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盗まれた女神像 ⑤

2019年07月03日 | 盗まれた女神像(全22話完結)
 ジェシルは自分のオフィスに戻っていた。宇宙パトロール本部内では制服着用が規則だった。規則に従おうと、ロールと会っていた時の服を脱いだ途端、この開放感を失う愚行を敢えてするのが馬鹿らしくなり、さらに、壁掛時計が深夜の二時を指していて訪ねて来る者も居ないと判断し、下着姿のままで椅子に座った。
 革張りの椅子のひんやりした感触が心地良い。ハーディの店から持ち返ったベルザの実を一口齧ったジェシルは、口をもぐもぐさせながら天井を見上げている。
「理想のお相手か……」ジェシルはもぐもぐしながら呟く。「ぶよぶよのでぶに骨と皮のガリガリにマッチョのドSか……」
 ジェシルはホログラムを作動させる。
 女の像が一体映し出された。
 小柄で、赤茶けた髪を肩で切り揃えた、黒縁眼鏡の地味な中年女性の像だった。
 像がぐるりと足を軸に一回転すると別の女の像に変わった。
 一般的な、ハイスクールのミニのワンピースの制服を着た、健康的な女子生徒の像だった。ジェシルは露出の多い制服に嫌悪感を示す。今、自分が下着姿でいる事を忘れているようだ。
 その像も一回転すると別の像に変わる。
「こんな事やってたら終わらないわね」
 ジェシルはホログラムを操作する。正面向きの静止画を次々と送り続けて行き、ある一体が映し出された所で止め、その像を回転させる。
 ぶよぶよとしたでぶ女だ。横幅は他の像の二倍以上ある。大きな顔は頬が弛んで口の両端も下がり、性格が悪そうに見える。大きなからだはシーツを二枚縫い合わせたドレスのような布で包んでいる。
「一人目は彼女で決まりね……」
 再び静止画を送る。次に止めて回転させたのは、ぶかぶかのワンピースから今にも折れてしまいそうな枯れ枝のような細い手足を出している、ぼさぼさの髪が乗った髑髏まがいの顔をした女の像だった。
「二人目は彼女か……」
 ジェシルはうんざりしたように呟き、静止画を送る。
 大柄で、金髪を短く刈り込んで、眉間に深い縦皺を刻み、軍服がはち切れそうなほど太く逞しい隆々たる筋肉を持つ女の像で止めて回転させる。
「三人目は、このアーマーね」
 ジェシルはホログラムを停止する。思い出したようにベルザの実をもう一口齧った。
「この三人で行くしかないか……」
 ジェシルは呟くと立ち上がり、もぐもぐしながらクロークへ向かい、地球の日本で任務に当たった際に見つけて、露出の少なさをすっかり気に入って私費で購入した、淡いピンク色の「フリソデ」を羽織り、同じ色の「オビ」を適当に締め、白い「タビ」と紅色の「ポックリゲタ」を履いた。
 歩きにくそうにしながらオフィスの照明を消して通路に出、帰宅するため駐車場に向かい、愛車のロボ・カー「コーイチ」に乗り込んだ。
 親の代で衰退してしまったとは言え、ジェシルは貴族の令嬢だった。しかし、ジェシルに残されたのは、先祖代々住み続けた、無駄に大きな屋敷だけだった。今もそこに住んでいるジェシルだが、使っているのは、玄関ホール横の来客者を待たせるための狭い部屋一つだけだった。
「さあて、三人を使った作戦を立てなきゃね」ジェシルはベルザの実の残りを頬張る。「今夜は悪い夢を見そうだわ……」
「コーイチ」は快調なエンジン音を上げて、ジェシルの屋敷を目指した。


 つづく




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