話の種

新聞やテレビ、雑誌などで、興味深かった記事や内容についての備忘録、感想、考察

「もしトラ」について

2024-03-25 13:04:53 | 話の種

「もしトラ」について

朝日新聞に「「もしトラ」報復のシナリオ」と題する記事があった。
これは米国大統領選挙についての連載記事の第二部「トランプ再来」と題された記事の最初の表題だが、記事を読んで恐ろしさを感じた。
このような人物が本当に大統領になるようなことがあるのだろうか。(実際前々回はあったのだが)

記事の要旨を抜粋してみると、

・「皆さま! 米国の次期大統領、ドナルド・J・トランプの登場です」
「11月5日は勤勉な米国民にとって新たな『解放記念日』となる」。トランプ氏はそう言うと、続けた。「だが今の政府(バイデン民主党政権)を乗っ取っているウソつきや詐欺師、検閲官、ペテン師たちには『最後の審判の日』になるのだ」

・もしトランプ氏が再び大統領になったら――。日本のメディアでも「もしトラ」という言葉が流行し、米国でも「第2次トランプ政権」を予期する報道が増えた。国境を封鎖して移民を追放し、短期的な利益を優先した「ディール(取引)」外交を繰り広げる――。政策面は「第1次」政権の延長線上にも映る。だが今回は2016年や20年の大統領選にはなかったテーマを掲げている。「報復」だ。

・「不当な扱いを受け、裏切られた人々へ――私は皆さんに代わって『報復』を果たす」。自らを「魔女狩り」の「被害者」だと演出するトランプ氏に支持者は共鳴している。

・「選挙が盗まれた」という自らのウソを棚に上げ、現政権を「ウソつき」と非難し、「審判」を宣言する――。トランプ氏の政治宣伝には論理の転倒がある。議事堂襲撃事件で現実の暴力を生み出したことを踏まえれば、危険性は明らかだ。

・いま、トランプ氏は「公約」として「ディープステート(影の政府)」の解体を掲げる。米政財界の特権階層やメディアがひそかに世界を動かしている、という陰謀論を背景とした言葉だ。より専制的な性格を強めた「第2次」では、トランプ氏が司法機関を掌握してバイデン政権の関係者を刑事訴追する、といった観測まで出始めた。

そして記事はかつてトランプ政権の戦略立案者だったバノン氏への取材記事を次のように記している。
(バノン氏は前回の大統領選をめぐり「トランプ氏の勝利が盗まれた」と根拠のない宣伝を重ね、主要なSNSから排除された人物)

「冗舌な語り口で」

「第2次トランプ政権」に話を向けると、トランプ氏を代弁するように冗舌に語り始めた。
「彼はまず『侵略』の問題に取り組む。初日にはメキシコとの国境を封鎖するだろう」
「日本がよい関係を築きたければ、トランプ氏がフェアだと考える貿易の『ディール(取引)』に取り組むことだ」

いずれも、「第1次」のトランプ政権を思い起こさせる言葉だ。ただ、今回の取材で特にバノン氏が強調したのが、トランプ氏が「ディープステート(影の政府)の解体に即座に着手する」ということだった。

米政府の職員を、過去に例のないほどの規模で「総入れ替え」する――。それがトランプ氏の構想だという。大統領の権限で任命できる政府職員を現在の4千人から5万人に増やし、「十数万人に上る契約職員を全廃する」と予測した。

トランプ氏が問題視する「影の政府」の中核としては、米軍を統括する国防総省、中央情報局(CIA)などの情報機関、司法省などの法執行当局を列挙した。「特にFBI(連邦捜査局)に目を向けるだろう。FBIを完全に閉鎖し、予算もゼロにしてしまえばいい。警察は州ごとにあれば十分だ」。そう、バノン氏は言い放った。

四つの事件で起訴されたトランプ氏は、捜査機関を敵視し、陰謀論を背景とした「影の政府」の批判を重ねてきた。その「解体」は、実態としては大統領の権力を使った恣意(しい)的な「報復」にもつながりかねない主張だ。

トランプ氏は前政権末期の20年10月、政策決定に関わる職員を「スケジュールF」という区分に振り分ける大統領令を出した。「F」に分類されると雇用保証を与えられず、解雇しやすくなる。大統領選でトランプ氏が敗れたため、この施策は頓挫した。だがトランプ氏は、再び大統領になれば実行に移すと公約している。「F」に分類され、入れ替えの対象になり得るのが5万人程度とみられている。

「専制主義体制」

米アメリカン・エンタープライズ研究所のジョン・フォルティエ氏は、「第2次」の可能性を見据え、人材供給の準備も進んでいると指摘する。トランプ氏に近い連邦議員や州知事の政策スタッフのほか、トランプ氏やバノン氏が主導してきた「MAGA(米国を再び偉大に)」運動に賛同するトランプ政権の元幹部らだ。保守系のヘリテージ財団が発足させた「プロジェクト2025」にも100以上の保守系団体が参加し、「第2次」で働く人材を募っている。

米ジョージタウン大のドナルド・モイニハン教授(行政学)は、トランプ氏の狙いについて、政府職員を解雇の脅しで服従させ、行政府を自らの保護や政敵への攻撃に利用しようとしているとみる。「行政機構を元首の思い通りになる組織に変えるのは、専制主義体制にみられるやり方だ」と危機感を募らせる。

「民主主義は投票では終わらず、政府の運営も重要な要素だ。説明責任やデュープロセス(法の適正な手続き)、憲法への忠誠、誠実さが脅かされたとき、民主主義そのものも脅かされる」(ワシントン=望月洋嗣、高野遼)

 

ここで前回に続き、藤原帰一氏の次のような記事を記しておく。(朝日新聞「時事小言」2024/3/13)

「私たちが民主主義と呼ぶ秩序は法の支配を基礎とする自由主義と、市民の政治参加を基礎とする民主主義が、互いに緊張をはらみつつ結びついた政治秩序である。ここで選挙によって選ばれた政治指導者が、選挙による授権によって法による拘束を取り払って政治権力の集中を試みた場合、自由主義と法の支配は退き、民主主義の名の下で強権的支配が生まれてしまう。」

問題は、権力集中を受け入れるばかりか積極的に支持する国民がいることだ。トランプは複数の刑事訴追と民事提訴を受けながらそれらの裁判を魔女狩りだと呼び、検察官や裁判官を名指しで非難している。戯画的なほど法の支配を無視する存在だが、そのトランプに投票する人は実在する。自由主義と法の支配を排除する政治指導者に付き従う国民が、ハーメルンの笛吹き男に従うように、自ら望んで自分たちの自由を放棄するのである。

トランプだけではない。ロシアのプーチン大統領は選挙で選ばれた。現在に近づくほど選挙は形骸化し、獄死したナワリヌイを筆頭にプーチンに対抗する候補は排除された。既に民主政治とは呼べないが、プーチンを支持するロシア国民は存在する。

イスラエルのネタニヤフ首相も選挙で選ばれた。国内の支持が弱まり、政権維持が難しくなったなかでガザ攻撃が展開された。ネタニヤフへの支持は低迷しているが、イスラエル軍への国民の支持は固い。

トルコのエルドアン大統領、ハンガリーのオルバン首相など、民主政治のなかから権力を集中した指導者は数多い。そこでは議会と司法による政治権力の規制、さらにマスメディアによる政治権力の監視が極度に制限された。インドのモディ政権、そして日本の安倍政権においても、マスメディアへの圧力が強められた。

自由主義を排除すれば民主主義は自滅する。「もしトラ」などと観測するだけでは状況追随に終わってしまう。政治権力の監視と法の支配がいまほど求められる時はない。」

 

コメント

トランプ人気について

2024-03-18 11:42:02 | 話の種

「トランプ人気について」

我々日本人から見るとトランプというのは言うことなすこと無茶苦茶で、なぜこのような人物が米国で今回も大統領候補として人気があるのか不思議でならない。
そこで新聞や雑誌、ネットなどでその要因として記載されているものを整理してみた。
(当方これ迄トランプの支持者は、中西部及び南部の農民及びブルーカラーで非知識層がほとんどだと思っていたが、必ずしもそうとは言い切れないようである)

トランプは「反エスタブリッシュメント」「反移民」「反グローバリゼーション」というスローガンを掲げている。

「反エスタブリッシュメント」
トランプは自らを政治的なアウトサイダーとしてキャンペーンを展開し、これは既成政治に不満や反感を持ち、政治の変革や刷新を求める人々を引き付けることに役立った。

*(エスタブリッシュメントとは、「社会的に確立した体制・制度」やそれを代表する「支配階級」を言う)
*(2016年の大統領選挙でヒラリー・クリントンがトランプに敗北したのは、メール問題に加えエスタブリッシュメントの代表と見なされていたことがその一因とされている)

「反移民」
メキシコとの国境に壁を作り移民の流入を阻止するとしたが、これは移民により自分たちの雇用は狭められ、移民保護に自分たちの税金が無駄使いされているとする人々の不満を吸収することに成功した。

「反グローバリゼーション」
経済のグローバル化や技術革新の影響で雇用や経済的安定性に不安を感じている人々の支持を取り付けた。

*(従来、共和党は保守・金持ち、民主党はリベラル・弱者の味方と見られていたが、近年はこれが逆転し、民主党は富裕層、高学歴のエリート集団と見なされ、労働者層の支持は共和党に流れるようになった)
(「リムジン・リベラル」という言葉があるが、これはリベラルな政策や価値観を表明するがそれは口先だけで、高級なリムジンに乗っているなど実際の行動が伴わない人々を指す)

*トランプは「Make America Great Again(アメリカ合衆国を再び偉大な国に)」としきりに口にしており、これは弱者である人々を引き付け、将来に希望を持たせることに成功している。
(一般的に米国民は他国のことには関心がなく自分第一と思うところがあるので、トランプの言動が他国で顰蹙を買っても意に介さないと思われる)


現在トランプは「連邦議会襲撃事件」「機密文書持ち出し」「不倫口止め問題」など様々な問題で刑事告訴されており、世論調査でも半数以上が「大統領として不適格」と答えているが、それでもトランプ人気は衰えていない。

ではこのようなトランプ人気の背景には何があるのだろうか。

朝日新聞に大統領選挙について取材した連載記事があり、トランプを支持している人々の様子および声を次のように伝えている。

・「世論調査では共和党員の6割はトランプ支持だが、トランプ支持者はニューカマー(新参者)が多い」
そして幾人かの次のような発言を紹介している。(アイオワ州の共和党事務所で)
「政治に興味を持ったのはトランプが登場してから。甘い言葉でごまかすことなく、本気で話をするのがいい」(57才)
「トランプが大統領だった4年間、メディアも司法省も、ウソの主張でトランプを攻め続けた。あれを見て「我慢できない。トランプの助けになるために何かをしないと」と考えた人たちが、次々と事務所のドアをたたいた」(67才)
「トランプは金持ちなのに我々と同じような言葉遣いをする。選挙後も態度は変わらない。そんな人物を、どうして悪いヤツだと言うことができるんだ」(64才)

・「トランプの選挙運動の特徴として、個人の小口献金の多さがある。トランプ支持者には「政治が一部の富裕層や特権階級に牛耳られている」という不信感を抱く人が実に多い。トランプ自身もカネを追い続けてきた大富豪ではないか。だが、トランプに対しては、逆に「大口献金者に頼らない政治家だからこそ正しい政治をしてくれる」という有権者の期待につながっているのだ。」

・(トランプ支持者の多くは大手メディアに不満や不信感をもっている)
「(米主要メディアの)ABCやCNNは考え方を押し付けてくる。偏向報道にお金を払うのはもうやめようと決めた」(主婦64才)
代わりの情報源はインターネットだ。保守系ネットメディアの見出しをチェックして、SNS「テレグラム」で気に入ったチャンネルを回遊するのが日課だ。
「私の妹のように、仕事が忙しくてCNNを信じる人もいる。それは仕方がない。でも私は、新型コロナで休校中にパソコンで自ら調べることを覚えて、いかにメディアが信用できないかを知ることができた」(元教師60才)
言葉の端々ににじみ出るのが、既存の政治やエリート層に強い不満を持っていることだ。

以上、これらトランプ支持者の発言を見てみると、富裕層や既存の特権階層に対する反感が強く、彼らは大手メディアの言うことは信じないということで一致しており(本当にそのように思っているので始末が悪い)、インターネットで自分が信じたい情報だけを得ているようである。また物事の一面だけを見て単純に考える(私に言わせれば単細胞な)人が多いようである。

なぜそうなってしまうのか。
その答えとして、NHKの記者が米国保守系メディアの創設者と話した下記記事が参考になる。

「彼は、トランプ氏が支持者に対して自分の言うこと以外信じないよう仕向けてきたと指摘した。それは私自身も何度も経験した、トランプ氏が大規模な集会での演説で毎回繰り返してきたパフォーマンスだった。

「Turn the camera. Turn it.(カメラを振るんだ)」
トランプ前大統領は演説を撮影しているテレビカメラの放列に向かってこう発言する。

カメラを左右に振って会場を埋め尽くす支持者を撮影して、どれだけ多くの支持者が集まっているかを伝えるんだ、と要求するのだ。しかし、演説を取り逃すわけにはいかないメディアはカメラを動かさない。

そこで前大統領は「待ってました」といわんばかりにこう発言する。
「メディアはどれだけ人が集まっているか見せたくないんだ。とんでもないフェイクニュースだ」
支持者は大いに盛り上がる。
「なるほど、トランプの言うとおりなんだ。メディアは本当のことを伝えないんだな」
というわけだ。

そして、数千人規模の人々が一斉にテレビカメラの方に向いて顔を真っ赤にして「出て行け」と叫ぶ。カメラの脇に立っていた私は何度もその迫力に気圧されんばかりの感覚を覚えた。こうした手法を積み重ねて大統領はメディアへの不信感を植え付けてきたというのだ。

トランプ支持者が好む、「メディアが伝えない本当の現実」の構図が出来上がり、人々はそこに吸い寄せられていく。

また彼は次のようなことも述べていた。

メディアの人間は、人々が報道で事実を知り、それを元に何が正しいのか判断すると思い込んでいるが、現実はその逆だという。
分断されたアメリカでは、まず人々の立場が予めあり、その立場を守るための主張や言説を信じるというのだ。

(アメリカ社会は今二極化していると言われているが)価値観が激しくぶつかる中で、トランプの敗北を認めることは、自分の価値観、ひいては自分自身の否定につながってしまうという。」

そして、ここで最後に藤原帰一氏の下記記事を記しておく。(朝日新聞「時事小言」2024/3/13)

「州予備選挙を前にした米国ジョージアでトランプが演説した。2020年大統領選挙は不正だったとか越境する移民がわが国を征服しているなどの誤りと誇張に満ちた演説のなかで、見ていて苦しくなったのがバイデン米大統領の物まねだった。バイデンが吃音(きつおん)に苦しんできたことはよく知られているが、トランプは吃音を再現、というより子どもが吃音者をいじめるように、大げさに演じたのである。

体に不自由を抱える人をトランプが物まねするのは初めてではない。それでも、人の苦しみに寄り添うのではなく嘲(あざけ)りの対象にする人間が再び米国大統領になる可能性を考えると、胸が苦しくなった。」

 

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