「名護瀬、あぶない!」
コーイチは思わず壁際に飛び退いた。しかし、名護瀬はそんなコーイチに全く目もくれず、清水の前でぴたりと止まると、上半身を九十度以上に曲げて礼をした。背負ったギターケースのネックの部分が後頭部にこてんと当たった。
「お、お、お久し振りで、ご、ございまするですぅ!」
名護瀬は大声で清水に向かってあいさつをした。がちがちに緊張している。誰の目にもそう見えた。
清水はそんな名護瀬を面白いものを見るような目つきで見ている。
「あら、名護瀬君、お久し振り・・・」清水はくすくす笑いながら言った。声の感じが意地悪っぽくなる。「相変わらず硬いごあいさつねぇ・・・」
「そ、そんな事言われ、いえ、おっしゃらららら・・・」
・・・名護瀬、慣れない敬語なんて使うから、口がもつれているぞ。コーイチは溜め息をついた。
「ところで、名護瀬」コーイチが壁際から声をかけた。「一体どうしてここにいるんだ?」
名護瀬はコーイチの方に振り返った。コーイチの姿を不思議そうな顔で見ている。
「お前こそ、壁の所で何やってんだ?」
「何って、ものすごい勢いで走って来たから、ぶつかるんじゃないかと思って、避けたんだ」
「バ~カ! 俺がそんなドジ男に見えっかよ!」
「・・・名護瀬君・・・」
清水が声をかけた。途端に名護瀬は飛び上がり、空中で直立不動の姿勢を取ると、そのまま清水の方を向いて着地した。
「はい! 何でありますですか?」
がちがちの姿勢のまま、がちがちの声で答えた。
「コーイチ君の話じゃないけれど、どうしてここへ来たのかしら?」
「はい! それはもう、薫子姐さんいる所、長護瀬有りでありますですから!」
「まあ、嬉しい事を言ってくれるじゃない。・・・ところで、背中のギターはどうしたの? バンドの練習でもあるんじゃないの?」
「はい! そうなんでありますですが、それよりも薫子姐さん命でありますですから!」
「まあまあ・・・」清水は目だけ笑っていない笑顔を名護瀬に向けた。「実に忠実で誠実な下僕ちゃんね、あなたって・・・」
「はい! ありがとうございますでございます!」
名護瀬のヤツ、清水さんの前じゃいつもあれだ。崇拝しているのか、畏れてるのか、どっちにしても真剣なのは良く分かるけれど・・・ コーイチはやれやれとばかりに頭を振った。
「ま、いいわ。せっかく来たんだから、会場に入りましょうか」
清水は言って、ばばばばっと風切る音も高らかにマントを翻すと、足を動かす気配もなく、床の上を滑るように移動して行った。名護瀬はその後を、同じ側の手足を同時に動かす妙な歩き方でついて行った。
「やれやれ・・・」
コーイチは清水と名護瀬を見送ると壁から離れ、溜め息をついた。まさに魔女とその下僕だな・・・
「コーイチさん・・・ あの・・・」
声をかけられてコーイチが振り向くと、洋子がすぐそばに立っていた。もじもじしている。
「おーい、洋子ちゃん!」会場の奥から林谷が手を振って呼びかけた。「そろそろ主役の出番だよ!」
洋子はなぜかほっとした表情で会場内に駆けて行った。
つづく
いつも熱い拍手、感謝しておりまするぅ
(来年の公演は二、三月! チケット取れるといいですね! 取れたら教えて下さいね! 出演者も発表になりましたね!)
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コーイチは思わず壁際に飛び退いた。しかし、名護瀬はそんなコーイチに全く目もくれず、清水の前でぴたりと止まると、上半身を九十度以上に曲げて礼をした。背負ったギターケースのネックの部分が後頭部にこてんと当たった。
「お、お、お久し振りで、ご、ございまするですぅ!」
名護瀬は大声で清水に向かってあいさつをした。がちがちに緊張している。誰の目にもそう見えた。
清水はそんな名護瀬を面白いものを見るような目つきで見ている。
「あら、名護瀬君、お久し振り・・・」清水はくすくす笑いながら言った。声の感じが意地悪っぽくなる。「相変わらず硬いごあいさつねぇ・・・」
「そ、そんな事言われ、いえ、おっしゃらららら・・・」
・・・名護瀬、慣れない敬語なんて使うから、口がもつれているぞ。コーイチは溜め息をついた。
「ところで、名護瀬」コーイチが壁際から声をかけた。「一体どうしてここにいるんだ?」
名護瀬はコーイチの方に振り返った。コーイチの姿を不思議そうな顔で見ている。
「お前こそ、壁の所で何やってんだ?」
「何って、ものすごい勢いで走って来たから、ぶつかるんじゃないかと思って、避けたんだ」
「バ~カ! 俺がそんなドジ男に見えっかよ!」
「・・・名護瀬君・・・」
清水が声をかけた。途端に名護瀬は飛び上がり、空中で直立不動の姿勢を取ると、そのまま清水の方を向いて着地した。
「はい! 何でありますですか?」
がちがちの姿勢のまま、がちがちの声で答えた。
「コーイチ君の話じゃないけれど、どうしてここへ来たのかしら?」
「はい! それはもう、薫子姐さんいる所、長護瀬有りでありますですから!」
「まあ、嬉しい事を言ってくれるじゃない。・・・ところで、背中のギターはどうしたの? バンドの練習でもあるんじゃないの?」
「はい! そうなんでありますですが、それよりも薫子姐さん命でありますですから!」
「まあまあ・・・」清水は目だけ笑っていない笑顔を名護瀬に向けた。「実に忠実で誠実な下僕ちゃんね、あなたって・・・」
「はい! ありがとうございますでございます!」
名護瀬のヤツ、清水さんの前じゃいつもあれだ。崇拝しているのか、畏れてるのか、どっちにしても真剣なのは良く分かるけれど・・・ コーイチはやれやれとばかりに頭を振った。
「ま、いいわ。せっかく来たんだから、会場に入りましょうか」
清水は言って、ばばばばっと風切る音も高らかにマントを翻すと、足を動かす気配もなく、床の上を滑るように移動して行った。名護瀬はその後を、同じ側の手足を同時に動かす妙な歩き方でついて行った。
「やれやれ・・・」
コーイチは清水と名護瀬を見送ると壁から離れ、溜め息をついた。まさに魔女とその下僕だな・・・
「コーイチさん・・・ あの・・・」
声をかけられてコーイチが振り向くと、洋子がすぐそばに立っていた。もじもじしている。
「おーい、洋子ちゃん!」会場の奥から林谷が手を振って呼びかけた。「そろそろ主役の出番だよ!」
洋子はなぜかほっとした表情で会場内に駆けて行った。
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