巨大なチャンスンが静かに岩木山の方角を睨んでいる。
韓国では守り神のように村々の入り口に建つ魔除けの木柱だ。
韓国の陶芸家と同行してきたチャンスン制作の名人が
松宮氏と意気投合して出来上がった作品である。
先ごろは展示館の入り口に「NAOMI」という陶芸作品が設置された。
ギリシア陶芸界の大御所マロ・ケラスオッティさんの愛くるしい作品である。
マロさんは五所川原世界薪窯大会でおなじみの少女のように
天真爛漫なすてきなおばさんだ。
海外で活躍する陶芸家たちが毎夏この大会に集まり、
朝から晩まで必死に焼き物のことだけを考えて過ごす。
互いの手の内を公開し、金山の土で作品を作り、
批評し合い、新たな窯作りにも挑む。
一ヵ月のメニューはすこぶる濃い。
大会は津軽金山焼窯元松宮氏の発案と情熱に多くの人たちが共感し、
協働して産まれたものだ。
こんな大会が開催され続けていることは、
伝統やしがらみで身動きの取れない日本の陶芸界に
大きな風穴を開けた事件として痛快だ。
松宮氏のアイデアには国境も制度もしがらみもない。
想像力で飛行する人力飛行機ソロモンのように自在だ。
共感する周りの人たちをすうっと引き寄せ、
ロクロを回すようにしてアイデアを一気に造形にしてしまう。
出会ってしまった人々は、いつのまにか氏の夢に自分自身を
重ね合わせているのに気づく。
松宮氏は周りに集まったヒトビトを窯に放り込み高温で
一気に焼き締める術を知っている。
氏の手中では熟練した手わざ、純粋な驚きや共感、
欲望やささやかな祈りに至るまで、るつぼとなって
焼き締められ金山焼という巨大な器として生まれ変わるのだ。
松宮氏はすべてを許しているように見える。
許すことは自分のザマを晒すことである。
小手先ではごまかしがきかない本質がザマというものである。
氏は出会いの瞬間から人を安心させる。
それは深く、温かく心地よい。出会った人は必ず元気を貰う。
鯵ヶ沢なまりの津軽弁と精神科の看護師という経歴がそうさせているのかもしれない。
第一工房の奥に「社長室」という木札の掛った六畳の小部屋がある。
かつて松宮氏が寝泊りしていた部屋だ。
今は昼夜を問わず窯焚きする従業員の仮眠室となっている。
窯場で踊る私に、氏は決まってこの部屋を提供してくれる。
ここで着替え、薄暗い洗面台の前で白塗りし、
整然と棚に並ぶ窯入れ前の陶器たちの間を祈るようにすり抜け、
ザマを踊るために窯場に向かうのだ。
訪れるたびに新しい建物が窯場の風景を刻々と変容していく。
陶器の産地を作るという氏の夢が着実に進んでいるように見える。
チャンスンは風雪に晒され、ずいぶんと色あせてきた。
部屋の木札とチャンスンは朽ちるまでなくならないことを願っている。
あおもり草子 174号(2007年6/1)から転載
韓国では守り神のように村々の入り口に建つ魔除けの木柱だ。
韓国の陶芸家と同行してきたチャンスン制作の名人が
松宮氏と意気投合して出来上がった作品である。
先ごろは展示館の入り口に「NAOMI」という陶芸作品が設置された。
ギリシア陶芸界の大御所マロ・ケラスオッティさんの愛くるしい作品である。
マロさんは五所川原世界薪窯大会でおなじみの少女のように
天真爛漫なすてきなおばさんだ。
海外で活躍する陶芸家たちが毎夏この大会に集まり、
朝から晩まで必死に焼き物のことだけを考えて過ごす。
互いの手の内を公開し、金山の土で作品を作り、
批評し合い、新たな窯作りにも挑む。
一ヵ月のメニューはすこぶる濃い。
大会は津軽金山焼窯元松宮氏の発案と情熱に多くの人たちが共感し、
協働して産まれたものだ。
こんな大会が開催され続けていることは、
伝統やしがらみで身動きの取れない日本の陶芸界に
大きな風穴を開けた事件として痛快だ。
松宮氏のアイデアには国境も制度もしがらみもない。
想像力で飛行する人力飛行機ソロモンのように自在だ。
共感する周りの人たちをすうっと引き寄せ、
ロクロを回すようにしてアイデアを一気に造形にしてしまう。
出会ってしまった人々は、いつのまにか氏の夢に自分自身を
重ね合わせているのに気づく。
松宮氏は周りに集まったヒトビトを窯に放り込み高温で
一気に焼き締める術を知っている。
氏の手中では熟練した手わざ、純粋な驚きや共感、
欲望やささやかな祈りに至るまで、るつぼとなって
焼き締められ金山焼という巨大な器として生まれ変わるのだ。
松宮氏はすべてを許しているように見える。
許すことは自分のザマを晒すことである。
小手先ではごまかしがきかない本質がザマというものである。
氏は出会いの瞬間から人を安心させる。
それは深く、温かく心地よい。出会った人は必ず元気を貰う。
鯵ヶ沢なまりの津軽弁と精神科の看護師という経歴がそうさせているのかもしれない。
第一工房の奥に「社長室」という木札の掛った六畳の小部屋がある。
かつて松宮氏が寝泊りしていた部屋だ。
今は昼夜を問わず窯焚きする従業員の仮眠室となっている。
窯場で踊る私に、氏は決まってこの部屋を提供してくれる。
ここで着替え、薄暗い洗面台の前で白塗りし、
整然と棚に並ぶ窯入れ前の陶器たちの間を祈るようにすり抜け、
ザマを踊るために窯場に向かうのだ。
訪れるたびに新しい建物が窯場の風景を刻々と変容していく。
陶器の産地を作るという氏の夢が着実に進んでいるように見える。
チャンスンは風雪に晒され、ずいぶんと色あせてきた。
部屋の木札とチャンスンは朽ちるまでなくならないことを願っている。
あおもり草子 174号(2007年6/1)から転載