岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

著書:新宿クレッシェンド

小説、各記事にしても、生涯懸けても読み切れないくらいの量があるように作っていきます

8(真・進化するストーカー女編)

2019年08月01日 16時58分00秒 | 鬼畜道 各章&進化するストーカー女

 

 

7(真・進化するストーカー女編) - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

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 友香へ早速電話を掛ける。
 すぐに出る肉の塊。メチャクチャ泣きじゃくっていた。
 ここまでは想定通りだ。
「ごめんよ。おまえがさ、無茶言うから冷たい事を言ってしまってさ」
「だってー…、だって、龍一がー……」
 気安く人の名前を呼ぶんじゃないよと言ってやりたかったが、俺は優しい声を出すように努める。
「もういいから、落ち着いて。一週間後こっちに来るんだろ?」
「うん……」
「ならさ、そんなに泣く必要なんてないじゃん」
「うん……」
「ね、そろそろ泣くのはやめてさ」
「龍一……」
「何だい?」
「あ、愛じてるって言って……」
 何が『愛じてる』だ…。濁って発音してんじゃねえよ、ボケ。
「あのね、この間会った時さ、一つ言い忘れていた事があるんだ」
「な~に……」
「それは簡単な言葉じゃないし、直接言うものだと俺は思っている。口で何度も言葉だけを囁いても、そこに魂なんてない。そうだろう?」
「で、でも言っでほじい……」
 だからいちいち言葉を濁らせるなよ、いくら泣いているからってさ……。

「友香の気持ちは分かるよ。もちろんね。でもさ、電話で言うような言葉じゃないだろ?」
「わ、わだじはそれでも言っでほじい……」
 厄介な女だな、こいつ。そんな言質なんて取られたくないしなあ。どうしよ……。
「じゃあ、言うよ。言うけど、一つ条件がある」
 うん、俺って結構頭が冴えてるじゃん。
「な~に~?」
「おまえの望む言葉は今言える」
「うん、言っで」
 だから濁らせるなっちゅうの……。
「その代わり、一週間後は会えない」
「何で?」
「だって言葉の重みを理解してくれないんでしょ?」
「してるっ!」
「じゃあさ、会った時まで楽しみにできないかな?」
「……」
「できない?」
「……。分かっだ……」
 だから濁らせ…、もう別にいいか。気にするな。
「じゃあ一週間後、楽しみにしているからさ」
「うん……」
「羽田に着く時間が分かったら、メールくれ。迎えに行くからさ」
「ありがどう……」
 セクションワン、無事に終了……。

 悪魔的発想を閃いてから一週間が過ぎた。
 俺は従業員の山羽に無理を言って休みを代わってもらう。何故ならば、今日これからあの肉の塊の友香が関東の地へ上陸するからである。
 彼女の潜伏期間は二日間。たったそれだけの為に上陸したのだ。もうちょっとで夏休みだってあったろうに……。
 まあ俺にとっては期間など短いほうがいい。一週間ぐらいのスパンで来られたら、大変なところだった。
 そんな事を考えてながら電車に乗って、羽田空港へ向かう俺。
 あれ以来、友香のメールアドレスと電話番号の拒否は解除していた。
《只今無事到着しました。待合室で待ってるね。 友香》
 とうとう来たか……。
 まだ俺はモノレールに乗っているぞ。
 肉を切らせるかどうかは、すべて俺の手腕に掛かっている。
《まだモノレールだから、もうちょいそっちに着くまで掛かる。 神威龍一》
 落ち着いて行けよ。ここからが本当の正念場なのだ。メールを友香へ送ると、俺は携帯電話の設定をいじる。
 顔も分からぬのっぺらぼうの文江。彼女は未だ着信拒否をしているのに、変わらず毎日のようにCメールを送ってくる。はなっからステージにさえ上がっていないのに、自称売れないアイドルが脱いで注目を浴びるようなものだ。ちょっと違うか。
 ならば思う存分メールでも何でもさせてやるよ。だから役に立てよ?
 俺は文江の電話番号とメールアドレスの拒否を元に戻した。そしておまけに、いや、これが本当の悪魔的思想な訳であるが、文江にもメールを打った。
《文江、長い間すまなかったな。とりあえずまた連絡取れるようにしておいた。仕事で忙しいから返信とかはすぐにできないけど、その辺は了承して下さい。 神威龍一》
 これは羽田空港へ到着してから送信する事にしよう。
 もし、このメールが届けば文江は興奮して、すぐにでも電話を掛けてくるだろう。だからバーブレーション設定にして、絶対に着信音は出さないようにしておく必要がある。
 友香とはどうせ今日で最後なのだ。これで終わりにできるなら、川越プリンスホテルでも何でも一緒に行ってやるよ。
 俺が寝た時に、鳴る携帯電話……。
 嫉妬深い友香の事だ。絶対に電話を確認するに違いない。頼むから巻いた餌に引っ掛かってくれよ? 俺がこうした頭脳プレイに走るなんて、よほどの事なんだぜ。
 文江から届く無数のメール。そして着信履歴。考えただけでも、もの凄い数が来るはずだ。
 それを見た友香はどうなるか。
 おそらくそこで初めて、俺に愛想を尽かす事だろう。
 かなり酷い事をしようとしているのは、百も承知だ。でも、やっぱり自分が一番可愛い。自分が助かるには、これしか方法がないような気がした。
 名づけてセクションツー、『肉も切らせず、骨を切る』作戦。
 次の駅で羽田空港か……。
 セクションツー…、もうちょっとで始動開始。
 今年の夏は、妙に寒く感じる。

 ゆっくりとモノレールのドアが開く。俺は通路を歩きながら、文江に対して打ったメールをよく確認してから送信ボタンを押した。
 これまでのメールや、着信履歴はすべて削除する。まあどうせ、すぐに満タンになるだろうけど。
 何はともあれ、セクションツー、無事に終了……。
 友香にはもの凄い心の傷をつける事になるだろう。罪悪感? ふん、そんなものを感じて自分の身が守れるか! もう一度自分に言い聞かせた。俺は自分が一番可愛い……。
 指定された登場口へゆっくり大地を踏みしめながら歩く。怯えるな。堂々と歩けばいい。俺は悪くない。いつまでも諦めてくれない友香がいけないのだ。
 こんな俺を非難する連中など、山ほどいるだろう。でも自分が一番大切だ。あまりうるさく言ってくる奴には、「じゃあ、おまえは肉の塊とセックスできるのか?」と問い詰めたい。小一時間ぐらい問い詰めてやりたい。
 いや、こんな事、誰にだって言える訳がない。俺はかなりの鬼畜だ。
 ん、早速携帯電話が震えているな? 確認しなくても文江からだというのが分かる。その調子で、ジャンジャンバリバリとお願いしますよ……。
 できれば留守電なんか入れてくれたら最高だな。泣き叫ぶようなものを。
 待合室が見える。たくさんの座席があり、大きなモニターが置いてあった。
「うっ……」
 いた……。
 デカいから、すぐに見つけられた。おいおい、何だか前よりも大きくなってんじゃないか? 思わず逃げ出したい衝動に駆られる。駄目だ、ここで逃げちゃいけない。
 まあいい…。今日でどうせすべて終わるのだから……。
 友香は大きなモニターの画面をボーっと眺めている。俺に気付く様子はない。
 ちょっと一服してくるか……。
 ここまで来るだけで、相当な精神力を消費していた。本番はこれからなのだ。
 タバコに火をつけて、ゆっくりと煙を吐きながら、常に視線だけは友香の姿を確認できるようにしておく。
 少なくても俺は今日一日ほど、あれと一緒にいなくてはいけないのだ。
 待てよ……。
 ホテルで俺が寝ている時なんて思っていたけど、それってかなり危険な行為じゃないのか? 襲われる可能性は大だ。前回で身を持って知ったはずじゃないのか……。
 どうしよう……。
 本当にどうしよう……。
 想像しただけで、泣きそうだった。
 考えよう。何かいい方法はないか?
 あの女が正気でいられないようにする方法は……。
「よしっ!」
 閃いたぞ。今日の俺は妙に頭が回る。
 酒だ。酒をしこたま飲ませてしまえばいい。この際、同じベッドに寝るぐらいはしょうがないだろう。犯されるよりはいい。
 では、あいつをどうやって飲ませるようにするか?
 簡単だ。これまでの人生が味方してくれている。浅草ビューホテル時代に培ったバーテンダーとしての腕。川越プリンスホテルへ向かう途中で、いくらだって材料を買える機会はあるはず。いや、はずとかじゃなくて、そうしないと駄目だ。
 絶対に買わないといけないもの……。
 まずはシェイカー。そしてカクテルグラス。これは最低三つぐらいは必要だ。急ピッチでガンガン飲ませる為にも、そのぐらいないと話にならないだろう。あとは見掛けを美しく見えるようスノースタイルのカクテルも作るようだから、平らなお皿も三枚。それとグラニュー糖、そして塩。砂糖や塩の粒を細かくするのは、シェイカーのフタの背を使って皿の上で、すり潰せばいいや。あとはグレナデンシロップとブルーキュラソー。あとはベースの酒としてジンにウォッカ。混成酒は…、そうだな。アプリコットブランデーとコアントロー、シャルトリューズイエローも必要だな。これは浅草ビューホテルのオリジナルカクテルである『浅草寺』を作るのに不可欠だ。あとはレモンを買っておけばある程度のものは作れる。あ、あと百円ショップで果物ナイフとまな板も必要だ。
 最後に俺用の酒としてグレンリベット十二年とショットグラス。
 氷はホテルのエレベーター横に、製氷機が設置してあったよな。これはブランド女と川越プリンスに泊まり、浮気がバレる前に、酒を飲む為取りに行った事があるのだ。
 結構痛い出費だが、肉に包まれるよりはマシだ。金には代えられないものがある。
 俺が目の前でカクテルを作れば、友香は喜んでガンガン飲むだろう。飲み口がとても良く、その代わり度数は鬼のように強いものを抜粋して作ればイチコロさ……。
『浅草寺』のレシピ。正式名称は『夕暮れの浅草寺』と呼ばれるぐらい黄金色の綺麗なオリジナルカクテルで、客にも人気があった。
 ウォッカを三分の二。そしてアプリコットブランデーを三分の一。シェイクしてグラスに注いだあと、シャルトリューズイエローをツーダッシュ入れて完成だ。そうか、ビターボトルも買わないといけないな。
 そんなもの家に帰ればあるのに、まさか家の近所の周りをあの友香となんて絶対に歩けない。もし、知り合いにでも見られてみろ。いや、本川越駅から歩いて五分の間に、絶対に知り合いに会ってしまうだろう。どんな噂を立てられるか分からない。
 ええい、ここに来て金などケチるな。残った酒やグラスなどは、家でまた使えばいいじゃん。いや、友香が使ったグラスだけは、川越プリンスホテルの部屋に捨てていこう……。
 まあ俺もしっかりとカクテルを勉強した分、身についた知識だ。こういう時にこそ真価を発揮しないでいつする。バーテンダー時代を思い出し、エレガントに振舞おうではないか。すべては酔わせる為だけに……。

 周囲の視線がすべて俺に振り注ぐような感覚。俺の被害妄想か? いや、違うよ。だって横にビックマウンテンがいるんだもの。みんな、それは自然と目で追ってしまうだろう。
 できるだけ周りを見ず、黙々とひたすら前に進む。東京って本当に人が多いなあ。嫌なところだ……。
「ちょっとー、龍一……」
 足をとめて振り返る。
「何だよ?」
「歩くの早過ぎ~」
「悪いな。いつもこのペースなんだ」
「もうちょっと私のペースに合わせてよ~。これからの人生だって長いんだしさ」
 ぶっ殺すぞ、このアマッ! おい、怒るな。いちいち気にするな。必死に言い聞かせ、自分の感情を押し殺した。
 周囲の人々が俺たちの会話に聞き耳を立てて、クスクスと笑っているような気さえしてくる。気のせいだって。とりあえず落ち着こうよ? ここには知り合いなんていない。
『聞くは一瞬の恥。聞かぬは一生の恥』という言葉だってあるじゃん。今の状況を例えるならさ、『今は一瞬の恥。怒れば生涯の恥』になるだけなんだからさ……。
「東京って本当にすごい人混みだよね~」
「ああ、そうだね……」
「本当に都会って感じ~」
 いちいち語尾を延ばして可愛い子ぶるなよ、こいつ……。
 あー、周りの人たちはどんな目で俺たちを見ているのだろう? だから気にするなって。
 極度のストレスが体中に回っているような気がした。
 本当に永かったこの道のりも今日でフィニッシュ。その為にあえて煮え湯を飲もうよ。
 おじいちゃん、おばあちゃん、そしておばさんのユーちゃん…。ここまで俺を育ててくれて、本当にありがとう。明日から俺は、本当に幸せに生きるよう最善を尽くします。
 ちょっとはさ、汚れちゃったかもしれない。でもさ、家がクリーニング屋だから何とか大丈夫だよね? ドライクリーニングすれば、綺麗になれるよね?
 落ち着けって!
 これ以上、精神を暴走させるなよ……。
 横目でチラッと友香を見る。相変わらず、あんた、すげえ肉体だよ……。
「あ、私の顔が見たくなったの?」
「……」
 歩きながら大きく息を吸い込んで、大きくゆっくりと吐き出す。大きな肉の山が、何かほざいただけの話だろ? 山びこだよ、きっと。うん、そうやってゆとりを持とうよ。
 それにしても羽田空港からモノレールに乗るまでって、こんなに長く歩くようだったっけ? うん、長く歩くようだったじゃないか。
 まだ先は長いよ? だってモノレールで浜松町の駅まで行ったら、もっとすごい人混みの中を掻い潜り、新宿駅に向かうんだから。そこで歌舞伎町にある『リカーショップ信濃屋』へ寄って酒類をひと通り買い、絶対に西武新宿線は使えないから、また山手線で池袋駅へ。いや、荷物もあるし、この際タクシーに乗って池袋まで行こう。そのほうが知り合いに会う機会もぐんと減るだろうしね。池袋からは東武東上線に乗って、できれば急行に乗りたいな。それで川越駅からタクシーで川越プリンスホテルまで行けばベストだ。
 外に食事へ行きたいなんて言われたら困っちゃうし、途中で食料もしこたま買っておいたほうがいいよな。本川越駅のすぐそばに、『松屋』があるから、あそこで牛丼の特盛りを三つか四つ与えれば満足するかな? いや、牛焼肉定食でも、ハンバーグ定食でも、とにかく好きなものを電車に乗ったら聞いておくか……。
 いや、地元ではホテルについたら、即、中に入ろう。下手に知り合いにでも見られたら、どうするつもりだ。
「おいおい、龍一の奴、すっごいのと歩いていたぜ」
 そんな噂を流されたら、俺は一生、川越に住めない。
 地元愛はこれでも人一倍強いつもりだ。二日間で百万人以上が集まる川越祭りは、毎年休みを取って必ず参加するし、食べ歩いて見つけた素敵なお店も大切にしている。
 太麺のおいしい焼きそばの店だって知っているし、ミートソースの素敵な『ジミードーナッツ』だってある。確かお袋に連れられ幼稚園の時に行ったのが最初だ。
 富士見中学の近くにある『ラーメン屋 栄昌軒』の唐揚げ定食も捨てがたいし、『トーゴー』の味噌焼きチキンもまだまだ食べたい。
『餃子のいづみ食堂』の餃子だってあるし、『フレンチ料理 ビストロオカダ』のロールキャベツだってある。同じ並びの『とんかつ 早川』は後輩の店だし、あそこの味噌トンカツは絶品だ。
 まだまだあるぞ。『ラーメン 十八番』の特製醤油ラーメンは関東で一番うまいラーメンだ。
『呑龍』のしょうが焼き定食もあるし、幼少の頃初めてクリームソーダを飲んだ『喫茶店 ポケットマネー』のビビンバチャーハンもそうだ。
 酢豚が絶妙の『レストラン シブヤ』。
 本川越駅前にある『中華 王賛』の茄子の味噌炒め定食も絶品だ。
『シマノコーヒー大正館』のサイフォン仕立てのコーヒーも飲みたい。
 第一小学校の前にある『駄菓子のみどり屋』の太麺焼きそばもある。
 昔の遊び場だった連繋寺のだんご屋『名代焼き まつやま』さんの醤油だんごは病みつきになるうまさ。
 もうやめよう…。食い物の話になると、俺はいくらだってあるんだ。

 何故あそこまで体を鍛え上げ、強さを目指したのか?
 今日のこの為じゃない事だけは確かだが、これだけ重いものを持っても、まるでへっちゃらな力は本当に役に立っている。
 数本の酒のボトルやグラスなどが入ったビニール袋を両手にぶら下げながら、タクシーへと向かう。
「龍一…、私もちょっとは持とうか?」
「いや、全然大丈夫。ほら、すぐタクシーそこだしさ」
 歌舞伎町の知り合いにも見られたくなかったので、JR新宿駅に到着すると、俺たちはすぐタクシーに乗り、『リカーショップ 信濃屋』へ。運転手には池袋まで行くからと伝え、外で待っていてもらったのだ。
 出費がすごいが、これが手切れ金になるのなら安いものだ。
 タクシーに乗っている間、友香が横でうるさく話し掛けてくる。
「ごめん…、日頃の仕事で疲れているんだ。少し着くまで寝かせてくれ」と嘘眠りをした。
 池袋駅に到着すると、俺は運転手にチップを上げておく。協力してくれたせめてものお礼のつもりだった。
 東武東上線に乗るのは本当に久しぶり。高校時代は毎日通学に使っていたが、歌舞伎町時代に入ってからは一本で行ける西武新宿線しか乗らなかった。そんな毎日通勤に使う線を友香に教える訳にはいかない。東上線を使うのは、当たり前の行為だったのだ。
 電車に乗って三十分ちょいで川越駅に到着する。時刻は夜七時。うん、ちょうどいいぐらいの時間だ。薄暗くなった外。これなら俺だと気付く人間の数も、必然的に少なくなるだろう。
 自分では文系人間だと思っていたが、結構理系も得意なのかもしれないな。
 そんな馬鹿な事を考えながら、タクシーへ即座に乗り込む。
「ちょっと龍一~、早いよ~」
 肉の塊が車内にもそもそと入ってくる。
 高校時代、学校で内緒でアルバイトしたガソリンスタンドでは、このタクシー会社も燃料を入れてきていた。この運転手、俺の顔を知っているなんてないよな? 運転手の写真をコソッと盗み見る。うん、俺よりちょっと年上ぐらいの若僧だから問題ないだろう。
 ここは俺の地元だ。最善の注意を払い過ぎるぐらいがちょうどいい。
 タクシーは静かに発信する。途中信号につかまり停車していると、中学時代の友人であるゴッホが近くを歩いていた。咄嗟に下をうつむき、手を添えて顔を隠す。絶対にこの姿を見られる訳にはいかない……。
 指の隙間からこっそりゴッホの動向を眺める。
 杞憂だったのか、ゴッホはまるでこちらには気付かず、ポケットに手をつっ込んだままどこかへと消えていく。
 あの馬鹿、嫌なタイミングでこの辺を歩いていやがるな……。
 今度会った時は、いきなり怒鳴りつけてやるか。
 駅から数分で、川越プリンスホテルにようやく到着した。
 俺は辺りをさりげなく警戒してから、すぐホテルの中へ入った。

 俺はチェックインをする際、金は後払いになるので金額だけを確かめておく。せめてもの餞別代わりに、部屋に着いたら友香にホテル代を払っておこうと思ったのだ。
 羽田空港からここに着くまで、ポケットに入れた携帯電話が何度震えただろう。文江の奴、本当にいい仕事をしやがるぜ。
 ちょっとどうなっているか、確認しておくか……。
「友香、ちょっとウンチ……」
「嫌だ~、龍一ったら~」
 部屋に着くなり俺はすぐトイレに駆け込んで、携帯電話をチェックした。
《何よ、急に? どういう風の吹き回し? あの女とはもう会ったの? 私に間違えて俺だけの友香なんてメールを送ってきた女の事だよ? 文江》
 この馬鹿、ちゃんと仕事しろよ……。
 こんな内容じゃ、見られた時不審がられるだろ。
 俺はこのメールを削除した。はい、次……。
《ごめん…、私、ちょっぴり意地を張っていたかもしれない。だってね、さっき龍一にすぐ電話しても出てくれないんだもん。 文江》
 グッジョブ! いいよ、いいね~。こういうの待っていたんだよ。次、いってみよう。
《でも気になるから教えてほしい。あの人とはもう会ったの? 怖いけど、私は龍一が好きだからこそ、知っておきたいの……。 文江》
 なかなかこの仕事に君も慣れてきたじゃないか。素晴らしい。なかなか素敵だよ。この調子で次も頼むよ。
《本当にこの期間、とても辛かった。好きな人に着信拒否されるなんて、何度も自殺しようと思ったもん。確かに写真すらまだ送っていない私がいけないんだよね。 文江》
 チッ…、こいつ…。最後の写真の事だけ余計だよ。これは削除だな。
《愛してるよ、龍一。私がどれだけ好きか分かる? 文江》
 うん、こういうオーソドックスなやつもいいね~。でも、君の事は愛せないよ。悪いけどね……。
《ねえ、何回電話しても出ないってどういう事? 龍一は仕事で忙しいとか言っているけど、本当はあの人と会っていたりとかって…。ごめん、考え過ぎだよね。 文江》
 女の勘は鋭いと言うが、本当にその通りだな…。ちょっとゾゾッてしたよ。でもさ、いい仕事ぶりだ。ちょっとだけ君を見直したよ。
《今ね、龍一と暮らす夢を想像しながら、白いシーツを変えているの。 文江》
 おっ、これは素晴らしい出来だね~。一緒には絶対に暮らせないけど、こんな大事なメールをありがとうね。
 その時ドアをノックする音が聞こえる。
「ねえ~、龍一、トイレ長い~。早くお酒作ってよ~」
 こいつ、クソぐらいゆっくりさせろよ。まあ、こっちはズボンすら脱いでいないから、まだまだ時間掛かるけどね……。
「まだ入ったばかりだろ? 焦らせるなよ」
「もう~、プンプン」
 この野郎、ぶっ飛ばすぞ、いい加減に……。
 ケツの穴に指つっ込んだ手で、カクテルを作ってやろうか、オラッ。
「いいから向こう行けよ。俺のクソの臭いでも嗅ぎたいのかよ?」
「うん、嗅ぎたい。鍵開けてよ~」
「うるせーっ!」
 馬鹿、ここで怒ってどうする。セクション…、あれ、えーといくつになるんだっけ? 一回目が電話でしょ? 二回目が文江を巻き込むだったから、三回目はカクテルのアイデアだったよな。じゃあ、今しているこの行為自体は、セクションフォーな訳だ。
「ちょっと~、そんな言い方ってないでしょ?」
「分かったよ、ごめんな。もう少しゆっくりさせてくれよ」
「早くしてよね」
 ふざけるなっ! 誰が無用心に出て行けるかっていうんだ。群馬サファリパークに行って、車の外へ出る馬鹿はいねえだろうが……。
 放っておけ。今はセクションフォーのミッション中だろう。集中しろ。

 本当にウンチをしている訳ではないので、一度立って大きく深呼吸をする。落ち着きながら文江からのメールをチェックしないと、あとで一大事になるんだ。取りこぼしなど、一切許されぬ。ミスなんて一つもあっちゃ駄目なんだからな?
 俺は用心深くメールを見ていく。
 削除か残すか……。
 この決断は、遊びでも何でもないのだ。
 そう…、今の感覚を例えるなら、麻雀をしているところ、みんな、トイレに行ってしまった。だからその間、ズルをして伏せてある麻雀牌をソーッと見てしまう。でも数が多いから、どのぐらい麻雀牌を覚えられるか分からなくて…、おい、違うよ。今はそんな例えなんて考える必要性などないだろ? それに全然例えすら違う気がする。もっと真剣になれよ。自分の一生がこれに掛かってんだぞ? 本当に俺は馬鹿だなあ……。
 一語一句見誤るなよ。視力二・〇なんだろ? こういう時、真価を発揮しなきゃ……。
 馬鹿、全然ズレているよ。冷静に…、もっと落ち着く事。
 時間を掛けてメールの選別をしていく。
 今頃友香は、壁一枚向こうの部屋の中で悶々としているだろう。いいんだ。放っておけ。文句を言ってきたら、持ち前の口のうまさでかわせ。そしてバーテーダーの技術を駆使して話題を逸らせ。そのあとしこたま飲ませ。
 今日、俺は悪魔に魂を売った。いや、正確にはセクションワンを思いつき、それを実行しようとした時に売ったのだろう。もう一週間も前だ。
 罪悪感は不思議とない。心の中は妙に澄んでいる。
 何故ならこれは、正当防衛だから……。
 例えば夜道、か細い女性が歩いている。そこへ力の強い男が襲い掛かり、強姦しようと押し倒された。剥ぎ取られるパンツ。どんなに抵抗しても男の力には及ばない。ポケットの中には偶然ハサミがあった。女はそのハサミを使って強姦男に突き刺しても、正当防衛になるだろう。それと同じようなもんだ。
 今の俺のこの動きを非難するような連中とは、生涯友達になれないだろうね。いや、そういう問題じゃないよ。だってこのままあれと、付き合わせられちゃうような感じになったら、友達誰も会わなくなるよ。以前俺は「今をときめく神威だ」とか図に乗っていた時期があった。そんな偉そうな事を抜かして、横に肉がいてみろ。俺だってもし友達だとしても、そんな奴いたら他人になるだろう。
 だからこのセクションフォーは、とても重要なポジションになるのだ。
 セクションファイブは、俺のカクテル作り。奴が寝れば無事成功である。
 違う。今はフォーでしょ? 次の事はこの段階がうまくいってから始めてだろ。じゃないと足元をすくわれてしまうぞ。
 まさかあの肉め。俺がこんなセクションを頭の中で考えているだなんて想像もつくまい。この計画は、肉がすべて勝手に勘違いし、自我崩壊させる事に向かって進んでいる。
 一つ一つの点が、それぞれ順を追って線になっていく。
 だからこそ俺はセクションフォーで、文江からのメールを選別しなきゃいけないのだ。
 巨人の安打製造機と呼ばれた『篠塚』の巧妙な打率よりも、俺は上をいかなきゃいけない。そう文江のメールがピッチャーの投げた球だとすると、俺は差し詰めバッター。しかも一度でもストライクを取られたら、そこで試合は終了するような瀬戸際の中を慎重にこうして歩いているのだ。
 本当ならこんな事したくはない。正々堂々と剛速球を投げ、三球三振に討ち取りたい。でも、俺の投げた渾身のストレートは、彼女の大いなる肉にぶつかり、ストライクを取れなかったのだ。九回表でぶつけてしまったデッドボール。でもまだ九回裏まではあるのさ。
 さあ、文江の球をよく見分けろよ。ストライクかボールか。
 一球でもストライクを取られたら、俺はおしまいなんだから……。

 友香は目がトローンとしている。あともう一息。俺は彼女が気分良く酒を飲んでくれるなら、心を込めてシェイクしよう。
 浅草ビューホテル時代を思い出す。嫌な上司もいたけれど、北野さんとも出会えたし、こうしてカクテルの技術も未だ備わっている。
 俺の脳裏には、ホテル時代の様々な記憶が映し出されていた。
 部下に手で合図をして、冷たいおしぼりを持ってこさせるサインを送る。客のほうを向いた状態で左手だけを後ろに回し、受け取れるように手のひらを開く。
 十秒もしない内に、冷たいおしぼりが手の上に乗せられる。
「お客さま、よろしかったら、お使いになられますか?」
 いきなり目の前に出されたおしぼりを客は、ビックリしたような表情で見つめている。
「相変わらず気が利くねえ。それにしても、いつの間におしぼりを用意したんだい?」
「お客さまが、おしぼりを使いたいなと望んだ時からですよ。どうぞ」
「おっ、冷たい。うーん、気持ちいいなあ」
 温かいおしぼりだと思っていたのをいい意味で裏切られた客は、顔に押し当てて気持ちよさそうに拭いた。温かいものより、冷たいのをそろそろ欲しがっているのではないかと感じていた。まさにベストタイミングである。毎度の事ながらも喜ぶ客の表情を見て、少し幸せを感じた。
 浅草ビューホテルの二十八階にあるトップラウンジは、カウンター席が八席だけ。あとは両サイドに分かれた夜景を見られる席と、中央にあるショーステージの周りに何箇所かテーブルがある。ステージは一日四回に分けて外人歌手が唄う。
 客のほとんどはカップルで、綺麗で壮大な夜景を見にまったりしに来るのだ。広さ的にはホテルと呼ばれる造りだけあって、豪華なものだ。
 それだけゆったりとしたスペースを持ちながら、ショーステージには一台のグランドピアノが置いてある。毎週日曜日だけは滞在する外人歌手が休みなので、そこでピアニストが生演奏をするステージタイムがあった。週に一度しか来ないから、あまりピアニストの人と話す機会はなかったが、名前は中野さんという女性で俺よりちょっと年上だったっけ。
 ある日、喉が渇いたんじゃないかと休憩中の彼女に俺は、オレンジを絞った生のフレッシュオレンジジュースを差し入れた。
「神威さんって、昔何かしていたの?」
 不思議そうに中野さんが声を掛けてきたので、何故そう思ったのかを聞いてみる。
「体も大きいし、目つき…、あ、あの別に目つきが悪いとか言っている訳じゃないのよ? 何かホテルにいる人たちとあなたの目は、何か違うなあっていつも思っていたの」
 俺は大和プロレス時代の話をすると、中野さんは「へえ、なるほどねえ」と感心したように頷いてくれた。これをきっかけに俺と彼女は仲良くなった。
 一週間後、ピアニストの中野さんから電話が掛かってきた。話を聞くと、当時のラウンジのマネージャーは山塚という『ドラゴンボール』に出てくる悪役キャラクターの『ピッコロ大魔王』みたいな顔をした男だった。顔もすごいが性格もかなり酷い男で、ホテルの従業員たちからは陰で『ピー』と呼ばれている。『ピッコロ大魔王』の頭を取って『ピー』なんだと誰かが俺に教えてくれた。この男、セクハラ大魔王でもあり、仕事が終わってホテルマンたちがカウンターへ座り、小さなお疲れ会をする時必ず女性の横にさりげなく座り、酔ったふりをして握った手を離さないのだ。それでいて俺ら男には酷い態度だったので、『ピー』とか呼ばれるんだろう。
 一度ラウンジが満席の時だった。新宿側の風景が見える席に座る外人客がワインのボトルを頼んでいて、「グラス、ワンモアプリーズ」と俺に言ってきた。カウンターの中は『ピー』がすごい顔をしながらカクテルを作っている。俺は声を掛けた。
「マネージャー、ワイングラス一つお願いします」
 それしか言っていないのに、『ピー』はもの凄い表情で俺を睨み、「どっちだ!」とかなりでかい声で言う。
 特に赤ワイングラスか、白ワイングラスの指定を受けていなかった俺は、チラリと外人客のテーブルを見てボトルを確認し、「ルージュでお願いします」と答えた。ホテルでオーダーを取る際は、すべてアルファベットで伝票を書かなければいけなかった。なので、白のグラスワインだと『バンブラン』。赤だと『バンルージュ』といった感じで書かなきゃいけない。
 どこに怒るような原因があるか分からないが、イライラしながら『ピー』は赤ワイングラスを取り、カウンターの上に思い切り叩きつけるように置いた。繊細なガラスでできたグラスは、柄の部分にヒビが入り、そのまま割れた。カウンターには客だっているのにと思った俺は、一気に怒りが上昇し、おそらくあの時顔色が変わっていたのだろう。周りの従業員がさりげなく俺の背中を押しながら奥に連れていき、事情を聞いてくれた。
「しょうがないよ、あのマネジャーは…。だって『ピー』だよ? 忙しいといつもそれだけでイライラしているんだ。神威、おまえも気にするな」となだめてくれた。
 そんな『ピー』から、ピアニストの中野さんはラブレターをもらったようだ。俺は素直に助言する事にした。
「中野さんはとても綺麗で、ピアノの腕も抜群で、性格だって人を見る目だってある素敵な女性です。だからハッキリ言いますね」
「う、うん……」
「あんな『ピッコロ大魔王』みたいな男、絶対にやめたほうがいいですよ。見ましたか? あの男の額の皺。あそこが一番似ているじゃないですか、ピッコロに」
「え、ええ…。私もね、実はこんな手紙もらって本当にどう断ればいいのか困っているの」
「じゃあ、今度断りの返事書いたら、俺に渡して下さいよ。俺が『ピー』に引導を渡してやりますから」
「神威君…、本当にありがとう……」
 中野さんが書いた手紙を受け取った俺は、仕事が終わった夜のお疲れ会の時、女性従業員にセクハラしている真っ最中の『ピー』に、「あ、マネージャー。これ、ピアニストの中野さんからもらったんですけど」と渡した。焦った表情の『ピー』は手紙を奪うようにして、ラウンジの奥に消えた。
 それ以来、『ピー』は俺に口を利く事がまるでなくなったが、携帯電話を初めて購入したようだ。そして同じ階の隣にある『メンバーズバー セントクリスティーナ』のマネージャーである大川さんに、「最近若い女ができちゃってねえ」と自慢したそうだ。何故そんな事を知っているかと言うと、『ピー』が休みの時のお疲れ会で、大川さんがやってきて、従業員の前で「あの馬鹿、若い女ができたとか俺に嘘をついてきやがった。大方、キャバ嬢に入れ込んでいるだけだろう」とバラしたからである。
 結局俺が浅草ビューホテルに入って一年ぐらいで、『ピー』はそのキャバ嬢に貢いでいたのか知らないが、ホテルの会計を誤魔化し金を抜いていたのがバレてしまい、クビになって消えた。
 俺はそんな事を思い出しながら、ウォッカベースのカクテル『バラライカ』を作り終え、友香の目の前に差し出す。
「わあー、素敵っ!」
「ショートカクテルは一気に飲むものなんだよ? それがマナーだ」
「ほんと~、じゃあ頑張って飲んじゃおうっと」
 一気飲みをする友香。君は本当に素晴らしいよ。

 漆黒色のカウンターには、今現在二名の客が座っている。俺は手で、客に見えぬよう温かいおしぼりをもう一人の客へ渡しに行くように合図した。視線は目の前の客から常に外さず、視界にその様子が映るのを頼りに部下の行動を見守る。
 客は気が利くねといった表情で、部下に笑いかけていた。俺の教えを忠実に守ってくれているな。心の中で静かに喜んだ。
 おっと、目の前の客のグラスが空いた。タバコを吸いだしたので、しばらく様子を伺う。俺は客が二回煙を吐き出し灰皿の上にタバコを置いたのを確認してから、ゆっくりと話し掛けた。
「お客さま、グラスが空になりましたが、何かお作りいたしますか?」
「そうだなあ、うまいマティーニをお願いするよ」
「かしこまりました。ドライなほうが、お好みですか?」
「そうだね。マスターに任せるよ」
「了解しました」
 軽く微笑んでからミキシンググラスを取り出し、アイスを中に入れた。冷凍庫でキンキンに冷やしてあるドライジンと、ドライベルモットを取り出し、レモンピールも用意する。
 バースプーンを薬指と中指の間に挟み、ミネラルウォーターを少し入れ、簡単に手早くステアした。こうすると氷が液体に馴染むのか、溶けにくくなるのである。客にうまいカクテルを作る為なら、俺は手間暇を惜しまない。
 ストレーナーをミキシンググラスに当て、中の水を出し、氷だけの状態にしてから、ドライジンを四、ドライベルモットを一の割合で注ぐ。再びバースプーンを中指と薬指の間に挟む。指を上下するよう器用に動かし、高速ステアを始める。中指を自分の体に向かって戻し、薬指は外へ押し出すように。バースプーンの背をミキシンググラスの端につけたままクルクルと回す。目の前の客の視線は、俺の指に集中していた。
 再度ストレーナを当て、マティーニ用の逆三角形のカクテルグラスに注いだ。指先から感じる温度差。注ぐ際、出来る限り指で押さえる面積を少なくするように心掛ける。
 最後にレモンピールをつまみ、グラスの上で軽く絞り、香りを加える。
「お待たせしました」
「毎度の事ながら鮮やかな手つきだねえ。いただくよ」
 客は宝物を扱うようにしてグラスを持ち、口をつける。
「こりゃあ、うまいマティーニだ!」
「ありがとうございます」
 一気に飲み干す客。満足そうな顔で、グラスをカウンターに置いた。俺はその様子を見るのが、大好きでこの仕事をしている。
 そんな事を思い出しながら、俺はジンベースの『ホワイトレディー』を作り終える。
 本当ならドライベルモットも買っておけば良かったなあ。そうすれば『超ハードドライマティーニ』を作ってやれたのに……。
「これもさっぱりしておいしい~」
「さっき友香が飲んだ『バラライカ』あるだろ?」
「うん、あれもおいしかった」
「あの『バラライカ』とこの『ホワイトレディー』は兄弟みたいなものなんだよ」
「何で~」
「それぞれのベースとなるのがウォッカとジン。あとの材料はすべて同じで、コアントローとレモンジュースなんだ。ベースをラムに代えれば『XYZ』に変身するんだ」
「へえ~、龍一って本当に物知りだよね~」
「バーテンダーやっていてこのぐらい知らないと、そいつはただのエセバーテンダーだ。誰でもこのぐらい知っている」
 ゲーム屋のくせにこうしてバーテンダーと偽っている俺は、もっとエセエセバーテンダーか……。

 

 

9(真・進化するストーカー女編) - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

部下の村井が、灰皿を交換しに行く。まだ彼は、入って一週間の新人である。新人育成は、俺の役目でもあった。「気を使い過ぎるのはいい、ただ、客がこちらに気を使うような...

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