オーランド・ゼムが先に歩く。ジェシルは難しい顔をしながらオーランド・ゼムの後に付いて行くが、頭の中は「ニンジャ」でいっぱいだった。更に、ドクター・ジェレマイアが製作したと言うのも興味がある。
「この中だよ」オーランド・ゼムは厚い金属性のドアの前に立ち、ジェシルに振り返って、にやりと笑う。「ここは格納庫として使っているが、色々なものが入っている」
「そう……」ジェシルは気の無い返事をするが、内心は「ニンジャ宇宙艇」を一刻も早く見たかった。それをオーランド・ゼムに悟られまいとしているのだ。「とりあえず、中に入れてよ」
「ははは、ずいぶんとせっかちになったな」
オーランド・ゼムは笑う。ジェシルの気持ちなど見透かしているようだ。
オーランド・ゼムはドア横の壁の一部を押す。押された壁の一部が開き、その中に丸い金属性のハンドルのようなものがあった。オーランド・ゼムはそのハンドルを両手で持つと右周りに回し始めた。それにつれてドアが重々しい音を立てながら真ん中から左右に開き始める。
「ここは自動じゃないの?」
「万が一の時は脱出で使う場所だからね。自動ドアだと電気系統がダメになったら開かなくなってしまうだろう? だから、ここだけは手動なのさ。本来はハービィにやってもらう予定だよ」オーランド・ゼムは手を止めてジェシルを見る。「わたしも歳だからねぇ……」
「分かったわよ、全く困ったおじいちゃんね!」
ジェシルはオーランド・ゼムと交代し、ハンドルを回す。ジェシルはむっとはしているが、内心はわくわくしている。
ドアが開き切ると、ジェシルが先に入った。期待していたジェシルの表情が瞬時に曇った。
そこそこ広いが、庫内の天井には幾つも切れている照明灯が並んでいる。そのせいで、庫内が薄暗く、薄汚さが増して見えた。油染みの広がる床には壊れたエンジンがむき出しのままで転がっていたり、何に用いるのか分からない部品が山積みされたりしている。今ならちょっと太めの評価されるだろう体型の水着姿のアラムス人の女性のポスターが、これも油染みの広がる壁に貼ってあるが、縁が破れていて、ポスター自体も色あせている。……いったい何時の時代のポスターなの? まさか、オーランド・ゼムの青春時代とか? ジェシルは溜め息をつく。
「何なのよ、これは?」ジェシルはオーランド・ゼムに振り返り、口を尖らせる。「これじゃ、格納庫じゃなくて物置じゃない」
「わたしもハービィも整理整頓が苦手でね……」オーランド・ゼムは頭を掻いてみせる。「良かったら、ジェシルがやってくれないかね?」
「それはボディガードの仕事じゃないわ」ジェシルは即否定する。「それより、ドクターの作った宇宙艇はどこ?」
「ああ、それはね……」オーランド・ゼムは奥へと進んで行くと、振り返って、ジェシルを手招きする。「ここにある」
ジェシルはむっとしながらもオーランド・ゼムの手招きに気に応じる。それを見た途端、ジェシルの表情が呆れたもののようになる。
「これ……なの?」
オーランド・ゼムが示したものは、長方形の形をした、黒色の一人用のウォーターマットのようにしか見えず、狭い方の一辺に赤い二本のスティックが付いているだけだった。
「ふざけているの?」
「いいや、ふざけてはいない。ドクター・ジェレマイア曰く『最小にして最高の宇宙艇』なのだそうだ」
「どうやって乗るの?」ジェシルはイヤそうな顔をする。「……まさかとは思うけど……」
「そう、腹這いになって乗るのだよ。操縦はその二本のスティックで行なうのだそうだ」
「でも、保護フードが無いわ。宇宙に出た瞬間にあの世行きだわ」
「大丈夫だ。発進準備をすれば隙間なくぴったりとした透明なシートで覆われるようになっているらしい。ジェシルの体型を優しく包んでくれるんじゃないのかね?」
「相変わらず、下らない事ばかり言うのね……」ジェシルはオーランド・ゼムを睨む。「それにしても、さっきから、だそうだ、らしいなんて、言っている事が不確実って感じなんだけど?」
「実は、わたしはこれを使った事が無いのだよ。もちろん、ハービィもだ」
「それを、わたしに使えと?」
「ドクター・ジェレマイアが作ったのだよ。性能は確かさ。それはジェシル、君も分かるはずだ」
「それは分かるけど……」
「元々はわたしの脱出用にと作ってもらったのだがね、腹這いと言うのは、どうも屈辱的に思えてね……」
「まあ、シンジケートの大ボスだものね。命よりプライドって所なんでしょ?」
「ほう、分かってくれるのかね?」
「でも、それだけ長生きして来たんなら、もう良いんじゃないかと思うけどね」
「ははは、厳しいな、ジェシルは」
オーランド・ゼムは楽しそうに笑う。これだけの大ボスになると、命に係わる事も娯楽の一つに過ぎないのだろう。
「……それで、これに乗ってベルダに行けって言うの?」
「そうだ」オーランド・ゼムは平然と言う。「これで言って、デーラフーラからアーセルを連れ帰って欲しい」
「簡単に言ってくれるわね……」ジェシルはむっとしている。「それに、これって一人乗りじゃないの? どうやってアーセルを連れて帰るのよ?」
「アーセルは年寄りだし、小柄だよ。背中にでも乗せれば良いんじゃないか? 防護シートは体型に合わせてくれるそうだから、アーセルを乗せた姿を包んでくれるさ」
「イヤよ!」ジェシルは口を尖らせる。「おじいちゃんを背中に乗せるなんて、絶対にイヤ!」
「それじゃ、アーセルを下にして、ジェシルが乗っかるかね?」
「それもイヤに決まっているじゃない!」
「だがな、君は、わたしとその仲間たちのボディガードなのだよ。我儘にも限度があろうと言うものだ」
「そうれはそうだろうけど……」ジェシルはひるみかけるが、思い直しぷっと頬を膨らませた。「でも、イヤなものはイヤなの!」
「そう言うなよ、ジェシル……」オーランド・ゼムは宇宙艇を指し示す。「それに、この宇宙艇は、まだ一台しか作られていない。全宇宙に会って、たったの一台だけなのさ」
「ふ~ん、一台だけなの……」ジェシルの表情が少し穏やかになる。新し物好きの血が騒ぎ出したようだ。「そうなんだ。全宇宙で一台だけなんだ……」
「サイズも、ジェシルにちょうど良い感じがする。まるで、ジェシルにあつらえたようだ」
「……分かったわよ」ジェシルは渋々と言った口調で応える。内心はわくわくしている。「これに乗って行ってくるわ。転送装置よりは安全そうだから」
「そうか、行ってくれるかね。これは嬉しい限りだよ」オーランド・ゼムは感謝の言葉を口にするが、ジェシルの内心は見抜いている。「そうと決まれば、早速準備に取り掛かろう」
「……あのさ、もしもの時は攻撃はできるの?」
「これは脱出が主な用途だから、そう言う設備は無いだろうな。でも、レーダーにもスクリーンにも反応しないのだから、安心したまえ。何しろ、あのドクター・ジェレマイアが作った『ニンジャ宇宙艇』なのだからな」
「そう……」ジェシルは呟く。「……でも、あのおじいちゃん、たまに大失敗をしでかすのよねぇ……」
つづく
「この中だよ」オーランド・ゼムは厚い金属性のドアの前に立ち、ジェシルに振り返って、にやりと笑う。「ここは格納庫として使っているが、色々なものが入っている」
「そう……」ジェシルは気の無い返事をするが、内心は「ニンジャ宇宙艇」を一刻も早く見たかった。それをオーランド・ゼムに悟られまいとしているのだ。「とりあえず、中に入れてよ」
「ははは、ずいぶんとせっかちになったな」
オーランド・ゼムは笑う。ジェシルの気持ちなど見透かしているようだ。
オーランド・ゼムはドア横の壁の一部を押す。押された壁の一部が開き、その中に丸い金属性のハンドルのようなものがあった。オーランド・ゼムはそのハンドルを両手で持つと右周りに回し始めた。それにつれてドアが重々しい音を立てながら真ん中から左右に開き始める。
「ここは自動じゃないの?」
「万が一の時は脱出で使う場所だからね。自動ドアだと電気系統がダメになったら開かなくなってしまうだろう? だから、ここだけは手動なのさ。本来はハービィにやってもらう予定だよ」オーランド・ゼムは手を止めてジェシルを見る。「わたしも歳だからねぇ……」
「分かったわよ、全く困ったおじいちゃんね!」
ジェシルはオーランド・ゼムと交代し、ハンドルを回す。ジェシルはむっとはしているが、内心はわくわくしている。
ドアが開き切ると、ジェシルが先に入った。期待していたジェシルの表情が瞬時に曇った。
そこそこ広いが、庫内の天井には幾つも切れている照明灯が並んでいる。そのせいで、庫内が薄暗く、薄汚さが増して見えた。油染みの広がる床には壊れたエンジンがむき出しのままで転がっていたり、何に用いるのか分からない部品が山積みされたりしている。今ならちょっと太めの評価されるだろう体型の水着姿のアラムス人の女性のポスターが、これも油染みの広がる壁に貼ってあるが、縁が破れていて、ポスター自体も色あせている。……いったい何時の時代のポスターなの? まさか、オーランド・ゼムの青春時代とか? ジェシルは溜め息をつく。
「何なのよ、これは?」ジェシルはオーランド・ゼムに振り返り、口を尖らせる。「これじゃ、格納庫じゃなくて物置じゃない」
「わたしもハービィも整理整頓が苦手でね……」オーランド・ゼムは頭を掻いてみせる。「良かったら、ジェシルがやってくれないかね?」
「それはボディガードの仕事じゃないわ」ジェシルは即否定する。「それより、ドクターの作った宇宙艇はどこ?」
「ああ、それはね……」オーランド・ゼムは奥へと進んで行くと、振り返って、ジェシルを手招きする。「ここにある」
ジェシルはむっとしながらもオーランド・ゼムの手招きに気に応じる。それを見た途端、ジェシルの表情が呆れたもののようになる。
「これ……なの?」
オーランド・ゼムが示したものは、長方形の形をした、黒色の一人用のウォーターマットのようにしか見えず、狭い方の一辺に赤い二本のスティックが付いているだけだった。
「ふざけているの?」
「いいや、ふざけてはいない。ドクター・ジェレマイア曰く『最小にして最高の宇宙艇』なのだそうだ」
「どうやって乗るの?」ジェシルはイヤそうな顔をする。「……まさかとは思うけど……」
「そう、腹這いになって乗るのだよ。操縦はその二本のスティックで行なうのだそうだ」
「でも、保護フードが無いわ。宇宙に出た瞬間にあの世行きだわ」
「大丈夫だ。発進準備をすれば隙間なくぴったりとした透明なシートで覆われるようになっているらしい。ジェシルの体型を優しく包んでくれるんじゃないのかね?」
「相変わらず、下らない事ばかり言うのね……」ジェシルはオーランド・ゼムを睨む。「それにしても、さっきから、だそうだ、らしいなんて、言っている事が不確実って感じなんだけど?」
「実は、わたしはこれを使った事が無いのだよ。もちろん、ハービィもだ」
「それを、わたしに使えと?」
「ドクター・ジェレマイアが作ったのだよ。性能は確かさ。それはジェシル、君も分かるはずだ」
「それは分かるけど……」
「元々はわたしの脱出用にと作ってもらったのだがね、腹這いと言うのは、どうも屈辱的に思えてね……」
「まあ、シンジケートの大ボスだものね。命よりプライドって所なんでしょ?」
「ほう、分かってくれるのかね?」
「でも、それだけ長生きして来たんなら、もう良いんじゃないかと思うけどね」
「ははは、厳しいな、ジェシルは」
オーランド・ゼムは楽しそうに笑う。これだけの大ボスになると、命に係わる事も娯楽の一つに過ぎないのだろう。
「……それで、これに乗ってベルダに行けって言うの?」
「そうだ」オーランド・ゼムは平然と言う。「これで言って、デーラフーラからアーセルを連れ帰って欲しい」
「簡単に言ってくれるわね……」ジェシルはむっとしている。「それに、これって一人乗りじゃないの? どうやってアーセルを連れて帰るのよ?」
「アーセルは年寄りだし、小柄だよ。背中にでも乗せれば良いんじゃないか? 防護シートは体型に合わせてくれるそうだから、アーセルを乗せた姿を包んでくれるさ」
「イヤよ!」ジェシルは口を尖らせる。「おじいちゃんを背中に乗せるなんて、絶対にイヤ!」
「それじゃ、アーセルを下にして、ジェシルが乗っかるかね?」
「それもイヤに決まっているじゃない!」
「だがな、君は、わたしとその仲間たちのボディガードなのだよ。我儘にも限度があろうと言うものだ」
「そうれはそうだろうけど……」ジェシルはひるみかけるが、思い直しぷっと頬を膨らませた。「でも、イヤなものはイヤなの!」
「そう言うなよ、ジェシル……」オーランド・ゼムは宇宙艇を指し示す。「それに、この宇宙艇は、まだ一台しか作られていない。全宇宙に会って、たったの一台だけなのさ」
「ふ~ん、一台だけなの……」ジェシルの表情が少し穏やかになる。新し物好きの血が騒ぎ出したようだ。「そうなんだ。全宇宙で一台だけなんだ……」
「サイズも、ジェシルにちょうど良い感じがする。まるで、ジェシルにあつらえたようだ」
「……分かったわよ」ジェシルは渋々と言った口調で応える。内心はわくわくしている。「これに乗って行ってくるわ。転送装置よりは安全そうだから」
「そうか、行ってくれるかね。これは嬉しい限りだよ」オーランド・ゼムは感謝の言葉を口にするが、ジェシルの内心は見抜いている。「そうと決まれば、早速準備に取り掛かろう」
「……あのさ、もしもの時は攻撃はできるの?」
「これは脱出が主な用途だから、そう言う設備は無いだろうな。でも、レーダーにもスクリーンにも反応しないのだから、安心したまえ。何しろ、あのドクター・ジェレマイアが作った『ニンジャ宇宙艇』なのだからな」
「そう……」ジェシルは呟く。「……でも、あのおじいちゃん、たまに大失敗をしでかすのよねぇ……」
つづく
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