前回から大分間が空いてしまいましたが、今回はジャズ(Doodle)タンギング練習メニューです。
ジャズ系のトロンボーン奏者の方ならDoodle(ドゥードゥル)タンギングを知っている、あるいは演奏に取り入れている、という人も多いと思いますが、全く知らない人のためにごく簡単に説明しますと、「ドゥ」の発音と「ル」の発音を交互に繰り返すタンギングをDoodleタンギングといいます。ただし厳密には「ル」は「L」の発音ではなく「D」と「L」の中間くらいの発音をします。Doodleタンギングの名手として知られるビル・ワトラスの教則本TROMBONISMSでは「DLE」と表記されています。
では、「D」と「L」の中間の発音である「DLE」はいったいどういう発音をするのか?という疑問が湧いてくると思いますが、「DLE」の発音についてはTROMBONISMSに記載されているイラストがとてもわかりやすいので、引用させてもらいます。
(ビル・ワトラス/アラン・ラフ著:「TROMBONISMS」より)
このイラストのように舌先は上の歯の裏に付けたままの状態で息が舌の両側を抜けて通ります。つまり「DLE」発音は通常のタンギングのように舌を離す動きはなく、舌先は上の歯の裏に付けたまま離しません。ですが、日本人にはこの「DLE」の発音を正しく解釈して発音することは難しいと思いますので、僕は「L」の発音でも良いのではないかと思います。「L」の発音よりも少し口の中を狭くして空気の流れを濁らせるようなイメージで発音すると「DLE」に近いニュアンスが出ます。
それでは、「D(ドゥ)」の発音と「L(ル)」の発音のニュアンスの違いを実際に聴いてみてください。
「D」と「L」の交互発音による模範演奏
「D」と「L」を交互に発音して演奏しています。
どうでしょうか。「D」よりも「L」の方が音が引っ込んで聴こえると思います。
まずは模範演奏のようなニュアンスが出るように遅いテンポで練習してください。
「D」と「L」の発音の区別がつけられるようになったら、次の練習メニューに入ります。
<Doodleタンギング練習パターン(1)>
メトロノームを2拍、4拍で鳴らして練習します。ジャズではアフタービート(2拍、4拍)が重要なポイントとなりますので、常に2拍、4拍を意識して練習してください。
「DDLD」をワンセットとして繰り返します。アクセントの音は「ダ」という発音をすると良いです。カタカナで表すと「ダ・ドゥ・ル・ダ」という感じになります。
実際のスウィング曲ではスウィングして(跳ねて)演奏しますが、このタンギング練習時にはスウィングせずに練習してください。スウィングしてしまうとスウィングすることに意識が集中してしまうためです。イーブンで練習することで、タンギングの方に意識を集中させることができます。
Doodleタンギングパターン1(中音域~低音域)の模範演奏
Doodleタンギングパターン1(中音域~高音域)の模範演奏
<Doodleタンギング練習パターン(2)>
最初のワンセットだけ「DDLD」で、以降「LDLD」の繰り返しになります。まさに「ルダルダルダルダ・・・」と言っているように聴こえるように練習してください。「ル」の発音が少し曇ったような奥に引っ込んだようになると良いです。
Doodleタンギングパターン2(中音域~低音域)の模範演奏
Doodleタンギングパターン2(中音域~高音域)の模範演奏
<Doodleタンギング練習の留意点>
1. メトロノームを2拍、4拍で鳴らすこと
2. 「D」と「L」の発音の区別がつくこと
3. 「L」の音が引っ込んで聴こえること
4. スウィングはしないこと(跳ねないこと)
5. 小さめの音量で練習すること
Doodleタンギングは、クラシカルな演奏法で楽器をきちんと響かせるような吹き方ではジャズらしいニュアンスを出しにくいので、楽器全体を鳴らすイメージではなく、マウスピースの中だけで(口先だけで)細かいニュアンスを表現するように意識すると良いです。クラシックでは絶対に御法度な奏法になってしまいますが、ジャズらしい表現を行うためにはクラシカルな演奏法から少し離れる必要があります。クラシカルな演奏法とジャズの演奏法とを上手く吹き分けられるようになれば理想的ですね。
余談として、Doodleタンギングの背景についても少し・・・
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Doodleタンギングはクラシック系の人にはあまり馴染みの無いタンギングなのではないかと思います。またジャズにおいてもDoodleタンギングは比較的新しいタンギングで、主にカール・フォンタナ、ビル・ワトラスなどが中心になって確立されたタンギングテクニックです。彼等以前のスウィング時代はもちろん、J.J.ジョンソン全盛期の頃でもまだDoodleタンギングは使われていませんでした。つまりDoodleタンギング確立以前のトロンボーン奏者は基本的に全てシングルタンギングのため(「TKTK」のダブルタンギングも使っていたかもしれませんが)、サックスやトランペットに比べるとフレーズの滑らかさがなく、少し硬いフレージングであったのが、Doodleタンギングの確立によってトロンボーンでも滑らかなフレージングが可能になりました。もちろんJ.J.ジョンソンのテクニックは神業といえるほど素晴らしいのですが、Doodleタンギングの名手カール・フォンタナは更にフレーズの滑らかが加わっているといえます。シャープで切れ味抜群のJ.J.ジョンソンに対して、カール・フォンタナは滑らかで流れるようなフレージング、といったところでしょうか。まぁ、好みの分かれるところですが、どちらのスタイルも素晴らしいですね。最近のジャズトロンボーン奏者の主流としては、やはりDoodleタンギングで滑らかなフレーズを演奏するタイプのように思います。
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今の段階ではDoodleタンギング練習の意図がよくわかなない、必要性を感じないという人もおられるかもしれませんが、スムーズなジャズフレーズを演奏するためには絶対に欠かせないタンギングテクニックですので、この単純な練習メニューできちんとDoodleタンギングを習得してください。後々登場してくるジャズフレーズ練習メニューでは必須のタンギングになります。今のうちにしっかり習得しておきましょう。
次回もDoodleタンギング練習メニューとなります。
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