「こうですか?」
「いや、もう少し顎を引いて…。」
「そう。いいよ。」
話し声がした。
稽古場の一室から明かりが漏れていた。
剣を使った殺陣のシーンの練習だ…。
「そこで、ターンだ。そう、それから中央へ出る。」
「大分良くなったよ。」
「ふう!ありがとうございます!」
こんな夜中まで、稽古していたのか?
なぜかおれは、声を掛けられなかった。
2人の間には、不思議な緊張感があった。
「熱いのかい?」
年は50過ぎの中年の…、頭のハゲ上がったベテラン俳優が言った言葉は…微かに、熱をはらんでいた…。
「ええ…。汗をかきすぎました。」
開けっ放しのドアから様子をうかがい見ると、ベンジーは、青年貴族の舞台衣裳の白いひだのたっぷり入ったシャツの前を、大きく開いていた。
衣裳のボウタイをはだけた胸元に差し込み、汗を拭いていた。
ベテラン俳優の目の前に行き…、わざとらしく胸を拭き…、そのボウタイを取り出すと…彼の色づいた小さな突起が少しだけ見えるようだった。
「あなたは?暑くない?」
「わたしかい…?」
ベンジーは彼に更に近づいて、ブラウスの一部であるボウタイを引っ張って、彼を見上げながら、彼の首と顎をゆっくりと拭いた。
ベンジーは、ベテラン俳優よりは背が低かった。
ベンジーは、彼の汗を拭き終わると、彼を見つめた。
彼は、大きく呼吸をしながら、…ためらっていた。
ベンジーが、片方だけ、シャツを肩から落とした。
ベテラン俳優は、ビクッと身体を揺らした。
それから、
ゆっくりと…、
手のひらを、ベンジーの赤い胸の突起の上に置いた!
ベンジーは目を細めて顎を突き出し、片方の腕を、ベテラン俳優の首に巻き付けた!
男優はベンジーの首筋に頭を寄せて、赤い突起の上に置かれた手は胸をまさぐり、胸筋をつかむように撫でた後にその突起を摘まみ上げた!
ベンジーは、喘ぎ声を出した。
そうしながら、俳優の肩に顎を乗せ、俳優の背中がおれの方を向くように半回転させた。そうして目線を上げた。すると、おれと目が遭った。
ベンジーな、色っぽく微笑んだ。それから、悪戯を見つかった子供のようにおれに向かってウィンクした。
ベンジーのこころの声が聞こえて来るようだった。
テリィに見られちゃった。
だけど、それもいい。
彼が堕ちるところ見た…?
ふふっ。可愛いよね。
ああっ!
おじいさんのキスって、巧みで好き。
それから、愛撫も。
弄り方がやらしい!
「なんてきれいな肌だ!」
「あっ!」
かさついた手に、汗ばんで撫でられる。
もっと撫でて!
それから、腰を擦り付けた。
ああ!ちゃんと勃ってるね!
それでおれを楽しませてくれよ?
その、数日後、ベンジーは団長に呼び出されて、厳しく叱責された。
劇団内での恋愛を禁止された。
「恋愛というより、ナンパを禁止されちゃった!」
悪びれもなく、ベンジーは言った。
「だめなんだよねー。落とせそうなヒトがいるとつい、誘っちゃうんだよねー。」
「なーんか、最近、モヤモヤしちゃってさ!ない?そーゆー時!?」
ないよ。
その場限りの関係など、自分から結ぼうと思ったことはないね!
と、思いながら、冷たい目でベンジーを見た。
「ああっ!軽蔑してるー!!」
するさ!
「まー、他所で探すよ。はあーあ!束縛しなくて、遊んでもオッケーで、手軽にやれる相手が欲しい…。」
ベンジーが、ダルそうに言うと、
マックスが、ため息をついて言った。
「…性病には気を付けろよ。かかったら…、直らないからな?」
「本当は、深く永遠に愛してくれる恋人が欲しい。」
ポツリと、ベンジーは寂しそうに言った。
マックスは眉間にシワを寄せて目を細めて嫌な顔をした。
その数日後、おれは偶然立ち聞きしてしまった。
「ベンジー、おれはお前を深く永遠に心配する親友にはなれるからな…。」
ベンジーは、言葉を発しなかった。
たぶん、ベンジーは泣いたんだと思う。
オリキャラの話でゴメン。
ベンジー…ベンジャミン・アーカー
金髪碧眼の柔和な顔立ちの、美形。明るくて優しい愛されキャラ。
マックス…マクシミリアン・ダンテス
若手俳優らのまとめ役的存在。ダークヘア。穏和。真面目で実直な芝居をする。シカゴの中産階級の家の出。