「まあ、今回の人事なんだけどね」
社長は呆然として佇立している岡島を不思議そうに眺めながら続けた。
「何て言うのかなぁ…… そう、昨日の夜中だったかな、いきなりビビッと来たんだよね、ビビッと。で、すぐに役員の皆に連絡したら、皆全員やはり僕と同じくビビッと来たらしい。こんな事ってあるんだねぇ」
ビビッとかぁ、そんな事があるんだなぁ…… コーイチは、楽しそうに話している社長と、取り囲んでわいわいやっているいる諸先輩たちと、ぶつぶつとうわ言を呟きながら天井を見つめている岡島とを交互に見ながら思った。
待てよ! コーイチの中にある事が閃いた。思わず握った右手で左の手のひらをポンと叩く。……今の今まで気が付かなかったけれども、部長に昇進したのって、ボクがノートに吉田課長の名前を書いたからじゃないだろうか。
書いた名前がおかしなことになったんで、これは清水さんか林谷さんか印旛沼さんのせいだと勝手に思い込んで、これは絶対悪い事が起きるに違いないなんて早合点して、そのせいで奇妙な夢を見て、起きてからもずっとその夢に心を支配されてしまっていたけど、実際は全く逆だったんじゃないんだろうか……
本当はあのノートは「幸福のノート」だったんだ! コーイチは力強く頷く。
名前を書いたのは、昨日出社しようとして休みだった事に気づいて帰ってからだから、午前中ぐらいなはずだ。それも課長の名前を薄~く書いただけだった。それが夜中に社長や役員にビビッと伝わって、今日にはなんと部長だ。これはすごい事だぞ…… へっへっへっへっへ コーイチの口元が、にへらあっと緩む。
「ですが社長、我が営業部にはすでに優秀な遠藤部長がいらっしゃいますが……」
北口課長が恐る恐る言った。
「I Know! I Know! I Know! 遠藤真宗君ね、十分に分かってるよぉ」
社長は何度も頷いて見せた。それから北口にウインクをした。
「だからね、吉田君は第二営業部長って事で……」
北口が戸惑いの混じった笑顔を社長に向けた。
「あのう…… その第二営業部長とはどんな仕事なんで?」
社長は腕を組み、首を左に傾げながら暫し考え込んでいた。
「さあ…… どんな仕事かなぁ……」
それから急に腰に手を当てた姿勢を取った。
「ま、それくらいは吉田君に考えてもらっちゃおうかな!」
そのあと社長は「かっかっかっ!」と、某時代劇の主役の老人のように哄笑した。北口課長は呆れた顔をしながら声だけで笑っていた。
そうか、部長にはなったものの、薄~く書きすぎたんで影の薄い部長になってしまったんだ。あの時しっかりくっきりと書いておけばどうなっていたのやら……
その時、エレベーターが開き、吉田第二営業部長がふんぞり返って降りて来た。
つづく
社長は呆然として佇立している岡島を不思議そうに眺めながら続けた。
「何て言うのかなぁ…… そう、昨日の夜中だったかな、いきなりビビッと来たんだよね、ビビッと。で、すぐに役員の皆に連絡したら、皆全員やはり僕と同じくビビッと来たらしい。こんな事ってあるんだねぇ」
ビビッとかぁ、そんな事があるんだなぁ…… コーイチは、楽しそうに話している社長と、取り囲んでわいわいやっているいる諸先輩たちと、ぶつぶつとうわ言を呟きながら天井を見つめている岡島とを交互に見ながら思った。
待てよ! コーイチの中にある事が閃いた。思わず握った右手で左の手のひらをポンと叩く。……今の今まで気が付かなかったけれども、部長に昇進したのって、ボクがノートに吉田課長の名前を書いたからじゃないだろうか。
書いた名前がおかしなことになったんで、これは清水さんか林谷さんか印旛沼さんのせいだと勝手に思い込んで、これは絶対悪い事が起きるに違いないなんて早合点して、そのせいで奇妙な夢を見て、起きてからもずっとその夢に心を支配されてしまっていたけど、実際は全く逆だったんじゃないんだろうか……
本当はあのノートは「幸福のノート」だったんだ! コーイチは力強く頷く。
名前を書いたのは、昨日出社しようとして休みだった事に気づいて帰ってからだから、午前中ぐらいなはずだ。それも課長の名前を薄~く書いただけだった。それが夜中に社長や役員にビビッと伝わって、今日にはなんと部長だ。これはすごい事だぞ…… へっへっへっへっへ コーイチの口元が、にへらあっと緩む。
「ですが社長、我が営業部にはすでに優秀な遠藤部長がいらっしゃいますが……」
北口課長が恐る恐る言った。
「I Know! I Know! I Know! 遠藤真宗君ね、十分に分かってるよぉ」
社長は何度も頷いて見せた。それから北口にウインクをした。
「だからね、吉田君は第二営業部長って事で……」
北口が戸惑いの混じった笑顔を社長に向けた。
「あのう…… その第二営業部長とはどんな仕事なんで?」
社長は腕を組み、首を左に傾げながら暫し考え込んでいた。
「さあ…… どんな仕事かなぁ……」
それから急に腰に手を当てた姿勢を取った。
「ま、それくらいは吉田君に考えてもらっちゃおうかな!」
そのあと社長は「かっかっかっ!」と、某時代劇の主役の老人のように哄笑した。北口課長は呆れた顔をしながら声だけで笑っていた。
そうか、部長にはなったものの、薄~く書きすぎたんで影の薄い部長になってしまったんだ。あの時しっかりくっきりと書いておけばどうなっていたのやら……
その時、エレベーターが開き、吉田第二営業部長がふんぞり返って降りて来た。
つづく
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