岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

著書:新宿クレッシェンド

自身の頭で考えず、何となく流れに沿って楽な方を選択すると、地獄を見ます

闇 177(鬱と擬似母編)

2024年12月26日 00時34分34秒 | 闇シリーズ

2024/12/26 thu

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『擬似母』…、俺がもらえなかった母性愛を同級生の母親二人から少しずつもらえた心。

フォト

処女作『新宿クレッシェンド』の主人公赤崎隼人。

フォト

『擬似母』の主人公時田次郎。

この物語にクレッシェンドの赤崎はチョイ役で登場させた。

二千七年八月二十七日より執筆開始後、しばらくして中断。

あれから約三年の時が流れ、ようやく書きたかった最初の部分を今日、こうして書く事ができた。

 

01 擬似母 - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

擬似母母さん……。僕には、母さんと呼べる人間がいません。だから、あなたの事を心の中だけでいいので、「母さん」と呼ばせてもらっていいでしょうか?駄目だ...

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母さんは、何人もの知らない男を次々と、家に上げた。

僕は、障子のふすまからジッと見ているだけだ。

母さんは、そんな僕に気がつくと、烈火の如く怒り出し、百円玉を握らされ外へ追い出された。

寒い冬の季節でも、構わず外に出される僕。

百円でできる事など非常に限られる。

お菓子を買ってしまうと、時間が潰せない。

だから決まってゲームセンターへ行って、学生服を着た中校生たちがやっているゲームを眺めながら、時間をひたすら潰した。

中には僕を可愛がってくれるお兄ちゃんもいた。

小学生の僕がいつも一人でゲームセンターへ来ている事に疑問を抱いたのか、いつも「あれ、おまえの母ちゃんは?」と同じ事を聞いてくる。



「いないよ。僕、一人」と答えると、お兄ちゃんは僕の頭の上に優しく手を置いて、「そっか、じゃあ、俺と遊ぶか」と満面の笑顔を見せてくれた。

 お兄ちゃんの右のこめかみには、何故か三本の傷があった。

「ねえ、お兄ちゃん。その傷どうしたの?」

仲良くなってしばらく経ち、僕はそのお兄ちゃんに尋ねてみた。

「ん、ああ…。これか…。う~ん、おまえの母ちゃんって優しいか?」

お兄ちゃんは、僕の質問には答えず、逆に質問をしてくる。

僕の母さんは優しいか?

「分かんない……」

いつもぶたれてばかりで、邪魔者扱い。

本当は「優しくなんかない」と叫びたかった。

「そっか…。お兄ちゃんのこれはな。お兄ちゃんの母ちゃんにつけられたんだよ」

学生服のお兄ちゃんは、寂しそうな顔でこめかみの傷を指で撫でた。

「痛かった?」

「そりゃあ、痛いさ、はは…。だけど、体よりも心のほうが痛かったなあ……」

そう言いながら、お兄ちゃんは、僕にソフトクリームを買ってくれた。

小学六年生の時だった。

学校から帰ると、居間のテーブルで母さんが突っ伏しながら、泣き崩れていた。

「お母さん、どうしたの?」

心配で駆け寄り、肩に手を置く。

すると、母さんは僕の手を乱暴に払いのけた。

勢いで地面に尻餅をつくと、母さんは泣き崩れた顔を上げ、ゆっくり僕のほうを見た。

「次郎、ごめんね…。ほんとごめんね……」

咄嗟に身構えてしまう。

いつもこのパターンから母さんは豹変し、急に僕を殴りつけるからだ。

だが、この時はいつもと違った。

両腕で顔をガードしていると、その上から優しく僕を抱き締める母さん。

「ごめんね、次郎…。母さん、馬鹿だった」

「お母さん……」

「お腹、減ったでしょ? 今日は、どこかおいしいところでも食べに行っちゃおうか?」

「うん!」

目は真っ赤で、化粧も崩れていたが、母さんは優しく僕に微笑んでくれた。

「何が食べたい?」

「う~んとね~……」

僕は、ゲームセンターでいつも会うお兄ちゃんとの約束を思い出した。

その日、好きな食べ物を聞かれた。

僕は、「お子さまランチを食べた事ないから、一度でいいから食べてみたい」と答えた。

「ははは…、ほんと、おまえとは何か似たようなものを感じるよ。お子さまランチか…。よし、分かった。今はまだ無理だけど、あとちょっとしたら、俺がご馳走してやるよ」

「ほんと?」

「ああ、嘘はつかねえよ。俺、おまえの事、不思議と気に入ってるからな。お子さまランチを近い内、食わせてやるよ」

そう言って、こめかみに三本傷のあるお兄ちゃんは、小指を差し出した。


 

部屋をノックする音が聞こえる。

誰だよ、執筆中に……。

ドアを開けると、いたのは加藤皐月。

戸籍上では俺の母親という位置関係にいる女。

「何をしに来た?」

「向こうであらかた用事は済んだからね、またしばらくはここにいるわ」

「ふざけんなっ!」

思わず大声を張り上げた。

加藤皐月の母親が亡くなり、向こうへ行ったと思っていたのがまた家に戻ってくる?

コイツがいると、おじいちゃんの寿命が縮まる。

家の中が混乱する。

すべての元凶の元。

「そんなに大声出さないで。智ちゃん、あなた、まだ家を継がなかったの? お父さんはね、ほんとうは一緒にこの家をやりたいはずなの」

「……」

「ちょっとここで働く大室の信ちゃんがね、岩上クリーニングを辞める事になったのね。ほら、私の娘って少し病弱でしょ? それで人手が足りなくなるわけね」

この家を出ていく前に四千万円の金を様々な方法で抜いた加藤。

ある程度の用は済んだから、今度は自分の娘婿の大室まで引き上げるって訳か。

それで残りの面倒な残務処理を長男だからこの家を継げと、俺へおっ被せようと……。

いつもそうだ。

コイツは俺が何か新しい何かを始めようとするところで、必ず邪魔をする。

平穏無事に暮らしたいのに、いつだってこの女が介入すると台無しになってしまう。

「智ちゃん…、あなたは智さんの長男なのよ? いい加減自覚を持って……」

「消えろ……」

「え、何?」

「目の前からとっとと消えろって言ってんだよっ!」

目の前にある壁を思い切り殴る。

また一つ家の壁に穴ができた。

壁にめり込んだ腕をゆっくり引き出す。

木の破片が刺さり、右腕は血だらけ。

そのまま俺は加藤皐月の襟首を掴むと、強引に階段を降りた。

「ちょっと何よ!」

黙って一階まで引きずり降ろすと、玄関を開けて外へ放り投げた。

「うちの敷居を勝手に跨いでんじゃねえよ、クソがっ!」

加藤はギャーギャー喚いていたが、黙って扉を閉めた。

騒ぎを聞きつけ、おじいちゃんと叔母さんのピーちゃんが玄関へ来る。

「どうしたんだ、智一郎」

「また加藤が俺の部屋に来て、家を継げだの意味不明な事ばかり言うから、追い出しだ」

もっと早くから実力行使でこうしていれば良かったのだ。

暴力は良くないというが、時には仕方ない場合だってある。

「おまえもお兄さんと同じだ。すぐ暴力へ訴えようとする」

ピーちゃんがまた文句を言ってきた。

「うるせぇんだよっ! おまえはいつも口先ばかりじゃねえか。何か解決させた事あるのかよ? 加藤が家に来たのも、俺のせい…。何もかも全部いつだって俺のせい…。ふざけんじゃねえよ!」

根底に眠らせていた怒りが、マグマのように煮え滾り爆発する。

「おまえがお母さんところへあの時行って、余計な事をするからこうなったんだ」

「だからそれはあんたが、俺がガキの時に『何でおまえのお母さんが出て行ったのに離婚しないか分かるか? 家の財産が目的だからだ』と年中言われ続けたから、俺が親父とお袋のケツを拭きに行ったんじゃねえかよ!」

「だから加藤がこの家に入ってきた」

「それは俺のせいなのか? 違うだろ! 全部親父と加藤が勝手にやった事じゃねえかよっ!」

「全部おまえのせいだ」

「うるせぇんだよ! 貴彦と内緒で養子縁組なんぞしやがって、何を企んでいやがる?」

「止めないか、智一郎!」

おじいちゃんが怒り狂う俺の制す。

もう嫌だ……。

俺は階段を一歩上がりながら、壁を殴る。

血だらけになりながら、部屋へ戻った。

右の拳を眺めた。

血だらけだ。

頭を両手で掴み、嗚咽を漏らして泣いた。

憎悪が溢れ出す。

殺してやりたい……。

目の前が真っ暗になった。

また電球が切れている。

おかしいだろ?

この間変えたばかりだろ。

仕方なく電球を買いに行く。

どんなに打ち拉がれても、人間は光を求める。

明かりをつけた。

やはり電球が切れただけか。

まだ苛立ちが収まらない。

 


審議

二千十年九月七日。

これが最後の文章となる。

生まれてからもう少しで三十九年。

振り返るとクソみたいな人生だった。

業が深かったのか。

親からの虐待。

親父の浮気騒動。

人から利用され騙され裏切られ続けた人生の連続。

プロレスの世界へ身を投じようとするも左肘の故障。

格闘技の世界で現役復帰しようとするも家族の邪魔。

居場所を探しにホテルで働き、その後歌舞伎町へ。

一人の女に惚れ、これまで鍛えた肉体を捨てピアノを弾く。

なびかせようと小説を書き始める。

それでも駄目で、気付けば自分の為に作品を書くようになっていた。

世に出ればクソみたいな人生が変わる。

それだけを念頭に必死にやって獲れた賞。

しかし出版社は何故自分を選んだのか分からない不可解な行動。

整体もたたみ、執筆に専念しようとするも印税は入らず。

目的意識もなくなり、ただ時間を過ごすようになった日々が続く。

家族親戚からは暴言を吐かれ邪魔者扱い。

自身の存在価値などあるのかと常に自問自答。

ギネス挑戦を立ち上げ、約原稿用紙六千枚近くまで書けた。

しかし執筆をするのが苦痛で溜まらなくなり、現状を迎える。

元より才能も何もない自分。

モチベーションで何とか維持してきたが、それも限界のようだ。

もう俺にはこれで何もなくなった。

以前、覚悟として諦めたなら腹を切ると公然の場で伝えた。

腹を自分で掻っ捌くのは痛そうなので『ブランコで首を吊った男』同様、首を括って命を絶つのがふさわしい死に方かもしれない。

愚直なまでの己の生き方を今になって悔やむ。

輪廻転生というものがあるならば、次はもうちょっとマシな人生がいいなあ。

人生生まれながらにしてヒールだった男のけじめ。

最後の文章が遺書。

これもまた俺らしいものだ。

家族へ。

いや、家族と呼べるかどうかさえ分からないような人間たちへ。

おじいちゃん、弟(次男)…、俺にとって家族と思えるのは、この二人しかいない。

だが別にあとの人間が不幸になれなんて望まないし思っていない。

ただもうこれで俺を何でも悪者にし、言いたい事を好き放題に言えなくなるな、ザマーミロ。

愛する者へ。

二年ぶりに再会できて幸せだった。

君にはぜひ幸せな人生をまっとうしてほしい。

懸命に応援してくれたたった一人の読者へ。

何度も投げやりになりつつも、まだ作品が書けたのは君のおかげ。

本当に感謝している。

恩師たちへ。

たくさんの借りがあるのに恩を返せずごめんなさい。

大事な関係を築けた先輩夫婦へ。

どれだけの恩があるのだろうか。

感謝はいくら言っても言い足りないほどある。

幸せな日々を生きてほしい。

友へ。

最終的に友と思えたのは一人だけだ。

馬鹿を言い合い楽しい時間を過ごせた。

元気で生きろよな。

ただ眺めている人たちへ。

君たちの好奇心を満たすのは、これでもうおしまいだ。

我が人生は終焉。

神がこの世にいるか分からない。

いるというのなら……。

もし運が残っているなら、良くしてくれた人たちへ、その運を分けて幸せになるようしてほしい。

最後に我が長男でもある生み出した作品『新宿クレッシェンド』へ。

ふがいな真似をさせてしまい、すまなかった。

できれば兄弟たちも世に送り出したかったよ。

岩上智一郎


 

ミクシィで記事を書いていた。

まるで遺書。

本当にこれから死ねるのか?

また変にみんなを心配させるだけの記事。

本当に死ぬならまだいい。

いいのかよ、こんな終わり方で……。

ヤケになるならせめて加藤皐月も殺して……。

「……!」

また部屋の電球が切れる。

今さっき変えたばかりじゃねえか。

俺は先ほど買ったスーパーのマルエツへ文句を言いに行く。

三十分も経っていなかったので、新品と替えてもらえた。

明かりがつく。

ジャンボ鶴田師匠や三沢光晴さんの名前をいつも上げて、このザマで本当にいいのか?

根っこはレスラーだろ?

全部受け止めろって。

何やられても壊れちゃ、いけないんだろ?

そう教わったじゃねえかよ……。

俺は先程の遺書のような文章へ、また加筆した。

逃げちゃいけない。

自分を誤魔化しちゃいけない。

もう俺には書く事しかできないのだから……。

 


ふと、こんな遺書を書いてみた。

実際にやるかどうかは置いておいて、人生投げやりになっている事は確かだろう。

ありえないような負の連鎖。

自分のせいでもあるが、何故と思うような事まで降り掛かり、生きるという事に嫌気をさしている。

『鬼畜道 ~天使の羽を持つ子~』を書いて己の嫌な思い出を何度も振り返る作業。

気付けば無関係なはずの心無い外野の言葉に対し、非常に神経質になり、怒ればそれを面白がる人間、好奇心を満たす人間たちが多い事にも気付く。

強くなろうと身体を鍛え始め、歌舞伎町でも我が道をいっていたあの頃の強さはどこへ行ったのか?

いや…、元々弱い人間で、ただ虚勢を張っていたに過ぎないのかもしれない。

以前一番仲のいい先輩から「おまえにパソコンを教えるんじゃなかったと後悔している」と言われた事があった。

曰く、教えなければ俺はもっとイケイケで、身体を鍛え、リングに立とうと活き活きしていたはずなのに漏らす。

それは違う。

教えてもらったからこそ、小説が書けるようになったと伝える。

しかし「その小説を始めなければ、おまえの人生はこうまでならなかったし、もっと明るいまま笑顔でいられた」と返された。

無論先輩に対し、感謝はあるがそんな風に捉えた事など一度もない。

自分で考え、自分で選んで来た道なのだ。

二千十年…、今年になって妙に今まで以上に運が悪くなったような気がする。

精神が不安定になるような家の問題と人間関係。

以前俺は神に選ばれたから人よりも試練は多いと言われた。

しかし、もしもこれらすら試練だと言うのなら、俺など選んでほしくなかったな。

人生について考えると夢も希望もなくなっている自分がいる。

果たしてこんな俺が、これ以上生きる価値なんてあるのだろうか?


 

ヤバいな、俺は……。

こんな事を赤裸々に記事として書き、みんなに見せている。

完全な鬱病か何かだろう。

こんな記事見たみんなは、どう思うだろうか?

また嫌な気分にさせるだけ。

ほら、誰もコメントすらくれない。

みんな、ドン引きしているんだ。

無価値な俺。

いい笑いものだ。

「……」

パソコンのモニターを見て思わず笑ってしまう。

馬鹿だな、俺は……。

審議の記事、あれだけ遺書に近い文面を書いておきながら『非公開』にしてある。

俺が知らず知らずの内にしたのか?

どこまでいっても俺はドジで間抜け。

一人で怒って泣いて、遺書を書いたと思ったら非公開。

まだしほさんだけにしか見せてなかった『鬼畜道 ~天使の羽を持つ子~』の最終章をせめてアップしよう。

1 最終章 - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

1 最終章 - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

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俺はミクシィで最終章を公開した。

少ししてコメントが届く。

 


幸てつひろ

今までみた作品の中で断トツにおもしろいですめちゃくちゃ感動しました。

音楽家として音楽で感動することは多いのですが他芸術で感動することは少なくて。

ありがとうございました。


みゃーだ(三枝)

電車内で読んで……。

グッときました……。

ちょっとヤバかったっす。


ぎーたか

感動しました。

プライド高きゆえあまりにも孤独すぎる主人公。

誰かに認めてもらいたいという衝動で動いていく。

最後に気づく。

そうではない。

一大切な事は、誰かを認める事、すなわち感謝なのだ、と。

これは、この作品の主人公にしか言えないです。

絶対に本にすべきだと思いました。


 

KDDI時代の同期幸に、同じ連雀町の三枝さん。

そしてあのツンデレのぎーたかが、コメントをくれている。

うん、俺は多分この子に俺の作品をこうやって読んでもらいたかったんだ……。

凍った暗い真水の中へ全身浸かっていた感覚が、少しずつ温かくなっていく。

女って偉大だよな……。

市川由衣に似てるっていうのなら、一度くらい顔を見せやがれってんだ。

どちらにしてもぎーたかや三枝さん、幸のおかげで少しは救われた気分になれた。

投げやりになる前に、もっと考えろ。

自棄になる前に、まだやる事があるだろう?

俺は『擬似母』を完成させるべく、執筆に専念した。

「私はねあんたが小さい時から、お母さんが家から出て行って、よく近所の人たちが噂してたのを知ってたんだよ。うちの子と同じクラスだったし、心配してたけどさ、私が口を挟む問題じゃないしね。そんなあんたが、駅前で整体を始めたって聞いてね。私は頑張ってほしいなって素直に思ったの。だから自然とここに来るようになってね。ここが閉まっちゃうのは寂しいけど、試合で怪我とかしちゃ駄目だよ。これからも頑張ってね。小説も何もかも……」

同級生の森田昇次郎のお袋さんから言われたあの言葉。

岩上整体を閉める事を伝えたあとの事だ。

未だ感謝を覚えている。

そしてそのあと掛かってきた電話。

「岩上、本当ありがとうね」

森昇から感謝の言葉。

「え、何が?」

「お袋さ、岩上のところ行ってるの、とても楽しかったんだよ。いつも俺と会うと話題に出してさ。俺は結婚してお袋と一緒に住んでいないし、自分の息子のように思ってたんだと思うんだ」

感謝しているんだろ?

その為にこの作品を書き始めたんじゃないのかよ?

焦ってしまって、作品としては駄目だけどさ……。

想いを込めろ。

魂を有りっ丈込めろ。

『擬似母』ついに完成。

俺はこれを印刷し、自家製の本にする。

二千七年八月二十七日から約三年……。

やっと渡せる日が来たんだな……。

もっと早くこうやって書けば良かった。

遅くなってごめんなさい。

でも、この作品を書いているなんて知らないから、ビックリするか。

今から行きます。

 

グーグルのアイルランドより広告収入の小切手が届いたので、みづほ銀行の二階にある外国為替へ行く。

驚いたのが八割以上綺麗な女性職員ばかり。

つい目で追ってしまうような女性が五人はいた。

俺の受付で担当になった美人な女性と世間話をしつつ、小切手を渡す。

銀行でも珍しいタイプのものらしく、何故このような収益をもらえるのか不思議がっていた。

小説や格闘技、ピアノ、UFOキャッチャーの動画がアクセス数あり、それがよく分からないけど広告収入になっているらしいと話すと、ピアノの話で盛り上がり、とりぜずプライベート用の名刺を渡しておく。

あとで連絡あるといいなあ……。

何と小切手の手数料が二千五百円ほど掛かるらしい。

しかも自分名義の口座に反映されるのが、一週間から十日は待つようらしい。

高いなあと思ったけど、また小切手をもらえたらここへ来ようではないか。

目の保養にもなるしね。

あ、しまった……。

au時代の名刺を渡してどうするんだ、馬鹿だなあ。

もうあの携帯電話は解約したのだ。

idoの第二電電時代から十八年も使っていたのにな。

まあKDDIの対応が酷過ぎるのだ。

新しいプライベート名刺作らなきゃな。

よし、こんな時は飲むしかない。

久しぶり浴びるほど飲もうとまずはショットバーへ行き、エキストラドライマティーニを飲む。

まだアルコール量が足りない。

冷えたズブロッカのストレートを数杯飲み、チェイサー代わりにカクテルのスクリュードライバーを頼む。

次に目の前にある行きつけだったJAZZBarスイートキャデラックへ向かい、マスターこだわりのアイスコーヒーとスピルタスのストレートを数杯飲む。

そのあと同級生のゴリと落ち合い、焼き鳥へ行く。

安い店だったが、会計一万五千円以上にもなるほど飲んだ。

いい感じで酔いが回ってきたので、久しぶりにキャバクラへ。

好みの可愛い女がいたので指名をしてしまい、ゴリが帰っても朝まで飲み続ける。

彼女は二十六歳らしい。

「店終わったら付き合え」

「えー、だって~」

「おまえはかなり俺のタイプだ。抱かれろ」

「そういうのは好きになってからでしょう~」

「じゃあたった今から好きになれ」

…とそんな馬鹿話をしながら胸を揉んでやった。

とても好きな匂いがする女で、セクハラ紛いのお触りを何度もする。

「濡れてんだろ」

「もう…、馬鹿……」

「正直に言え」

「ちょっと濡れてるかも……」

俺はその言葉で興奮し、自分の下半身を握らせた。

もはやキャバクラではないな、これじゃ……。

そこで店の従業員がさすがに注意しに来た。

悪いのはこちらなので、変に揉めず素直に大人しくする。

家に帰って寝て起き、財布の中身を確認すると何故かあと三万しかない……。

ゲ…、使い過ぎたかも……。

部屋に戻り、反省した。

パソコンのメールチェックをすると、以前どうでもいい三角関係に巻き込まれた一人の女からメールが届く。

 


まさか、先生のブログで、キチガイのニックネームを見るとは思いませんでしたよ。

だいぶ前の記事でしたけどね。

非常に気分を害されました。

しかもそのコメントに返信していて、更に驚きでしたよ。
牧田順子


 

「……」

しつこい女だ。

キチガイのニックネーム……。

おそらく花…、影原美優の事を文句言ってきているのだろう。

まだ弄ばれた古木英大に未練があるのか、もしくは恨みつらみがあるのか、未だにこのようなメールが来る。

しかも当事者ではない俺に、何故メールをする?

あれほどもう俺に関わるなと言ったのに。

俺が誰にコメントを返そうと、君には何の関係もないだろうが……。

いつもならやり過ごすが、こちらまで嫌な気分になってしまうので、俺はメールを返す事にした。

 


携帯電話は変えました。

何を指しているのか知らないけど、もういい加減そういう事言うの、やめたほうがいいですよ。

世間体的には俺は作家です。

自身の記事や作品に、コメントを返して何がいけないんですか?

それを見て気分を害すぐらいなら、始めからいつのだか知りませんが、見なきゃいいだけじゃないですか。

一番悪いのは古木英大であり、牧田さんも影原さんも、自分たちでしたいようにした訳なんですからね。

俺は過去、何度もこうしたほうがいいと、忠告やアドバイスをしました。

それをまだ引っ張り出して、このようなメールを送ってこられるのは正直迷惑です。

こうなったのって、俺のせいなんですか?

あの時、別れたほうがいいと始めから俺は言ったはずですが。

岩上智一郎


 

やりきれなさをこちらに言われても、手のうちようがないし、いい迷惑である

冷たいとは思いつつも、このように返事を返す事にした。

するとすぐに返事が返ってくる。

 


岩上さんも同じ穴のムジナですよ。

前にも言いましたけど。

海外で仕事するのはやめたようだし、私のメールに返信するんですから。

口は災いの元なので、先生や小説に対するコメントは差し控えます。

助言ありがとうございます。

それでは。

牧田順子


 

「……」

恩を仇で返されるとはこういう事か……。

性格の悪い女。

コイツらが勝手に三角関係で揉め、無関係の俺に対し、三人が三人共個々に言いたい事を聞いてきたくせに、何という言われようだろうか。

俺は食事をご馳走しながらも、そんな嫌な話を聞いていたのに、同じ穴のムジナ?

意味がまるで理解できない。

彼女には奢った事は数回ある。

居酒屋で相席になった時だって全部ご馳走してやったぐらいだ。

それに整体に患者で来ても、誕生日だというから料金を取った事もない。

ずいぶんと酷い言われようだな……。

感情的になり感謝も何もない人間なのだろう。

別にこのような人間に俺の作品など読んでもらいたくないし、感想なんてくれもしないくせに何を言いたいのだ?

影原美優のおっぱいを揉んだ事あるぞと書いてやるか。

いや…、そんな事を知られたら、烈火の如くまたしつこくなるだけだ。

 


同じ穴のムジナ?

心外ですね。

あなたがた三人の三角関係に俺は巻き込まれただけだし、時間も金も本当に無駄な使い方をしたなと感じます。

別に作品等のコメントなどしなくていいですし、何よりも、もう俺に連絡してくる行為すらやめて下さい。

非常に迷惑です。

岩上智一郎


 

過去、毎日のように恨みつらみのメールを送られ、あまりにも迷惑だったので着信拒否にしたが、今度はこうしてパソコンのアドレスへ来るのか。

仕方なく上記のメールを送った。

来週は俺の誕生日だっていうのに、こういう輩と関わり、これ以上嫌な目に遭うのは嫌だった。

運気が落ちる。

先日影原美優から、俺の誕生日を祝いたいと連絡があった。

いつも世話になっているから、せめてご馳走したいと。

まあこんな俺を祝いたいって言ってくれる子もいる。

なら、素直に人生を明るく楽しもうじゃないか。

昼になり、レストランシブヤへ行こうとすると、土曜定休なので近くのジンギスカン屋へ入る。

元町中華の呑龍の跡地に入った店。

 

街中華立門前通り呑龍 - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

2024/11/12tue中華料理呑龍後輩の『めし処のぶた』の叔父でもあり……多分一番多く行った店、呑龍川越にいた頃も横浜にいて地元へ帰った時も新宿いて地元帰った...

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呑龍はこの同じ立門前通りの蓮馨寺とは逆方向へ移転している。

低価格な店でメニューもそこそこ豊富だ。

ジンギスカンを頼むと、何度も鳴り出す新しい携帯電話。

ひと通り返事を返してから、タバコへ火をつけた。

メニューを眺めていると隣の席に建築系作業着を着た人が二人座る。

一人が自分の顔をジッと見ながら口を開く。

「あれ? 岩ヤンじゃん」

「おお、ひろったん。久しぶり~」

数年ぶりに再会した中学時代の同級生の鎌田弘邦。

彼とは中一、三と同じクラスだった。

再会を懐かしみ、色々な話をした。

現場が近くだったらしく、俺もそこまで話しながら一緒に歩き、気付けば三時間も一緒に話し込んでいた。

他の作業員の人に「岩ヤンは色々な事をやっているんだ」と自慢げに話してくれた同級生。

「ああ、前に駅のところで整体をやったっていう同級生の人?」

「そうそう。岩ヤンは探偵に整体に格闘技にプロレスに小説に…、あと何だっけ?」

そう言ってくれたひろったんの言葉を俺は嬉しく感じていた。

こんな落ち目の俺をそんな風に見てくれていたんだ……。

落ち込んでいる場合じゃねえな。

「今度は一緒に飲もうね」

電話番号を交換し、次の約束をし合う。

帰り道一人で歩いていると、妙にウキウキしている自分に気付く。

最近こんな風な感情になっていなかったなあ。

人間ちょっとした事で、いくらでも楽しめる。

そう思うとここ数日の自分の考えや行動を見つめ直してみた。

うん、やっぱ昔から俺を知っている人間と再会っていいものだ。

色々難しく、しかも嫌な方向へ考え過ぎていたかもしれないな。

暗くなるような環境に身を置き過ぎたのかもな……。

前のように明るく元気に俺らしく、また表へ出ればいいか。

少しだけ運気の流れが変わったのを実感する。

帰り道だけで三名の知り合いとすれ違い、笑顔で挨拶をした。

そんな事で相手も笑顔で話し掛けてくれる。

うん、やっぱ笑うっていいものだな。

来週の月曜日は笑った状態で三十九歳を迎えようじゃないか。

 

 


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