スネイク・伊勢・浦河にて
一週間後の土曜日、表(スネイク)は、午前中の調教を済ませると、池貝のおやじさんに休みをもらった。
「おやじさん、明日、一日休みをくれませんか」
「足の悪いあの仔は大丈夫かい。おまえがつきっきりで面倒見ているから、頼りすぎはわかっているけど、乗り運動にも人手が少なくてな:::」
「実は、あの仔を見てくれた浦河の獣医と約束したもんで」
「どんな約束だ」
「浦河の牧場のやり方を見たいし、一緒に廻ってくれると言うもんだから。それにあの仔
馬の今後の手当てや、扱い方も相談したいし」おやじさんは、それ以上無理は言わなかった。
「それじゃ行っておいで。月曜日の引き運動には間に合うんだな?」
「月曜の朝には間に合いますよ」
新冠から車で南下して一時間だが、スネイクは浦河まで足を延ばしたことはなかった。有名な社大ファームや、ブライアンズタイムを内国産のG1や、G2勝ちの牝馬と交配し、ここ一、二年クラシックをいくつか勝っている、石井牧場の活躍は知っていた。
旧来型の牧場であれば、父親の代からの付き合いで、伊勢がこの牧場の内情を知っているのではないかと考えていた。
伊勢は診療所で待っていてくれた。
スネイクの興味を知ると「石井牧場は昔からの付き合いだし、このところ、ブライアンズタイム系と肌の合う牝馬が何頭かいますよ。中規模の牧場だが、頑張っている。知っていますよね」
「去年秋の秋草賞二千mの勝馬は、ここの生産馬だろう。近頃めずらしく、個人馬主が勝ったからね。マイルチャンピオンシップ、千六百m勝ちのミチカゲも近くの佐藤牧場だ。共にブライアンズタイムをつけているけど、コマカゲもミチカゲもやっぱり牝馬との相性がいいんだろうな」