お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

ジェシルと赤いゲート 55

2024年07月29日 | マスケード博士

「ねえ、ジャン……」ジェシルがジャンセンを見る。「そのマスケード博士って、どんな人?」
「どんなって、宇宙の考古学会の重鎮だよ」ジャンセンは両手を広げる。ジャンセンが子供の時に良くやった驚き呆れた時の仕草だった。「そしてね、とんでもない量の知識を持っているんだ」
「それでいて、とっても温厚で優しいのよ」マーベラが口を挟んでくる。ジェシルはむっとした顔をする。「ご高齢なのに、とても若々しいのよね」
「長生きの種族もいるから、その仲間なんじゃないの?」ジェシルの声は冷たい。「総じて長生きな連中って言うのは、碌な事を考えてはいないわ」
「何よ、失礼ね!」マーベラが声を荒げる。「何にも知らないくせに、言わないでほしいわ!」
「そんなに若々しく知識も豊富なのに、あなたやジャンに仕事を振るなんて変じゃない?」
「そんな事無いわよ! とっても名誉な事だわ!」マーベラはジェシルに喧嘩腰だ。「宇宙パトロールには、尊敬できる上司がいないのかしら?」
 ジェシルは見えない熱線銃でトールマン部長を灰も残らないまでに焼き尽くし、ついでにパトロール本部を見えない爆弾で瓦解させた。
「いないわ!」ジェシルは吐き捨てるように即答する。「無茶苦茶な事ばかり言ってくる、碌で無しの集まりよ!」
「そうなんだ!」ジャンセンが勢い込んで割って入ってくる。「じゃあさ、前も言ったけど、ぼくと一緒に研究をしようよ。ジェシルの言語体得の能力は素晴らしいからさ! 絶対今後の考古学界の役に立つ」
 ジャンセンがジェシルを褒めているのを、マーベラは目を細めて見ている。
「ジェシルさんの『観ているみんな! 悪い事をしちゃダメだぞう! 以上、宇宙パトロー捜査官、ジェシル・アンでしたぁ!』ってビキニ姿の映像(『ジェシル、ボディガードになる』参照)、ぼくの周りでも大好評でした」トランが言う。「今のその格好も大好評になると思います。是非考古学の方へ進んでほしいです」
「あら、お姉さんを差し置いて、そんな事言っちゃっていいのぉ?」ジェシルはトランに、からかう様にわざとらしく言う。マーベラはむっとしている。「お姉さんもなかなかの格好よ」
「まあ、確かにそうですけど、ジェシルさんの前では、霞みますね」トランは平然と言う。「姉さんはジェシルさんを乱暴だって言いましたけど、姉さんも同じです。トラブルがつきまとう作業ですから、場合によってはそれを自ら解決しなければなりません」
「トラン!」マーベラが目を細めてトランを見る。「その辺にしておきなさい!」
「でもさ、この前のマケリヤント王朝時代の聖杯を探した時には、地元の聖杯守護団と渡り合っていたじゃないか」 
「ねえ、トラン君!」ジャンセンが割り込む。目が少年のようにきらきらしている。「マデリ星のテーベ地方にあったって言う王朝? 今でもその末裔の人たちが聖杯を守っているって聞いたけど?」
「そうです……」ジャンセンのぐいぐいと迫ってくる感じに苦笑しながらトランは答える。「最初は、聖杯守護団の代表の方に少しの間だけ借りられないかと交渉したんです」
「その口ぶりだと交渉は成らなかったようだねぇ……」
 ジャンセンは悔しそうに言う。我が事のようにとらえているジャンセンの様子に、ジェシルは軽く吹き出す。マーベラが目を細める。
「そうなんです。交渉は成りませんでした……」トランは言うと、マーベラを見た。「そうしたら、姉さんが……」
 トランは言うと両腕を繰り返し前方へ撃ち出した。不思議そうな顔をしながらジャンセンも真似をする。ジェシルは笑い出した。
「あはは! わたしの事を乱暴女って言っていたくせに、本当は自分の事じゃないのよ!」 
「トラン!」マーベラがトランを叱る。「あれは向こうが悪かったのよ! 借り受ける金銭面や守護団のこれからの待遇について色々と提案したのに、全く話を聞いてくれなかったじゃない! そのうち、冒涜者って言われて武器を手に襲ってきたのよ! それも大人数で!」
「ぼくは撤退する事を勧めたじゃないか!」トランも負けていない。「それなのに、『こうなれば力ずくで奪ってやるわ!』って言うから、冒涜者って言われちゃったんだ!」
「うわあ、ひどい女ぁ……」ジェシルはわざとらしく顔をしかめてマーベラを見る。「あなた、それって強盗よ。逮捕案件だわぁ」
「だって、マスケード博士は話は通してあるって言っていらしたのよ!」マーベラは目を細めてジェシルを見る。「きっと守護団が勝手に変えたんだわ! 勝手に変えたんなら、わたしたちだって(「え? ぼくも入っているの?」トランは驚いた顔で言い返す)変えたって良いって事でしょ? 貸さないって言うんなら、奪い取るしかないじゃない!」
「で、大暴れして守護団の人たちを皆病院送りにしたんです……」トランが申し訳なさそうに言う。「困った姉です……」
「ふん!」
 マーベラは鼻を鳴らし、そっぽを向いた。
「ねえ、一つ気になったんだけど……」ジェシルが真顔で訊く。「マスケード博士、本当に話を通していたのかしら?」

 

つづく



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