そんな根岸監督の今作脚本が、往年の名脚本家と呼びたい田中陽造。80年代前半、鈴木清順や相米作品で異彩を放った方です。誰でも知っているところでは「セイラー服と機関銃」「ツゴイネルワイゼン」といった興行的成功作品もあります。わたくしが好きなのは夏目雅子渾身の「魚影の群れ」でしょうか。
何しろ、大人の映画なのです。
太宰の世界観は当然色濃く出ていますが、ラストシーン死に損ないの夫の手を手繰り寄せる妻の手に、女(妻)の果てない強さを垣間見せるところなぞ、田中+根岸の創造したヴィヨンの妻を観せてもらったのでした。
つい先日、今年の女優賞はペ・ドゥナに決まりとか書きましたが、ゴメンナサイ、訂正しなければいけないかもしれません。松たか子の女優としての素晴らしさに初めて感動いたしました。欲を言うなら、妻夫木青年や堤弁護士との深みを見せて欲しかった。コキュになる事を恐れ恥じ入る夫に、慎み深く微笑みながら、何事も無いように仕える妻の裏側を醸し出せたなら、文句無く今年一番の名演と拍手を送ってしまった事でしょう。
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