2024/12/18 wed
前回の章
昨日甥っ子の然を連れ、連繋寺の帰りに寄った川越水族館。
ター坊のお袋さんとの会話を思い出す。
「あなたもいい加減結婚したら?」
「今は作品を生み出しているところですから無理ですよ」
「小説は結婚しても書けるでしょ?」
「分かってないなあ、おばさんは……」
「あら、そんな事ないわよ。早く結婚して親孝行してあげなさい」
我が岩上三兄弟も、水族館三兄弟も、全員男三兄弟。
『だんご三兄弟』の健太郎さんも、同じ町内。
これはあまり関係ないか……。
「いえ、岩上家は長男の俺、そちらは末っ子ター坊。格闘技なんか齧っちゃった奴は、嫁のもらい手なんぞ、ありゃあしませんよ」
「まったくあの子もね~」
「ここを継がせればいいじゃないですか」
「駄目よ、こんなご時勢じゃ……」
おばさんはいつも俺に温かい言葉を掛けてくれ、初めて書いた小説『新宿クレッシェンド』を自分で印刷して作った本も未だ大事に持っていてくれ、当時色々な感想を言ってくれた。
こんな世知辛い世の中。
同級生や先輩後輩たちの自営業も、誰も継がず閉めた店も多い。
川越工業の裏にある山利軒も、息子が辞めて継手がいないから閉店してしまった。
あの太麺焼きそばを後世に残さないのは罪である。
川越の特に連雀町周辺は個人店が多い。
時代の流れによって、徐々に変わっていくのだろうな……。
携帯電話がワンコール鳴る。
すぐ切れた。
自費出版作家の山嵐乃兎だろう。
画面を見ると案の定そうだった。
無視して執筆を続ける。
彼のどうでもいい愚痴や、くだらない話を聞いている暇なんて俺には無い。
少しでも先の話を文字に変えていきたいのだ。
またワンコール鳴って切れる携帯電話。
ウンザリする。
執筆を邪魔されるのはいい迷惑だ。
何故一回り年上の男へわざわざこちらから電話を掛け、愚痴を聞かなねばならないのか?
あえて無視して執筆を続けていると、山嵐乃兎からチャットでメッセージが届く。
『岩上君、おるんやろ?』
一時執筆を断念して、返事を返す。
『あの…、今執筆中なんですね』
『聞いてやー。先日ヤフーチャットで十八歳の小娘から、あんたの小説はなってないなんて言われてのう』
コイツ、俺が執筆中だと送った意味が分からないのか?
『すみません、小説を執筆中なので』
『まあ聞いてや。あんな若い小娘がのう、大の大人に向かってやな。文学の何が分かるねんて』
駄目だ、コイツ。
執筆の邪魔にしかならない。
ハッキリ言わないと分からないか。
俺は山嵐乃兎へ電話を掛けた。
「おう、岩上君! チャットやなくて、電話のほうが話しやすいか」
どこまでも能天気でおめでたい男。
「山嵐さん……」
「ん? どないしたんや」
「俺、小説を書いているって伝えまたよね?」
「ああ、悪い悪い。俺も十八の小娘から色々言われてのう……」
「山嵐さん! 俺、これでも必死に小説書いているんですよ! そんな小娘の話なんて聞いている余裕なんて、これっぽっちも無いんです」
「あ……」
「前に山嵐さんの本、買って読もうとしましたよ。正直に言いますね。最初の数ページでつまらな過ぎて、申し訳ないけど読めなかったです」
「……」
あえてここまで傷つける必要あったのか?
いや、仕方ない。
彼の行動は俺にとって害悪でしかないのだ。
事前に何度も俺の状況は伝えたはず。
それでも空気を読めない山嵐は、しつこくつまらない話題をしてくる。
しょうがなかった。
フォローではないが、同じ物書きとして一つだけ伝えておこう。
「俺はもし山嵐さんの作品読むとしたら、前に自殺した奥さん…、その時の状況と山嵐さんの心境を作品にしたものなら読んでみたいです」
「わ…、分かった……」
「では俺は執筆に戻りますね。失礼します」
数日後、山嵐乃兎から原稿用紙三枚程度のデータが届く。
当時彼が仕事から戻ると、奥さんの姿が見えない。
探しに行くと、風呂場で湯船にお湯を張った状態で奥さんは中にいたらしい。
「このまま水に浸かって死んでやるから」
「おう、そうか。ただな、人間は五分以上息もせんと浸かっていなきゃ、簡単には死ねん。おまえにそんな根性あるならやってみいや」
そう乱暴に言い、掛かり付けの医者へ電話をする。
またいつもの妻の持病が始まったと報告に……。
時間にして十分も話さず浴槽へ戻ると、妻は湯船の中で溺死していたようだ。
ここまでの描写を書いた山嵐は、辛過ぎて自分にはまだここまでしか書けないと綴っていた。
もしこれが本当なら…、いや事実だったのだろう。
可哀想だけどしょうがない。
物書きを名乗るなら、辛い過去さえ糧にできなければいけないと思う。
この時以降、山嵐乃兎から連絡は一切無くなった。
何とも歯切れの悪い別れ方。
現実逃避ではなく彼が覚悟を決めて小説を書き続けるなら、いつかまた混じり合う事もあるだろう。
息抜きに一旦執筆をやめ、一階へ降りる。
居間でミックスナッツをポリポリ食べていると、甥っ子の然がやってきた。
俺を叔父と認識しているのだろうか?
少なくとも顔は覚えられたようだ。
外から「おじさ~ん、遊ぼ~」と縄跳びを持った二人姉妹の女の子が俺を呼ぶ。
幼少の頃あったパチンコ屋ジェスコの跡地のマンションへ住んでいる子たちだ。
「遊んでもいいけど、おじさんって言うな」
「おじさん、縄跳びしよーよ~」
「お兄さんだろ? そんな事言うと遊んでやらないぞ」
「お兄さん、縄跳び~」
「よし、然の面倒も一緒に見るんだぞ?」
「はーい」
子供は無邪気なもので、本当に癒される。
夕方になり、そういえばちゃんとした食事は、然と連繋寺の焼きそばを食べた以来だなと思い出し、外へ出掛けた。
一人で食べるのもあれだし、そうか……。
俺は『鬼畜道』月吉さん役で出ている先輩の神田さんを食事に誘う事にする。
この先輩には不思議と昔から頭が上がらなくて、俺が歌舞伎町時代ふんぞり返っていても「智ちゃんは、もっと人に奢ってもらう事を覚えたほうがいい」なんて言いながら、ご馳走してくれる人。
だから最近は交互に出し合うようになったけど、今日は俺がご馳走する番だ。
『キッチンジャワ』へ行き、先輩は『豆腐とチーズのカレー』、俺は『豚の味噌炒め』を頼み、会計をする時「今日は僕が出しておくからいいよ」と神田さんが言い出す。
「え、だって今日は俺が出す番ですよ?」
「いいからいいから、僕のほうが年上だし」
「またそんな事言うと、この先の『鬼畜道』にそのまま台詞乗せますからね」
「それは下手な事言えないなあ……」
「じゃあ、次は俺が絶対に出しますからね。何がいいですか? 焼肉? ステーキ? トンカツ?」
「お腹いっぱいの時に、そういう会話は嫌だな~」
「じゃあ、俺が今度久しぶりにハンバーグでも作りましょうか?」
「え、ほんと?」
「腕によりをかけますよ、ふふん」
先輩の神田さんは、俺のハンバーグがかなり好物。
さて、今回はどんなハンバーグを作って、恩返ししよう……。
デミグラスペンネハンバーグにするか。
もしくは王道的なデミグラスソースハンバーグ。
トマトソースハンバーグもいいだろう。
斬新にホワイトソースハンバーグも喜ぶかも。
酷かった過去ばかりだけではない。
俺はこういった優しい先輩たちによって、今も支えられている。
ふと今日、思いついた。
小説にのめり込むという行為。
欲を捨てる行為になっている事に気付く。
でも『孤独』が嫌だから、ミクシィでみんなへ記事を書くし、知り合いに連絡をする。
そういった事をしなければ、もっと作品をガンガン書けるのになあ……。
人間のテーマとは、『いかに孤独に打ち勝つか』という事ではないだろうか?
母親の胎内にいる時、人は生まれる前から孤独である。
これは双子とかじゃない限り誰だってそうだ。
赤ちゃんが何故泣くのか?
赤ちゃんが自分でできる行為は、寝ると目を閉じるぐらいなので、何故自分は暗闇の中にいるんだろうと本能的に感じ、それで怖くなるのかもしれない。
トラウマだらけの日々、それがリセットされるのが三歳と言われる。
そして人生を終わりになる死。
この時はどんな人間だって孤独で終わる。
それに逆らうには『心中』という無理やり命を奪う手段を使うしかない。
そうでもしない限り、人間は孤独に始まり、孤独に終わるのだ。
物心がつき、様々な好奇心から色々なものを学び、人間には個性というものがでてくる。
しかしその個性すら、俺は『孤独』からすべてくるものだろうと感じる。
一人でいるのは誰でも寂しい。
だから誰かに連絡を取り、食事に行ったり旅行に行ったりする。
同性同士ならそれでいいが、異性になると少し違ってくる。
男は女を抱きたいから、格好をつけたり、見栄を張ったりする。
すなわち孤独から離脱する為に人に触れ合い、そこから欲が生まれるのだ。
人との触れ合いの言葉の一つに、社交辞令という言葉がある。
以前、前のミクシィを辞めるちょっと前にミュージシャンの『MC勇一』さんと知り合い、メールなどでお互いの親睦を深めた。
それから私はミクシーを辞めた訳であるが、その時勇一さんから携帯電話のメールアドレスを教えてもらった。
彼は私の作品『新宿クレッシェンド』の批評記事を当時書いてくれ、本当に感謝したものだ。
「今度飲みましょうね」
知り合ってからこれまで、お互い社交辞令になっていた。
先日小学時代の同級生藤崎信行と社交辞令になっていたから、俺は動いた。
久しぶりの再会。
何かが生まれ、何かをつかんだような気がした。
ならば社交辞令と感じたものを自ら動けば、何かが変わる。
俺は先日、勇一さんに連絡し、明日、歌舞伎町で一緒に飯を初めて食う事になった。
さて、明日は何が産まれるのだろう?
すべては『孤独』を忌み嫌った俺が、起こした事から始まる……。
【MC勇一さんの日記】
マイミクの『新宿トモ』こと岩上智一郎さんが、一月十日に、『新宿クレッシェンド』という現代小説を出版されたので、紀伊国屋書店で買って読みました。
第二回「世界で一番泣きたい小説」グランプリ受賞作だそうです。凄いですね。
面白かったんで、すぐ読めちゃいました。
主人公の悲しい生い立ちや、歌舞伎町の恐さや、怪しさがリアルに伝わってきました。
読み終わって、是非続きを書いてもらいたいなと思ったんですが、すでに続編もあるそうなので楽しみです。
さらにマイミクのライター君も、モバゲーの方でケータイ小説を書いています。
いま連載しているのは『バレンタインレシピ』といって、バレンタインデーの日まで毎日一つ、バレンタインに関するエピソードを紹介していくという内容です。
チョコの作り方ではないです。
感動的な話や、笑えるエピソードがたくさんあります。
俺の中学生の頃のエピソードもいつか載せてくれるみたいです。
どんな風に書いてくれるのか、楽しみであり、恥ずかしくもあります。
どちらもそれぞれに素晴らしい内容なので、興味のある方は是非読んで見て下さい。
俺も今度、何か書いてみようかな~。
同時期に偶然先輩の岡部さんの店『とよき』で出会った高校時代の同級生の野口。
彼もミクシィをやっていたので、本を出した頃マイミクになる。
保険の仕事をしているようで、客で飲みに来ていた竹花さんを勧誘してウザがられていた。
そんな野口も、当時俺の記事を書いてくれた。
【リニアスさんの日記】
今日は朝礼だけの事実上休みみたいなもの。
さて、今日読んだのはマイミクの新宿トモさんの『新宿クレッシェンド』。
彼は作家であり、整体師。
元プロレスラーでもあり、先日総合格闘技のリングに上がった豪傑。
また、ピアノも弾きこなす多才ぶり。
彼は高校時代の同級生で、去年再会。
今ミクシィで交流させてもらっています。
『新宿クレッシェンド』は『第二回世界で一番泣きたい小説』のグランプリ作品。
小説を読むのは久しぶり。
もちろんストーリーは書きませんが、一気に読めてしまう勢いを感じる。
特殊な生い立ち故に心と身体に傷を負った主人公が、新宿歌舞伎町というやはり特殊な社会で感情を揺さぶられ、藻掻いていきます。
新宿トモさんは実際十年間新宿歌舞伎町の住人だったとの事。
歌舞伎町はこの小説で描かれているような社会なんだろうな。
感想を書くと長くなってしまうので、ここでは印象に残ったシーンを少し。
それは、主人公とピンサロのメガネの店員の間柄。
友人どころか、お互い素性が分からない同士。
でもその間に流れる「情」をお互い感じているんだろうな。
それからアラチョンのマスター。
主人公に感情移入している読者には、彼らと主人公のシーンはホッとするんじゃないかな。
勇一さんに野口、本当にありがとうと、今でも感謝している。
明日新宿で会う予定の勇一さん。
これはどちらか一方が有言実行で動きさえすれば、社交辞令でなくなのだ。
ずっと憎悪に捉われいた俺。
でも最近になって感謝という感覚も覚えられた。
この境地をうまく文学に活かしたい。
ん?
しほさんからメールが届いているな。
しほちゃん
> 前にしほさんが嫌な人とは関わりを持たないほうがって言ったじゃないですか?
でも、俺はすべてを受けようと思います。
俺の入場テーマ曲は『地球を護る者』を選んだので、どんな形であれ、関わってくる人間には少しでも楽に幸せになれるよう、自分なりの意見、考え、見解、様々な手を使ってでも良くしたいです。
そうですね。
トモさんの作品を読んで、救われる人もきっといるし。
トモさんは、それができる器のでっかい人間なんだと思います!
私はおちょこの裏ぐらいしか器の大きさがないので、駄目だけど 。
ビクトルユーゴーの「レ・ミゼラブル」って作品で主人公のジャンバルジャンが最後に言ったセリフが「すべて許そう」だったんですよねえ。
彼は本当に辛い人生を送ってきたんですけど。
私も死ぬ時は誰も恨まず、穏やかな心境で死にたいなあっと思ってます。
憎しみからは何も生まれませんもんね。
すべて許そう……。
様々な因縁をこれまで抱えてきた俺に、その言葉が言えるのだろうか?
数日前、家に子供を連れてきた従兄弟の理恵子。
彼女の日常の大変さを少しだけ実感し、母親の偉大さを知った。
それにより、俺らを捨てて出て行ったお袋の心境を少し考えられるようになれた。
彼女に対して許すとか、そういった感情ではない。
袂を別れ現在に至るが、子供を捨ててまで出て行くという当時の心境だけは分かってあげたいという気持ち。
許すとは違う。
正直な自分の心は、無関係が一番正しいだろう。
親父に対しては?
現在進行系なのだ。
許すも何も無い。
加藤皐月は?
絶対に許せないだろ、あんな女……。
同級生のヤクザの内野にしてもそうだ。
岩上整体の家賃分まで貸してやったのを逃げやがって……。
いけないいけない。
憎しみからは、何も生まれない。
憎悪はいとも簡単に膨れ上がる。
時間を掛けて、ようやくこの穏やかな心境までこれたのだ。
また憎悪に塗れるような考えなら、振り返らないほうがいい。
まだまだ俺は、精進が足りていないのだ。
すべてを許せる日なんて、俺にとって一体いつになるのだろう?
そもそもそんな時が来るのか?
先日書き終えた現時点での『鬼畜道 ~天使の羽を持つ子~』最終章。
最後に俺は感謝の言葉を述べた。
本心か?
しほさんからの意見や感想が楽しみだ。
しほちゃん
鬼畜道最終章読ませて頂きました!
こうやって繋がって行ったんですね。
最後のセリフに泣けました。
これってハッピーエンドでいいんですよね。
トモさんの心が真っ白になって、救われた気がします。
私の名前がところどころ出てきて、想像していた以上に悶えちゃいました。
これ、旦那と子供に見せられませんね?
一個訂正。
私がやった事あるのは賞の一般審査員です。
誰でもなれるやつね。
希望者の中から抽選で選考されて選ばれるやつ。
その賞は少女向け小説の一番大きい賞だったから、一般審査員が審査する賞だったみたいです。
トモさんが私みたいな女の人と結婚したかったな~って思ってくれたなら、嬉しいですね。
いい奥さん、いいお母さんになれるように頑張ります!
相変わらずの過大評価ですけどね。
心境の変化ですね!
心の綺麗な人探したらいっぱいいますよ。
これからきっと出会うはず。
ともさんの事を心から愛して認めてくれる人が。
今までは出逢ってても、トモさんが壁を作ってたから、気付かなかっただけじゃないかなあ。
良かった。
中々いい感想と評価をもらえたようだ。
但し、これはあくまでも現時点の俺が書いた最終章に過ぎない。
自殺願望も無いし、仮に事故などで不意の死亡をした時用に書いたものである。
まだこの先の境地へ。
まだまだ物語的に見て、薄っぺらい気がした。
何故そう感じるのか?
現状の自分を振り返ってみろ。
無職で休業補償をもらっている身分。
家の事など何一つ解決すらできなかった。
偉そうな事を書いていながら、現実の俺は中途半端で何もできていない。
ひたすら小説を書いているだけの日々。
だから自身の人生に、これ以上の厚みがまったく出ていないのだ。
小説を執筆する……。
この一点に走る事で、現実から俺は逃げている。
休業補償が切れたあとの事をまるで考えていない。
霞を食って生きていければ、それでもいい。
俺は仙人でも何でもないただの人。
自分一人食べていくだけでも、必要最低限の金は必要だ。
しほさんが言うように、俺は本当に小説に対し才能なんてあるのだろうか?
あったら何故ひたすらマスターベーションのように執筆だけをしているのに、それで食べていけない?
本だって出した。
でも書籍関係者の人間たちは、俺に何一つ興味を持ってくれていない。
だから現時点で無職であり、書く事に関しての誘い一つないのだ。
このまま今のように小説だけ黙々と書き、時間が経った自分を想像してみる。
ゾッとした。
本当は分かっているのだ。
小説で食べていけないなら、ある程度の定職を持ち、生活の基盤を手に入れた状態で好きな事をやればいい。
今の俺は小説というものに関し、依存しているだけ……。
しほさんという存在に対しても、依存しているのだろう。
先日自費出版作家の山嵐乃兎を乏した。
俺もたまたま運良く賞を取り、本が出たというだけで、そう大差ない。
悪い方向へ思考が回っている。
現実的に、必要最低限の金ですら稼げていないからだ。
二か月間は休業補償が出るから、まだいい。
じゃあそのあとは?
また働かないといけない。
書いているだけでは駄目なのだ。
部屋にずっと籠っているから、こう不安になる。
明日、新宿歌舞伎町へ行き、勇一さんと会うのだろう?
行き慣れた街、歌舞伎町。
歌舞伎町奮戦記
今回この記事のテーマは、『俺みたいな奴が金をつかんだら、日本の経済なんて、すぐに景気が良くなるぜ』です。
歌舞伎町コマ劇場跡にて、MC勇一さんと初の遭遇。
穏やかでいい人なんですよね。
そこで激ウマ中華料理の『叙楽園』へ勇一さんを連れて行く事に。
ここって結構ヤバい場所にあるんですよ。
こういうところを通り……。
DVDの看板は、『裏ビデオ屋』。
モザイク無し、無修正のDVDを売っています。
人一人しか通れないような場所。
普通の人、歌舞伎町の人間でもあまり通らない場所にあり、隣はヤクザの事務所。
二、三人しか入れないような変な飲み屋もあるんです。
木でできた簡易な掘っ建て小屋。
風が吹けば飛んで行ってしまうような。
誰もこんな場所通りたくなりでしょ。
何と俺の『新宿クレッシェンド』のカバーに俺の写真ありますが、この通りを使って撮影したものなんですね。
ギャラも交通費ももらえない状況で、俺は『岩上整体』を休み、しかも靖国通りの寒空(十二月中旬ぐらいに撮影)で「身体の線を出したいからコートは脱いで下さい」と無茶言われ、そんな状況で一人中央分離帯に立ったまま、五時間もそこにですよ?
もう腐るほど通る通行人が、みんな何をしてんだ?って顔で見る訳ですよ。
結局二百ショットぐらい撮ったのかな?
それで最後の作者プロフィールページの写真ですが、某ヤクザの事務所をバックに写した訳です。
何故なら……。
以前留置所で知り合ったこの組のヤクザ者が、また捕まっちゃって、俺、数年前に面会に行ったんですよ。
その時、彼は目をウルウルさせながら「岩ちゃん…、俺、ヤクザ者だから四、五年入っちゃうけどさ。出てくるまでに、俺たちの代表として、表舞台にいてくれよ!」って檻の中から頼まれちゃったんですよね。
まあとりあえず一応賞獲ったし、ちょっとは約束果たしたかなと。
だから背景はここしかないなって。
彼が出てきたら、俺は『新宿クレッシェンド』をプレゼントします。
ニンマリ笑ってくれるかな?
四歳の娘さんに自慢してやれ。
あ、もう七歳ぐらいになってんのかな。
しばらく勇一さんと話してから、KDDI時代の同僚でもあり、俳優(ハンサムスーツ出演等)の水原も呼んで、野郎三人で飲みました。
それから今流行の『ガールズバー』へ行こうってなって、一時間三千円飲み放題の店なんですよ。
そしたら超可愛い子ついちゃって、もう俺は完全口説きモード突入。
でも、改めて見たらあまりそうでもなかったんで「おい、ピンポンダッシュって知ってっか?」と質問すると「え、何ですか?」と不思議そうにしているので「目をつぶれ」と命令してから……。
「ピンポーン」って乳首のところを十六連射してやったんです。
もうハドソンの高橋名人に負けないようにね。
「やーん」とか言いながら笑ってたんで、もう一回しましたけど。
…で、明日も仕事の水原さんは一時間、勇一さんも一時間半で帰ってしまい、俺は朝まで飲み続け、結構な額を払うハメになりました。
まあ、その分楽しめたからいいんですけどね。
俺は朝の六時頃までずっとその女を口説き、顔に手を沿えながら「君はそんな綺麗な顔立ちなのに、心に陰りが見える」と言うと「え、何で分かるの? 今、ゾゾってきちゃったんだけど……」
「伊達に君より一回り以上年を食ってないって事だ。それにこの手は腐るほど患者を治してきている。身体の症状など指先で触ればある程度は分かるさ」
こんな事を言いながら、先日の『孤独』理論などを話し、ウイスキー一本以上空けて、へべれげになりました。
帰り道、歌舞伎町で一番うまい味噌ラーメンを食べてから、漫画喫茶行って、レトルトのカレーとカールのチーズ味を食べて、『自殺島』と『漂流ネット喫茶』などを読み漁り、そのまま寝て、昼に起きて、水原に「ランチ一緒にしよう」と約束して、KDDIビルの方向へ向かいます。
待ち合わせ十五分前に着いた俺は、ふとマグロが無性に食べたくなり、お寿司屋さんへ行き、マグロを食べます。
そのあと水原と合流し……。
俺はハンバーグ定食。
水原は生姜焼き弁当を注文。
そのあと『回春エステ 一時間四千円』という看板が目に入り、俺は早速行ってみました。
何故なら『時流の流れに沿って』下界に欲を満たしに来たのですから、本能の赴くままに行動すればよいのです……。
ここって前は『お触りパブ』だったんですよね。
オーナーが知り合いで、「岩上さん、一回顔を出して下さいよ」って言うから出して、その時可愛い子いたんで、新宿プリンスでデートしたあと、プリクラ撮りながらキスして、おっぱい揉んで、それから会ってないなあ。
空店舗の時、物件情報見たら、何と最初に掛かる費用が千五百万掛かってしまうので「ああ、ここじゃ、さすがに商売しようと思っても手が出ないなあ」なんて思っていたんですよね。
中は改装工事をしたようで、結構金を掛けた造りになっており、四千円だと待つようで、何でもレギュラーコースじゃないと身体を洗ってくれないとか訳の分からない事を言ってきます。
あまりにグダグダ説明、余計に金を取ろうとしているの見え見えなんで、こっちから聞きます。
「おい、結局いくら払えばいいんだよ?」
「いえ、お選びになるのはお客さまなので……」
「じゃあ、このコースでいいよ。一時間九千円ね」
「あ、お客さま、入会金でプラス二千円も掛かるんですけど」
「…たくよ~」と俺は金を払う。
「あ、お客さま、あとプラス三千円でビップコースになりますが」
「ビップって何をするの?」
「女の子が水着でお客さまの身体を洗います」
「だって触っちゃ駄目なんでしょ?」
「ええ……」
「じゃあ、余計金を取っといて、そんな興奮させて蛇の生殺しのような真似させんじゃねえよ。その先もありなら金を出してやるよ」
「いえ…、うちはそういう店じゃ……」
「じゃあ、四の五の抜かさんと、とっとと女つけろや!」
さすがに怒りました。
この店、本当に女が可愛いんですよ。
一人目なんて、美人な女が身体洗いながら、大きなおっぱい押し付けてくるんですよ。
絶対にみんなには見せられないような、Tパックのヒモパンみたいなブリーフを履かされて、すげー恥ずかしいんですよ
そこへおっぱいなんて押し当てられたら、もうヤバヤバじゃないですか。
超蛇の生殺し状態。
…で、女の子が「お客さん、手を出さないなんて珍しいね」と。
「だって触っちゃ駄目なんだろ?」
「そうですけど」
「いいかい? まずね、最高に気持ちのいいキスの定義って何だか分かる?」
「いえ……」
「最高に気持ちいいキスの定義ってさ、実はキスって『プロレス』なんだよ」
「はあ?」
「当時俺は亡くなったジャイアント馬場社長にね、『プロレスで大事なのは相手が来いと構える。そこへ全力で攻撃を打ち込む事』って言う訳よ」
「はあ……」
「つまり、キスってもんは、女の子からしてほしいって目を閉じて準備をしたら、濃厚なキスをしてやるのがいいんだ」
「へえ~、なるほど!」
「目を閉じたくなったかい?」
「駄目です。仕事中です」
俺は名刺を渡しながら、「実は俺、物書きなんだ。新宿プリンスなら俺が行けばビップになる。どうせ行くなら、君みたいな美人を連れてゆっくり食事をしたいものだね」
「へえ~」
「但し、その時は目を閉じたくなるような思いをさせてやるよ。また俺は引き籠もって作品をしばらく書くから、興味あったら連絡してきな。一日ぐらい時間を作るよ」と、格好をつけておきました。
何か知らないけど、最後に大きなおっぱいを俺の顔に押し付けてきました。
二人目の女もかなり美人で、話をすると……。
「私ってアブノーマルで、SMとか好きなの」
「へえ、俺は興味ないけど、SかMどっちなの?」
「M。ストレートってつまらない。変化球を投げる人のほうが好みなんだ」
「じゃあ、君は今まで何人の男に抱かれてきたか知らないけど、本当のストレートを食らった事がないんだよ」
「何で?」
「野球のピッチャーはさ、本当は誰だって豪速球でストレートの三振を取りたいのね。でもそれじゃ打たれちゃうから、変化球を覚える訳。つまり真のストレートが本物なんだ。今度俺とプライベートで会いたいと思ったら、真のストレートを教えてやる」
「へえ、じゃあ連絡先教えといて下さい……」
こんな感じで、給付金、今回は十四万しかもらってないのに、俺、いきなり十万も使っちゃった
まあ、セブンスターも六十箱買っといたし、問題ないか。
さて、餌を撒きましたが、何匹釣れるでしょうか。
頼むぜ、セニョリータたちよ。
俺、生涯結婚できねーな……。
金を散財し、馬鹿をやった分すっきりできた。
所詮俺などいくら気取ってみたところで、ただのスケベで大馬鹿者なのだ。
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