「わたしにって……」ジェシルは呆れる。「……まさか、わたし一人に行けって言うの?」
「ハービィは操縦しているし、わたしは『おじいちゃん』だ。君に頑張ってもらうしかない」
「ちょっと、そんな勝手な話って無いんじゃない?」
ジェシルは文句を言うが、オーランド・ゼムは聞く耳を持たないのか、ジェシルを無視して部屋へと入って行った。
ホテルのシングルルームより少し広い程度の室内に、透明な筒型の転送装置が二機並んでいた。上部にスピーカーのようなものが付いていて、そこから転送用の音波が対象物に放射され、放射された対象物は音波となって指定した場所へと送られる仕組みだ。出入りのドア付近の壁に縦長な操作盤が付いていた。ジェシルはイヤな顔をする。何故なら、この転送装置は旧式なものだからだ。
「……これを使う気なの?」ジェシルはオーランド・ゼムを見る。「これって、問題有りまくりな機械じゃないのよ!」
この転送装置は事故が多かったのだ。転送をするものの指定先に現われず、見当違いの場所に現われる事も多かった。それだけではない。転送したものの、どこにも現われないと言う事もあった。永遠に音波となってしまい、永遠にあてどなく彷徨うなどと言う事故もあった。結局、旧式は使用禁止、製造禁止となり、改良型が使われるようになった。ただし、安全に配慮し、無生物のみの転送専用になっていた。
「心配するな、きちんとメンテナンスをしてある」
「でもこれは旧式じゃないの! メンテナンスをしたからって信用できないわ!」
「いや、何度も使っているが、事故は起きてはいないよ」
オーランド・ゼムは言うと、右手で転送装置の一つを示す。
「よろしく頼むよ。ベルダ唯一の街、デーラフーラ近郊に転送しようと思っている。デーラフーラに行けばアーセルの居所も分かるだろう。幸運を祈っておるよ」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよう!」
ジェシルは声を荒げ、オーランド・ゼムの右手の甲を大きな音が立つほどに勢い良く叩いた。オーランド・ゼムは叩かれた右手を軽く振っている。あまり痛みを感じないようだ。
「イヤよ! こんな危ないもの、使わせないわ!」
「大丈夫だと言っているんだがね…… 何度も使っていると言っただろう?」
「転送って、誰を転送させたのよ?」
「転送装置は無生物専用だろう? 誰って言う言い方はおかしいぞ。それとも、君は宇宙パトロールなのに、法律を無視するのかね?」
「じゃあ、物を転送させて、それが大丈夫だから、わたしを転送しようって言うの? それこそ法律違反よ! 即逮捕の案件だわ!」
「だが、君に行ってもらわなければならないんだよ」
「仮にドクターが改良したと言っても、絶対に転送装置はお断りだわ!」
「ドクター・ジェレマイアは転送装置は嫌いなんだそうだ」
「もう、ふざけないで!」ジェシルは腰のホルスターから熱線銃を抜き、銃口をオーランド・ゼムに向けた。「これ以上馬鹿な事を言うと、撃ち殺すわよ!」
「ふざけてはいないさ」オーランド・ゼムは平然としている。「君はボディガードだ。わたしにも、これから救出する仲間にも、君はボディガードだ。それは分かってくれたと思うがね」
「でも、イヤ! 絶対行かない! こんな危ないものなんかじゃ、絶対に行かないわ!」
「ほう……」オーランド・ゼムは怒りに震えるジェシルを見てにやりと笑った。「そう言うのならば、危なくないものであれば行くと言う事かね?」
「え?」ジェシルの眉間に縦皺が寄る。「……何を言っているの?」
「だからさ、この転送装置は危険だから行かないと言っているけど、危険じゃないものを使えば行ってくれると言う事なんだろう?」
「何を回りくどい事を言っているのよ!」ジェシルの指先が銃の引き金に掛かる。「イライラさせないで! ちゃんと、分かるように言わないと、撃つわよ!」
「実は、ドクター・ジェレマイアが作った超小型の宇宙艇があるのだよ」
「……それを早く言ってよ!」ジェシルは銃をホルスターに戻した。「それを言うのがあと少し遅れたら、引き金を引いていたわ」
「それは、危なかったな」オーランド・ゼムは言うが表情は変わらない。「ジェシルがベルダへ行ってくれるかどうかを確認したくてね。結論としては、旧式の転送装置は拒否するが、それ以外のものでなら行ってくれると言うわけだね」
「勝手な理屈ね」
「ドクター・ジェレマイアが作ったのは、最新式のものだよ、レーダーにもモニターにも反応しない。まさに『ニンジャ』だな」
「あら、あなた『ニンジャ』って知っているの?」ジェシルが興味深そうな表情をする。「それって、辺境の中の辺境、地球って惑星の日本って所の話よ」
「ははは、伊達に長生きはしていないよ。この宇宙のおおよその事は知っているつもりだ。……ただ、わたしたち生命の誕生については分からんがね。いくら探求しても分からないのだよ」
「ふ~ん、『ニンジャ』を知っているんだ……」
ジェシルはオーランド・ゼムの哲学的な話を聞いていなかった。ある任務で地球の日本へ行っていた時の事を思い出していたのだ。その際に「ニンジャ」と言うものを知ったのだ。どうせ作り話だとは思っていたが、面白いとも思っていた。……『ニンジャ』のような活躍が出来れば捜査官としては無敵だわ。ジェシルは自身が黒ずくめの装束と黒い覆面で身を包みに、刀を腰に差して闇夜を飛び交い、手裏剣を放つ姿を思い描いたりしたものだった。
「どうだね、ジェシル?」オーランド・ゼムが笑顔で言う。「そんな『ニンジャ』みたいなものに、乗ってみたくはないかね?」
「……そうねぇ……」ジェシルは険しい表情をして見せた。だが、内心は嬉しくてにやにやし、一刻も早く見たくてやきもきしていた。「仕方無いわね。ボディガードですものね」
「さすが、ジェシルだ。宇宙パトロール捜査官にその人ありと言われた女性だ」オーランド・ゼムはわざとらしく言う。しかし、ジェシルの耳にはその白々しさは届いていないようだ。「……では、それのある所へ行こう」
オーランド・ゼムとジェシルは部屋を出た。
つづく
「ハービィは操縦しているし、わたしは『おじいちゃん』だ。君に頑張ってもらうしかない」
「ちょっと、そんな勝手な話って無いんじゃない?」
ジェシルは文句を言うが、オーランド・ゼムは聞く耳を持たないのか、ジェシルを無視して部屋へと入って行った。
ホテルのシングルルームより少し広い程度の室内に、透明な筒型の転送装置が二機並んでいた。上部にスピーカーのようなものが付いていて、そこから転送用の音波が対象物に放射され、放射された対象物は音波となって指定した場所へと送られる仕組みだ。出入りのドア付近の壁に縦長な操作盤が付いていた。ジェシルはイヤな顔をする。何故なら、この転送装置は旧式なものだからだ。
「……これを使う気なの?」ジェシルはオーランド・ゼムを見る。「これって、問題有りまくりな機械じゃないのよ!」
この転送装置は事故が多かったのだ。転送をするものの指定先に現われず、見当違いの場所に現われる事も多かった。それだけではない。転送したものの、どこにも現われないと言う事もあった。永遠に音波となってしまい、永遠にあてどなく彷徨うなどと言う事故もあった。結局、旧式は使用禁止、製造禁止となり、改良型が使われるようになった。ただし、安全に配慮し、無生物のみの転送専用になっていた。
「心配するな、きちんとメンテナンスをしてある」
「でもこれは旧式じゃないの! メンテナンスをしたからって信用できないわ!」
「いや、何度も使っているが、事故は起きてはいないよ」
オーランド・ゼムは言うと、右手で転送装置の一つを示す。
「よろしく頼むよ。ベルダ唯一の街、デーラフーラ近郊に転送しようと思っている。デーラフーラに行けばアーセルの居所も分かるだろう。幸運を祈っておるよ」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよう!」
ジェシルは声を荒げ、オーランド・ゼムの右手の甲を大きな音が立つほどに勢い良く叩いた。オーランド・ゼムは叩かれた右手を軽く振っている。あまり痛みを感じないようだ。
「イヤよ! こんな危ないもの、使わせないわ!」
「大丈夫だと言っているんだがね…… 何度も使っていると言っただろう?」
「転送って、誰を転送させたのよ?」
「転送装置は無生物専用だろう? 誰って言う言い方はおかしいぞ。それとも、君は宇宙パトロールなのに、法律を無視するのかね?」
「じゃあ、物を転送させて、それが大丈夫だから、わたしを転送しようって言うの? それこそ法律違反よ! 即逮捕の案件だわ!」
「だが、君に行ってもらわなければならないんだよ」
「仮にドクターが改良したと言っても、絶対に転送装置はお断りだわ!」
「ドクター・ジェレマイアは転送装置は嫌いなんだそうだ」
「もう、ふざけないで!」ジェシルは腰のホルスターから熱線銃を抜き、銃口をオーランド・ゼムに向けた。「これ以上馬鹿な事を言うと、撃ち殺すわよ!」
「ふざけてはいないさ」オーランド・ゼムは平然としている。「君はボディガードだ。わたしにも、これから救出する仲間にも、君はボディガードだ。それは分かってくれたと思うがね」
「でも、イヤ! 絶対行かない! こんな危ないものなんかじゃ、絶対に行かないわ!」
「ほう……」オーランド・ゼムは怒りに震えるジェシルを見てにやりと笑った。「そう言うのならば、危なくないものであれば行くと言う事かね?」
「え?」ジェシルの眉間に縦皺が寄る。「……何を言っているの?」
「だからさ、この転送装置は危険だから行かないと言っているけど、危険じゃないものを使えば行ってくれると言う事なんだろう?」
「何を回りくどい事を言っているのよ!」ジェシルの指先が銃の引き金に掛かる。「イライラさせないで! ちゃんと、分かるように言わないと、撃つわよ!」
「実は、ドクター・ジェレマイアが作った超小型の宇宙艇があるのだよ」
「……それを早く言ってよ!」ジェシルは銃をホルスターに戻した。「それを言うのがあと少し遅れたら、引き金を引いていたわ」
「それは、危なかったな」オーランド・ゼムは言うが表情は変わらない。「ジェシルがベルダへ行ってくれるかどうかを確認したくてね。結論としては、旧式の転送装置は拒否するが、それ以外のものでなら行ってくれると言うわけだね」
「勝手な理屈ね」
「ドクター・ジェレマイアが作ったのは、最新式のものだよ、レーダーにもモニターにも反応しない。まさに『ニンジャ』だな」
「あら、あなた『ニンジャ』って知っているの?」ジェシルが興味深そうな表情をする。「それって、辺境の中の辺境、地球って惑星の日本って所の話よ」
「ははは、伊達に長生きはしていないよ。この宇宙のおおよその事は知っているつもりだ。……ただ、わたしたち生命の誕生については分からんがね。いくら探求しても分からないのだよ」
「ふ~ん、『ニンジャ』を知っているんだ……」
ジェシルはオーランド・ゼムの哲学的な話を聞いていなかった。ある任務で地球の日本へ行っていた時の事を思い出していたのだ。その際に「ニンジャ」と言うものを知ったのだ。どうせ作り話だとは思っていたが、面白いとも思っていた。……『ニンジャ』のような活躍が出来れば捜査官としては無敵だわ。ジェシルは自身が黒ずくめの装束と黒い覆面で身を包みに、刀を腰に差して闇夜を飛び交い、手裏剣を放つ姿を思い描いたりしたものだった。
「どうだね、ジェシル?」オーランド・ゼムが笑顔で言う。「そんな『ニンジャ』みたいなものに、乗ってみたくはないかね?」
「……そうねぇ……」ジェシルは険しい表情をして見せた。だが、内心は嬉しくてにやにやし、一刻も早く見たくてやきもきしていた。「仕方無いわね。ボディガードですものね」
「さすが、ジェシルだ。宇宙パトロール捜査官にその人ありと言われた女性だ」オーランド・ゼムはわざとらしく言う。しかし、ジェシルの耳にはその白々しさは届いていないようだ。「……では、それのある所へ行こう」
オーランド・ゼムとジェシルは部屋を出た。
つづく
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