岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

著書:新宿クレッシェンド

自身の頭で考えず、何となく流れに沿って楽な方を選択すると、地獄を見ます

闇 188(佐川急便編)

2025年01月01日 08時34分37秒 | 闇シリーズ

2025/01/01 wed

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「何だ、こりゃ?」

思わず出る声。

千円はする俺の『新宿クレッシェンド』。

それが一円で売られている……。

作者である俺が未だ印税もらっていないのに、これっておかしいだろ?

苛立ちが増す。

ミクシィで記事を書いてみる事にした。

 


やいやいAmazonこの野郎! 俺の長男の『新宿クレッシェンド』が可哀相過ぎるだろうが……!

まずはみなさん、順を追って説明しましょう……。

俺の出版社の悪口の記事じゃありませんからね。

何かね、こんなどうでもいい記事を作るのに、全部で二時間半ほど掛かってしまいましたよ……。

耳を澄ませると「ドナドナドーナドーナ……」って聴こえてきませんか?

 

1 新宿クレッシェンド - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

2004/01/18執筆開始新宿クレッシェンド-岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)※購入したい人はここをクリック処女作新宿系小説新宿クレッシェンド2004/01/18~2004/...

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一応さ…、『新宿クレッシェンド』は駄作かもしれないけど、俺が初めて小説を書こうと思って書いた作品なんだ。

いわば俺にとって長男みたいなもん。

当時はこれを十八日間で頑張って書いたんだ……。

しかもパソコンやり始めだったから、人差し指でこの文章を全部打ったんだよ?

一生懸命文字を探してさあ……。

完成したら自分で本を作ってみようとインク代一ヶ月で十一万も掛けてさ……。

当時大好きだった女の子に、手作りの本をプレゼントしたら、向こうから会いませんか?って。

でもね、ちょうどその時石原の馬鹿が新宿歌舞伎町浄化作戦なんぞ始めやがって、俺の統括する店がいきなりパクられて、俺はデートをすっぽかす形に……。

ええ、彼女の為にピアノを弾き始め、小説も書き始め、そしてフラれましたよ。

だいたいね……。

これを発売した出版社!

「新宿クレッシェンド『も』よろしくお願いします」の『も』って何だ?

上のURL見れば分かるけど、未だどう見ても、俺の本だけ扱いが変だぞ!

それに……。

グランプリ当時(二千七年八月三一日)、出版社がHPに晒したもの。

だいたいね、俺の作品が三名、あとの作品は一名ずつでしょ?

何でそれで二時間も話し合うのか分からない……。

それに馳星周や大沢在昌と比較している時点で、この作品を分かっていない……。

彼らはあくまでも『歌舞伎町』を舞台に書いているファンタジー作家でしょ?

(※俺がこのあと怒り狂い、「おまえらが選んだくせに、文章が荒く未熟って何だ! 作文の域を出ていないってどういう意味だ? そんな台詞を載せて何の意味があるんだ!」とその部分は消させました)

本当にこの会社、俺の事嫌いな選考委員が複数人いるんだよな。

ストーリテーリングの才があるとかは、残しときゃいいもんをよ、ケッ。

まあ表紙の件とか色々揉めて問題あったんすよ。

 

【新宿クレッシェンド】当時表紙で出版社と揉めた話 - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

2024/05/01wed2008年に発売された私の処女作新宿クレッシェンド2004年1月に執筆した作品だから、あれからもう20年以上経ったのか実は本にする前に自分でこうやって扉絵描い...

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ゲッ、一度記事をアップしたあと、こんな事を調べていてさらに二時間も使っている……。

え、そんな事よりギネスに近づくよう努力しろ?

ふん、たまには生き抜きも必要なのだ。

まあぶっちゃけ、ここまでは二年前の話だからいいんだよ、もう。

そして今日気づいた事……。

さらに追い討ちを掛けるように今…、Amazonめ……。

■出品者: 本棚お助け隊★二点目より百円キャッシュバック!

一円

三百四十円(配送料)



この野郎……。

俺の本を一円なんかで売りやがって……。

何が二点目より百円キャッシュバックじゃ。

これを二冊買ったら、二円から百円キャッシュバックで九十八円(この計算でいいのか?)。

九十八?円と送料三百四十円で、おまえらも損、俺も印税入らない。

運送屋しか儲かってないじゃねえかよ……。

 

■出品者: book-station(年中無休)【高価買取実施中】

一円

三百四十円(配送料)

 

何がブックステーションだ!

本の駅だからって、一円の値段なんぞつけくさって……。

出版社と作者の利益をおまえら、毟り取っているだけじゃねえか!

 

■出品者: book-station(年中無休)【高価買取実施中】

一円

三百四十円(配送料)

 

またおまえら、ブックステーションか?

また人の本を一円なんぞで出しやがって……。

殴り込みかけるぞ?

 

■出品者: kobebooksalon

四十九円

三百四十円(配送料)

う~ん、上の連中よりは偉いけどさ……。

四十九円って、どうやってそんな数字を思いついたんだ、おら!

 

■出品者: kona(同時注文で二点目以降送料百円引)

五十円

三百四十円(配送料)

 

この野郎……。

缶ジュースより安いじゃねえか!

だいたい粉って名前は何だよ?

『粉雪』でもカラオケ行って唄ってやがれ!

 

■出品者: 茶々文庫

四百円

三百四十円(配送料)

 

唯一、配送料よりも高い値段表示……。

ホッ……って違うだろ?

何で俺はこれで納得しようとしているんだ……。

だいたい作者が印税もらってないのに、人の本で利益を得るとは何事だ!

人の本で利益を生んでんじゃねえ。

こんな制度作りやがって……。

アマゾンのバーカ!

チクショウ!

子供を目に入れても痛くないお母さん方の気持ちがちょっと分かりましたよ。

これ見て、一円で買った人が俺のところに来て「サインちょうだい」って言っても、無視するからな、ふん!

『世界で一番泣きたい小説グランプリ』?

ふん、今は世界で一番長い小説を書くのだ!

もうアマゾン、俺の本が出ても安売りさせるなよな。


 

本当に俺の本が、一円で売られているなんて悔しい……。

配送料って一律三百四十円なのか。

これ、本当に運送業者しか儲かっていないじゃん。

この出品者たち、馬鹿なの?

疲れた、寝よう。

目を覚ますと夜になっていた。

あ、櫻井さんから飲まないかと誘いのメールが来ている。

クリスマスに野郎同士飲む……。

まあいいんじゃないか。

俺は支度を済ませ、櫻井商店へ向かった。

 

櫻井商店へ到着すると、松永さんの姿が見える。

この人も、知子と婚約解消してから本当に何もする事がなく暇なんだなと思う。

この店を覗くと二回に一度は松永さんを見掛けるので、俺の考え過ぎではないだろう。

「おう、智一郎! おまえも早く座って飲め」

川越の土産 川越お土産 川越 小江戸川越 川越お土産なら櫻井商店

自分の家でもないのに、もはや櫻井商店を私物化している松永さん。

クリスマスの夜に、男三人で飲み会……。

櫻井さんは結婚して子供も三人いるから問題ない。

問題なのは俺と松永さんだ。

「松永さん……」

「ん、どうした? 智一郎」

「入学金は用意できたんですか?」

「テメー、ふざけんじゃねえぞ! 何で抱いてもない女の子供の入学金を俺が用意しなきゃいけねえんだよ!」

松永さんは、とてもいじり甲斐のある偉大な先輩である。

俺は櫻井さんにアマゾンの話をしてみた。

商売柄、宅急便なども精通している櫻井さん。

「智一郎、アマゾンのは配送料で業者は儲けているんだよ」

「配送料で儲ける?」

「佐川急便やクロネコヤマト宅急便とかってさ、メール便っていうのがあるのね。一個五十円。だから配送料三百四十円だとしたら、二百九十円が業者の儲けになっている仕組みなんだよ」

「それってインチキに近くないですか?」

「まあ、智一郎…。世の中ってのは、そういうもんなんだよ」

タバコを吸いながら松永さんが口を挟んでくる。

「松永さんは、早く入学金を用意すればいいんですよ」

「何だと、テメー! 何で俺があんな女の為に、入学金なんか用意しなきゃいけねえんだよ!」

「下心丸出しで、家に連れ込んでやろうとしたからですよ」

「やってねえって言ってんだろ! 真理子の野郎……」

「松永さん……」

「何だよ?」

「真理子は女なので、あの野郎って言い方は適していません」

「うっせーぞ、この野郎!」

本当に松永さんは愛すべきキャラクターである。

 

たった五十円で配送をする運搬業者。

俺はどんな仕組みなのか、とても気になった。

櫻井さんって本当色々な事を知っているよな。

派遣会社へ電話をして、佐川急便かクロネコヤマト宅急便などで仕事はないか聞いてみる。

「ありますよ。但し、深夜の時間帯になってしまうんですよね。佐川急便でさいたま営業所なら、明日の夜からでも働けますよ」

深夜か…、まったく問題ない。

そもそも裏稼業時代ゲーム屋『ワールドワン』ではずっと遅番だったのだ。

むしろ朝早いよりは、夜中働いている方が合っている。

俺は即決して働く事を決めた。

さいたま営業所とか言っていたが、大宮辺りなのだろうか?

俺はインターネットで調べてみる。

電車だと埼京線の日進駅から、徒歩二十数分。

夜なら車で行けばいいか。

家からなら、国道十六号を真っ直ぐ行って、右に行けばすぐだから十五分程度で済む。

しかし本当に肌寒くなったなあ。

二千十年十二月二十六日。

俺の新しい職場、佐川急便での生活がこれから始まる。

夜九時を過ぎ、車で家を出た。

家の目の前の川越日高線。

これを真っ直ぐ大宮方面へ向けて走れば、必然的に国道十六号になる。

ひたすら真っ直ぐ進む。

途中、左手には全日本プロレスを目指していた頃毎日走って折り返し地点にしていた伊佐沼がある。

よくここの広場でストレッチをして、腕立て伏せなどの鍛錬をしたものだ。

約二十年前の話になるのか……。

感慨深げに車で通り過ぎる。

少し進むと、右手に愛和病院も見えてきた。

「……」

俺はここで百合子との子供をおろし、また影原美優をも連れてきた。

心の中でひたすら謝罪をする。

しばらく走り続けると、荒川が流れる橋の上を運転した。

その先にはゴルフ練習場が見えてくる。

この辺を走るのは随分と久しぶりだ。

平子のスリーエスカンパニーの時以来。

まだ俺が十九歳から二十歳に掛けていた職場。

社長の平子は、どうしょうももないクソみたいな男だったなあ。

当時六十万もしたワープロを俺にローンで買わせられ、家の車を仕事で当たり前のように使う事を指示。

給料日になると「岩上君は金持ちだからなー」と知り合いの店へ連れて行かれ、本当に当時十九歳の俺に会計を払わせた。

政治家の中野清、英幸親子のくらづくり本舗。

最中が評判の川越人気和菓子・お取り寄せスイーツくらづくり本舗!お土産に喜ばれる老舗・埼玉県川越菓匠くらづくり本舗ネット通販・販売サイト

あそこにもラジオナックファイブの営業と称して「あそこなら岩上君のおじいさんの顔利くから、スポンサーになってくれるでしょ」と俺を強引に連れて行こうとした。

さすがに断ると「岩上君、コネなんてものは最大に生かさないと駄目だよ」と涼しい顔をしながら言った屑。

四日間事務所で缶詰め状態の徹夜など、本当に扱き使われ、またうまく利用されてしまったよな。

まだ若かった俺は本当に馬鹿だった。

いや、それは三十九歳になった今でも同じだ。

無職で車を走らせていても、こんな風な思い出しか出てこない。

若い分だけ昔のほうがまだマシか……。

宮前インターチェンジの大型十字路に差し掛かる。

国道十七号と交差する場所。

右側へ行きたいが、左から大きく円を描くようにカーブをして行く形になる。

曲がって少しして佐川急便さいたま営業所はあった。

もう敷地内の道路なのだろうか。

俺は左折してそのまま進む。

手前にはお客様専用駐車場があり、俺はさらに奥へ進んだ。

右手に大きな駐車場が見える。

そこへ車を停めて、当たりの様子を伺う。

仕事は十時から。

時計を見ると、まだ九時三十分にもなっていない。

家からここまで二十数分で着くのか。

タバコに火をつけ、窓を少し開けた。

 

俺が早く着き過ぎたのか、ほとんど駐車場には人がいなかった。

ここが俺にとって新しい職場になる。

先には大きな佐川急便の建物と、トラックが十数台見えた。

建物から横にズラッと並ぶ荷物受け渡し場所。

仕事内容は必然的に荷物を降ろしたり積んだりするのだろう。

何台かの車が駐車場へ入って来る。

確か派遣会社は松崎というメガネを掛けた細身の男に詳しく聞けと言っていた。

俺は車を出ると近くの人間に「松崎さんって方はいらっしゃいますか?」と尋ねる。

「あ? 知らねえよ」

ぶっきらぼうに答える男。

イラッとするが抑える。

ここは仕事場なのだ。

プライベートなら「何だ、その口の利き方は?」で殴っておしまいでも、今感情を出すとまた無職になるだけ。

佐川急便…、癖の強い人間が多いのだろう。

俺はメガネを掛けた細身の男を探す。

車が五十台は停められるスペースの駐車場である。

自力で松崎を探すには中々骨が折れた。

時計は九時四十五分。

そろそろ何とかしないとマズいな。

駐車場内には三十台以上の車が止まり、薄暗いので誰が誰だか分かりづらい。

ん、メガネを掛けた細身の男がいるぞ。

俺は近付き「すみません、松崎さんですか?」と声を掛けてみた。

「ん? はい、松崎ですが」

「今日からこちらでお世話になる岩上です」

「ん-、ちょっと待っててね」

松崎はポケットから折りたたんだ紙を取り出し、名前をチェックしている。

「あー、はいはい。岩上さんね。車で来たの?」

「ええ、あそこに停めています」

「ちょっと書類に名前書いてもらいたいから、岩上さんの車の中へ入れてもらっていい?」

「どうぞ」

二人で車内へ入る。

名前、住所、連絡先などを記入する紙。

こんな簡単に働けるのか、ここは……。

相当な数の人の出入りがありそうだ。

松崎を先頭に同じ派遣会社の人間で、職場へ向かう。

…といっても俺たちは五名しかいない。

プレハブの中で作業着に着替え、朝礼に並ぶ。

メガネを掛けた七三分けの男が怒鳴るように何かを言っている。

ここの長だろう。

プロレスラーの高木三四郎に少し似ているな。

高木三四郎とは少しだけ関わりがあった。

リングの上ではなく、新宿歌舞伎町。

俺がゲーム屋『ワールドワン』で働いている頃、よく高木三四郎の団体『DDT』の連中が客で毎日のように来た。

インディ団体である『DDT』のレスラーを俺が何故知ったかというと、当時一緒に働いていた島村が「岩上さん、あいつらインディのレスラーっすよ」と教えてくれたからだ。

百八十センチある俺から見て、高木は百七十程度しか身長がない。

他の取り巻きはさらに酷く、ガリガリな奴までいた。

こんなんでプロレスなんてできるのかと驚いたほどだ。

みんな金が無く、ゲーム屋業界用語でいうケンチャンの集まり。

俺は金をガジりに毎日来る『DDT』の連中を一人、見せしめに出入禁止にした事があった。

それだけ店側からしたら、疎ましい客だった訳である。

「おい、そこの! ちゃんと話を聞いてんのかよ!」

高木三四郎似の岸本が怒鳴りつけてくる。

とりあえず謝ってやり過ごしたが、随分と乱暴な口の利き方をする奴だ。

 

さいたま営業所では、ここ数年で大宮、浦和、与野が合併したさいたま市の荷物の仕分けを行う。

区は全部五つあるが、荷物の住所を見て、北区、西区、大宮区、中央区、浦和区、見沼区と六つの区分けをする。

トラックから荷物を降ろし、ベルトコンベアーへ乗せる前に、北区ならマジックで一と書き、西区で二と数字で振り分けられるようにした。

「おい、そこの! おろし場行って」

身体つきを見て、俺はトラックの荷台の後ろへ回される。

「中からどんどん荷物来るから、目の前のベルトコンベアーに流していって」

佐川急便では様々なものが運搬される。

洋服やら何かの機械が四方を木の板で固定され、サランラップでグルグル巻きにされたもの。

これ、重さ二百キロ以上あるんじゃないのって変なものまである。

「テメー、何をやってんだよ、松崎!」

岸本の怒声が飛ぶ。

俺の隣でおろし場をしていた松崎が、ヒョロイ身体で荷物をベルトコンベアーに乗せていたが、大勢を崩し落ちそうになっていた。

慌てて俺は救いの手を差し伸べる。

「オメーは何をやってんだよ! 早く積荷降ろせって!」

本当ここの連中は口の利き方を知らない奴が多い。

俺はイラッとしながら荷物を毟り取った。

一つのトラックが終わると、待機している次のトラックが来る。

休憩と言ったらその合間程度で、体力の無い人間はかなり辛い仕事だろう。

しかしこれはこれで、結構いい運動になるし身体も自然と温まる。

自分的には面白いなと感じた。

「はーい、そこの! おまえら休憩」

二十分程度の一服休憩を言い渡される。

俺を含め、五名。

こうやって順次休憩を回していくのだろう。

先ほど着替えたプレハブまで戻り、タバコを吸うなりドリンクを飲むなりして自由に身体を休めた。

松崎はハアハア言いながらバテているようで、部屋の隅で体育座りをしている。

深夜なのに何十名の作業員がここへいるのだろうか。

置いてある自動販売機の数も六台はある。

パンやお菓子の自動販売機まであった。

「岩上さんでいいですか?」

まだ二十代前半の若い男が声を掛けて来る。

名前を中野といい、同じ派遣会社のようでまだ大学生らしい。

「他の人と岩上さん、全然違うじゃないですか」

「違うと言うと?」

「みんなヒーヒー言いながらやっているのに、岩上さんだけ重いものでも普通にひょいと持ち上げて、軽々やってますし。何かやっていたんですか?」

ここでまた全日本プロレスにいたとか、総合格闘技へ出たとか言うと、面倒な事になりそうなので適当に答えておく。

「はい、そろそろ休憩終わりだよ。戻るよ」

松崎が肩を叩いてくる。

「岩上さん、僕地元帰るようなんで年明けになってからまたここへ働きに来ますけど、それまで絶対に辞めないで下さいよ」

大学生の中野に妙な懐かれ方をされるが、どこへ行っても人間関係は大切だ。

歩きながらおろし場へ向かった。

 

「お、いたいた! おーい、力持ち。こっちのトラック来てよ」

トラックの運転手がこちらへ声を掛けて来る。

誰に言っているのか知らないが、マイペースで歩いていると「おい、そこのだよ! 早くこっち来てって」と俺に話していたようだ。

「そうそう、ここへトラックつけるから、降ろすの頼むよ」

「はい」

おそらく運転手からしてみれば、とっとと積荷を軽くして早く帰りたいのだ。

松崎のようなヒョロイ降ろし手よりも、断然力のある俺のほうが早い。

だからわざわざ指名をしてくるのだろう。

それにしても力持ちって言い方は無いんじゃないか……。

まあそれでも歓迎をされている証拠なのか。

これまで鍛えてきた俺の肉体は、他の作業員と一線を画していたようだ。

トラックを一台空にすると、また別の運転手から「おーい、力持ち。こっちも頼むよ」と初日から変に目立ってしまう。

佐川急便初日で分かった事。

力は正義。

気性が荒い人間が多いが、力はそれを凌駕するという点だった。

俺からすれば簡単にできる事が、他の人間はそうできない。

例えば百キロ程度の荷物などゴロゴロ来る。

それをヒョイと持ち上げられるかどうかで、仕事のスピードは断然変わってくる。

重宝されるのも悪くない気分だが、こうしてまた仕事をしながら身体を鍛えられる環境は自分に向いていた。

粗方荷物を捌くと、次はメール便。

封筒みたいな小さなものから、本程度のものまで一斉にベルトコンベアーから流れて来る。

扱い方はかなり酷い。

リーダーの岸本が、小さな小包を手に取り「ジジー、テメーのは仕事って言わねえんだよ!」と初老の男に投げつけるのを見て、嫌な気分になった。

仕事上で上司と部下の関係は確かにある。

しかし自分より明らかな年配の人へ向かっての暴挙は、礼節を欠き過ぎる。

しかも客の荷物をそのままぶつけているのだ。

人間関係というよりも、この岸本みたいな人間性の奴にリーダーを任せている佐川急便自体に問題があるような気がした。

 

一日が終わる。

肉体労働な仕事であるが、この真冬の寒空の中汗を流せる環境は思ったよりも心地が良い。

帰り道車を運転しながらひたすら真っ直ぐ進む。

日の出が昇る瞬間を眺めながらの運転は、心にちょっとした平安をもたらす。

佐川急便に年末年始など無いに等しい。

まだ始めて金の無い俺にとって、それはとてもありがたい事だった。

同じような事を毎日繰り返しながら、二千十年を終える。

正月期間は荷物が少ないらしく、出勤希望者だけの勤務になるようだ。

自身のこれまでの経歴を一切隠した上での勤務。

みな、俺の力を見た人間は同じように驚く。

一度百キロ以上の荷物を力を入れ持ち上げた時だった。

ズボンのベルトが力み過ぎて切れる。

みんな、ベルトが切れるなんて、一体どんな力を使ったのだと目を丸くしていた。

さすがにズボンがずり落ちてしまうような体勢では仕事にならない。

岸本はそれを見て休憩をくれ、深夜でもベルトを売っているような店を車で徘徊する。

翌日から俺は、予備のベルトをもう一本用意するようになった。

「岩上さん、ちょっとこっち来て」

おろし場である程度の荷物を降ろし終えた俺に、岸本が声を掛けてくる。

ベルトコンベアーの先にある荷物仕分け場。

ここでは一や六といった各区別から、さらに住所を見て流れてくる荷物を仕分ける仕事のようだ。

「岩上さん、今日からこっちで仕事して。そこの二番目に入って。手前に山口さんってメガネ掛けた人いるから、その人から仕事の説明を受けてね」

それだけ言うと、岸本はおろし場へ行ってしまう。

見沼区二と書かれた俺の場所。

手前の見沼区一には、先ほど紹介された山口がいる。

俺を見ると彼は笑顔で近付き、挨拶をしてきた。

「どうもー、山口です。はじめまして」

とても好感度の高い人だ。

佐川急便に来て初めてちゃんと挨拶をできる人間を見た気がする。

彼はここでの仕事の説明を丁重に教えてくれた。

ベルトコンベアーから流れてくる荷物の住所を見て、うちらの荷物見沼区は六なので、それをまず確認。

同じ見沼区でも中川や南中丸、大和田、堀崎町といった住所でさらに仕分けをしていく。

マジックで書かれた六をチェックして、次に住所を見る。

自分の担当荷物をベルトコンベアーから外してスペースに積み重ねていく作業。

おろし場はトラックの荷物を延々とベルトコンベアーに流せばいいが、こちらは住所を見て区別するようなのでより大変な業務内容だった。

酷かった荷物で、長さ五メートルくらいの木箱に入ったノコギリのようなものがある。

油断するとベルトコンベアーを外れ、積んである荷物へ突っ込む為、周りから「大物来るぞー!」と声を掛け合う。

またそれが俺の担当エリアの荷物で、その長物を引っ張り込むようだった。

変に長くて妙に重いので、体重を掛けてコンベアーから引きずり下ろす。

何でこんなものを宅急便で送ってんだよと愚痴を言うが、多い時で六回くらい来る事もある。

こんな事をしながら二千十一年を迎えた。

 

帰り道に見える朝焼けの富士山。

これは密かな俺の楽しみでもあった。

川越からこんな風に奇麗に見えるなんて、中々の感動がある。

俺は家に帰り、この目で見た富士山の景色を絵で描いてみた。

描き終えたこの絵を『富士山の絵』と名付ける。

待てよ……。

この絵に雪を降らせたらもっといい感じになるんじゃないか?

ダイヤモンドダストなんて聖闘士星矢でくらいしか見た事はないが、頭の中で想像しながら雪景色を加えてみた。

俺は『雪景色の富士山の絵』と名付ける。

しかし、こんなもの誰も見る人なんていないだろう。

たまにはこの絵もアップして、ミクシィで記事を書くか。

 


二千十一年一月十四日。

これまで様々な感情を記事に書き、様々な人間を呆れさせ、失望させ、混乱させてきた。

今日まで至った経緯…、それまでの様々な事を体験し、またそれらに対して色々な捉え方をしてきたつもりだった。

こうしたらいい。

ああしたらいい。

理想では分かっていながらも、自己にあるプライド、そして感情が常に邪魔をしていたという現実。

それらを統括しまとめてみると、今年の…、いや今後のテーマが見えてきた。

まず、すべての物事、出来事に対し、飲み込むという事。

感情的になったり、不平不満を感じても、すべて己の中で飲み込む。

感情というものは、時間と共に次第に劣化していくもの。

ならば行くつく果ては無心。

最後に残った信念…、それを大切に育んでいきたいと思う。

すべての感情は作品へ。

これを持って、今年最後の日記としたい。

※出来事等の記事はアップするケースはあるかと思いますのでご了承下さいませ。

みなさん、遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

岩上智一郎より


 

俺は一体これで最後とかミクシィを辞めるとか、何度似たような行動をしているのだろうか?

また変に格好つけた文章を書いているが、頭が悪いからしょうがない。

今は無心に佐川急便で働き、日々の生活をこなしていくだけ。

そういえば最近小説を書けていないな……。

肌寒い中、同じような事をこなしながら日にちだけが過ぎていく。

ある日、仕事を終え家に戻ると、居間からキンキン声が聞こえてくる。

加藤皐月の声……。

俺は玄関に立ったまま、聞き耳を立てる。

「もういい加減にしてくれ!」

珍しくおじいちゃんの大きな声が聞こえた。

「お父さん! 智さんは一生懸命頑張っているじゃないですか! その援助をしないで親と言えるのですか? 余生短いのにお金をあの世まで持って行ける訳じゃないんですよ」

またあの守銭奴が、おじいちゃんへ金の無心をしているのか。

この女はいつだって自分の都合のみでしか動かない。

他人の迷惑など、これっぽっちも考えていないのだ。

だから朝の四時でも平気でおじいちゃんの部屋へ行き、枕元に立ち自分の主張だけをひたすら繰り返す。

これでおじいちゃんも根が折れ、親父に社長の座を譲る羽目になったのだ。

だから俺は新宿でなく、川越で岩上整体をあの時開業した。

いつだっておじいちゃんの元へ駆けつけられるように。

コイツがいると、おじいちゃんの寿命が縮む……。

俺は居間へ入って行く。

「おい、おじいちゃんに何をしてんだよ?」

「あら、智ちゃん。あなたには関係の無い話だから向こうへ行ってちょうだい」

「ふざけんなっ! 俺はおじいちゃんの孫だ。テメーなんぞに何で指図されなきゃいけねえんだよ」

俺が凄むと、加藤皐月は家の電話から受話器を取り「何よ? 暴力沙汰になるなら警察へ電話するわよ?」とキンキン声を出す。

「部外者が何を人の家の電話勝手に使おうとしてんだよ、おい!」

加藤は百十番を指で押した。

俺は受話器を引っ手繰り叩きつける。

加藤の襟首を掴むと「出ていけ、このクソ女が」と玄関まで引きずり、外へ放り投げた。

何かギャーギャー喚いていたが、構わずドアを閉め鍵を掛ける。

「おじいちゃん大丈夫? またあの女が金金言ってきたの?」

「本当に智の奴も、あんなのを家にいれやがって……」

おじいちゃんは疲労困憊だった。

これ以上あいつがまた何かしたら、俺はこの手で殺してしまうかもしれない。

もし法とかそんなものなければ、今私は一人の人間を殺したいほどの殺意に包まれている。

落ち着けって……。

そんな事をしたら、おじいちゃんにまず迷惑が掛かってしまう。

冷静になれ。

またこのような事があれば、俺は守ればいい。

でも、決して見失わないつもり、自身の信念は……。

 

闇 189(古物商の新宿支社編) - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

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