岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

著書:新宿クレッシェンド
とりあえず過去執筆した作品、未完成も含めてここへ残しておく

1 最終章

2019年08月03日 15時56分00秒 | 鬼畜道 各章&進化するストーカー女


鬼畜道 最終章

 

1 最終章 - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画等)

鬼畜道最終章目の前には親父が倒れている。前にも同じこのようなシーンを見た。お互いいい年をしてからの親子喧嘩。あれだけ鍛えてきて肉体だってまだまだ一般人離れしてい...

goo blog

 
 

2 最終章 - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画等)

俺は放心状態のようになり、親父を起こしていた。「けっ、このクズが!親に手など上げやがって!」「おまえが親?ふざけるなっ!」「よくもそんな台詞が言えたな?」「ああ...

goo blog

 
 

3 最終章 - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画等)

もう俺は年を取った。それでいいじゃないか。「龍さんが返事をすれば、一ヶ月後に会場を押さえ、興行になります。これってどれだけすごい事か分かりますか?」「……」俺の決...

goo blog





 目の前には親父が倒れている。前にも同じこのようなシーンを見た。
 お互いいい年をしてからの親子喧嘩。
 あれだけ鍛えてきて肉体だってまだまだ一般人離れしている俺とただ好きなように遊び呆けてきた親父。
 誰がどう見ても、どっちが勝つかなんて一目瞭然だろう。
 生まれてから様々な事を知り、あれだけ憎いと思った親父には、拳で一度も殴った事がない。殴ったらそのままこれまでの憎悪の勢いで殺してしまう。ずっとそう思っていた。
 倒れている親父の姿を見て、以前の事を思い出していた。
 もう三村もいない。戸籍上、籍だけ入っているが、それはあの女がその後の金の為だけに入れているだけ。自分だけは金をつかみ、長生きするつもりなのだろう。親父は実印まで管理され、自分自身で銀行の金をおろす事すらできないのだ。
 俺が南大塚の支店の土地の売買の話をまとめて登記などを済ませた金。四千万円の金を三村は親父と一緒に家の仕事で使ったような顔をしているが、結局三年間で残り四百万になっていた。

 その中で親父が使った金などたかが知れている。いくら毎日酒を飲むと言っても、金を遣うには限界がある。その辺は歌舞伎町時代、金をしこたま稼ぎ、散々毎日のように無駄遣いをしてきた俺は分かるのだ。キャバクラで毎日のように散財したって、毎日十万円の金などなかなか遣えるものではない。そんな事をしていたら、体のほうが先にパンクしてしまうだろう。俺のプロレス時代の師匠、誰もが知るヘラクレス大地さん。あの人はいつだって暴飲暴食だった。内臓疾患を現役時代に患い、一戦から退いてしまった。あんな化け物のような人でさえそうなのだ。一般人が酒を煽るという行為。そんなんで三年間で四千万円など消えやしまい。うまい具合に三村が何回かに分けて他に移したのだろう。
 俺が本腰を入れようと、三村の義理の息子の室田さんに確認したところ、ここ三年間の売り上げは、こんな不景気なご時勢なのにまるで落ちていない。おじいちゃんが一代で築き上げ、たくさんの職人さんたちに支えられ、一店舗一店舗と支店を増やしてきた努力の賜物だろう。なのでたった三年間で四千万という金がほぼなくなったという理由は、三村の使い込みとしか考えようがないのだ。
 天皇陛下から勲五等瑞宝章という勲章をもらったおじいちゃん。俺にとっての自慢の祖父である。そんなおじいちゃんの失敗は、二つ。一つは親父を甘やかし、世間に出すと何をされるか分からないと、いつだってフォローしてしまった事。もう一つはおばさんのユーちゃんを嫁に出してやらなかった事。
 いや、そんな事を思う資格など俺ら三兄弟にはない。だってお袋が家を出て行き、俺が小学校二年生。龍也は幼稚園の年長。一番下の弟の龍彦なんて幼稚園にすら行けない年だったのだ。そんな残された俺ら三兄弟を一生懸命育ててくれたユーちゃん。自分の婚期など気にする余裕などなかったのだろう。おじいちゃんは政治家たちの選挙会長に駆り出され、クリーニング組合名誉理事。そして交通安全協会の会長としても活躍。さらに商店街の会長として動かなきゃいけない立場だった為、俺ら三兄弟を直に面倒みるなんて、多忙過ぎて無理だったのだ。おばあちゃんは昔から病弱で、俺が知っているだけでも三回ぐらい入院生活を送っていた。親父は外で遊び呆け、お袋は好き勝手に出て行った。
 だからユーちゃんしかいなかったのだ。俺たちを育てられるのは……。
 自分の少ない給料から、毎週日曜日になるといつも俺たち三兄弟をファミリーレストランに連れていってくれた。「ハンバーグとクリームソーダがいい!」とはしゃぐ俺に、ユーちゃんはいつも「食べ物だけにしな。クリームソーダはお腹いっぱいにならないから」と寂しそうに言った。多分、飲み物まで出す余裕がなかったのだ。そんな心理まで考えられなかった俺は、ユーちゃんってケチだなって幼い頃ずっと思っていた。本当に馬鹿だった。ご飯のお代わりは好きなだけさせてくれた。成長期の俺たちに必要なものだけは無理をしてでも食べさせたかったのだろう。
 俺は十九歳の頃、そんなユーちゃんと口論になり、無意識の内殴ってしまい、アゴの骨を折ってしまった。何という馬鹿な事をしてしまったのだろうか? あの時、ユーちゃんはどんな想いで立ち上がり、膝をガクガクに揺らしながら俺に向かってきたのだろうか?
 俺は本当に業が深い。生きている事自体が罪なのだ。でも死ぬ事すらできない。自殺が偉いと思っている訳じゃない。どんなに苦しくたって生き抜く。それが一番死ぬよりも辛い事なのだ。
 動物という視野で考えると、親は絶対に子供に餌を与え、育てていく。しかし、年老いた親に餌を与える子供はいない。そんな事をするのは人間だけなのだ。何故、俺たちは人間として生まれ、年老いた親の面倒まで見ようとする習性があるのだろう? 周りを見渡せば本当に何年経っても仲良しの親子なんてたくさんいる。生まれた時から愛情というものを注ぐ親。それを未だ覚えている子供。だから仲良くいられるのかもしれない。
 では、俺の家はどうか? 愛情なんて注がれなかった。片方の親だけならまだいい。
 お袋は操り人形のように扱い、自分自身いっぱいいっぱいになると捨てていった。
 親父は愛情というものはあったかもしれないが、責任感というものが欠如していた。
 両親共にすべて自分自身だけの為に生きていた。
 そしてもう一人の戸籍上の母親になってしまった三村。いつの間にか籍を入れていて、それに気付くまで五年間。世界で一番嫌な女が、戸籍上とは言え、俺の母親になっていたのだ。
 想定した以上、本当に汚い女だった。おじいちゃんの家に住む俺やおばさんのユーちゃんを回り近所に「まったくパラサイトが二人もいて、それの面倒を見るようだから大変よ」と言いふらし回っていた。実際面倒など何一つ見てもらっていないが、三村はそういう事を平気で人に言いふらす。
 頭の中は金の事しかないくせに、綺麗事を言って妙に自分を取り繕っている。
 気付けば家に棲みついた物の怪。親父以外、誰一人も歓迎などしない。
 俺が高校時代に人妻三人で乗り込んできた事実。
 親父が逃げ回っているのに、家の近くで毎日ようにストーカー行為を繰り返していた事。
 大地師匠が亡くなったあと、俺が総合格闘技の試合前夜、家へ勝手に上がり込み、大騒動まで巻き起こした。
 長年働いてきた職人さんたちに、「新しい社長の言う事が利けなければ辞めればいいのよ。金を出せばいくらだって人は雇えるから」と言い放ち、たくさんの人が辞め、それぞれの人生を狂わせた。
 家業に入り込み、安定しているはずの店の金を徐々に抜いていった。
 そんな女を誰が歓迎するだろうか?
 三村自身は誰の前でも「私はお父さんに入れと頼まれた」と堂々と言っていた。俺の前でも誰の前でも同じ事を言い続けた。
 普段温厚なおじいちゃんが「私はそんな事はひと言も言った覚えがない」と強い口調で言っても、三村は「あーら、年を取るってやーねー、自分で言った事を忘れるなんて」と平気で惚けた。
 何度この女を殺したいと思った事だろう? 弟の龍也は血の気が多く、当時いつも突っ掛かっていった。そんな龍也に対し、三村は当たり前のような顔をして、家を電話を使って百十番した。
 親父より七歳も年上の物の怪。何故親父はあんな女に捕まってしまったのだろう?
 昔から近所の人々にちやほやされ、『広龍さん』と親しまれ、大勢の仲間の笑顔に囲まれて育った親父。俳優みたい。あんな人がお父さんだったら幸せ。そんな台詞を嫌というほど聞いて、俺は育った。
 家の中と外の違い。みんな、人間てものを見る目が何もないんだなと幼い頃から理解していた。でも近所の人々を責めるつもりはない。だって子供の養育費など何も気にせず、家から金を盗み、その金でみんなにご馳走を振舞っていたなんて、誰が分かるのか。もし俺が親父と他人だったら、本当にこの人はいい人だなんて思っていただろう。
 今、その答えが分かった。
 親父はずっと孤独で寂しかったのだ。自分でもどうしていいか分からず、無駄な事ばかりして、現実逃避していたのだ。
 子供からも親からも、そして妹であるユーちゃんからもいつだって白い目で見られ、家の中でずっと疎外感を覚えていたのかもしれない。
 あんな女とはいえ、常に親父の味方だけはしていた。それが嬉しかったんじゃないか?
 親父の人格や性格というものを知り尽くし、三村は自分の立てた計画に沿って、じわりじわりと家に入り込んだ。
 そして二千十年二月六日……。
 高校時代の亀田先生に招かれ、いつも世話になり、先生の奥さんの手料理をご馳走になっていた俺は、自分で料理を作っていくと約束した。前回といっても一年半近く前になるが、俺がご馳走を作って持っていくと、娘の真由香ちゃんは大喜びした。先生の奥さんの手をわずらわせたくなかった。だから今回も俺が作ろうと思ったのだ。
 前日からカレーを作り始める。明日の夕方には行くようなので、今から作り、煮込んでおいしいものを食べさせたかったのだ。
 本当は今執筆中の『鬼畜道 ~天使の羽を持つ子~』に専念したいが、約束は約束だ。俺は真由香ちゃんの喜ぶ顔が見たい。
 買い物から始まり、十品以上の料理を作ろうとカゴの中へ野菜や肉などを入れていく。ジャガイモの皮を剥くのは面倒で嫌だったけど、手間を掛けて作るから料理はうまくなる。ニンジンを刻み、バターを引いて炒める。弱火にしておき、俺はジャガイモの皮を剥いて適度な大きさに切っていく。次にタマネギを切り、飴色になるまで炒めてから味付けをする。ソーセージを縦に切り、一緒に炒め、インゲンも投入。ヨーグルトを入れ、トマトホルダーの缶詰を開けて中に入れ、固形のコンソメを溶かしてよく混ぜ合わせた。水の分量など気にせず鍋の三分の二ぐらいまで入れて、あとは強火でグツグツと煮込む。常にオタマで鍋の底をかき回すようにしていれば、強火でも焦げつく事はない。
 二時間ほどその状態でカレーを煮込んだ。水分が蒸発し、鍋の分量がいつの間にか減っている。また俺は水を付け足し、同じように手間を掛けて煮込む。
 四時間ほどそうした作業をして、カレーはいい感じの匂いを出す。
 弱火にしてそのまま煮込み続ける。その間、俺はフライパンに小麦粉を入れ、軽く炒め、バターをたっぷりと入れて溶かす。よく混ぜ合わせペースト状にしてから牛乳を少しずつ注いでいく。ホワイトソースを作ると、挽肉を練ってハンバーグを作った。
 アルミホイルに入れ、あとはオーブンで焼くだけ。ホワイトソースハンバーグの完成だ。
 俺は部屋から漫画本を数冊持ってきて、弱火でカレーを煮込みながら時間を潰した。
 そこへ親父が酔って帰ってくる。
「無駄な電気を使うな」
 そう言いながら火も消し、電気も消す。
「おい、おまえ、いい加減にしろよ? 毎日のように飲み歩き、帰っちゃ誰かに当たりやがってよ」
「偉そうな口を叩きやがって、何もできねえクズ野郎が」
 俺は本気で親父に変わってほしかった。だから以前、平手で何度も叩いたのだ。
 それでもまったく変わってくれなかった親父。
 自分の親に手を出すなんて、加減しても本当は嫌だった。だからいつも親父がユーちゃんを理不尽に殴っても、力づくで押さえつける事しかできなかったのだ。
 騒ぎを聞き、駆けつけたおじいちゃん。俺は簡単に事情を説明した。そしておじいちゃんは親父に対し、「いい加減にしろ、広龍っ!」と怒った。
 そんなおじいちゃんに対し、親父は倒れながらも蹴りを入れようとした。九十二歳のおじいちゃんにである。
 その瞬間何かが弾け、生まれて初めて俺は親父の横っ面を叩いていた。
 あまりに聞き分けのない親父を、この右の手の平で何度も叩いた。
「おじいちゃん、危ないから離れて。お願いだから」
 おじいちゃんは寂しそうな顔をして、自分の部屋へ戻った。
 心の底から「頼むからこの家から出て行ってくれ」と何度も叫んでいた。
「ああ、いつでも出て行ってやらー」と酒の勢いも手伝いそう応えた親父。
「じゃあ、紙に書けっ! おまえの言う事は何もあてにならない」
「いつだって同じ事を言ってやる。それより殺せ。殺してみろ!」
 ずっとこの繰り返しだった。どうして俺が親を殺せるのだろうか? いくら言っても分からない。どれだけの人間にこれまで迷惑を掛けてきたのか。それを分かってほしかったのだ。
 本気になって家のトラブルに首をつっ込んだ。
「兄貴はさ、いつだって自分の事だけじゃねえか。たまには家族の事を気に掛けろよ」
 歌舞伎町時代が終わりサラリーマンという普通の生き方をしようとする俺に、弟の龍也は言った。その言葉は心に突き刺さった。確かに俺は、ずっと目を背けていた。
「ほら、どうした、この出来損ないが! おまえなんぞ、何一つできないだろうが!」
 無言で親父の頬を平手でまた叩いた。拳で殴った訳じゃない。手の平でも加減をしている。それ以上強く叩く事など俺にはできなかった。
「おまえみたいなクズはな、いいか? 世間さまに笑われているぞ」
 とまる事のない親父の減らず口。
「お願いだから、もう家から出て行ってくれ……」
「おう、出て行ってやるって言ってんだろっ!」
 だから俺はおばさんのユーちゃんに電話を掛け、親父が言った言質を証拠にしたかった。
「あ、ユーちゃん? 今どこにいるの?」
「三階にいるよ。自分の部屋」
「今、ちょっと下に降りてきて」
「何で?」
「親父の馬鹿がさ、またどうしょうもないから、俺、今日は初めて引っ叩いたんだ。それで出て行ってくれって言ったら、『おう、出て行ってやらー』って。だから下に来て」
「嫌だよ…。私が行くと、お兄さんは私に絶対に当たるから」
「だからさ! もうそういう事じゃなくて!」
「龍也や龍彦に電話しなよ。私は行かないよ」
 そこで電話を切られてしまった。
「おい、キサマ! この役立たずが!」
 親父は俺が膝で抑えているので、地面に倒れたまま体を動かせない。そんな状態なのに、まだ怒鳴りつけている。
 龍也に電話をした。この状況の中、俺と親父の二人でいるのが本当に嫌だった。でも逃げ出せない。だから誰かに来て欲しかった。惨めに倒れ、俺に押さえつけられる親父を見て、「やめろ、兄貴」と言って欲しかったのかもしれない……。
「兄貴、どうしたの?」
 俺は事情を簡単に話し、すぐ来るように言った。
「無理だよ。今、お客さんが来ているし。落ち着いたら顔出すからさ」
 龍也は自分の仕事がそんなに大事なのか? 最近いつだって自分の仕事の事と金の事しか言わなくなった。そんなにベンツを乗り回すのが楽しいのか? 簡単に一億円稼げば家を変えられるなんて抜かしていた。金なんかじゃ、人間は変わらないのに……。
 その時、誰も本気で親父を変えようという家族がいない事に気がついた。



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 10 鬼畜道~天使の羽を持つ子... | トップ | 2 最終章 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

鬼畜道 各章&進化するストーカー女」カテゴリの最新記事