知床エクスペディション

これは知床の海をカヤックで漕ぐ「知床エクスペディション」の日程など詳細を載せるブログです。ガイドは新谷暁生です。

出かける前に

2018-06-20 20:56:40 | 日記



骨鬼つまりクイとはアイヌ民族を指す古語であり元朝蒙古( モンゴル)の側の呼び名だ。昔、北蝦夷地の人々は自らをカイと呼んでいた。アイヌの古老からこれを聞いた松浦武四郎は先住者に敬意を表し、1869年、蝦夷地を北海道、つまり北のカイの国と名付けた。
600年前、カイは黒竜江の蒙古軍を攻めた。そして有利な交易条件を勝ち取った。元はカイに骨鬼という文字をあてはめてクイと呼んだ。骨の鬼とは恐ろしげな呼び名だ。クイは恐ろしい面を被り森からブシ(トリカブト)矢を射て蒙古軍を大混乱に陥れたという。東北の「なまはげ」は、元を恐怖させたその名残なのかもしれない。この時代、アイヌ文化圏は蝦夷地にとどまらず広く東北にまで及んでいた。
知床の海を漕ぐと、自分がこの海に生きた人たちの、更にその末裔であることに気づかされる。世界は変わったが海は往時となにも変わっていない。今日カヤックはスポーツあるいはレジャーとして発展している。道具も技術も進歩したかに見える。しかし漕ぐのは自分だ。そこには昔と変わらない知識と経験、修練が求められる。海は人を区別せず、失敗 には手厳しく公平に応える。道具や技術、知識を過信してはならない。これは私自身に言い聞かせる言葉でもある。経験は大切だ。しかしそれは時に役立たない。だからこそ経験を積み重ねなければならない。
カヤックの事故が増えているように思う。大型のダブル艇を強風下、空舟で漕ぐのは危険だ。浮力がありすぎてやがて操船出来なくなる。いずれにせよ風は最大の脅威だ。事故に備えて携帯の電池残量に注意しろという。本末転倒だ。大事なことはもっと他にある。意見は分かれるだろうが無線やGPSを用いればスポーツとしての価値を損なう。シーカヤックは状況判断が試されるスポーツなのだ。海に安全はない。
海のカヤックはやるに値するスポーツだ。私はこの先も漕ぎ続けたいと思う。しかし老いは判断を鈍らせる。私も潮時が来ているのかもしれない。
アリューシャンに出かける前にこれを書いた。また知床を漕ぐのが楽しみだ。

ガイド 新谷暁生


6月の知床

2018-06-19 03:10:36 | 日記




ウトロを出発して羅臼側の相泊(アイドマリ)まで7日を費やして半島を回った。オホーツク高気圧の影響で北風が強く寒かった。
知床岬は荒れて漕げる状況ではなかった。そのため艇を岬の草原台地に担ぎ上げ、カヤックを曳いて越えた。
1297年、骨鬼はサハリン西岸から大陸に舟を進め、キジ湖を経てアムール川を遡行し蒙古軍を攻めたという。
彼らも舟を曳き、あるいは担いで沿海州の森を進んだのだろうか。骨鬼つまりアイヌが皮舟を使ったかはわからない。
しかし13世紀に起きたこの戦いが交易圏の拡大を目指したものだとするなら、それはアイヌにとどまらず北方諸部族の力を結集しての元朝中国に対する戦いだったのかもしれない。
皮舟は北方海洋文化が生んだすぐれた舟だ。骨鬼の戦いにはカムチャツカやアリューシャンの皮舟を使う人たちも加わっていたのだろうか。
それにしても今回は厳しい旅だった。チームの陽気さ、まとまりの良さ、一人一人の協調性の高さがこの旅を成功させた。参加者全員に感謝したい。

2018年8月知床エクスペディション参加されるみなさんへ

2018-06-18 20:56:59 | 日記


申し込みには氏名年齢、連絡電話番号が必要です。
集合日の到着時間、フライトナンバー等を教えてください。

個人で準備するもの
寝袋・マット・着替え1組・防寒着・防水バック・ヘッドランプ・パドリングシューズ(使い古したスニーカーでもOK)・上陸靴・丈夫な雨合羽・水ボトル・常備薬・洗面具(熊がくるので香水禁止)・テント持参可・個人用酒・嗜好品

準備しているもの
カヤック装備一式・炊事道具・食器・食料・テント2~3人用・熊対策用品


・個人装備は最小限に抑えてください。装備食糧を各艇に分けて積み込むため容量に限りがあります。
・防寒具としてウールアンダーウェアと綿入りジャケットを用意してください。
・寝袋はつぶして小さくなる羽毛の2シーズン用とシュラフカバーの組み合わせが良いです。
・防水ドライバッグは濡らしてはならないものだけを入れるので、Sサイズ2つまででお願いします。
・上陸靴は軽いゴム長靴が良いです。時に豪雨となります。
・カヤック用としてうす底のスニーカーやフェルト張りの沢靴が役立ちます。私はフェルト底の地下タビを使っています。
・食事は集合日夕食から解散日朝食まで用意します。共同の酒はありますが無限にはありません。
・装備は現地でチェックします。貴重品などはデポできます。

知床エクスペディションは参加者全員がチームとして協力しながら知床半島を一周する旅です。ガイドに従ってください。また水汲みや薪集め、食器洗いなどお手伝いください。
・生水はエキノコックス症予防のため飲まないでください。
・単独行動は控えてください。ヒグマが潜んでいる場合があります。ヒグマは臆病な動物ですが猛獣です。

ガイド新谷暁生