「選挙とSNS(3)」
先の投稿(「選挙とSNS(2)」)を補足するものとして以下記しておく。
「SNSの問題点と危険性」
[SNSのフォロー機能]:
先の投稿で、SNSの問題点、危険性について、同質情報の集積、連鎖によるエコーチェンバー現象及び情報の変容(変形)について述べたが、更にエコーチェンバー現象で忘れてはならないのは、SNSのフォロー機能である。当方これをお気に入りのアイドルなどの投稿、情報を継続的に得るためのものとぐらいしか思っていなかったが、考えてみれば主義主張などの投稿もフォローしておけば同じ投稿者からのものが自動的、継続的に入ってくる。そうなると次第にその投稿者の考え、主義主張に染まってしまうということは容易に考えられる。
[SNSのリツイート機能]:
またリツイート機能を利用すれば、(不)特定多数の人に容易に情報の拡散ができる。これもエコーチェンバー現象の要因のひとつである。
当方ツイッターなどは使ったことがないので具体的にどのようなものかは分からないが、ChatGPTは次のように説明している。
ChatGPTより:
[フォロー機能]:
・フォロー機能は、TwitterやInstagram、FacebookなどのSNSプラットフォームで提供される基本的な機能の一つで、特定のユーザーの投稿や活動を継続的に閲覧できるようにする仕組みです。
・フォローのメリット:
(情報収集):
好きな芸能人、ブランド、ニュースメディア、友人などから最新情報を得ることができる。
(交流):
興味のある分野で活動している人々とのつながりを持つことができる。
(自己表現):
誰をフォローしているかが、自分の興味や価値観の一部を他人に伝える手段になる。
・フォロー機能は、自分の興味関心に合わせて情報を受け取るための便利なツールですが、相手との関係性や目的を考慮して適切に活用することが重要です。
[リツイート機能]:
・リツイート(Retweet)機能は、TwitterなどのSNSプラットフォームにおいて、他のユーザーが投稿したツイート(つぶやき)を自分のフォロワーにも共有するための機能です。リツイートを使うことで、自分が良いと思った投稿や他の人にも伝えたい情報を簡単に広めることができます。
・(簡単な拡散):
ボタンを押すだけで、情報を素早く多くの人に拡散できるため、ニュースや面白いコンテンツが急速に広がる一因になっています。
・リツイートは、SNSのコミュニケーションを広げる便利な機能ですが、使い方を誤ると誤解やトラブルの原因になることもあるので、適切に活用することが大切です。
この他、YouTubeなどでは、閲覧数(投稿画像に付随している広告の表示回数)などによって、収益を得られるなどという仕組みもあり、この為ユーザーの興味を引くために「事実ではなくとも、大げさに面白おかしく加工した」投稿を発信し、閲覧者を信じ込ませてしまうという危険性もある。
今回の選挙を見て米国でのトランプ現象を思い起こした。それはSNSの影響とは分かっていても、あの熱狂振りにはまだ理解できないものがあった。
しかし今回の兵庫県知事選でその理由の一端が分かったような気がする。
当方の兵庫県の知人は、大手メディアが情報を発信しないので、情報源として今回はSNSをかなり見るようになったとのこと。そして斎藤氏をかなり擁護していて、「(議会側の)百条委員会が今後どんな結論を出そうと全然信用しない。(知事側の)第三者委員会の結論を待つ。」とまで言っている。
普段は非常に人の好い、冷静な頭の良い人なのだが、やはりこれはSNSの影響と思わざるを得ない。(客観的視点を放棄してしまっているようだ。)
どうも人の好い人ほど、物事を疑うことなくこのようになってしまうのではという気がする。
(最初から疑ってかかる人は決してこのようにはならないと思うので)
以前、トランプ現象をカルト的と表現した記事を見たことがあるが、情報の入手はSNSにしてそればかり見ている人たちは、一度思い込んでしまうと他の意見は耳に入らなくなりそれ一本に進んでしまうのかも知れない。
ただ麻薬と違い中毒になることはなく、冷静になればまたすぐ元通りになるとは思うのだが。
また、今回の選挙戦では異常なほど相手を誹謗中傷する投稿が飛び交っていたようで、それは今でも続いているようである。
また選挙後、県議会百条委員会メンバーの一人である県議が辞職し、理由は一身上の都合としているが、実際はSNSによる多くの誹謗中傷があり、家族に迷惑がかかるからということのようである。
こうなると、今やネット(SNS)は相手を攻撃する言葉の凶器ともなり、無法地帯化してしまっているとも言える。
今回の選挙結果を踏まえての今後の課題としては、立法府は公職選挙法や放送法の見直しなど、マスメディア側は市民が現に欲している情報提供や、分かり易い、より正確な報道を目指すなどということが挙げられる。
以下、11月19日-11月21日の朝日新聞朝刊から今回の兵庫県知事選に関するものを幾つか記しておく。
*(新聞などのネットに掲載された記事は、「会員情報」としてネット会員以外は記事の全部を見れなかったり、「無断転載禁止」とされていたりして、情報の伝達に制約がある。しかしネットの場合は全く自由である。このことも大手メディアとネット情報との伝達の情報量、伝達度合いの違いを生み出している。)
「天声人語」兵庫県知事選(11/19)
「何が起きたのか、と驚いた人も多かっただろう。兵庫県の出直し知事選である。県議会から不信任を突きつけられた斎藤元彦氏が、大差で再選を果たした▼聞けば選挙戦は、全体に異様な雰囲気だったという。斎藤氏の街頭演説の場で、記者たちは「偏向報道」「帰れ」と聴衆から罵声を浴びた。候補者の一人が投稿した動画の中には「パワハラはなかった」と訴えるものもあった▼何を参考に票を投じたのかと、NHKが出口調査で尋ねたところ、最も多かった答えは「SNSや動画サイト」(30%)。「新聞」も「テレビ」(各24%)も及ばなかった。メディアにとっては悲しく、深刻な数字である▼おそらく、百条委で糾弾した議員も、稲村和美氏を支持した県内22市長も、政党も、メディアもみな同じ、既得権益の側とみなされてしまったのかもしれない。同じ出口調査では、斎藤県政を「評価する」人が7割にものぼった▼一方の目から見れば、斎藤氏は既得権益にいじめられている改革派だと映ったのだろう。しかし、部下の4割にパワハラを見聞きされていたのも、また斎藤氏である。見ている世界が違っている▼米国の共和党集会では、トランプ氏のあおりにのって「CNNくたばれ」などと聴衆が罵声を飛ばす光景が、もはや当たり前になってしまった。日本もそのとば口に立っているのかもしれない。既得権益側というメディアへの不信に向き合わねば、分断を防ぐことはできまい。重い課題をつきつけられている。」
(社会面)「共感 うねり生んだ有権者」「ネットに信頼感 斎藤氏を後押し」(一部抜粋)
「集会に訪れた人たちが相次いで口にしたのは、既存メディアへの不信感とインターネットへの信頼感だった。
「ユーチューブは顔を出しているし、勇気を持って真実を主張しているのがわかる」。西宮市の主婦(76)はコロナ禍以降、情報源がユーチューブになったという。
告示後には、「NHKから国民を守る党」の立花孝志氏らが斎藤氏の「潔白」を主張する動画をSNSで拡散。この女性も、斎藤氏の失職が県庁内の「クーデター」だとする動画を見るうちに、斎藤氏への投票を決めた。
県議会やメディアなどの「既成勢力」に対し、斎藤氏が1人で対峙(たいじ)するかのような構図も共感を広げたようだ。
斎藤氏は失職した9月以降、朝の駅前で1人であいさつに立つことから事実上の選挙活動を始めた。「斎藤さんがひとりぼっちになっちゃうなって」。西宮市の大学生の男性(20)は、SNSでの募集を見て、同市の集会に陣営ボランティアとして加わった。」
(社会面)「民意のゆくえ」(日大教授 西田亮介氏)(11/19)
「SNSに主張 突いたメディアの穴」(一部抜粋)
「新聞やテレビは公職選挙法と放送法を根拠に、選挙期間中は中立性を重んじる。ネットの興味関心は全国的に過熱したが、知りたいと思っていることがマスメディアからあまり伝わってこない。だからインターネットを開く。そこには斎藤氏の主張が広がっている。確信犯的というか戦略的という印象だ。
ーー選挙前には問題を取り上げていました。
やはり選挙期間中が重要だ。陰謀論を含めたネットで広がる言説について、マスメディアが対抗する報道をしてこなかった。「メディアは何かを隠しているんじゃないか」という有権者の疑心を過度に刺激することになったのではないか。報道姿勢を含め、果たしていまのままでいいのか、問い直すべきだ。」
「社説」「兵庫県知事選 百条委の調査 貫徹を」(一部抜粋)(11/19)
「「斎藤氏を応援する」として立候補した立花孝志氏は、その狙いに沿った動画をサイトに投稿し続けた。政見放送でも「元県民局長がありもしないことをでっちあげて、メディアがさも本当のように取り上げた」と主張。男性のプライバシーに関するとされる話も語った。
県議会百条委員会の調査では、男性への調査・処分が公益通報者保護法に反する可能性を複数の専門家が指摘。パワハラ疑惑についてもアンケートなどで一定数の職員が問題意識を示した。決して「ありもしないこと」ではない。
立花氏以外にも、様々な誹謗中傷や事実無根の言説がネット上で飛び交った。客観的な事実に基づき主張を戦わせる環境整備が急務だ。正確な情報の流通はテレビや新聞、雑誌にも求められる。よりよい言論空間を目指し、取り組みを重ねたい。
斎藤氏は、この3年間の県政改革の継続を三つ目の約束として強調した。ネット上では斎藤氏と対峙(たいじ)してきた県議会を「既得権益者」と見なす発信が少なくなかった。」
(社会面)「民意のゆくえ」(JX通信社 米重克洋氏)(11/20)
「応援のため立候補、票動かす 兵庫知事選」(一部抜粋)
「斎藤氏は演説が特別うまいわけでも、これまでSNSを効果的に使ってきたわけでもないが、公職選挙法が想定していない「他の候補者を応援する」と立候補した、立花氏のアシストが大きかった。選挙期間中にユーチューブ内で候補者名が検索された回数を分析すると、同県尼崎市前市長の稲村和美氏よりも斎藤氏の方が多かった。だが、立花氏の検索回数はその斎藤氏を圧倒していた。通常の選挙であれば立花氏が当選する動きだが、応援している斎藤氏の票につながった。
文書問題の報道ですでに知名度が高かった斎藤氏について、立花氏が得意のユーチューブで「真相はこうです」と繰り返し発信し、リアルでも斎藤氏の前後に同じ場所で演説した。ネットとリアルがかみ合って結果につながった。」
「選挙期間中のマスコミは、候補者間の公平性を意識するあまり、候補者の報道が抑制的になりがちだ。斎藤氏の文書問題への関心は高かったはずだが、選挙期間中はあまり報じられなかった。マスコミが大きな力を持っていたからこそのルールだと思うが、SNSの情報が大きな力を持つようになったいま、その判断についても妥当性が問われているのではないか。」
(社会面)「立花氏 当選を目指さず兵庫県知事選に立候補」(11/21)(一部抜粋)
「選挙ポスターに「斎藤氏は違法行為はしていない」」
「選挙は効率いい。ユーチューブ見てもらえる」
「「2馬力」の選挙戦 フェアとは言えぬ 専門家指摘」
「選挙戦で、立花氏は次のような選挙運動を繰り広げた。
街頭演説の会場は事前にSNSで公表する▽斎藤氏の演説の前後に同じ場所でマイクを握る▽斎藤氏に対する内部告発文書を「あれは内部告発ではない」などと主張し、「パワハラ」や「おねだり(物品の受領)」も否定する▽「メディアが言っていることは何かおかしい」「(斎藤氏は)悪いやつだと思い込まされている」などと聴衆に訴える――。
決まり文句は「僕に(票を)入れないでくださいね」だった。多くの人は、立花氏と斎藤氏の演説をセットで聴いていた。選挙ポスターには「前知事は、犯罪も違法行為もしていませんでした」「テレビの情報だけではなく、インターネットで調べてみてください」などと書いて掲げた。
ネット上での発信にも力を入れた。街頭演説の様子は、陣営がユーチューブで配信。自身が兵庫県内にいない日も含めて動画を配信するなど、SNSをフル活用した。
斎藤氏を応援するなら、なぜ立候補する必要があったのか。
立花氏は立候補の表明会見で「当選を目標にしなきゃいけないんだって思い込んでいる常識をちょっと覆したい」とし、「選挙って効率いいんですよ。やはり選挙に出るからユーチューブを見てもらえる」と語った。
選挙結果は約111万票(得票率約45%)を獲得した斎藤氏に対し、立花氏は約2万票(同約1%)だった。
立花氏の「効果」について、斎藤氏陣営の一人は「『神風』が吹いた一要因であるのは間違いない」と認める。一方、約14万票差で敗れた稲村和美氏の陣営関係者は、「こちらが1馬力、あちらは2馬力で走った」と表情を曇らせた。
公職選挙法は、選挙の公平性を担保するために候補者1人あたりのポスターや選挙カーの数などを制限している。総務省選挙課は「法解釈上、候補者は他の候補者の選挙運動ができない」と説明。立花氏の活動については、「警察が判断していくものだ」とした。
専門家からは疑問の声が上がる。選挙プランナーの三浦博史氏は、立花氏の戦略が「斎藤氏に対する『判官びいき』に火をつけ、強烈な追い風となったはずだ」と見る。
「2馬力」について「フェアとは言えない。これが許されれば、誰かを当選、落選させる狙いで複数人で立候補し、ポスターや選挙カーを増やした運動が可能になる」と問題視。「本人の当選を目的としない立候補は認めない旨を公選法に明記すべきだ」と語った。
(社会面)「民意のゆくえ」(東大教授 鳥海不二夫氏)(11/21)
「「物語」に共感 SNSで支持」(一部抜粋)
「選挙中は斎藤氏を「サポートする」ために立候補した、政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏の存在もありました。
Xの分析では、立花氏が応援すると言った10月下旬から、斎藤氏を支持する言及が増えた。一定のファンがいて、それに追従する別のインフルエンサーも登場した。」