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霊感少女 さとみ 125

2019年04月14日 | 霊感少女 さとみ (全132話完結)
「最後に姉に会ったのはいつですか?」
 モモはスガゲンをじっと見つめながら言った。スガゲンはその視線から目を逸らせた。
「う~ん、いつだったかなあ……」スガゲンはわざとらしく呑気な声を出した。「僕はこう見えて、女性にもてるのでね。あんまり詳しく覚えていないんだ。ごめんね」
「……」ももの表情が険しくなる。「じゃあ、姉とは遊びの一環だったんですか?」
「い、いや、そうじゃない! そうじゃないよ!」スガゲンがあわてて否定する。ももの只ならぬ雰囲気に押されたようだ。「そうねぇ、トメちゃん…… シャノアールのねぇ……」
「姉は特別に良くしてもらってるって言ってました」ももの声が低くなる。「『今まで出会った中で最高だ、もう放さないよ』と何度も耳元で囁かれたと……」
「え? 姉妹で、そんな事まで話すのかい?」スガゲンの額に汗が流れる。「いやあ、何とも仲の良い姉妹だねえ、はははは……」
 空しい笑い声に続いたのは沈黙だった。さとみがジュースをストローですする音だけがしている。
「な、なんだかこの部屋、暑いな」スガゲンは花子の顔を見る。「花子、悪いがクーラーの設定を下げてくれないか?」
 花子はテーブルのリモコンを取り上げて調節する。風量も増えたのか、ももの髪の毛がふわっと舞い上がった。
「おいおい、そんな怖い顔で見ないでくれよ……」スガゲンがももに言う。にらみつける表情と舞い上がった髪の毛で余計に怖く見えた。「せっかくの美人が台なしだよ……」
「それで、姉をどうしたんですか?」ももはスガゲンの言葉が耳に入っていないようだった。「散々弄んだんじゃないですか?」
「人聞きの悪い事を言わないでくれよ」スガゲンは笑顔のままだ。しかし、目が笑っていない。「お姉さんに何を吹き込まれたのかは知らないが、まるで僕がお姉さんに何かしたみたいじゃないか?」
「してないって言うんですか?」ももは立ち上がった。「結婚をちらつかせてたじゃない!」
「おい、なんだよ!」スガゲンも立ち上がった。背後にいたボディガードの女性二人が、すっと前に立つ。「お前、何を知っているんだ?」
「何を……だって……?」ももはボディガード越しにスガゲンをにらみつける。「何もかも、知ってんだよ!」
「ももちゃん!」さとみも立ち上がる。「だめ! 落ち着いて!」
 ももは腕にすがり付いてきたさとみを乱暴に振り払った。さとみはソファに転がった。
「何なんだ! この小娘ども!」スガゲンが二人を交互に指差しながら叫ぶ。「お前ら、親父に言いつけて、ただじゃおかないからな!」
「相変わらず『パパ、パパ』って馬鹿の一つ覚えね」ももが吐き捨てるように言う。「みんな陰で『お子ちゃまスガゲンちゃん』って罵られてたことも知らないくせに」
「……な、何なんだ……」スガゲンは呆然とした表情でソファに座り込んだ。「お前…… 何なんだ……」
「わたし?」ももは右足をテーブルの上に勢いよく乗せた。「知りたいの? ……わっ!」
 ももは悲鳴を上げた。花子がももを羽交い絞めにしたからだ。スガゲンの傍のボディガードたちも素早くテーブルを飛び越え、ももの身体を押さえた。
「お前たち、よくやったぞ」
 スガゲンは先ほどまでの様子が嘘のように、勝ち誇った顔で立ち上がる。
「さあて、お前が何者かはどうでも良い」スガゲンは身動きできず下を向いているももに近づく。「ただ、面倒そうだから消えてもらおうかな……」
 さとみは霊体を抜け出させ、大あわてで豆蔵の所に向かう。
「どうしよう! このままじゃ大変なことになっちゃう!」
「どうと言われましても……」豆蔵が悔しそうに言う。「ももさんは今は生身。それを囲んでいる連中も生身。正直言いまして、手が出せません……」
「さよう!」みつが抜いた刀を乱暴に振り回す。「下衆な生身の者たちを切り捨てる業を身に着けておくべきでした!」
「さとみちゃん! オレがももちゃんを落ち着かせてみるよ!」
 竜二が言ってももに近づいて行った。
「嬢様! 嬢様の身も危険ですぜ。早くお戻りになって逃げませんと!」
「でも、ももちゃんを、アイを放っては置けないわ!」
「うひゃ~っ!」
 変な悲鳴を上げて竜二が転がってきて、さとみにぶつかった。
「何やってんのよう!」さとみが竜二に思いきりイヤそうな顔を向けて叱る。「危ないじゃない!」
「さとみちゃん! あれ、あれ……」竜二はももを指さした。「大変だよ!」
「言われなくても、大変なのはわかってるわよ!」さとみがさらに叱りつける。「だいたい、あんたはねえ……」
「嬢様!」
 豆蔵が叫ぶ。 
「さとみ殿!」
 みつも叫ぶ。
 さとみは真剣な二人の表情を見て、ももの方を向いた。
「あっ!」さとみは自分の口を押えた。「なんでよう!」
 ももを押さえていた三人のボディガードが床に倒れている。ももは邪悪な笑みを浮かべて霊体のさとみを見ている。
「怨霊になっちゃったの……」さとみは呆然としながらつぶやいた。「……あっ!」
 何かがももから剥がれ落ちるように倒れた。
「ももちゃん!」崩れるように倒れたのはももの霊体だった。そのまま動かない。「どうしちゃったの!」
「ふん! 邪魔なんでちょいと退かしたのさ」先程とは違う声がアイの口からは発せられた。聞き覚えがある。「おや、お忘れかい? それとも、お馬鹿さんで覚えられないってのかい? え? お嬢ちゃん」
「あなた……」さとみははっとなる。「楓……」
「おや、覚えていてくれたのかい? この楓姐さんを」
 ももから入れ替わった楓が、じっとさとみをにらみつけている。


つづく



   

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