お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

探偵小説 「桜沢家の人々」 14

2008年03月30日 | 探偵小説(好評連載中)
 小夜子が小学校へ上がる前年、周一は、西洋の屋敷と見紛うばかりの豪奢な邸宅を、都心の高級住宅街に新築した。事業の拡大によって、国内の主要な人物達、さらには海外の要人達とも懇意とするため、その舞台として使用する事が第一の目的だった。
「だから、部屋数は多くてとても大きなお屋敷なんだけど、ほとんどがゲストルームなわけ。実際の生活スペースはお屋敷のごく一部だったわ」
「小夜子さんを手元で育てたいって気持ちも大きかったんだろうね」
「そうね、小夜子さんも言ってたけど、大きな屋敷だけど、全部の部屋を見てまわった事はないって」
「無茶苦茶、デカイんだな。その家!」
「・・・そんな下品な言い方は止めて。馬鹿みたいだから」
「・・・」
 しかし、屋敷が完成し入居が済んだ頃、綾子が突然戻って来た。
「身一つで戻って来たんですって」
「じゃあ、一切合財売り払って戻って来たんだ」
「いいえ、住んでたマンションは女友達に丸ごとあげちゃったんですって」
「・・・太っ腹だね」
「と言うより、手切れのつもりだったらしいわ」
「・・・どう言う事?」
 家を出て、放蕩の生活(それも親から生活費を貰いながら)を続けていた綾子は、自堕落な生活を送っていた。周一が裏から手を回さなければならないような不始末を幾度も起こした。また、男出入りも激しく、それも綾子の実家のことを知っていて、あわよくばと言う魂胆のみを持った男たちばかりだった。さらには、同性愛に耽る事もしばしばで、男たちと似たような魂胆の女たちも出入りした。
「そんな女の人の一人に上げちゃったんですって」
「そ、そうなんだ・・・ でも、冴子、お前良くそんなに色々知ってるなぁ!」
「四年の田中先輩も言ってたけど、紫籐家と桜沢家って、世間ではライバル関係と思われているから、うちと親しい人たちが、あれこれと桜沢家の悪い話を仕込んできちゃあ、ライバル蹴落としのご注進ってつもりで、披露してくれるの」
「冴子にか?」
「馬鹿ねえ、私なわけないじゃない! 常識を働かせればそんな質問出るはずがないでしょ! おじい様によ」
「じゃ、おじいさんから聞くのか? いやな話を孫にするなんて、どう言うつもりなんだろう・・・ 僕のばあちゃんなら絶対にしないな」
「全ての真実を知って、それでも付き合ってほしいと願ったからよ」
「そうか、なにか事情があるんだ」
「まあ、ね・・・」
 屋敷に戻った綾子は、これからは桜沢家に相応しい娘となるべく努めると、周一に涙ながらに自分の改心の決意を述べた。周一も同じく涙を流しながらその言葉を受け入れた。
「それから、小夜子さんを、姉として、母親代わりとして面倒を見させて欲しいとも言ったの」
「ふーん、立派な心掛けじゃないか。これにて一件落着! って感じだね」
「勧善懲悪の時代劇の見すぎじゃない? ・・・そんなに甘くはないわ」
「・・・って事は?」
「綾子さん、妊娠して戻って来たのよ」 

    続く


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