長にも責任の一端はあるはずだ! あぁ、と言って、何があるのか、確かめるのは恐い……
 突然、強い光がコーイチを照らした。……うわっ、この世の終わりか! ハルマゲドンか!
「あらぁ、コーイチ君、それ何のおまじない?」
 とっさに両手で顔を覆ったコーイチに聞き馴染んだ声がかけられた。ハルマゲドンではなかったようだ…… コーイチは恐る恐る手を下ろす。そこにはカメラを持った、いつものように黒っぽい印象の清水薫子がいた。強い光はカメラのフラッシュだったようだ。
「それとも大魔王を呼び出す儀式かしら? うふふふふ」
 目だけ笑っていない笑顔で近付いて来る。コーイチはあわてて柱から離れた。
「お、おはようございます!」
 昨日の夢を思い出した。思わず清水の背後に目をやる。清水も振り返った。
「何もないじゃない…… それとも“霊”か“死神”でも見えたのかしら? うふふふふ」
 コーイチは“死神”との言葉に心臓をドキンと高鳴らせ、それから必死になって頭を左右に振り続けた。

         つづく

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