映画と渓流釣り

ヴィヨンの妻 強し

 根岸吉太郎監督は「遠雷」以降かなり積極的に追い続けました。ポルノ時代の作品もずいぶん観ました。作家と呼ぶには抵抗がありますが、匠とか職人という言葉がぴったりの人だと思います。脚本さえ素晴らしければ、必ず80点以上の作品に仕上げてしまうような監督なのではないでしょうか?そこにそれなりの限界を感じてしまう人もいるのでしょうが、毎年必ずベストテンに入るような作品を提供してくれる人はそう居りませんので貴重な人材です。

 そんな根岸監督の今作脚本が、往年の名脚本家と呼びたい田中陽造。80年代前半、鈴木清順や相米作品で異彩を放った方です。誰でも知っているところでは「セイラー服と機関銃」「ツゴイネルワイゼン」といった興行的成功作品もあります。わたくしが好きなのは夏目雅子渾身の「魚影の群れ」でしょうか。

 何しろ、大人の映画なのです。
太宰の世界観は当然色濃く出ていますが、ラストシーン死に損ないの夫の手を手繰り寄せる妻の手に、女(妻)の果てない強さを垣間見せるところなぞ、田中+根岸の創造したヴィヨンの妻を観せてもらったのでした。

つい先日、今年の女優賞はペ・ドゥナに決まりとか書きましたが、ゴメンナサイ、訂正しなければいけないかもしれません。松たか子の女優としての素晴らしさに初めて感動いたしました。欲を言うなら、妻夫木青年や堤弁護士との深みを見せて欲しかった。コキュになる事を恐れ恥じ入る夫に、慎み深く微笑みながら、何事も無いように仕える妻の裏側を醸し出せたなら、文句無く今年一番の名演と拍手を送ってしまった事でしょう。
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