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私の中の「ま、いいか」なブラック&ホワイトホール

村上春樹★1Q84 感想

2009-06-04 | 
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村上春樹★1Q84
村上春樹★1Q84 読書メモ
村上春樹★1Q84 読書メモ 2

まず、大きな私的感想として、この作品は嫌いではない。
けれど、現時点では好きでもない。
すぐに判断できない、それは今までの村上作品とは違うかもしれない(私にとって)
いろんな意味でかなり興味深い作品であることは確か。

読書終了直後に感じたこと:
行動せよ、強く求め、それを得よ

時間をおいてもう一度読んでみる予定ですが、
以下、現時点での超私的雑感。(物語の概要ではありません)

以下、ネタばれまくりですので
読書中、もしくはこれから読まれる予定の方で
ストーリーを知りたくない方は避けていただくほうがよいです。



●すべての小説は空気さなぎだということ。作者は物語をつむぎ、自分のドウタ(分身、影、観念)を生み出し、読者は物語を受け取り、やはり自分のドウタを生み出す。パシヴァとレシヴァ。それは一種の生殖のない性行為のような関係でもある。
●ある時点で小説家もまたレシヴァであり、なにか(誰か)をパシヴァとして物語を受け取る。
●小説はウイルスのようにメッセージを世界にばらまき、小説家はそうしたウイルスの保菌者であり、うまくすれば世界を変える力を持っている。
●選び取る、ということ。そして選びとる本人が世界に含まれているということ。
 世界が本人を選び取るのか、本人が世界を選び取るのか、その意味するところは同じだ。
●どちらが主体かが問題なのではなく、受け取ったのが自分であることが世界を成立させ、それを自分の物語として引き受けることが、自分を生き続けさせる。
●自分が信じさえすれば、どんなものであれそれが現実世界だということ。たとえ月が2つ出ていても、それがペーパームーンであっても。フィクションであっても。
●そしてそこには変化があり、一度変化したらその前には戻れないということ。
●自分にとって絶対的に大切ななにかを持つこと。

可能性Q:
●『1Q84』全体を天吾の書いた物語としても読める。

全体構成は『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』にも似ている(そしてやはり秀逸だと思う)けれど、一歩進んで、というか、全く別設定というか“ワンダーランドもまた現実だ”という描かれ方をしていて、寓意ではなく「リアル」と向きあってる感が強い(そして出口はない)。
失われた母や恋人は『海辺のカフカ』にも続いていくし、
リトルピープルは『TVピープル』的だし(こうして考えると、私は作品集として『TVピープル』が苦手だったのだけど、そのスイッチングの理由がなんとなく腑に落ちた。・・・気がする。)、『めくらやなぎと眠る女』にも通じるニュアンスがあるし、
父との再会エピソード(実はこれがある意味一番印象的だったりする)はどことなく『どこであれそれが見つかりそうな場所で』を思い起こさせるし、
犯されなければならない巫女は『加納クレタ』から引き続いてるし、
読みきれない&行き違う「強い思い」は『ノルウェイの森』だし、
そしてベースは『100%の女の子』だし、
村上作品の図書館を彷徨ってるような印象。(図書館員は羊男で)
最終的には作者と読者の『自分探し』バリエーション。とも言いきれたり。(生きること、と同じ重みづけで)

かくかように自分との接点を探してしまう作家は、私にとっては
村上春樹しかおらず、そういう意味で
「あぁ、村上春樹を読んでいる」というある種の満足感は強い。

ただ、この本が初・春樹・体験な読者もいるわけで、
私としてはそういう読み方をしてみたい、と願ってしまった。
(“自分”という雑音がうるさいので;)

要素が多く、また放置されているけど、主旋律があるので
それを追っている限りは気にならない。
破綻もまた世界、な感じ。

意外だったのはカルト集団の扱い方。
それがメインテーマだと思ったけど、偏執狂的な人々そのものより
彼らを汚染させる「リトルピープル」的ななにかが「悪」なのであって
汚染された人そのものは悪くない(たとえ行為は悪でも本人だけのせいではない、というべきか)、という感じを受けた。
弱さみたいなもの、それは悪ではない、というか。
そして、たとえばそれはシホンシュギに汚染されている人々も同様に。
まぁ、勝手な解釈ですが。
はじめはそれが主旋律だと思ってたので、そのあたりの追い込みは
「え?」という部分も残しつつ。

あとやっぱり一部の性的表現は不必要感も感じつつ。
(生み出すという行為はSEXに通じていくのだろうか。
いずれにしても村上春樹の作品はある意味非常にマッチョだ。
私からすると男性感覚に満ちている。(性差別ではなく性分担的に

所詮、読書は個人的体験でしかなく、
1人1人が1人1人「村上春樹」と交わるものでしかないのだ、と思いつつ。
(読むという行為もまたSEXに通じていくのかもしれない、よくわからない。
や、遺伝子の結びつき=確かにコミュニケーションのベースとはいえますが。

今はとりあえずここまで。
熟成するか、そのままの感想で留まるか、それはまた次の機会に。


参考:
1Q84(池田信夫 blog)

『1973年のピンボール』が好きなone of読者の感想として
なんかコンパクトにうまくまとまってるのでリンク。
(感想そのものはかなり違いますが)

古典的な「純文学」とか、「国民的作家」とかって
なかなか難しい記号だ。
「国民的作家」の事例が不明なままではありますが、例えば夏目漱石だとしたら、そうした文豪登場の条件には時代性(「戦前」「高度成長期」等なperiodな意味で)や人口構成も大きいと思いつつ(読書人数の経験累積も含めつつ)。
今や誰でも自称・ネット作家になれる時代、
「国民的」かどうかがその時点での読者人数で決まるのなら、ある意味村上春樹は今一番ホットな「国民的作家」かもしれません。
・・・タレント本のほうがより「国民的」かもしれないけど。

村上春樹が日本の現代文学をどう見てるかは、『1Q84』に明快かな、と。

いずれにしても、個人の感想は自由だし、
読書体験って、読者が作品に
いつ・どこで・どう出会うかがすごく重要だとも改めて思うわけで。
(課題図書なんてものではない限り・・・いや課題図書という出会い方
も「あり」ですね、多分)

村上春樹中毒者のためのインターネット情報源

関連:
村上春樹:「1Q84」が1、2巻で34万部 「ノルウェイの森」も急上昇
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15 コメント

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Unknown (212)
2009-06-06 10:09:34
始めまして、212といいます。
1Q84・感想で検索していてこのblogへ
たどり着きました、とても面白い感想でした。
リンクを貼っておくので、よければ僕の
blogへも遊びに来てください。
返信する
212様 (NAL)
2009-06-06 19:13:11
始めまして、212様、
コメントありがとうございます。

1Q84読了後、いままでの作品を全部読み返したい願望に
襲われています。
212様の書かれていたアーティクルを拝見していたら
初期三部作も読まなくちゃ、という気分になりました。
1Q84で、今までの世界が揺さぶられてるんだと思います。

季節的にも、続編の話はかなり濃厚にありえそうですね。
>今までの村上作品の『あちら側とこちら側』ではなく
>同じ世界でハッキリと生きていく作品になって欲しい。
に強く強く共感します。

すべての登場人物が作者の分身だとして、
今は、傷つき苦しむリーダーが一番春樹氏自身にかぶります。
頑張って!と思っています。
返信する
sarusine (sarusine)
2009-06-08 11:15:54
私はまだこの本を読んでいません。しかし、アフターダークや東京きたん集(アフターダークは昨年の年末、東京きたん集はつい先日)を読み、そして、1Q84の書評をNETで読み、村上氏が試みようとしてくれているコトが、分かりました。村上氏は被害者の味方であると、確信しました。
アフターダークでTVの向こう側にいる薄汚い老人、品川猿、そして、動く腎臓、TVピープル(実はまだ読んでませんがNETで少し読めた)、私にとってすべて個人的に切実に、日々なんとなく気味の悪い、恐怖の存在でした。TVドラマに登場する名前、性格、職業、趣味、なんでこんな偶然が起こるんだろうと、ずっと、不思議でなりませんでした。
これは実際に起こっている現実。
そう、確信しました。
以前、学生時代にニューエイジ(?)的(?)な知人が存在しました。奇怪な宗教の代表者達のパーティーに、本当に偶然参加することになり(音楽会の後、同じ会場の一室で行われた会合で、軽食が出るから寄ってみる?と誘われた)、真顔でナントカ星の宇宙人ナントカから交信があって・・・等の情報を交換した後、皆がせっせと名刺交換をしている姿を見て、一緒に同席した友人とおかしがった経験があります。
冗談抜きで、人権侵害も甚だしい、この国では、とんでもないコトが起こっていると、村上春樹氏の小説を読み、確信に至りました。
助けてください。
返信する
sarusine様 (NAL)
2009-06-08 17:36:20
コメントありがとうございます。

個人的な体験やメッセージは、もし誰かに真剣に伝えたいのであれば
できればご自身のサイトやブログできちんと記事にされたほうが
伝わりやすいと思います。
(ここは個人のブログのコメント欄なので、極めて閉鎖的ですし、
この記事は『1Q84』という本に対する感想なので。)

書評も興味深いものが多いですが、
『1Q84』の場合、読後感想は個々人でかなり異なるとも思いますので、
ぜひ『1Q84』を読まれて、ご自身の感想をコメントいただければ幸いです。
返信する
Unknown (Unknown)
2009-12-06 01:33:05
こんにちは。
私はこの1Q84が初めての村上作品でした。
そして、ついさっきこの作品を読み終えたばかりです。
ですから、まだちゃんと理解できていない部分もあると思うのですが、感想としては「いきなり幕が閉じた」というのが一番しっくりきます。
いろんな情報を提示されて、だんだんと真相まで近付いていったような気がした。まさにその瞬間に、ぽんとどこかへ置いてけぼりをくらったような感じです。
返信する
Unknown様 (NAL)
2009-12-06 23:50:20
こんにちは。コメントありがとうございます。
(できましたらなにか仮のお名前でもあると、
「アラシかしら?」とドキドキしなくて済みます。
ご検討ください。)

第3巻が出るのが決定していますので
Unknown様の感覚は正しいのでは?

ただ、もし2巻で完結していても
「そういうものだ」と思わせてしまう
妙な説得力が、村上作品にはあるようにも
思えます。
返信する
Unknown (Unknown)
2010-04-17 19:41:43
ネット利用者にとって
これは必読書だと思うよ。
1Q84が、全国に広まれば
ネットによる犯罪やトラブルが
激減することが確信できる。
それどころか
インターネットによる評価が、
かなり上昇するんではなんかと思います。
返信する
Unknown様 (NAL)
2010-04-19 03:08:52
コメントありがとうございます。

>ネットによる犯罪やトラブルが
激減することが確信できる。

それはすごい影響力ですね。

まだbook3読書中なので、
ちょっと感想が言えませんが、
頑張って読み切ります。
返信する
Unknown (Unknown)
2010-04-19 19:31:47
NAL様!
ご返事いただいてありがとうございます!(・_・;)
うん、ちょっとこのことは全体的に情報を
流そうと思う!
1Q84書とインターネットは、
ただならぬ関係といっても
過言ではないのでしょうか!
この書は人間自らが生んだネットによる弊害を
押さえ、ネット社会をかなりいい方向へ
向かわせてくれるような感じがしてなりません!
いずれは、英語版やハングル語版など、
日本だけでなく世界各国からも普及できれば、
なによりです。
テレビなんかでも伝えてくれれば
幸いなんでけど!
返信する
Unknown (Unknown)
2010-04-19 19:54:10
NAL様!連投いたします!
3巻購入なされたんですか~~~!
凄い!(^.^)
プレミアものだ~~~!笑!
なにしろ3巻は、すでにどこの書店も、
品切れの状態みたいですよ。
僕なんか1、2巻ザ~~~~~って
眼を通しただけで!
でも確かに1Q84は、ネット社会に少なからず
影響を及ぼすってことは、ありえないことも
ないですね。

>じつは、僕!
今年正月に、「なんか、今年、日本は
いろんな意味で大変な年になるんじゃないのかな~~~?」って予測したんですよ~~~>。
返信する
Unknown様 (NAL)
2010-04-21 17:03:51
春樹作品はいろいろな感想・解釈があって面白いです。

せっかくなので3巻も早く読めるとよいですね。


※一応のお願いとして
 Unknownではなく、HN使っていただけたら
 その他の多数いるUnknownと区別できて助かります。
 
返信する
Unknown (ゴルゴ)
2010-04-21 18:07:44
うん、
今回のアイスランド噴火などで、
海外旅行ツアー客が、
脚止め食らっている状態から見て、
今回のGWは、完全に
国内旅行路線、にシフトといった形式に
ならざる得ないですよね>。
話は逸れましたが、
そのようなことで、近くの公園や
ハイキングに出かけたり、
あるいは、PCの機械の置いてあるディスクの前で、
コーヒーを啜りながら
1Q84を一項目通読といった
スタイルも、まんざら
軽く見れませんね!
返信する
ゴルゴ様 (NAL)
2010-04-22 03:05:39
いいお天気の公園で

読むのもいいですね。

もうすぐ3巻を読み終わってしまいますが、

1巻・2巻から通して読み直す予定です。

返信する
Unknown (TG)
2010-05-04 13:50:36
春樹作品をたくさんよんでいますが、ねじまき鳥が夫婦のことであるならば、1Q84は恋愛→母性→家族の話かなと思いました。妊娠するしね。子供のいない村上春樹が女性をしかも妊娠する女性を描くなんて面白いと思いました。ちなみに当方は30代女性です。:)
返信する
TG様 (NAL)
2010-05-04 19:38:27
コメントありがとうございます。

>子供のいない村上春樹が女性をしかも妊娠する女性を描くなんて面白い
私も同感です。
というか、だからこそなのかな?とも思います。

ここにきて、
本=作者が作る空気さなぎ
マザ=作者と作品
ドウタ=作品と読者
と考えた時、
1Q84のテーマは『リング』に重なってしまうなぁ、と
感じています。
BOOK4がどういう展開になるのか、次第ですが。

以前「男性は子どもを産めないからピラミッドを作るのだ」
と行った知人(男性)がいて、秀逸な意見だと思いましたが
作者は男性でもマザになれるんだなぁ。
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