それは眩しいものでは無く、心安らかになる輝きだった。
さとみは全身を金色に光らせながら、一歩前に出る。影はそれを避けるように後退する。
「……おばあちゃん……」
さとみはつぶやく。……おばあちゃんがわたしを守ってくれているんだわ。そう思うと、さとみに力が湧いてくる。
影が怯んだからなのだろうか、動けなかった皆が起き上がった。泣いていたまさきときりとも、さとみの光りで落ち着きを取り戻したようで、泣き止んでいた。倒れていたまきも上半身を起き上がらせ、きょろきょろと周りを見回している。春美はまきに駈け寄って、しっかりと抱きしめた。
「さあ、あなたの負けよ!」さとみは影を睨みつける。「大人しく、春美さんと子供たちを解放しなさい!」
影は宙を漂っている。さとみの光りのせいなのか、少し縮んだように見える。
「嬢様! 影野郎、弱ってきているようですぜ!」豆蔵が言う。「このまま倒しちまいやしょう! 弱っている今なら、あっしらの攻めも効きやすぜ!」
みつと冨美代と虎之助もうなずき、みつと冨美代は刀と薙刀を構え、虎之助は呼吸を整えて攻撃の態勢を取る。
「あなたは元居た場所へ戻るのよ」さとみは影に向かって言う。「学校に悪い霊を増やさないで」
「さとみ殿!」みつの声が鋭い。「そのような生易しい言葉を聞く相手ではありませんぞ!」
「みつ様のおっしゃる通りですわ!」冨美代も同じだ。「この者、周りの悪霊たちの気を吸って強くなっているのです! 弱っている今が、倒す好機ですわ!」
「でも……」さとみは二人に振り返る。「大人しくしていれば、いずれはあの世に行けるかも……」
「そんな情けは掛けちゃいけやせんぜ!」豆蔵は語気を荒げる。「今までの出来事を思えば、こいつは決して改心なんぞしやがらねぇ! 嬢様だって、危ねぇ目に何度も遭っているはずじゃねぇですか!」
「でも、何か理由があってこうなったはずなのよ。それを取り除いたら……」
「でも、でも、なんて言っていたら逃げられちゃうわ!」虎之助が言う。「さとみちゃん、今回の優しさは裏目に出るだけよ!」
虎之助は影に突進した。床を蹴り、宙を飛び、突き出した右脚が影の真ん中を貫いた。
「みつさん、冨美代さん! 手応えがあったわよ!」影を貫いて床に立った虎之助は振り返るとそう言った。「まさに、チャンス、好機だわ!」
「承知!」
みつと冨美代は同時に言うと影に斬りかかる。
「邪魔をするなぁぁぁ!」
影が低い押し殺したような声を上げた。
廊下が、いや、廊下の空間が大きく揺れた。その衝撃で体勢を崩したみつと冨美代は床に片膝を突いてしまった。と、影はふっと消えてしまった。
皆は呆然とした態だ。
「影野郎は……」
やっと口を開いたのは豆蔵だった。それは口の中がからからに乾いた時のような声だった。
「消えたわね……」さとみがつぶやくように答える。からだは金色に光ったままだ。「邪魔するなって言っていたから、また出て来るでしょうね……」
「倒すチャンスを逃したのかしら……」虎之助がちょっと恨めしそうな表情をさとみに向ける。「だとしたら、残念だわぁ」
「いえ、落ち着いて考えてみれば、わたしが斬りつけても、倒せなかったのではないでしょうか」みつが言う。「弱っていたとは言え、あれだけの衝撃波を放てたのですから……」
「左様ですわ、虎之助様」冨美代も言う。「さとみ様のその金色のおからだをもってしても、多少怯んだ程度でしたもの、倒すのは難しいかと……」
「……やっぱり、そうよねぇ」虎之助はため息をつく。「武術の達人の二人が言うんなら、間違いないわよね。わたしが言った通りに二人が影に突っ込んでいたら、ひょっとして、なんて事になったかも…… ごめんなさいね」
虎之助はみつと冨美代に頭を下げ、それからさとみにもそうした。
「とすれば、虎之助さんにわざと打たせて、みつ様と冨美代様を誘い込もうって考えたんでしょうか?」豆蔵は言うと眉間に皺を寄せる。「……何て、性質の悪い野郎なんだ!」
「……ところで、四階の悪霊たちって、どうなったの?」さとみが豆蔵に訊く。「結構、強力だったんでしょ?」
「へい、実はそうでもなかったんで……」豆蔵が苦笑する。「影野郎も居やしたが、そいつは真っ赤な偽物でやした。あっしが加勢する間もなく、大和撫子軍団で倒しちまったんでさぁ」
「今思えば、影がさとみ殿を襲うための罠だったんでしょうね。あまりにも手応えの無い連中でした」みつが言う。「気がつかなかったとは、抜かった話です」
「そんな事ありやせんぜ」豆蔵が言う。「こうして先生と子供たちを救い出せたんですからね」
豆蔵の言葉に、皆は子供たちを見た。
春美はまきを抱いて、頭を撫でている。まきも安心しているのか、大人びた雰囲気は見られなかった。そんな様子を見ていたまさきときりとは、竜二から離れて、春美の方へと近づいた。散々やんちゃをして言う事を聞かなかったという負い目があるからなのだろう、二人はやや離れた位置で春美とまきを見ている。
「あら……」春美はまさきときりとに気がついた。春美は優しく笑む。「そんな所でどうしたの? こっちにいらっしゃい」
まさきときりとは歓声を上げながら、春美に突進した。春美は笑んだまま、二人のやんちゃ坊主を抱きかかえた。
「……やっと、春美先生になれたようね」さとみも笑む。「良かったわ」
さとみの光りが弱まって行く。
つづく
さとみは全身を金色に光らせながら、一歩前に出る。影はそれを避けるように後退する。
「……おばあちゃん……」
さとみはつぶやく。……おばあちゃんがわたしを守ってくれているんだわ。そう思うと、さとみに力が湧いてくる。
影が怯んだからなのだろうか、動けなかった皆が起き上がった。泣いていたまさきときりとも、さとみの光りで落ち着きを取り戻したようで、泣き止んでいた。倒れていたまきも上半身を起き上がらせ、きょろきょろと周りを見回している。春美はまきに駈け寄って、しっかりと抱きしめた。
「さあ、あなたの負けよ!」さとみは影を睨みつける。「大人しく、春美さんと子供たちを解放しなさい!」
影は宙を漂っている。さとみの光りのせいなのか、少し縮んだように見える。
「嬢様! 影野郎、弱ってきているようですぜ!」豆蔵が言う。「このまま倒しちまいやしょう! 弱っている今なら、あっしらの攻めも効きやすぜ!」
みつと冨美代と虎之助もうなずき、みつと冨美代は刀と薙刀を構え、虎之助は呼吸を整えて攻撃の態勢を取る。
「あなたは元居た場所へ戻るのよ」さとみは影に向かって言う。「学校に悪い霊を増やさないで」
「さとみ殿!」みつの声が鋭い。「そのような生易しい言葉を聞く相手ではありませんぞ!」
「みつ様のおっしゃる通りですわ!」冨美代も同じだ。「この者、周りの悪霊たちの気を吸って強くなっているのです! 弱っている今が、倒す好機ですわ!」
「でも……」さとみは二人に振り返る。「大人しくしていれば、いずれはあの世に行けるかも……」
「そんな情けは掛けちゃいけやせんぜ!」豆蔵は語気を荒げる。「今までの出来事を思えば、こいつは決して改心なんぞしやがらねぇ! 嬢様だって、危ねぇ目に何度も遭っているはずじゃねぇですか!」
「でも、何か理由があってこうなったはずなのよ。それを取り除いたら……」
「でも、でも、なんて言っていたら逃げられちゃうわ!」虎之助が言う。「さとみちゃん、今回の優しさは裏目に出るだけよ!」
虎之助は影に突進した。床を蹴り、宙を飛び、突き出した右脚が影の真ん中を貫いた。
「みつさん、冨美代さん! 手応えがあったわよ!」影を貫いて床に立った虎之助は振り返るとそう言った。「まさに、チャンス、好機だわ!」
「承知!」
みつと冨美代は同時に言うと影に斬りかかる。
「邪魔をするなぁぁぁ!」
影が低い押し殺したような声を上げた。
廊下が、いや、廊下の空間が大きく揺れた。その衝撃で体勢を崩したみつと冨美代は床に片膝を突いてしまった。と、影はふっと消えてしまった。
皆は呆然とした態だ。
「影野郎は……」
やっと口を開いたのは豆蔵だった。それは口の中がからからに乾いた時のような声だった。
「消えたわね……」さとみがつぶやくように答える。からだは金色に光ったままだ。「邪魔するなって言っていたから、また出て来るでしょうね……」
「倒すチャンスを逃したのかしら……」虎之助がちょっと恨めしそうな表情をさとみに向ける。「だとしたら、残念だわぁ」
「いえ、落ち着いて考えてみれば、わたしが斬りつけても、倒せなかったのではないでしょうか」みつが言う。「弱っていたとは言え、あれだけの衝撃波を放てたのですから……」
「左様ですわ、虎之助様」冨美代も言う。「さとみ様のその金色のおからだをもってしても、多少怯んだ程度でしたもの、倒すのは難しいかと……」
「……やっぱり、そうよねぇ」虎之助はため息をつく。「武術の達人の二人が言うんなら、間違いないわよね。わたしが言った通りに二人が影に突っ込んでいたら、ひょっとして、なんて事になったかも…… ごめんなさいね」
虎之助はみつと冨美代に頭を下げ、それからさとみにもそうした。
「とすれば、虎之助さんにわざと打たせて、みつ様と冨美代様を誘い込もうって考えたんでしょうか?」豆蔵は言うと眉間に皺を寄せる。「……何て、性質の悪い野郎なんだ!」
「……ところで、四階の悪霊たちって、どうなったの?」さとみが豆蔵に訊く。「結構、強力だったんでしょ?」
「へい、実はそうでもなかったんで……」豆蔵が苦笑する。「影野郎も居やしたが、そいつは真っ赤な偽物でやした。あっしが加勢する間もなく、大和撫子軍団で倒しちまったんでさぁ」
「今思えば、影がさとみ殿を襲うための罠だったんでしょうね。あまりにも手応えの無い連中でした」みつが言う。「気がつかなかったとは、抜かった話です」
「そんな事ありやせんぜ」豆蔵が言う。「こうして先生と子供たちを救い出せたんですからね」
豆蔵の言葉に、皆は子供たちを見た。
春美はまきを抱いて、頭を撫でている。まきも安心しているのか、大人びた雰囲気は見られなかった。そんな様子を見ていたまさきときりとは、竜二から離れて、春美の方へと近づいた。散々やんちゃをして言う事を聞かなかったという負い目があるからなのだろう、二人はやや離れた位置で春美とまきを見ている。
「あら……」春美はまさきときりとに気がついた。春美は優しく笑む。「そんな所でどうしたの? こっちにいらっしゃい」
まさきときりとは歓声を上げながら、春美に突進した。春美は笑んだまま、二人のやんちゃ坊主を抱きかかえた。
「……やっと、春美先生になれたようね」さとみも笑む。「良かったわ」
さとみの光りが弱まって行く。
つづく
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