「おーい、オーランド・ゼム」
コックピットに声が響いた。オーランド・ゼムは周囲を見回す。声はスピーカーからだった。
「その声は……」オーランド・ゼムはスピーカーを見つめる。「ムハンマイド君かね……」
「当たり!」ムハンマイドの声は、はしゃいでいる。「ボクだけじゃない。ジェシルも居る」
「オーランド・ゼム!」ジェシルの荒げた声が響く。「ミュウミュウを出しなさいよ! 文句を言ってやりたいの!」
「ははは、一足違いだったね……」オーランド・ゼムは、床に転がっているミュウミュウを見る。「死んだよ。わたしが撃った。あの娘はでしゃばり過ぎたのでね……」
「なんて事をしてくれたのよ!」
「おや、喜んでくれるのかと思ったがね?」オーランド・ゼムはとぼけた顔で言う。「それとも、君が直接に撃ちたかったのかね?」
「もちろん、それはあるわ。……でもね、ミュウミュウには、法の裁きを受けてもらいたかったわ」
「随分と殊勝な事を言うのだねぇ」
「あなた、何か勘違いしているようだけど、わたしは宇宙パトロールの捜査官よ。法と秩序を守るために、日夜奮闘をしているのよ」
「ははは、君からそんな言葉が聞けるとはね」オーランド・ゼムは愉快そうだ。「そう言えば、あの『暴れ姫』だったビョンドルも、そんな事を言っていたな。歴史は繰り返す様だ」
「それだけ、長生きし過ぎたのよ!」
「そうかも知れないな……」オーランド・ゼムはうなずく。「……それにしても、良く二人とも助かったものだな」
「ハービィよ!」ジェシルの声に力がこもる。「ハービィがわたしとムハンマイドを助けてくれたのよ! 自分の腕をへし折ってナイフ代わりにして紐を切ってくれて、最期には時限爆弾を抱えたまま走って行って……」
「ハービィは走れないはずだが?」
「それが走ったのよ!」ジェシルは声を荒げる。「覚えている? ハービィはいつも、わたしを守るって言ってくれていたわ! それを身をもって実行してくれたのよ!」
「ほう、自分を犠牲にしたと言う訳か…… 泣ける話じゃないか」
「馬鹿にしないで! あなたなんか大嫌いだわ!」
「ははは、わたしはシンジケートのボスだ。嫌われるのには慣れているよ」
「……おい、オーランド・ゼム」
ムハンマイドの声だ。ジェシルから替わったようだ。ムハンマイドの横で、マイクを取られてぶんむくれているジェシルを想像し、オーランド・ゼムは笑む。
「何かね? わたしもこれから忙しいのだが」
「この通信は、ボクの家から行っている。通信システムを起動したのでね。ついでに宇宙パトロールにも、この事を伝えた」
「そうかね。それで、ビョンドルは何か言っていたかね?」
「騙されたって、ビョンドル長官は物凄く怒っていたわ!」ジェシルが割り込む。今度はムハンマイドがむっとしているだろうかとオーランド・ゼムは思う。「さらに、ムハンマイドの武器を組み立てたら本部を襲撃すると言う話もしておいたわ」
「ふむ、ジェシル、君は口が軽いんだねぇ」
「何を言っているのよ! 重要な問題じゃない!」
「まあ、そうだろうな。……それで、ビョンドルは何か言っていたかね?」
「早急に潰せって言っていたわ」
「ははは、さすが『暴れ姫』だったビョンドルだ。今でも『暴れ姫』は現役の様だな」
「あ、それから、ムハンマイドが話があるんだって」
「何だね? 手短に頼むよ」
「オーランド・ゼム」ムハンマイドの声に替わる。「宇宙船は順調かい?」
「そうだね、極めて順調だ。君とハービィに感謝するよ」
「そうか、そいつは良かった」
「話は終わりかね?」
「まだあるよ」ムハンマイドがスピーカー越しに聞こえるほどの深呼吸をする。「……実は、修理の際に細工をしたんだ」
「細工?」
「そうさ。修理部品の多くに爆弾を仕掛けたんだ。修理が終わったらボクやジェシルの命は無いと思ってね。だから、一矢報いてやろうっと思ったのさ」
「嘘はよしたまえ。修理用の道具や備品には、そのようなものは無かったはずだ」
「あのなあ、オーランド・ゼム……」モハンマイドはため息をつく。「ボクを甘く見ていないか? 自分で言うのも何だけど、ボクは天才なんだぜ。あれだけの道具や備品があれば、爆弾なんか簡単に作れる」
「だが、ハービィに訊いたが、何も言っていなかったよ」
「どう訊いたんだ?」
「君が修理中に良からぬ事やおかしな事をしていないかとね。ハービィはそんな事はしていないと答えたぞ」
「それは訊き方が悪かったんだよ、オーランド・ゼム。一体何年ハービィと暮らしていたんだよ?」ムハンマイドは笑う。「ハービィは嘘が言えない正直者だ。だから、良からぬ事やおかしな事って言うのが、今一つ分からなかったのさ。やっていたのは修理作業だったからね。彼にはそうとしか答えられない。あんたが『修理作業以外に何かやっていないか?』って訊けば『はい、やっておりますです』って答えただろう。さらに『爆弾を仕掛けていないか?』って訊いたら『はい、ムハンマイドは爆弾を仕掛けておりますです』って答えたはずさ」
「わたしがそう訊くかもしれないとは、思わなかったのかね?」
「あんたの事だ、何か小難しい訊き方をするだろうと思っていた。だから、大丈夫だろうと踏んだのさ」
「そうか…… わたしの訊き方が年寄り風だったのが敗因だな」
「そう言う事ね」ジェシルの声になる。「じゃあ、わたしはビョンドル長官の命令を実行するわ」
「何をするのかね?」
「ムハンマイドの仕掛けた爆弾を爆破させるわ。放っておいても、後二時間で爆発するらしいけどね」
「じゃあ、そのままにしてくれないかね?」
「あら、ダメよ」ジェシルは可愛らしく言う。「だって、その間にどこかに着陸されて逃げられたら面倒じゃない? それに、一番近いアジトが二時間以内の宙域にあったら厄介だし…… だから、ムハンマイドに起爆装置を作ってもらったのよ。本当、天才ってすごいわね。遠隔の起爆装置を作ってってお願いしたら、ものの十分で作ってくれたわ」
「そうかい…… ところで、ムハンマイド君。君は、わたしの後継者にならないかね?」
「お断りだ」ムハンマイドが言う。「ボクはシンジケートを潰したくて、あんたに協力しようとしたんだ。そんなボクがシンジケートなんか継ぐわけないだろう!」
「じゃあ、ジェシルはどうだ? 大暴れするのに、シンジケートは都合が良いぞ。やりたい放題だ」
「お生憎様ね」ジェシルが言う。「わたしが暴れたいのは、そのシンジケートどもに対してなのよ」
「ははは。そうかい。まあ、二人ともそう言うとは思っていたがね」オーランド・ゼムは穏やかな声で言う。「わたしの負けだな。わたしは充分に長生きをした。もう良いだろう」
「良い覚悟ね。……でも良かったじゃない? ミュウミュウもアーセルも殺し屋も一緒よ。一人ぼっちじゃないんだから」
ジェシルは起爆装置を作動させた。レーダーに映っていたオーランド・ゼムの宇宙船を示すオレンジ色の光の点が消えた。
つづく
*次回最終回!
コックピットに声が響いた。オーランド・ゼムは周囲を見回す。声はスピーカーからだった。
「その声は……」オーランド・ゼムはスピーカーを見つめる。「ムハンマイド君かね……」
「当たり!」ムハンマイドの声は、はしゃいでいる。「ボクだけじゃない。ジェシルも居る」
「オーランド・ゼム!」ジェシルの荒げた声が響く。「ミュウミュウを出しなさいよ! 文句を言ってやりたいの!」
「ははは、一足違いだったね……」オーランド・ゼムは、床に転がっているミュウミュウを見る。「死んだよ。わたしが撃った。あの娘はでしゃばり過ぎたのでね……」
「なんて事をしてくれたのよ!」
「おや、喜んでくれるのかと思ったがね?」オーランド・ゼムはとぼけた顔で言う。「それとも、君が直接に撃ちたかったのかね?」
「もちろん、それはあるわ。……でもね、ミュウミュウには、法の裁きを受けてもらいたかったわ」
「随分と殊勝な事を言うのだねぇ」
「あなた、何か勘違いしているようだけど、わたしは宇宙パトロールの捜査官よ。法と秩序を守るために、日夜奮闘をしているのよ」
「ははは、君からそんな言葉が聞けるとはね」オーランド・ゼムは愉快そうだ。「そう言えば、あの『暴れ姫』だったビョンドルも、そんな事を言っていたな。歴史は繰り返す様だ」
「それだけ、長生きし過ぎたのよ!」
「そうかも知れないな……」オーランド・ゼムはうなずく。「……それにしても、良く二人とも助かったものだな」
「ハービィよ!」ジェシルの声に力がこもる。「ハービィがわたしとムハンマイドを助けてくれたのよ! 自分の腕をへし折ってナイフ代わりにして紐を切ってくれて、最期には時限爆弾を抱えたまま走って行って……」
「ハービィは走れないはずだが?」
「それが走ったのよ!」ジェシルは声を荒げる。「覚えている? ハービィはいつも、わたしを守るって言ってくれていたわ! それを身をもって実行してくれたのよ!」
「ほう、自分を犠牲にしたと言う訳か…… 泣ける話じゃないか」
「馬鹿にしないで! あなたなんか大嫌いだわ!」
「ははは、わたしはシンジケートのボスだ。嫌われるのには慣れているよ」
「……おい、オーランド・ゼム」
ムハンマイドの声だ。ジェシルから替わったようだ。ムハンマイドの横で、マイクを取られてぶんむくれているジェシルを想像し、オーランド・ゼムは笑む。
「何かね? わたしもこれから忙しいのだが」
「この通信は、ボクの家から行っている。通信システムを起動したのでね。ついでに宇宙パトロールにも、この事を伝えた」
「そうかね。それで、ビョンドルは何か言っていたかね?」
「騙されたって、ビョンドル長官は物凄く怒っていたわ!」ジェシルが割り込む。今度はムハンマイドがむっとしているだろうかとオーランド・ゼムは思う。「さらに、ムハンマイドの武器を組み立てたら本部を襲撃すると言う話もしておいたわ」
「ふむ、ジェシル、君は口が軽いんだねぇ」
「何を言っているのよ! 重要な問題じゃない!」
「まあ、そうだろうな。……それで、ビョンドルは何か言っていたかね?」
「早急に潰せって言っていたわ」
「ははは、さすが『暴れ姫』だったビョンドルだ。今でも『暴れ姫』は現役の様だな」
「あ、それから、ムハンマイドが話があるんだって」
「何だね? 手短に頼むよ」
「オーランド・ゼム」ムハンマイドの声に替わる。「宇宙船は順調かい?」
「そうだね、極めて順調だ。君とハービィに感謝するよ」
「そうか、そいつは良かった」
「話は終わりかね?」
「まだあるよ」ムハンマイドがスピーカー越しに聞こえるほどの深呼吸をする。「……実は、修理の際に細工をしたんだ」
「細工?」
「そうさ。修理部品の多くに爆弾を仕掛けたんだ。修理が終わったらボクやジェシルの命は無いと思ってね。だから、一矢報いてやろうっと思ったのさ」
「嘘はよしたまえ。修理用の道具や備品には、そのようなものは無かったはずだ」
「あのなあ、オーランド・ゼム……」モハンマイドはため息をつく。「ボクを甘く見ていないか? 自分で言うのも何だけど、ボクは天才なんだぜ。あれだけの道具や備品があれば、爆弾なんか簡単に作れる」
「だが、ハービィに訊いたが、何も言っていなかったよ」
「どう訊いたんだ?」
「君が修理中に良からぬ事やおかしな事をしていないかとね。ハービィはそんな事はしていないと答えたぞ」
「それは訊き方が悪かったんだよ、オーランド・ゼム。一体何年ハービィと暮らしていたんだよ?」ムハンマイドは笑う。「ハービィは嘘が言えない正直者だ。だから、良からぬ事やおかしな事って言うのが、今一つ分からなかったのさ。やっていたのは修理作業だったからね。彼にはそうとしか答えられない。あんたが『修理作業以外に何かやっていないか?』って訊けば『はい、やっておりますです』って答えただろう。さらに『爆弾を仕掛けていないか?』って訊いたら『はい、ムハンマイドは爆弾を仕掛けておりますです』って答えたはずさ」
「わたしがそう訊くかもしれないとは、思わなかったのかね?」
「あんたの事だ、何か小難しい訊き方をするだろうと思っていた。だから、大丈夫だろうと踏んだのさ」
「そうか…… わたしの訊き方が年寄り風だったのが敗因だな」
「そう言う事ね」ジェシルの声になる。「じゃあ、わたしはビョンドル長官の命令を実行するわ」
「何をするのかね?」
「ムハンマイドの仕掛けた爆弾を爆破させるわ。放っておいても、後二時間で爆発するらしいけどね」
「じゃあ、そのままにしてくれないかね?」
「あら、ダメよ」ジェシルは可愛らしく言う。「だって、その間にどこかに着陸されて逃げられたら面倒じゃない? それに、一番近いアジトが二時間以内の宙域にあったら厄介だし…… だから、ムハンマイドに起爆装置を作ってもらったのよ。本当、天才ってすごいわね。遠隔の起爆装置を作ってってお願いしたら、ものの十分で作ってくれたわ」
「そうかい…… ところで、ムハンマイド君。君は、わたしの後継者にならないかね?」
「お断りだ」ムハンマイドが言う。「ボクはシンジケートを潰したくて、あんたに協力しようとしたんだ。そんなボクがシンジケートなんか継ぐわけないだろう!」
「じゃあ、ジェシルはどうだ? 大暴れするのに、シンジケートは都合が良いぞ。やりたい放題だ」
「お生憎様ね」ジェシルが言う。「わたしが暴れたいのは、そのシンジケートどもに対してなのよ」
「ははは。そうかい。まあ、二人ともそう言うとは思っていたがね」オーランド・ゼムは穏やかな声で言う。「わたしの負けだな。わたしは充分に長生きをした。もう良いだろう」
「良い覚悟ね。……でも良かったじゃない? ミュウミュウもアーセルも殺し屋も一緒よ。一人ぼっちじゃないんだから」
ジェシルは起爆装置を作動させた。レーダーに映っていたオーランド・ゼムの宇宙船を示すオレンジ色の光の点が消えた。
つづく
*次回最終回!
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