父は実家である団地に時々顔を出していたようだ。
あまり覚えていない。
4歳になった頃そんな父が「おかあさん」と共に私を迎えに来た。
おかあさんは産みの母親でないことは幼心に分かっていた。
団地の家族は良かったねと安心して私を送り出した。
私が大人になった頃、耳の聞こえない祖母が「淋しかったよ、かわいかったてのちゃんを二人がさらって行っちゃった」と目を細めて言った。
私は隣の部屋で声を上げて泣いた。
おかあさんはとても優しく私を毎日抱きしめて色んなお話をしてくれた。
おかあさんは3人姉妹の真ん中だった。結婚して子どもが二人いる姉と、独身の双子の片割れの妹がいた。
私にいとこが出来てお泊りもした。おかあさんの父と母、つまりおじいちゃんおばあちゃんも出来た。その二人もまた優しかった。
双子の妹は私の事が嫌いなようだった。
何をするにも一緒、言葉にせずともわかり合える。そんな特別な存在だったに違いない。
急に妻子持ちの男と結婚して、あまり躾のされていない子どもの面倒を見させられている双子の姉を不憫に思ったのかも知れない。
優しいおかあさんによく似た顔の、しかしどこか冷めた目をしたその人はよく私を睨みつけていた。