細身で背の高い青年。今どき珍しく、白いワイシャツの裾を黒いズボンの中へおさめ、ベルトを締め、その後ろ姿はさながら昭和スタイルだ。
炎天下である。
私は日傘を差しながら歩いていたが、彼は帽子もヘルメットもかぶっていなかった。
自転車があるのならそれに乗って、一気にこの坂を下って行けば良いのに、と思った。
彼がそうしない理由、あるいはそう出来ない理由を考えるとしたら、タイヤがパンクしているとか、或いはブレーキが故障している等だろうと思った。
男性は足が長く、歩幅も大きいので、私からどんどん遠ざかって行く。
その後ろ姿を見ながら、更に考えた。
丁度坂を下りきったところに、自転車屋さんがある。きっと彼はそのお店に自転車を持ち込むだろうと。
坂を下りきってみると、自転車屋さんは残念ながら、定休日だった。
「あらー、残念だったわねー」と心でつぶやきながら、小さくなった青年を見送った。
翌日は仕事が休みだった。
その翌日のこと。
仕事が終わり、再び30度超えの日。
帰宅途中の坂道で、私を追い越して行ったのは、例の赤いフレームの自転車を転がして歩く、昭和スタイルの青年だった。
まるでデジャヴ。
えっ?あの日から2日経っても自転車を乗れないままなの?彼も昨日はお休みだったのかしら?そう思った。
坂を下りた所の自転車屋さん、今日は営業中だ。今日こそは、このお店へ直行でしょう、と思い込んでいたが、かの青年はそのまま自転車屋さんを素通りし、やがて小さくなり、私の視界から消えた。
自転車はパンクしているわけでは無さそうだった。
故障しているとも考えられなかった。私の知る限り、2回も自転車を転がしていた。まさかずっと押し転がしていたわけでは無いだろう。どこかで乗ってはいたんだよね、きっと。
炎天下、使える自転車を乗らない理由。何だろな。謎だー。
♫なんでだろ~なんでだろ~何でだなんでだろ~♪
なんでだろ~が止まらない日だった。