2024/10/11 fry
前回の章
さて、残る課題は風俗のガールズコレクションのみ。
馬鹿の代名詞店長の當真。
阿呆の代名詞有木園。
こんな奴らと、果たして店を盛り上げるなんてできるのか?
平野さんを始めとする四人のオーナーたちから出してもらった資金は現時点で五百万。
それでいて集めた風俗嬢は三十代二人のみ。
こんなんで客など来るはずが無い。
日々當真は二人の風俗嬢へ、サクラをつけろと言うだけ。
情報館に払う金だって毎月二十万掛かる。
はなっから穴の空いていた沈没船は、さらに水面へ沈んでいた。
俺は毎日店のデータを取り、経費の出どころを管理するくらいしかない。
今日も出勤すると、店の入口の外にうな重の空になった器が二つ置いてあった。
また経費の無駄遣いを……。
大方俺が昨日帰ったあと、當真と有木園のお馬鹿コンビが店の金で出前を取ったのだろう。
やっと西武新宿の長い一件が片付いたと思ったら、本当の難題が残っている。
まずやらなきゃいけない事。
當真らに経費を無駄遣いをさせない。
そして無駄なサクラをつけるくらいなら、もっといい方法を考えねば……。
鶏頭の當真へ注意したところで、これは治らない。
馬鹿につける薬は無いのだ。
ではどうする?
俺はオーナーの一人である村川を電話で呼び出す事にした。
「おはよーん」
馬鹿の當真が陽気に店へ入ってくる。
「當真さん……」
「何よ、岩上ちゃん」
「何度も言いましたけど…、経費で鰻とか出前取るの、いい加減辞めてもらえませんか?」
「だってしょうがないじゃん! 俺なんてここの店長だよ? それがさ、蓋開けてみりゃただの従業員の岩上ちゃんと給料は一緒。出前取らなきゃやってられないよ」
何で平野さんは、こんなのをこの店の頭に添えたのだろうか?
「あんたや有木園さんのせいで、この店は最初から右肩下がり。現状分かってんですか? 遊びでやってんじゃないんですよ!」
過去この歌舞伎町で出会った中でも三本指に入るクズ。
もはや人として終わっている。
「おいおい岩上ちゃんよ?」
當真は目を剥き出して威嚇をしてきた。
俺には頭の弱い人が、顔面神経痛になったようにしか見えない。
「何ですか?」
「俺、ここの店長ね。君はただの雇われ従業員。この差、理解してんの?」
「気に食わないなら、使いづらい従業員をクビにしますか?」
當真から辞めさせられたなら、さすがに村川も文句は言えないだろう。
「俺はその権限を持っている訳ね」
「ならその権限を活かしてクビにしますか?」
「俺の腹づもり一つだね」
もう船の中の水を掻き出すのも疲れている。
「ならその腹づもりとやらで、俺をクビにしたらどうです?」
「おい! 雇ってやってる恩を忘れて生意気こきやがって!」
雇ってやってる?
恩を忘れる?
この馬鹿のせいで、俺は百合子との子供をおろす羽目になった。
一週間で内装終えてすぐオープンできる。
當真の口車から始まったガールズコレクション。
しかし現実はこんな四坪程度の店の内装に二ヶ月ほど時間が掛かり、一円も給料が出なかった。
百合子との仲もその辺りからギクシャクしたのだ。
確かにこいつの誘いに乗ってしまった俺も悪い。
だが西武新宿の一件にしろ、すべての元凶はこいつなのだ。
「おまえ…、いい加減にせいよ……」
俺は静かに立ち上がり、當真を見下ろした。
「な、何だよ……。や…、やるのかよ?」
「やりたいならやってやるよ…。おまえ、あんまプロ舐めんなよ……」
ずっと我慢していた鬱憤。
ゆっくり右拳を當真の目の前に突き出す。
「おい、岩上! おまえ、何をやってんだ!」
気付くと入口にはオーナーの村川が立っていた。
吠える當真を村川は外へ出し、俺に話し掛けてくる。
「何があったんだ。言ってみろ」
俺は黙ってうな鐵の領収書を見せた。
「何だ、こりゃ?」
「當真と有木園の二人が、また経費でこんなもん食ってんですよ。村川さん、俺はこれでも必死に店を何とかしようって、日々頭を悩ませながら努力しているつもりですよ!」
「ああ、そりゃ分かってる」
「こういう無駄な経費はやめてくれと言っただけです。そしたらあいつ、俺は店長だからと言い出して……」
「あのガキ……」
「村川さん!」
「何だ?」
「本当にみんな、この店を立て直そうと思ってます?」
俺の台詞に村川の顔色が変わる。
「当たり前だろっ! 俺らがいくら出してると思ってんだ」
「じゃあ、何であんな馬鹿を店長にして権限与えているんですか?」
「前にも言ったろ。平野さんが決めた事だからだ」
とりあえず落ち着け。
俺は椅子に座り、タバコに火を点ける。
「岩上、まあ今年は今日で店も終わりだ。年明けは四日から。とりあえずゆっくり休め」
「村川さん…、とりあえず當真や有木園たちに、経費の無駄遣いをやめさせる事はできないんですか?」
「ああ、そりゃあもちろんだ。おまえ、外に出て當真呼んでこい。俺があいつと話すから」
「分かりました」
下手にパソコンをいじられて、滅茶苦茶にされては溜まらないのでシャットダウンしておく。
外へ出ると、當真がタバコを吸いながら睨んできた。
「中で村川さんが呼んでますよ」
それだけ言うと、俺は目の前を通り過ぎる。
後ろからギャーギャー騒いでいたが、相手にせずただその辺を歩く。
村川からたっぷりお灸を据えてもらえばいい。
東通りをそのまま百メートルも歩くと、右手区役所通りへ出るT字路に差し掛かる。
その角にある山下が働くゲーム屋。
外で式典をしていた山下が俺の姿を見て近付いてきた。
「あれ、岩上さん。仕事中じゃないんですか?」
「ちょっと休憩だよ」
自動販売機でコーヒーを二つ買い、一つを山下へ投げる。
「すみません、いただきます」
ゲーム屋のすぐ先にはさくら通り方面へ行けるT字路。
そこで山下と世間話をして時間を潰す。
十分ほど話していると、背後から声を掛けられる。
振り向くと裏ビデオ屋オレンジのオーナーだった長谷川昭夫が立っていた。
歌舞伎町浄化作戦時代、系列ではないがお互い情報を共有し仲良くさせてもらった人である。
この人の店オレンジも、浄化作戦で警察に持っていかれた。
山下は式典交代の時間が来て、ゲーム屋へ戻る。
「お久しぶりです。岩上さんに会いたかったんですよ」
「ん、何かありましたか?」
「オレンジの時にうちの松村から、岩上さんを紹介してもらったじゃないですか」
「ええ」
「DVDのジャケットを岩上さんがオリジナルでデザインして、あの時分けてもらって」
俺がフォトショップにちょうどハマっていた頃だった。
裏ビデオの作品に出ている女優は綺麗なのに、ジャケットのデザインが悪いせいで売れないものも多数あった。
俺は売上向上も兼ね、作品の中からいい部分を画像としてピックアップし、それらを元に新たなジャケットをデザインしていた時期がある。
自分の系列の五店舗のみデータを渡していたが、他の店からもそのジャケットを欲しがる人間が多数いて、俺は仲が良かった松村にはあげていた。
それを見たオーナーの長谷川さんはかなり気に入り、松村の紹介で何度か会った事がある。
「今ですね、うち横浜で店出したんですけど、ほんと厳しいんですよ。だから岩上さんに力貸していただいたら嬉しいなあと思っていたんですよ」
「横浜? 俺、そっち方面に全然ツテなんて無いですよ」
「まあ今度食事でもしながら色々話しましょうよ。あ、良かったら連絡先交換しませんか?」
オーナーという立ち位置ながらとても腰の低い長谷川さんに対し、悪い印象は無いので快く交換した。
「おい、岩上!」
向こうから村川が歩いてくるのが見える。
「おまえ、外で待ってろって言っただろ。中で當真がイライラしながら店番してるぞ」
「すみません、知り合いとちょうど会ったもんでして…。すぐ戻りますよ」
「おう、あいつにはキチンと言っといたから。頼むな」
それだけ言うと村川はコマ劇場方面へ歩いて行った。
どうやら思惑通り、當真はお灸を据えられたようだ。
ガールズコレクションへ戻る。
當真は面白くなさそうな顔で「ミミちゃん出勤してるから、サクラつけといて」とだけ素っ気なく言い、店から出ていく。
歌舞伎町俺より長いくせに、タダなのに客一人すら呼べない馬鹿。
こんな昼間から身体が空いている奴なんて、そうそういないんだよな……。
あ、ワールドワン時代の系列のチャンプ。
そこの店長をしていた有路が、今はゴールデン街でBARをやっている。
彼なら大丈夫かも。
有路へ電話をすると、一時間ほどで来れるそうだ。
彼が店に来てから、ミミには連絡すればいいか。
俺はパソコンを起動し、ワードを立ち上げる。
小説『とれいん』の続きを書く事にした。
百合子との子供をおろした事も作品へ練り込む。
一から見直し、色々調整しなければならない。
西武新宿の一件は、無事ハッピーエンドで現実は解決させる事ができた。
この作品をより良いものに仕上げなくては……。
執筆中、有路が店へやってくる。
「本当にタダでいいの?」
「ええ、もちろんです。その代わりサクラだなんて、女の子には絶対言わないで下さいよ」
「悪いな。今度うち来たら飲み代タダにするからよー」
ゲーム屋時代の昔話に花を咲かせている途中、ミミが迎えに来る。
「じゃ、有路さん。楽しんで」
俺は小説の続きをまた書き始めた。
2004年最終営業日。
これまで五百万の金を投資したガールズコレクション。
成果は風俗嬢二名のみ。
改善点は當真と有木園の無駄な経費の使い込み禁止。
オーナーの特権を使い、俺が経理も担当する事になった。
これで當真が店の金を使って出前を取るなど、くだらない真似はできない。
次に年明けになるが、當真は責任持って店で働く女性をもっと入れる。
この二つが決定的になった。
誰でもおかしいと思うのに、何故こんな事を改善するのにここまで面倒なのか。
有木園に関しては弟が四人のオーナーの一人なので、村川も手を出しづらいようだ。
こんな腐った環境から俺は逃げられない以上、少しでも店を流行らせ多くの金を得るしか道はない。
でも本当に何とかなるのか……。
先行き不安しか感じやしない。
今日だって知り合いの有路をサクラでつけただけ。
待てよ…、月に二十万も情報館へ払っているんだよな?
まだオープンして数日とはいえ、ほとんど客なんて来ないじゃないかよ。
確か準備段階の時情報館の奴が、店に来て「一日辺り十名は客回せますから」なんて気取って言っていたよな。
夕方になり有木園が出勤すると、情報館の件を尋ねてみる。
「俺にそんな事言われたって、情報館の人間なんだから分かるわけないじゃん」
おまえがその情報館の手配をしたんだろう。
阿呆の有木園も、當真同様責任感がまるで無い。
「情報館に一度言って、その辺話し合って来て下さい」
「岩上君、これから帰っていなくなるのに、店番はどうするのよ?」
「そういった時の為に當真さんがいるんじゃないですか。それではお願いしますね、良いお年を……」
俺が帰り支度している間、有木園は納得いかないようで後ろでギャーギャー騒いでいたが、気にせず店をあとにした。
西武新宿駅に着き、特急小江戸号へ乗る。
タバコに火をつけてゆっくりと煙を吐き出す。
そう、この四号車両だけ禁煙車両だから俺は小江戸号が好きなんだ。
色々あったけど、今年もあと一日で終わる。
年が明ければ運気だってどんどん良くなっていくさ。
正月は百合子と過ごし、グダグダした日々を過ごして終わるだろう。
仕事開始したら、一気に店をいい方向へ。
それにしてもあの店は、精神的に本当疲れる場所だ。
當真と有木園の癌細胞。
あの二人をクビにするのが一番いいんだけどな。
村川曰くそれは無理なようだから、俺が何とか踏ん張ってやっていくしかない。
はなっから村川の誘いに応じず、真面目に就職活動してけば良かったなあ……。
裏ビデオ屋メロンに客として来た姓名判断鑑定士。
俺が三十三歳になったら凄い事が起きますよなんて、本当に起き過ぎだろ……。
誕生日翌日、警察にパクられて、喉切って、仕事しても給料出ないで、子供おろして……。
やめよう。
もう過ぎた事を振り返ったところで虚しいだけ。
百合子との仲が壊れなかっただけでも良しと捉えなければ。
そんな事を思っている内に、いつの間にか寝てしまう。
2004年、新宿クレッシェンドの小説から始まった忌々しい年も、何だかんだありながら無事年を越す。
本当に大変で色々あった年だ。
俺はこれらの経験を生涯忘れる事は無いだろう。
久しぶりの休みの日々。
ほとんど毎日百合子と一緒に過ごす。
一つ変わった事と言えば、百合子の子供二人と会った事である。
二人共まだ小学生の女の子。
上の里帆、下の早紀。
当たり前だが、俺と接する時は余所余所しい。
親の都合でいきなり俺を紹介されたところで、そう割り切れるものでないだろう。
色々歯痒い部分は多々ある。
しかし百合子とこれから一緒にいるという事は、この子たちとも同じ時間を共有していくのだ。
これまで結婚も子供も経験が無い俺。
少しでも好かれようと細心の注意を払う。
共に食事へ行き、共に映画を観る。
俺がこの子たちくらいの年なら、どう接したらいいか?
絶対にしてはいけない事。
暴力を振るう。
怒鳴りつける。
理不尽に怒る。
もちろんそんな事など絶対にしない。
しかし人間は感情のある生き物。
自分の事よりもまずこの子たちの事を考え、すべての物事を優先に……。
それを心掛けていれば、いつか時間がいい方向へといざなってくれる気がした。
そして家に戻れば小説『とれいん』の執筆を進める。
そんな感じで俺の正月休暇は終わった。
2005年、はなっから沈没しそうな風俗ガールズコレクション初出勤。
初日だというのに店には誰もいない。
シャッターを開け、軽く掃除をしてからコーヒーを入れる。
少しして風俗嬢ミミが出勤。
この子に一日でだいたいサクラを一人から二人つける。
一日四千円か、八千円の収入。
他人のチンコを咥えてこの程度の稼ぎなら、普通に仕事したほうがいいのなあと思う。
俺はパソコンを起動し、小説の続きを書き始めた。
西武新宿線の地味な話。
読み手がいかに面白く感じ取れるか。
現実はハッピーエンドに持っていけたのだから、この経験を無駄にしてはいけない。
ただ新宿クレッシェンド系の話を執筆するのと違い、自身の体験を書き残すといった作業は中々の苦痛を伴う。
しかしこんな作品を百合子は楽しみに待ってくれている。
俺に関わった西武新宿線の駅員たちにも、小説を書くと言ってしまっていた。
事実を淡々と書いていく作業が、ここまで苦しく感じるとは……。
違う。
あの時の百合子との子供をおろしたトラウマをまた思い出しながら書く。
それが辛いのだ……。
オーナーの村川が来たので簡単な新年の挨拶を済ませる。
「ほら、岩上」
そう言いながらお年玉袋を手渡す村川。
ぶっきらぼうな彼であるが、俺に気を使ってくれているのだろう。
これで百合子の娘の里帆と早紀に何か買ってやろう。
「そういえばおまえ、去年情報館がどうのこうの言ってなかったか?」
「あ、そうそう。有木園のお兄さんに情報館の件お願いしたんですが、何か言ってなかったですか?」
「いや、何も聞いてねえぞ」
「……」
あの阿呆が……。
何一つ役に立たない。
ちょうど村川もいる事だし、情報館の人間を店に呼び出してどういうつもりなのか聞いてみるか。
馬鹿の當真と阿呆の有木園。
こいつらを宛てにしていても、何一つ始まらない。
情報館に連絡をして、ガールズコレクションへ責任者を呼び出す。
村川も同席している中で、ある程度の店の骨組みを整えたい。
最近新たに始まった商売の情報館。
発祥はテレクラのリンリンハウスの森下。
そこのオーナーはかなりの金を持ち、さくら通りにロボットレストランという妙な商売を始めようとしている。
他にも情報館やら、レンタルルームなどの商売をいち早く始めた先駆者。
噂では漫画喫茶のマンボーなどもそうらしい。
店に情報館責任者の佐々木が来た。
俺はオープン前は、一日辺り十名ほどの客を紹介すると謳いながら、良くて一日一人くらいしか送ってこない現状に対し不服を唱える。
佐々木は言い訳ばかりで、まったく話が進まない。
黙って話を聞いていた村川が、不機嫌そうに口を開く。
「おいよー、うちもよー、遊びで金払ってんじゃねえんだわ。そっちに都合があるように、うちにも都合ってもんがあるんだ」
「大変申し訳ございません……」
「それで客送って来れないのは何でなんだ?」
「色々と当店にも都合がありまして……」
のらりくらりの佐々木。
村川は次第にエキサイトして怒鳴り出す。
すると佐々木は携帯電話を取り出して、電話をし始めた。
「あ、佐々木です。東通りのガールズコレクションへ至急お客さんを五名お願いします」
五名?
うちは現時点でミミ一人しか女がいないんだぞ?
「あ、忙しいところごめんね、佐々木です。東通りにあるガールズコレクションへ至急三名お願いします」
佐々木はこちらを気にせずまた電話をしている。
「ちょっと佐々木さん! いきなりそんな客振られても、そんな女の子用意できないですよ!」
慌てて俺は止めた。
「分かりました……」
各店舗へ中止の連絡をする佐々木。
こいつ、結構ふざけた奴だ。
ミミ一人しかいないので、一人だけ客を送ってもらう。
ひとまずバランス良く客を送るよう話し、情報館との話し合いを終えた。
村川と二人きりになると、これまでいかに當真が無駄な出資だけしつつ、まったく風俗嬢をまるで集めていないかを説明。
「分かった…。あいつには俺からキツく言っとくわ。確かに岩上の言う通りまるで話になってねえ」
腕組みをしたまま村川は店を出ていく。
今まで五百万だから、オーナー一人当たり百二十五万の手出し。
この店を黒字にしていくには、当然の如く風俗嬢を増やすしか道はない。
風俗店なのだから。
一時間ほどして當真が店に入ってきた。
若干右頬が腫れている。
大方村川に小突かれたのだろう。
「村川さんに殴られたよー。女を何で入れないんだって」
新年の挨拶すらせず、いきなり愚痴る當真。
これまでのこの馬鹿の動きを知っている俺からすれば、まったく同情などできない。
「新しい子を入れる目星はついているんですか?」
冷めたトーンの声であえて応える。
「まあスカウト連中に金払って、色々連れてきてもらうしかないじゃん」
こいつ、五百万を使い込んでいるのに、そんな初歩的な事すらしていなかったのか……。
この組織を辞められない現状。
ならば俺がどっぷり浸かり、この沈没寸前の船の舵を取るしか道はない。
余計な仕事は増えるが、自分がすべき事を整理して認識しよう。
まず新しく入ってくる風俗嬢の管理。
主にシフトとかになるか。
ガールズコレクションの金の管理。
入ってきた子たちの写真撮って、見栄え良く加工するのも俺がやらなきゃならない。
店のホームページの管理。
人が増えてきたら、日々の出勤表やら各女の子の紹介ページなど、やる事はたくさんある。
まあこの辺、始さんや松永さんの協力を仰ぐ事ができる。
情報館とのやり取り。
月に二十万の経費が掛かっているのだから、それ以上の収入効果が出ないようなら他の宣伝方法も考えねばならない。
これらにプラスして早番の時間帯の店番……。
本当に目の前の馬鹿は、クソの役にも立たない。
結局のところ、ほとんど自分でやるしかないのだ。
遅番の時間帯だけ有木園の阿呆に店番任せ、馬鹿の當真は……。
こいつ…、一体何の使い道があるんだ?
あ、俺が休みを取る時に、早番の店番をやらせるという重要ポジションがあったか。
「あーあ…、またオーナーたちにお代わりで金を要求するようだよ……」
そう言いながら當真は店を出ていく。
あの馬鹿に補填する金を持たせてはいけない。
俺は村川へ電話をして、金は今後俺が管理するから當真には絶対渡さぬよう伝えた。
スカウトたちが新たな風俗嬢を紹介してくる。
次から次にやってくる風俗嬢たち。
俺は彼女らの写真を取り、連絡先、必要なデータをパソコンへ打ち込む。
地元の先輩である始さんに画像データを送り、ホームページへアップしてもらう。
まず現状を整理しなきゃ。
ミミ、かのんは辞めた。
新しく入ってきたのが、杏子、ゆき、まどかの三名。
杏子は三十代前半であるが、ショートカットの似合う中々の美人。
ゆきは現職OLをしながらの風俗勤務。
茶色のロングヘアー、スリムな体格を持つ二十代後半。
まどかも二十代後半だが、彼女は人妻なようだ。
三人の中では一番の美形。
少しはマシになってきたが、店名のガールズコレクションと名乗れるような陣容ではない。
杏子は早番からの希望で、少しでも多くの金を稼ぎたいらしい。
シフト上、毎日計算できる子が働いてくれるのはとてもありがたい。
まどかは旦那の目を盗んでの出勤になるから、どうしてもシフト的に穴が開く。
状況次第で急に行けなくなったという場合もあるので、彼女に関してはキチンと出勤してからでないと客はつけられない。
ゆきは昼の仕事が終わってからの出勤になるので、必然的に来るのは夕方以降。
ただありがたいのが、金が欲しいと休日は昼から出てくれる事だ。
リンリンハウス森下の情報館は、平均すると一日一人の客しか送ってこない。
呼び出して文句を言ったところで、また一気に客を十名よこすなどほざくだけで実を伴わないだろう。
俺は村川へ他の情報館へ代えないかと意見を伝える。
どうせ月に二十万の経費が掛かるなら、もっとまともなところのほうがいい。
當真を店番に呼び、俺は別の情報館へ行ってみた。
ぴゅあらばという最近できた情報館の値段は、森下よりも安く、月に十八万程度。
森下と違い、一日何名の客を送るなど確約はできないが、来店した客には好意的にガールズコレクションを勧めるし、店内状況を確認した上で客を送るようだ。
名ばかり店長の當真に、ぴゅあらばへ代えないか言ってみる。
「そういうのは全部岩上ちゃんがやるんでしょ? いちいち相談しないで勝手にやればいいじゃん」
こいつ、店を良くしようとかそういう気持ちがまるでない。
なら自由にやらせてもらおう。
馬鹿を相手にしていても時間の無駄だ。
村川へ相談すると、「おう、岩上に任せたんだから好きにやれって。當真の馬鹿は気にすんな」と非常に簡潔である。
リンリンハウス森下は解約。
新規でぴゅあらばと契約。
月にして二万程度の違いだが、赤字続きのガールズコレクションを少しでもいい方向へと動く。
當真はたまに店に顔を出すと、「岩上ちゃん、杏子とミミにサクラつけて」とだけ言って、どこかへ行ってしまう。
サクラサクラって簡単に言っているが、この無駄銭を何とかしないと話にならない。
だが彼女たちを待機させたままでもしょうがない。
俺はワールドワン時代の後輩の山下へ電話を掛ける。
すぐには行けそうもないから、店の別の従業員をよこすそうだ。
あと一人、俺はゴールデン街でBARをしている有路へ連絡。
彼も暇していたらしく、すぐ来てくれるそうだ。
「すみません、山下さんの紹介で来ました大山と言います」
店に入ってきたのは、山下のゲーム屋の後輩だった。
「おう、よく式典で外に立っているよな」
「自分、岩上さんが裏ビデオでパクられた時、見ていたんですよ」
随分昔の事のように思えるが、まだ数ヶ月前の事出来事で、半年も経ってないんだよな。
「岩上さん、野次馬に向かってスーツの裾を両手で広げてましたよね。みんな、凄い余裕だなって笑っていましたよ」
「まああの時は捕まるのはしゃうがないから、見物していた連中にアピールしとこうかなと思ってね。あ、そうそう。女の子呼ぶから、あくまでも客のふりして、サクラだなんて言うなよな」
大山にミミをつけ、あとから来た有路には杏子を。
この暇だからサクラをつけるシステムを何とかしなきゃいけないな。
俺は當真へ店番を頼み、情報館のぴゅあらばへ行く。
早い時間帯、キャンペーンという名目で三十分八千円を五千円に変更。
これなら女の子に支払う分の四千円を払っても、店に千円だけ利益になる。
五千円という金額なら、飛び付く客もたくさんいるだろう。
レンタルルームか、ホテル代は客側がもちろん負担。
安さに釣られてきているので、当然ホテル代負担でゴネる客はいないはず。
まず身体を張っている女の子たちに稼がせてやる。
店の儲けはそれからだ。
たくさんの人にガールズコレクションを認知してもらい、予約で女の子が足りなくなるくらいにすれば、必然的に流行るだろう。
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