【ネタバレ】
◎「朝が来る」
「心揺さぶるヒューマンミステリーを映画化。」
「「子供を返してほしいんです」1本の電話から、運命が動き出す――。」
「「子供を返してほしいんです」1本の電話から、運命が動き出す――。」
「あなたは、誰ですか。」
総合評価は、上中下で上の下くらい。
2020年10月23日(金)公開(当初は6月5日公開でしたがCOVID-19の影響により延期。)、監督・河瀨直美、脚本・河瀨直美、髙橋泉、原作・辻村深月、139分。
永作博美(栗原佐都子役)、井浦新(夫で無精子症の栗原清和)、佐藤令旺(来年度から小学1年生で、特別養子縁組による息子の栗原朝斗)、蒔田彩珠(中学生の時に朝斗を生んだ片倉ひかり)、
浅田美代子(母親を住まわせて特別養子縁組をする施設の代表の浅見静恵)、
田中偉登(朝斗の実の父の麻生巧)、中島ひろ子(ひかりの母の片倉貴子)、平原テツ(ひかりの父の片倉勝)、駒井蓮(ひかりの姉の片倉美咲)、利重剛(新聞店の店主の浜野剛)など。
永作博美さんは好きな俳優数人のうちの1人で、顔も演技も好きです。今回も良い演技でした。
「一度は子どもを持つことを諦めた栗原清和と佐都子の夫婦は「特別養子縁組」という制度を知り、男の子を迎え入れる。それから6年、夫婦は朝斗と名付けた息子の成長を見守る幸せな日々を送っていた。ところが突然、朝斗の産みの母親“片倉ひかり”を名乗る女性から、「子どもを返してほしいんです。それが駄目ならお金をください」という電話がかかってくる。当時14歳だったひかりとは一度だけ会ったが、生まれた子どもへの手紙を佐都子に託す、心優しい少女だった。渦巻く疑問の中、訪ねて来た若い女には、あの日のひかりの面影は微塵もなかった。いったい、彼女は何者なのか、何が目的なのか──?」(公式HPから。)
○全体として、ドキュメンタリーっぽい演出、カメラ回しでした。一部、役を演じているときにインタビューをする場面もあり、その部分はドキュメンタリーになっていたということだと思います。
人の動きを追うドキュメンタリーというのは、シーンをカットすることはできますが、嘘は入れられませんから退屈になりがちです。ドラマチックなことが起きるとは限らないからです。それでも事実の力というものがあるので、ドキュメンタリーというのは画面に力が生じるのです(より正確に言うと、力があると視聴者が思うということ。)。
一方、本作はフィクションですから、ドキュメンタリーっぽいもののドキュメンタリーではないので画面の力が弱いです。そのため少し退屈でした。
なお、「彼女は何者なのか、何が目的なのか」とか「心揺さぶるヒューマンミステリーを映画化」とあるようにミステリー要素もありますが、ミステリー要素が少なく感じたのは、私がそちらをあまり気にしなかったというか、あまりミステリーに興味がわかなかったからだけかもしれません。
背中を向けている女性がひかりなのか、別の人なのかというミステリー。顔をきちんと映さず、声も明確ではないので誰とはわかりにくいです。言動からしてひかりとは考えにくいと思っているところに、ひかりの友人かなと思わせておいて、実はひかりでした。
・ひかりの妊娠が判明した際、14歳でまだ生理も来ていないのにという旨を言ってひかりの母の貴子が嘆いていましたが、巧も含めて外見が高校生以上にしか見えないので少し戸惑いました。実写の欠点です。
・特別養子縁組の制度は実の父母との関係が法的に切れるから子供を返す必要はないので、返してほしいと言われても返さないと言って終わりですし、返してほしいと言う人が間違っているだけです。それができるなら、この子は、良い子に育たなかったから返す、気に入らないから返すということも認めないとおかしいですが、それができないことも含めての制度です。
それでも、返せとか返すとかの話が出ればわだかまりが残るでしょうけれど、それは別の話です。
○さて、友達と思っていた女性の借金を肩代わりしての返済時に、どうして自分がこんな目に合うんだ、みたいなことをひかりが泣いて言ったときに高利貸が、バカだからじゃね、といったことを言いましたが、まさにそう。
中2で好きな巧とHして妊娠して、気づいた時には中絶ができない時期になっていて、周囲には病気と嘘をついて浅見の施設へ。
性教育は性教育をしなかった大人の責任が大きいので、することをしないでしたことによる中学生での妊娠は同情しますし、巧もどうしていいのかわからずというのもあったかもしれませんし単なる保身だったかもしれませんが責任逃れですからひかりに同情しますが、ひかりの自業自得でもあります。
施設で友達だった女性と新聞配達のバイト先で再会し、友達としてアパートに住まわせ、借金の保証人に勝手にさせられて高利貸に暴力を受けた女性を見てお金を工面して高利貸に返済したわけです(明確には描かれませんでしたが、状況からして、新聞店から盗んだのでしょう。)。
彼氏の巧からも見捨てられ、家族はひかりのことより世間体の方を気にしていますし、付き合いの深い親戚だからと家族が話したこともあって、出産後にしばらく家にいてから家出したひかり。
同情はしますけれど自業自得というようにしか思えなかったのは、ドキュメンタリーっぽいフィクションというつくりのせいでフィクションがフィクションにしか見えなかったからかもしれませんし(共感や感情移入がしにくくなる。)、ひかりの苦労があっさりとしか描かれていないからかもしれませんし、他の理由かもしれません。
○息子の朝斗が友達とジャングルジムで遊んでいた時、友達が落ちてケガ。朝斗に押されたと言っているというので、親同士の関係もぎくしゃく。朝斗のことを信じたいから謝らない佐都子ですが、それが苦しそうで、それを見た朝斗が、押したと言った方がいい?、という意味のことを佐都子に聞きました。(なお、しばらくして、友達が嘘をついたと母に言って、一緒に遊びに行くなど、友情も母親同士の付き合いも解決した様子でした。)
あれこれ苦労してきたひかり、息子を返すか金をくれと佐都子と清和の夫婦に言いにきて、苦しそうに言うところからして本意ではないことは推察できました。
あの人がそんなことを言うわけがないからあなたは誰だ、という趣旨のことを夫婦が言いましたが、動揺していますから、苦しそうに言うひかりだということにまでは思いが至らなかったようです。
後々、警察が来て、写真と名前を聞いて初めて気づいたようです。行方不明のひかりを探す佐都子、朝斗とともにひかりを見つけ、産みの親だと紹介しました(産みの親が別にいることは以前に話してある。それが施設のルール。)。
エンドロールの最後、画面は黒いエンドロールのままで、朝斗が、会いたかった、とひかりに言いました。
エンドロールの最後、画面は黒いエンドロールのままで、朝斗が、会いたかった、とひかりに言いました。
○これが本音なのかどうか。
友達との仲違いの時に空気を読んで自分が押したと嘘を言おうかと佐都子に言ったように、空気を呼んだのかもしれません。
本作は139分と長めですが、友達とのエピソードは本作になくても本作は成り立つと思います。しかし、優しくて他人の気持ちが分かる良い子に育ったことを示す意味はあります。それは、産みの親であるひかりの人柄の良さと、育ての親である夫婦の人柄の良さを表したいのでしょう。
ボソッと言ったというほどボソッとではありませんが、そんな感じの言い方でしたし、少なくとも嬉しそうな様子はない言い方です。一方、俳優が子供のため演技力がどうなのか分からないところもあるので、あまり細かい演技でどうこう言うのはあまり適切な気もしません。
3人を映してのセリフであれば本音だと考える方が妥当だと判断できると思いますが、黒いエンドロールのままだったので、あくまでどちらかというとですが、空気を読んだのではと思っています。
それだと、本作ではひかりに救いがほとんどないので、できればそう思いたくはないのですが。
【shin】