岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

著書:新宿クレッシェンド

自身の頭で考えず、何となく流れに沿って楽な方を選択すると、地獄を見ます

闇 186(トラウマ編)

2024年12月31日 08時16分07秒 | 闇シリーズ

2024/12/31 tue

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年末が近付く。

いきなり無職になった俺は、急いで仕事を見つけなければならない。

また派遣会社頼み。

早急に働ける場所。

金になればどこでもいい。

川上キカイでの突然の解雇は正直痛かった。

今日はクリスマスイブ。

百合子と別れた日でもある。

あの時が二千六年だから、もう四年も経つのか……。

以前群馬の先生のところへ行った時、嫌な話を聞いた。

百合子の娘、里穂の事だ。

俺と別れたあとの高校受験。

里穂に年上の彼氏ができたらしいが、妊娠が発覚して高校を中退し、その男と同棲。

十代にして里穂は子供を産んだようだ。

俺は当時何とかしたかったが、先生に止められる。

ステージを降りた人間。

そう諭された。

百合子と別れた事で、いくら懐いていたとはいえ、俺は里穂に対して何一つしてやれる事が無いのだ。

俺は派遣会社から連絡が来るまで、大人しく部屋で執筆の続きを開始した。

 


 

チンコ出した - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

チンコ出した2010年11月29日~「はぁ…、はぁ……」ヤバい。呼吸が荒くなってきた。「本田さん、小便行ってきていいすか?」「ああ、構わないよ...

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無事誰にもバレず、駅に到着する。

大きな駅なので、ドッと中にいる人たちが電車を降りた。

僕は人の列と一緒に階段を上り、駅を出る。

家までの帰り道を歩く中、何故僕はオチンチンをあのように出さないと駄目なのかを考えてみる事にした。

まず考えられるのは、僕の体は病気だという事。

ただの病気ではない。

奇病である。

普段の生活で何の支障もなかったのに、ある日いきなり呼吸ができなくなった。

何でそうなったのかは、まるで分からない。

この症状が突然出るようになって、もう一週間ほど経つ。

初めて呼吸が困難になった時は本当に驚いた。

部屋でくつろぎながらDVDを見ていたら、喉が詰まるような感覚に陥り、息を吐き出す事はできても吸い込む事はできなくなっていた。

必然的に酸素が吸えない訳だから、そりゃあ焦るさ。

僕だけでなく、誰がそうなっても焦るに決まっている。

意識して鼻や口から息を吸おうとしても、まったく吸い込めないのだ。

もう頭の中は大パニックになり、部屋の中を転げ回りだした。

床の上でのた打ち回っている時、ベルトの締め付けが苦しく感じ、すぐ外してズボンを脱ぐ。

その時一緒にパンツまで降ろしてしまい、僕は自分の部屋の中で下半身丸出し状態となっていた。

もし、こんな状態で死んでしまったら、みっともない死に方だなあ……。

そんな風に考えていたら、不思議と当たり前のように呼吸ができていた。

始めはまだ気付かなかったんだ。

こうすれば呼吸困難が治るって自覚したのは二度目から。

とにかくこの症状になると、僕はオチンチンを出せば治るのである。

ただ、安心はできない。

まだ一週間だというのに症状はあきらかに進んでいるからだ。

呼吸が苦しくなる兆候が、最初の内は一日一回だが、最近では一日二回は訪れる。

前なら普通にオチンチンを出せば治った。

でも今は違う。

背徳感と表現すればいいのだろうか?

何となく後ろめたいけど、それでいてドキドキするようなシチュエーションで出せば、落ち着くようになっていた。

もう自分の部屋でただオチンチンを出せば治るなんて、甘っちょろい問題じゃなくなっているのだ。

今日は二回も出したっけ。

一度目は会社の倉庫。

二度目は満員電車の中。

バレたら両方とも非常にマズい展開になるのは分かっている。

でも、そういった状況だからこそ、ドキドキとスリルもあった。

当分は会社内で隙を見て出せば、大丈夫だろう。

でも、それすら慣れてしまったら……。

本当にそんな事になったら、どうしよう?

神に祈りたい気分だ。

医者に行ったところで、誰がこの奇病を治せる?

「呼吸が急にできなくなって、でもオチンチンを出せば治るんですが、どうしたらいいでしょう?」なんて恥ずかしくて言えるはずがない。

それをもし言ったとしても、珍しい者扱いか精神病扱いされるのがオチだ。

こっちは自身の命が懸かっている。

でも第三者がこの状態を知ったら、大笑いするだけなんだろうな。

しょせん他人事に過ぎない。

何でまたこんな風になっちまったんだ……。

お願いだからこれ以上症状が悪化しないようにね。

僕は自分自身そう言い聞かせるように祈ってみる。

明日も会社か。

風呂入って早めに寝るとするか。

 

爽快な目覚め。

モチモチした頬に優しく照りつける朝日。

ママンの作ったブレックファーストを食べ、シナモンの香り漂うダージリンティーで喉を潤す。

「ほら、努。あなた、口の周りにクロワッサンの食べカスがたくさんついているわよ」

「そんな心配しなくたって大丈夫だよ、ママン。僕だっていつまでも子供じゃないんだからさ」

「そうは言ってもあなたは昔からおっちょこちょいだから、私は心配だわ」

「分かったよ~、うっさいなあ~」

口うるさいママン。

心配してくれているのは嬉しく思うが、もう僕は二十四歳の立派な大人なのだ。

だからありがた迷惑である。

「おい、努」

いつも寡黙なパパンが口を開く。

多分ロクでもない事を抜かすんだろうな。

「な~に、パパン?」

「せっかくママンがおまえの事を気遣って言っているのだ。その場で口を拭け」

「もう…、今から拭こうと思っていたんだよ」

僕の家は場末の定食屋さん。

パパンは捻りハチマキを頭に巻きっ放しにした人生負け組のような客共を相手に、毎日世話しなく様々な定食を作っている。

ママンは専業主婦なんだけど、最後の会計だけはちゃんとチェックしているので、本人曰く「私は会計士なのよ」と偉そうにしていた。

僕が十八歳の頃に比べれば、まだ現状のほうがマシか……。

あの頃は本当に毎日が地獄のようだった。

強引に小汚い定食屋の仕事を手伝わされ、それでいて給料はたったの十万円。

鬼のように僕を扱き使うパパンは底意地悪さ爆発だ。

一度地震が起きた時、パパンがタンスの下敷きになり、入院した時は良かった。

ママンがあらかじめ料理を作り、僕が店の経営者となってたくさんの大金を稼げたものである。

あの時ちゃんとお金を貯金しておけば、人生勝ち組の仲間入りできたものを。

欲望に弱い僕は『スナック 月の石』でいいようにボッタクラレ、見る見る内にお金は無くなってしまった。

パパンが復帰すると、再度地獄のような日々は再開される。

あれほどの大金を使いながら、未だ彼女無し。

一度も異性と付き合った事のない僕。

まさに駄目人間まっしぐらだった。

このままではいけない。

そう危険信号がどこからか聞こえ、僕は真面目に就職活動をして現在の会社に就職したわけである。

どんな嫌な思いをしても今の会社にしがみつき、骨を埋めるつもりだ。

家の定食屋なんぞ絶対に継ぐものか。

給料だって二・五倍ももらえているんだから。

そろそろ準備しないといけないな。

今日も僕の部下であるアルバイトの柳田が張り切って仕事に来るのだ。

席を立つと、僕は颯爽と自分の部屋に向かう。

ドアを開ける前にオチンチンを出しておいた。

何故ならこれは例の兆候予防になるからである。

朝の通勤電車の中で出すわけにはいかないしね。

すぐ後ろの居間のドアが開けば、僕はオチンチン丸出し状態なのを両親に知られてしまう。

そんなドキドキ感が、全身に行き渡ると部屋へ滑り込み、着替えをおっぱじめた。

予防接種、とりあえず完了っと。

 

今日はお昼休みまで、なかなか順調な滑り出し。

呼吸が困難にならないのは、今朝の予防接種が聞いているのだろう。

このまま前もってオチンチンを出しておけば、この先ずっと快適に過ごせるんじゃないかな。

「本田さん。自分、ヤニ吸いに行ってきますね」

アルバイトの柳田が重そうな腰を上げ、立ちあがる。

「ああ、行ってらっしゃい」

ヤニなど言わず、素直にタバコと言えばいいのに捻くれた男だ。

どっちみち彼がタバコを吸いに行けば、倉庫内は僕一人。

バンバン行っちゃって下さいな。

時計の針は十二時半を回っている。

そろそろ二階から従業員たちがタバコを吸いに、下へ降りてくる時間だ。

うちの会社は、喫煙する場所が所定の位置に定められている。

僕はそんな不健康なものなど、まず吸わないので関係ないが。

あんな煙を体の中に入れるだけて、一箱四百円以上もするのにみんなよく吸うよ。

ほとんど末路は肺ガンになって、哀れな終わり方をするんだろうな。

わざわざ金を出してまで不健康になろうとする神経を疑ってしまう。

まあ、どうでもいいさ。

僕の体じゃないしね。

それよりも、そろそろ出してみるか。

すぐ近くの自動ドアが開き、二階で働く前園さんが降りてきた。

こっちを見て僕の存在に気付くと軽く会釈をして、喫煙所へ向かう。

その後ろ姿を眺めつつ、彼がナノマシン工場を曲がる手前で、僕はチャックを降ろしオチンチンを出してみた。

今、前園さんが後ろを振り向いたら、僕はきっと変態扱いされるだろう。

筋金入りのホモでもない限り、また振り返るなんてないけどね。

強めの風が吹き、僕のオチンチンは爽快感を覚える。

ああ、会社の昼休み中だというのに、僕はこんな場所でオチンチンを出してしまっているんだ。

「……っ!」

その時工場の角から髪の毛のようなものが、視界に映った。

慌てて僕は回れ右をして後ろを振り向く。

まさか誰か来るなんて……。

「はうっ!」

おっちょこちょいの僕は、先っちょの皮をジッパーで挟んでしまったようだ。

あまりの痛さにその場でうずくまる。

「本田さん、どうしたんですか?」

「……」

背後から女性の声が聞こえた。

ひょっとして会社の従業員すべてのマドンナ的存在である田西あけみか?

こんなタイミングで何故こっちに……。

「大丈夫ですか? 本田さん」

座ったまま首だけ後ろへ向ける。

やっぱり田西あけみだ。

「あ、田西さん…、どうも」

「突然しゃがみ込むから、ビックリしましたよ。どうしたんです?」

「急にお腹が痛くなっちゃって」

咄嗟に出た嘘。

嘘も方便って言うけど、オチンチンの皮を挟んで痛がっているなんて、とてもじゃないが絶対に言えない。

「私、事務所の医療箱から薬持ってきますね。ちょっと待ってて下さい」

それだけ言うと、田西あけみは駆け足で来た方向へ戻ろうとした。

「あ、田西さん…、別に大丈夫だから」

「だってとても具合悪そうですよ? お薬飲んで、ちょっと休んだほうがいいですよ」

心優しい彼女は綺麗な外見と同じく心優しい性格まで備えている。

オチンチンをチャックで挟んだだけの僕に対し、真剣に心配してくれているのだ。

だが、この状況では迷惑以外何ものでもない。

「いえ、ちょっとこうしていれば、すぐ良くなりますよ。気にしないでいいですから」

頼むから向こうへ早く行ってくれ。

こっちは早くオチンチンをしまいたいんだから。

「気になりますよ……」

「え……」

今、彼女は何て言ったんだ?

僕の事が気になる?

そう確かに言ったよな。

「私…、前から本田さんの事が気になっていました……」

顔を真っ赤にしながら、か細い声で話す彼女。

「……」

突然の告白に対し、どう対応していいのか分からず、黙ったままだった。

人生初の異性からの告白。

心臓を五寸釘で強烈に打ち込まれたような衝撃が、全身に広がる。

田西あけみ。

現在二十二歳。

女としてほどよく育ったおいしい時期でもある。

このたわわに実った果実を僕がいただいちゃっていいのだろうか?

いいに決まっている。

ギンギンにたぎり出す下半身。

大きくなったせいか先っちょがヒリヒリするけど、そんなこたぁ~、どうだっていい。

今、この倉庫内には僕と田西あけみしかいないのだ。

覚悟して彼女はここへ来た。

いや、僕に会う為にここへ来た。

なら、その勇気に受け応えてやらねば。

「た、田西さん……」

そう立ち上がった瞬間だった。

「い、いやぁ~~~~~~~~~~~っ!」

田西あけみは叫び声を発しながら両手で目を覆い、その場から走り去る。

「ゲッ!」

しまった……。

オチンチンを出したままじゃん……。

 

昼休みの間、僕はずっと頭を抱えながら椅子に座っていた。

何しろ大きくなったオチンチン丸出しのままの姿を、マドンナ的存在の田西あけみに見られてしまったのだから。

どうしよう?

これってかなりヤバいんじゃないの。

もし、彼女が「本田さんが昼休み、倉庫の中でモロ出ししていました」なんて支店長に伝えてみろ。

「キサマ、とんでもない奴だな」と、その場でクビを言い渡されてしまうかもしれない。

「あれ、本田さん。どうかしたんすか?」

アルバイトの柳田が喫煙を終えて戻ってきたようだ。

頭を抱えた僕を見て、不思議そうな表情をしている。

よくよく思い返せば、こいつが僕一人を残してタバコなど吸いに行くから、予防接種でオチンチンを出そうと思ったのだ。

そう考えると憎しみすら沸いてくる。

「何でもないよっ!」

「な、何を怒ってんすか、本田さん……」

「あ、ゴメン…。何でもないんだ……」

完全な八つ当たりだった。

こんなアルバイト風情に当たったところで、何一つ生まれるものなどありはしない。

僕は冷蔵庫から三ツ矢サイダーを取り出すと、一気に飲み干したあと、ハチミツのビンを取り、指先ですくって一舐めした。

うん、やっぱ男はハチミツだよなあ。

口の中がトロけそうな感覚がいっぱいに広がり、先ほどまでギスギスしていた神経が徐々に落ち着いていく。

待てよ…、いくら精神が落ち着いたからって、窮地な事には変わりない。

田西あけみがどのような行動をするかで、僕の今後は暗雲に立たされてしまう。

はあ~、何であの時オチンチン丸出しで、立ち上がってしまったのだろうか……。

過去を振り返ってもそう。

女というものは本来魔物であり、関わるとロクな目に遭わない。

いつだって男は女次第で、どうにでもなってしまう悲しい生物なのだ。

でもせっかく彼女が勇気を振り絞って愛の告白をしてくれたのに。

初彼女ができる大チャンスだったのだ。

それを僕は、オチンチンを見せてオジャンにさせてしまった。

自分自身のドシさ加減にうんざりする。

「そういえば明日は派遣で一人、助っ人を呼ぶんですよね?」

「ん? ああ、そうだね。明日は入航予定がビッシリで、品物がたくさん入ってくるからさ。本当なら何人いても問題ないんだよね。だけど、うちの会社ってかなりケチでしょ?」

「そうっすねえ。俺の時給が上がる気配なんて、全然ありませんからね」

「……」

この男、まだ入って一週間のアルバイトのくせに何を抜かしているのだ?

どの業界でも一週間で時間給がアップするなんてあるはずねえじゃん。

この、お馬鹿め。

「どの派遣会社から人が来るんです?」

「『T・M・F』だよ……」

「え、あの会社っすか……」

T・M・F、略して、トモダチ・モット・フヤソウというふざけた社名の派遣会社である。

名前だけでなく、来る人間もいい加減で使えない奴が多い。

先日T・M・Fから来た、宮城という男はとんでもない男だった。

まだ若いくせに、非常に何故か臭いのである。

今風のサーファーみたいな髪型をして、耳にピアスなどつけているくせに、体臭が妙に臭いのだ。

しかもそれでいて、非常に仕事が遅い。

要は臭いだけで、まったく使えない男なのである。

あれだと作業に支障が出てしまう為、僕はT・M・Fに「もう、宮城は来させないでくれ」と連絡をしたほどだった。

「まあ、、明日はマシな人材が来る事を祈るよ」

「そうっすね。じゃあ、俺も祈ろうっと」

「そんな事よりも昼休み終わったよ。さ、仕事仕事」

柳田を急かしながらも田西あけみの動向がとても気になり、仕事に集中できそうもなかった。

 

仕事を終え、書類を提出しに事務所へ向かう。

階段を一歩上がる度、僕の心臓の鼓動は比例するように早くなる。

これから事務員の田西あけみと顔を合わせるようなのだ。

心境は、これから死刑台へ向かう囚人のような気持ちだった。

ほんと何でオチンチンなんか出したままで、立ち上がろうとしたのかなあ……。

いくら後悔しても、もう遅い。

一度見せたものは取り消せないのだ。

そういえば今日一日、呼吸困難に陥っていないぞ?

これって前もってオチンチンを出したから、予防接種が効いているのかもしれないな。

待てよ…、今この場でオチンチンを出したら、いい感じでさらなる予防接種になるのではないだろうか?

ちょっと上がれば目の前には事務所。

たくさんの人間がいる。

もちろん出入りだって多い。

そんなところでモロ出しするなんて、かなりヤバめなシチュエーションだ。

おいおい、どうするよ……。

出す?

出しちゃう?

ヤバヤバっしょ。

どうよ?

いっちゃう?

でもなあ……。

もう想像しただけで、何とも言えない背徳感が全身に伝わってくるほどだ。

これは「モロ出しチョンパー」って、出しちゃうしかないんじゃないの。

いつの間にか荒くなっていた呼吸に気付き、ゆっくりと息を吸い込む。

よし、冷静になってきたぞ。

ここは落ち着け。

落ち着きつつ、そっと右手をチャックへ持っていく。

ジッパーをつまみ、本当に少しずつ降ろしていった。

「ふう……」

チャックを降ろすだけで、こんなにも緊張するなんて久しい。

やっぱ最高のシチュエーションかもしれないね。

さて、ここから本番だ。

ここまではまだいい。

もし誰か出てきても、チャックを開けたドジな男として笑って済まされる。

だが、オチンチンを出した状態で見られてみろ。

人生終わってしまうぐらいマズいよ。

手早く出して、素早くしまう。

この戦法しか通用しないだろうな。

僕はズボンの中へ右手をつっ込み、パンツの間からオチンチンをつかんで外へ引っ張り出す。

「ほわぁ~」

思わず声に出てしまうほどの快感。

一昔前、映画『セーラー服と機関銃』のヒロイン薬師丸ひろ子が最後のシーンで銃をぶっ放したあと、「かい…、かん……」なんて言っていたけど、今なら彼女の気持ちがよく分かる。

甘美でトロけそうな至福の時。

いくら広いこの世の中でも、会社の事務所の前でオチンチンを出して黄昏る男など、どこにいる?

今、僕は世界でたった一人の貴重な男になったのだ……。

あまりの快感にゆったり目を細め、しばらくその空気に浸る。

「い…、いや~~~~~~~~~~っ」

「え?」

慌てて目を開けると階段の上で、田西あけみが両手で口を押さえながら叫んでいた。

おいおい、いつの間に君はそんなところに出てきてしまったんだい、セニョリータ……。

気付くと僕は、階段を一気に駆け降りて逃げ出していた。

 

一人倉庫の中でポツンと佇む僕。

もう定時を過ぎているのでアルバイトの柳田は帰っている。

取り返しのつかない失態。

今日だけで二回も田西あけみに見られてしまった。

まさかあんな大声を上げるなんて……。

あのあとたくさんの人間が彼女の元へ駆け寄り「あけみちゃん、どうしたんだ?」なんて聞いてくるんだろうな。

田西あけみにいいところを見せようと、そんな機会を虎視眈々と狙って奴らは多い。

叫び声なんて聞いてしまったら、誰だって行っちゃうよ。

「はあ~……」

もうため息しか出ない。

間違いなく会社はクビになるだろうな。

何せ、オチンチンを事務員の前で二回も出してしまったのだから。

せっかくここで二年も頑張って、今の地位を築いてきたというのに……。

それが呼吸困難という奇病のせいで、一気にパー。

何でこんな因果な奇病になっちゃったんだろう。

いや、それよりも現状をどうするか考えなきゃ。

ここへ佇んでいたって、何の解決にもならない。

どうせクビになるのなら、いっその事黙ってこのまま帰ってしまおうか?

うん、それがいいに決まっている。

でも、明日から無職か~……。

二十四歳にして、人生再出発するようになるなんてな。

パパンとママンに辞める事を伝えたら、大変な事になってしまうだろう。

何しろうちのパパンは、僕にあの小汚い定食屋を継がせたくて溜まらないのだ。

ママンもきっとそうに違いない。

きっとパパンは僕に跡を継がせ、自分は隠居生活に入って楽をしたいんだ。

僕が茄子味噌定食を作ったり、焼肉定食を作ったりするのを目の前で見て、下品な笑いをしながらビールを飲みたいのだろう。

パパンの悪友でもあり、昔からの腐れ縁である友達の竹花さんと一緒に。

「おい、努。おまえさんの味付けは、まだまだワシの領域に達しとらんわい」

そんな風に偉そうな面をして、毎日のように僕は小馬鹿にされる。

冗談じゃない。

嫌だよ、そんな日々を送るなんて……。

じゃあ、どうするんだよ?

また一から就職活動?

何度様々な会社へ面接に行っても駄目だしされ、人格破壊を起こしそうになったあの苦節をまた味わうようになるのか?

運良くこの不況時に新しい仕事が決まったとする。

しかし、大抵の仕事は自分の周りに他の人間がたくさんいるだろう。

そんな状況で呼吸困難に陥ったら……。

「……」

お先真っ暗だ。

今僕がいる『株式会社 パオパオ機械』は自分にとって、とても都合のいい職場環境だったのだ。

ほどよく回りに誰もいない環境ができ、オチンチンを出せた。

そんな都合いい職場なんて、他にあるのかよ!

無い…、そんなんあるわけ無いよ。

もういい。

ヤケクソだ。

最後なんだから、ここでまたオチンチンを出しておこう。

きっと二十年ぐらい経てば、青春のいい思い出に変わってくれるさ。

僕はまたチャックを開け、オチンチンを開放した。

会社内で今日一日、三回も出す。

朝出掛ける前に出したのを合わせたら四回目だ。

ちょっとこれは出し過ぎなんじゃないのか?

いいんだ、別に。

クビになるんだよ、クビに。

だからいいじゃん。

「ほ、本田さん……」

「えっ!」

振り向くとそこには事務員の田西あけみが、いつの間にか立っていた。

 

穴があったら入りたい。

顔から火が出る。

そんな言葉がピッタリくる。

会社の中で三回もオチンチンを出した僕。

それを三回とも目撃してしまった田西あけみ。

ああ、何てこったい、セニョリータ……。

何故ゆえに君はそんな場所にいたんだい?

そのタイミング現れるなんて、あり得なさ過ぎじゃないの?

心の中でいくらそう叫んでも、目の前にいる彼女には届かない。

「本田さん……」

「……」

いくらそう話し掛けたって、何て返事を返せばいいやら。

「本田さんって、変態だったの?」

「ち、違いますよっ!」

とりあえず否定をしたが、誰がどう見ても変態に見られるだろうな。

「だって……」

「だって何ですか?」

さり気なくオチンチンをしまいながら、僕は強気に言ってみる。

これが精一杯の強がりだった。

「何で会社の中で、そんな行為をしているんですか?」

「え…、いや…、あの……」

出さないと呼吸困難に陥ってしまうと説明したところで、信じちゃくれないだろうな。

「今日だけで三回も私は見ているんですよ? 何故そんな事を?」

「……」

「何故黙っているんですか?」

「も、もう…、会社のみんなには……」

「私、言ってません」

「へっ?」

「驚いて大きな声を出してしまい、たくさんの人が『どうした?』って来ましたが、本田さんの事はまだ何も言っていません」


 

「……」

二千十年も、もうじき終わろうとしている。

クリスマスイブに、俺は何でこんな変な小説を書いているのだろうか?

ちょっとヤバくないか?

だいたいチンコを出す主人公の話なんて、誰が読む?

変な設定に変な主人公。

必然的に『パパンとママン』の努になってしまい、続編みたいなものを書いている。

いいのか、これで……。

この手の話なら頭を空っぽにして、いくらだって書けるよ。

たださ、こんな需要がまったく無さそうな作品を書いてどうする?

 

新宿コンチェルト01 - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

2010年11月23日~原稿用紙?枚『新宿コンチェルト』クレッシェンド第7弾、2010年11月23日より執筆開始過去から逃げちゃいけない業を背負ってまで、俺はま...

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『新宿コンチェルト』の続きは?

「……」

子供をおろしてしまった俺。

もうあれから五年の月日が流れた。

風俗店『ガールズコレクション』のクソ味噌な経緯も踏まえ、西武鉄道とのいざこざ。

そして散々傷をつけてしまった百合子とのやり取り……。

テーマが重過ぎた。

 

01 とれいん - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

とれいん執筆期間2004年12月12日~2004年2月5日352枚今日の仕事を済ませ、帰り支度を済ませる。家に帰って飯を喰い風呂に入れば、あとは寝るだけだ。川越と新宿を毎日の...

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『とれいん』で西武新宿駅との事は書けた。

しかしあの時の地獄絵図のような心境を再びまた思い出して、俺は書かなきゃいけない。

『新宿コンチェルト』を起動する。

小説『とれいん』をさらに史実へ近付け、内容も肉付けしていく作業。

そして百合子との子供をおろすシーン。

當間の馬鹿さ加減に、有木園の阿呆さ加減。

すべて書くんだろ?

愛和病院の百合子を待つあの時の心境。

俺は影原美優まで、あの病院へ連れて行った。

あのあとの妙な関係。

強引に影原美優をあそこで抱いていたら、もっと今とは違った形になっていたんじゃないのか?

変に女に対し、臆病になっている自分がいる。

挙句の果てに格好悪い状況でフラれ、もう影原美優は近くにいない。

支離滅裂だ。

俺はおかしくなっている。

続きを書けよ。

史実として残したいんだろ?

子供をおろした。

自然と目から涙が溢れた。

取り返しのつかない愚かな行為。

「ごめんね…、ほんとごめんね……」

俺は嗚咽を漏らしながら一人静かに泣いた。

感情を吐き出したあと、またテーブルへ向かう。

キーボードを叩く。

「う……」

突然の吐き気。

俺は口を押さえながらトイレへ駆け込み、便器に顔を突っ込んでげーげー吐いた。

 

闇 187(高校生の救世主編) - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

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