part ii へ
肘鉄チョップ裏拳掌打&?_part iii
失敗の原因が頭の中で肘鉄チョップ裏拳掌打を繰り返しすぎと分かったからといって、同じ一週間を過ごす気にはなれなかった野球娘。もっとスムーズに肘鉄チョップ裏拳掌打ができるように日課の素振りに加え、家でも可能なティーバッティング擬きを弟やお父さんに手伝ってもらうことにした。
少年野球チームに入ってからも家における一人野球癖は小さいころさながら継続されていたのでファミリー的にはなかなかの出来事。それより家の中でもできるティーバッティング擬きついてであるがピンポン玉を投げてもらって、左手甲でバント、落ちたボールを右手でとる、である。この反復を数えきれないほど繰り返す。
父と弟のおかげで肘鉄チョップ裏拳掌打のイメージで、当てる前は左ひじを向け~当てる瞬間は右の手のひらを添うように、を意識しなくても自然な一連の動作としてできるようになり、強まった自信を確信に変えたくなる二、三時間前の野球少女。しかし、二週続けてバッティングセンターに行く資金はない。欲しい雑誌も当然買えてない。
だが、父に手伝ってもらった効果がここにも現れる。擬きな本日のピンポンタッチ&キャッチ練習後、浮かない娘の様子に気付いたお父さんが色々事情を察して、姉の練習を手伝ったことで初バッティングセンターを熱望しだした弟かつ長男の希望をかなえる機会にもなると夜遅くにも関わらず子供たちをバッティングセンターへ連れて来てくれたのだ。ちなみに雑誌のおねだりにも成功している。ありがたい気持ちでバットを振り続ける乙女であった。
「お願いします。」
バッティング投手をつとめてくれるチームメイトに一礼してバッターボックスに入るおきゃん。四、五年生も参加する全員の打撃練習では三人いるチームのピッチャーは投げず、その他のメンバーで交代しながら行う。
投球モーションに入った打撃投手。昨日のバッティングセンターでは先週より体が勝手に動くことを実感してたから何も考えるなと改めて己に言い聞かせる少女バッター。
ピッチャーの手を離れたボールに一撃を喰らわす風に始動する左腕、チョップの前に肘で先制するイメージが下手に意識することなくタメを生じさせてくれ、これが体が開かない構えなのかと考えるベースボール乙女。だから、チョップ前は腰の回転も始まらず。向かってくるボールはストライクゾーンから外れそうな球筋と判断し、投じられたボールを見送ったバッターおきゃん。今まで始動が早かったことを体感すると乙女の目が少しばかり潤む。打てない原因が非力になかったことをはっきりと自覚できた。
「目にゴミが入って・・・・・・」
と言いながらまぶたを擦り、いったん打席を外すバッター。
「ごめん。」
バッターボックスにもどり改めて投じられた白球に、ただ、ただ、自然に野球少女の体は反応した。
カクキーーン。 カクゥワキーーン。 キィーーン。
連続する快音、おきゃんの振るバットから。外野一の強肩が投げた球を打ち返しながら右の掌底で押し出す手応えをはじめておぼえる。これがボールを運ぶってことなのかと流れるような一連の動きの蓄積を人が投げるボールを一球一球打ち返すことで増やしていく。
実は前回の練習日で既におきゃんのスウィングが良くなったことを監督やチームメイトの二、三人は気付いていた。だから、マグレかもしれないが快音を耳にする機会が近々あるだろうことを本人の知らぬところで予言されていた。しかし、鋭い当たりの連発は想定外、即ちあまり敏感でない男の子たちも含めたチーム全員がその変化に気付く。ほどなくして全員の打撃練習が終わり、
「次は・・・・・・も打席に立て。ラストだから、ピッチャーは出し惜しみするな」
と監督はいつも通りにおきゃんの本名をモゴモゴ発音しながら指示を出しただけだが本人は呼ばれたとおもわず、ライトの守備位置についたまま。急に主力の打撃練習に加わるように言われたから聞き逃した、というより聞き間違えた、とおもっているらしい。センターのジェスチャーと皆の視線でようやく、聞き間違いでなかったと分かる。
全員の打撃練習が終わった後に次の試合における打順三、四、五番候補の打撃練習が行われる。これにはチームの投手陣が本気で投げ、守備も真剣に守るので実戦さながらの練習になる。
時々、先の打撃練習で調子よかった一、二名が加わることがあり、おきゃんは入団してはじめて打つ側に指名されたのだ。一人三打席連続の真剣勝負でそれぞれの打者に誰が投げるかは監督が決める。おきゃんにはチームのエースが投げるように指示された。
実は打順の五番候補がエース。四番相手に投げて、次の打席に立って、またマウンドに戻って投げる慌ただしい展開にもかかわらず、先週のスウィングや今日の全員打撃練習のおきゃんから、ある程度は予測していた様で随分落ち着いて投球練習。一方、急に名前を呼ばれた高揚感と緊張のおきゃんはアタフタしながら打つ準備をしていたが、先週やさっきの経験が活きているのだろう、バッターボックスに入るとベースボールガールも自然に落ち着いていた。
少なくともエースを任されるようになった同級生の本気の球を投げられるは、はじめてに違いない。打席に集中するおきゃん。
一打席目の第一球、さっきの打撃練習同様に自然に体が動く。
グワー――ん。鈍い音が響き内野ゴロ、詰まらされてワンアウト。
しかし、一塁から戻ってくるおきゃんは嬉しさいっぱいの笑顔。右の掌底が押し返された感覚がはっきり残っていて、今なら押し返されない力加減とタイミングが分かる。確かめたく意気揚々に打席へ戻って呼吸を整えるスラッガー候補おきゃん。
「もういっちょ来い!」
「ただいまぁ。」
学校から帰って玄関のドアを開けると家の中からわめき声。慌ててドアを閉め、リビングに行くと母に背を向けて泣いてる小一を目撃する。母も裸足なのでお風呂場辺りで弟が何か粗相をしたのだろう。そっぽ向いてる男の子に
「今日のお出かけは中止。お父さんに、このことは伝えます。」
と告げる母親。週末の金曜日、珍しく定時で仕事が終わるだろう父が家族で外食しようと二、三日前に言い出したのだ。ついでにおもちゃではない皮のグローブも買ってもらえることになった弟は大乗り気であったが小六女子としては何が楽しくて金曜日の夜に家族とお出かけってことで速攻でパスを希望した。外出する時間があるなら少年野球の練習日の前日、素振りなど野球の練習にあてたいが本音。
肘鉄チョップ裏拳掌打法でチームのエースを打ってから一ヵ月、打撃も向上し八番ライトが定位置になりつつある。それでも肘鉄チョップ裏拳掌打で得たタメやボールを運ぶ感じにまだまだ伸びしろを期待できると踏んでいる野球少女。というのも今の打撃は弾く感じで運ぶ要素が弱いと自己分析。とはいってもボールを運ぶ打ち方は一朝一夕で身に付くものではなく、日々精進することで少しずつ成長していくものなんだととらえていた。
(part iv へ)つづく
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