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怪談 化猫寺 8

2019年10月05日 | 怪談 化猫寺(全18話完結)
「とにかく、松次に何かあったのは間違えねぇんだ」松次の父親は弱々しく言う。「親に何も言わずに夜中ぁ出掛ける大たわけ者だが、可愛い一人息子のもんでなぁ、皆の衆、一緒に寺まで行ってくれぃ」
 松次の父親は言うと、頭を下げた。皆は大きくうなずいて、各自棒っ切れや鋤、鍬などを手にして寺に向かった。
「大の大人が、あんなに束になって……」
 ぞろぞろと一繋ぎになって歩き出す男たちを見て、仁吉はつぶやいた。
「仁吉さん、きっと大人もね、怖いんさ」おみよは吐き捨てるように言う。「いつも偉そうにしとるけど、怖くなると、一人じゃ何も出来んのさ」
 大人たちの後を仁吉、兵太、おみよが追った。
「……松次、大丈夫かな……」兵太がまた泣き出した。「オレがあんな事言わなきゃ、こんな事にならなんだ……」
「今更、仕方ない」仁吉が兵太の背を軽く叩く。「大人たちに任せるしかないよ」
「そうだな……」
 荒れ寺の門の前に着いた。いつも聞こえる猫の鳴き声がせず、しんとしていた。それがかえって不気味だった。
「何の音もしねえな……」
 大人の一人が言った。
「ああ、静かだ」
「本当に、松次が猫に連れ去られたんか?」
「松次と兵太で、オレらをからかってんじゃねえのか?」
「そんな事ない!」兵太が大人たちの前に飛び出して叫んだ。「そんなことして何になるんだよ!」
「兵太!」兵太の父親が叱りつける。「そもそも、夜中に出掛けるってのがいけないんだぞ!」
「だからさ、それはさっき叱られたから、もう済んだだろう? それより、松次を捜してくれよう!」
 大人たちの視線が兵太から長に移る。
「そうだのう……」長は門から中を見ている。「松次は心配だのう……」
「松次よう!」松次の父親が大声で呼ばわった。「いるかよう! いるなら返事をしろよう!」
 返事は無かった。猫の鳴き声もなかった。雀のさえずりだけが聞こえる。
「おらんのか……」長がつぶやく。「これだけの大声で呼んでも出て来んとは…… ひょっとして、家に帰っとりゃせんか?」
「なんだよ! 大人たちがこんだけいるのに、誰も中へ入んないのかよ!」仁吉が兵太の隣に出て来て言う。「夜じゃねえんだ! お天道様も出てるんだ! 何をぐだぐだしてんだよ! お前ら、やっぱ、後ろめたい事をしたり、聞いたりしたからだろう!」
「仁吉!」仁吉の父親が叱る。「子供にゃ、分からんことがあるんだ!」
「ふざけんなよ! オレらは松次を探し出したいだけだ!」
 言うと、仁吉は門の中に走って行った。
「仁吉!」
「仁吉さん!」
 兵太とおみよもその後を追って門に向けて走った。
 大人たちの足は動かない。


つづく
 


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