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怪談 青井の井戸 1

2021年09月08日 | 怪談 青井の井戸(全41話完結)
 わたくしは青井きくのと申します。青井清吉郎が娘でございます。
 わたくしの家である青井家は、ここの藩主様の祖がこの土地に国を構えて以来、お仕えをしております古い家柄でございます。とは申せ、青井の家には役職がございません。青井家は、陰ながら藩主様をお支えするのが職務であると、父清吉郎は申しております。それが如何様なものであるのかは、娘のわたくしは聞かされてはおりません。父は、わたくしに然るべき婿を取り、その者に青井の家督を全て継がせると常々申しておりました。その段となってから青井の職務を知るが良かろうと、父はわたくしに申します。わたくしは素直に父の言葉に従う事と致しておりました。
 ではございますが、時折、外から誹謗中傷の声が聞こえて参ります。やれ「青井の家は死人の上に家が建っている」やら「青井の家では物の怪を飼っている」やら。一度、わたくしは不安になり、父に相談したことがございました。父は一笑に付し「そのような輩は青井の家をやっかんでおるのだ、捨て置け」との仰せでございました。
 わたくしは父の言う通りに、気にしないようには努めてはおりましたが、心の中では、やはり、不安なものが拭えずにおりました。
 役職を持たないこの青井家が藩下でもかなり優遇されているのは何故なのでございましょうや。また、誹謗中傷も何やら恐ろし気な言葉に満ちておりますのも落ち着かぬ事でございます。
 青井の家は他家とは親しくは致しません。親戚筋と言える処もございません。この青井の家だけで全てが完結しているのでございます。わたくしはこのような中で育ちましたので、特段、外への関心と言うものは無く、いつも庭の草木を愛でながら過ごしていたのでございます。
 

つづく


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