ぼんやりとした照明の灯る薄暗い石造りの通路を黙々と歩く。ジョーカーのスキップする軽快な靴音が響いている。その後に従う二人の足取りは重い。ジョーカーの靴音が止んだ。先程の部屋と同じような重々しい木製の扉の前だった。ジョーカーは二人にいやらしい笑顔を向けた。
「さあ、お二方。この扉の先に女王陛下がいらっしゃいます。御身を正されますように…… と申しましても、それ以上は無理ですかな」
ジョーカーは甲高く笑った。熊の兵隊たちも低く笑う。洋子は動かなかった。……確かに、芳川さんはそんなにひどくないけど、僕は結構それなりにひどいかな…… コーイチは今更ながら、からだ中を叩いてほこりを落とし始めた。思ったよりほこりが立っていた。さすがに、洋子も口を覆い一歩下がった。
コーイチの様子が一段落するのを待って、ジョーカーが扉に手をかけた。
「では、参りますよ。女王陛下の法廷でございます」
ギギギギギッと大きな軋み音を響かせて、扉は法廷内に向かって開かれた。コーイチと洋子は熊の兵隊に背中を押され、法廷内によろけながら入った。何とか踏みとどまる。扉は再び軋み音高らかに閉ざされた。……もう、帰れない、か…… コーイチの喉がごくりと鳴った。
法廷内は真っ暗だった。広そうな感じはするものの、今のままでは自分の鼻先も見えない。ひんやりとした空気に背筋がぞくっとした。物音一つしない。コーイチは夢を思い出していた。……正夢となりませんように…… コーイチの喉がまた鳴った。
突然、目がくらんだ。全身が熱くなった。目が慣れると、横に洋子が立っているのが見えた。はるか高い位置から、洋子にもコーイチにもスポットライトが当てられたのだ。
別のスポットライトがコーイチたちの右側の高い位置を照らした。明りの中にジョーカーが入ってきた。黒衣をまとい、黒縁のメガネをかけ、分厚い本を小脇に抱えていた。用意されていた椅子にちょこんと腰掛ける。
「ねえ、コーイチさん……」
洋子が小声で話しかけてくる。意外と落ち着いている様子を見て、コーイチも落ち着いてきた。同じく小声で答える。
「なんだい?」
「ジョーカー、検察官でも気取っているんでしょうか?」うっすらとオレンジ色のオーラを立てる。「生意気な!」
「そうかもしれないね…… にしても、女王が見えないね」
「女王だなんて、止めてください!」さらにオーラが立ち上がる。「あれは犯罪者のベリーヌなんです!」
「……ゴメン……」
洋子がさらに何かを言おうとした時、オーケストラの大音量の演奏が流れてきた。……カッコいい曲じゃないか、コーイチは思った。前奏らしきものが終わると、四方から歌声がオーケストラに負けないほどの大音量で起こった。思わず両耳をふさぐ二人だった。洋子のオーラも消し飛んでしまった。……そうか、これは国歌なんだ。ふさいでもなお耳に入ってくる歌声にコーイチは思った。……そうだよな、女王だもんな。怒った顔の洋子が浮かび、コーイチは考えるのを止めた。
歌が終わり、盛大な拍手が湧き上がった。それがゆっくりと消えたころ、新たなスポットライトがコーイチたちの正面はるか上に当てられた。
そこには、塔のてっぺんでひるがえっていた旗の、あの意地悪そうな中年の女の人ではなく、年齢こそ同じようだが、美しく、穏やかで、気品のかたまりのような、まさに女王と呼ぶにふさわしい女性が、ハートをあしらったドレスをまとい、毅然とした表情で立っていた。とたんに「女王陛下万歳!」の歓声が上がる。
「……コーイチさん!」洋子がコーイチに近づいて大きな声を出す。コーイチは大きくうなずいて見せる。「……わたしが見たベリーヌの写真と、全然違っています!」
「うん、僕も本人を見たわけじゃないけど、そんな気がする」
女王はすっと右手を上げた。歓声がぴたっと止まった。ゆっくりと顔を二人に向ける。
「では、これより……」深みと張りのある、それでいて品の良い声が響く。「芳川洋子ともう一名に関しての裁判を開廷する」
……もう一名って…… 不満に思ったコーイチだった。
「さあ、お二方。この扉の先に女王陛下がいらっしゃいます。御身を正されますように…… と申しましても、それ以上は無理ですかな」
ジョーカーは甲高く笑った。熊の兵隊たちも低く笑う。洋子は動かなかった。……確かに、芳川さんはそんなにひどくないけど、僕は結構それなりにひどいかな…… コーイチは今更ながら、からだ中を叩いてほこりを落とし始めた。思ったよりほこりが立っていた。さすがに、洋子も口を覆い一歩下がった。
コーイチの様子が一段落するのを待って、ジョーカーが扉に手をかけた。
「では、参りますよ。女王陛下の法廷でございます」
ギギギギギッと大きな軋み音を響かせて、扉は法廷内に向かって開かれた。コーイチと洋子は熊の兵隊に背中を押され、法廷内によろけながら入った。何とか踏みとどまる。扉は再び軋み音高らかに閉ざされた。……もう、帰れない、か…… コーイチの喉がごくりと鳴った。
法廷内は真っ暗だった。広そうな感じはするものの、今のままでは自分の鼻先も見えない。ひんやりとした空気に背筋がぞくっとした。物音一つしない。コーイチは夢を思い出していた。……正夢となりませんように…… コーイチの喉がまた鳴った。
突然、目がくらんだ。全身が熱くなった。目が慣れると、横に洋子が立っているのが見えた。はるか高い位置から、洋子にもコーイチにもスポットライトが当てられたのだ。
別のスポットライトがコーイチたちの右側の高い位置を照らした。明りの中にジョーカーが入ってきた。黒衣をまとい、黒縁のメガネをかけ、分厚い本を小脇に抱えていた。用意されていた椅子にちょこんと腰掛ける。
「ねえ、コーイチさん……」
洋子が小声で話しかけてくる。意外と落ち着いている様子を見て、コーイチも落ち着いてきた。同じく小声で答える。
「なんだい?」
「ジョーカー、検察官でも気取っているんでしょうか?」うっすらとオレンジ色のオーラを立てる。「生意気な!」
「そうかもしれないね…… にしても、女王が見えないね」
「女王だなんて、止めてください!」さらにオーラが立ち上がる。「あれは犯罪者のベリーヌなんです!」
「……ゴメン……」
洋子がさらに何かを言おうとした時、オーケストラの大音量の演奏が流れてきた。……カッコいい曲じゃないか、コーイチは思った。前奏らしきものが終わると、四方から歌声がオーケストラに負けないほどの大音量で起こった。思わず両耳をふさぐ二人だった。洋子のオーラも消し飛んでしまった。……そうか、これは国歌なんだ。ふさいでもなお耳に入ってくる歌声にコーイチは思った。……そうだよな、女王だもんな。怒った顔の洋子が浮かび、コーイチは考えるのを止めた。
歌が終わり、盛大な拍手が湧き上がった。それがゆっくりと消えたころ、新たなスポットライトがコーイチたちの正面はるか上に当てられた。
そこには、塔のてっぺんでひるがえっていた旗の、あの意地悪そうな中年の女の人ではなく、年齢こそ同じようだが、美しく、穏やかで、気品のかたまりのような、まさに女王と呼ぶにふさわしい女性が、ハートをあしらったドレスをまとい、毅然とした表情で立っていた。とたんに「女王陛下万歳!」の歓声が上がる。
「……コーイチさん!」洋子がコーイチに近づいて大きな声を出す。コーイチは大きくうなずいて見せる。「……わたしが見たベリーヌの写真と、全然違っています!」
「うん、僕も本人を見たわけじゃないけど、そんな気がする」
女王はすっと右手を上げた。歓声がぴたっと止まった。ゆっくりと顔を二人に向ける。
「では、これより……」深みと張りのある、それでいて品の良い声が響く。「芳川洋子ともう一名に関しての裁判を開廷する」
……もう一名って…… 不満に思ったコーイチだった。
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