創業50年になる和菓子屋で2年前から販売のパートをしている。
地域ではそこそこ有名で高いが贈り物に良いと言う事で根強いお得意様がいる。
店の奥ではパソコンで顧客管理を行っている。そこにはいついつ何々どういった理由でお買い上げか、家族関係やざっくりとした年収や誰々のお知り合いなどの個人情報までが入力されている。
もちろん全てのお客様では無く店が力を入れて繋いでおきたい人だけである。
ある日70代後半くらいの男性が痩せた体で杖をつきながら来店された。
か細い声でゆっくりと一つ一つ和菓子を選ばれた。私も呼吸を合わせゆっくりとお聞きする。
きれいに盆にのせられた和菓子たち。
男性はそれを店から自転車で10分ほどの娘さんのお宅に届けて欲しいと言う。
お得意様ではよくある話で車で30分の距離でもお届けする。来店しなくても電話だけでもお届けする。
私は当然かしこまりましたと言って伝票を作りにかかった。
するとそれを見ていたパートリーダーが奥で手招きし「お断りして」と告げてきた。
理由はトラブルになると困るから。
男性のお宅は店から10分くらいのところでその近所にはお得意様が多い。
男性のお宅と娘さんの住所は店を挟んで
反対側である。
私が自転車でお届けしますがと食い下がった。それでも駄目だと言う。
男性が和菓子を持って歩くのは大変そうなのに一見さんはお断りだと言う。
実はその方一見さんでは無く以前から来店されては一つずつ買って帰られていた。
パートリーダーは興味が無いのだ。
電話口で名前も名乗らず声だけでわかりなさいよ私よと言うお得意様が大切なのである。
困り顔の私を見て男性の職人さんが届けてあげるよと言ってくれた。
社長に叱られますよとリーダーが言うと社長より勤務歴が長いその職人さんが全部自分が責任持つから大丈夫と届けてくれる事になった。
その日を境に10人居るパートさんたちの様子が一斉に変わった。