〇 非接触ニーズで導入進む「顔認証」、その用途はどこまで広げられるのか。
新型コロナウイルスの影響で非接触へのニーズが高まっている。非接触で本人を認証する技術の最右翼ともいえるのが顔認証だ。スマートフォンの画面ロック解除や買い物の支払いなど様々な場面で顔認証技術の採用が広がっている。三井不動産が2020年に立ち上げたホテルブランド「sequence(シークエンス)」は、フロントに設置した端末に宿泊客が顔をかざすとチェックインできたり、客室の扉近くの端末に顔をかざすと扉の鍵を解除したりするサービスを提供している。顔がルームキー代わりになるのだ。
顔認証技術は、画像に顔が写っていることを認識するシステムから進化してきた。カメラを向けると被写体の顔部分に自動で枠をつける機能がイメージしやすい。その後顔の特徴量を取得して誰の顔か判別できるようになり、あらかじめユーザーの顔画像を登録することで本人認証に使えるようになった。
近年はカメラに写った顔の特徴量から、性別や年齢などの属性まで推定できるようになっている。ディスカウント店を展開するトライアルカンパニー(福岡市)は、店内のカメラで撮影した画像から来店客の属性を把握、その情報を自社のマーケティングに活用する。顔認証技術の活用は広がる一方だ。ここまで使われるようになった顔認証技術がどのような経緯で登場したか、最初に振り返ってみよう。
技術革新の裏にはCNNの進歩あり。
顔認証技術が発達してきた歴史について、パナソニックコネクトの古田邦夫現場ソリューションカンパニービジネスデザイン部部長/顔認証・新規ビジネスデザインエバンジェリストは「2000年ごろにインターネットが進化し、それまで研究者が手作業で撮影して収集していた画像データを簡単に大量に集められるようになった」と話す。顔認証をはじめとする画像認識AI(人工知能)はトレーニングや精度テストなどに大量の画像データが必要となる。2022年7月に米Google(グーグル)が論文発表した機械学習モデルは、40億枚もの画像を学習させている。
顔認証の精度向上にはディープラーニング(深層学習)が寄与している。「2006年にヒントン教授(ジェフリー・ヒントン氏、コンピューター科学者)が深層学習モデルのコンセプトなどを発表した。これを皮切りに画像処理の分野でも深層学習が使われ始めた」(富士通の安部登樹研究本部コンバージングテクノロジー研究所ソーシャルデザインプロジェクトプロジェクトマネージャー)。深層学習で使われる畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network、CNN)の威力はすさまじく、2012年にはCNNで構築された画像認識AIの「Alex Net」が、従来の手作業で特徴量を抽出して構築された画像認識AIをはるかにしのぐ精度を達成した。
顔認証における精度の指標には、本人拒否率と他人受け入れ率の2つがある。本人拒否率は登録した本人が顔認証をしても本人だと認証されない確率、逆に他人受け入れ率はシステムが他人によるなりすましを見逃す確率だ。本人拒否率が高いと“厳しい”、他人受け入れ率が高いと“緩い”システムになる。本人拒否率と他人受け入れ率はトレードオフの関係で、システムを導入する目的や活用場面に応じて他人受け入れ率、本人拒否率のどちらを重視するかを決めるのが一般的だ。
例えば空港の出入国審査などセキュリティーを重視する場面で顔認証を活用する場合、本人拒否率が多少高くなっても他人受け入れ率を重視して設定する。逆に日常的に利用するなど利便性を重視する場合は、多少他人受け入れ率が高くなっても本人拒否率を低くしたいと考えるケースが多い。「オフィスへの入館手続きでセキュリティーのみを重視すると(本人でも認証できない可能性が高まり)使い勝手が悪く実用に堪えられない」(セーフィーの瀧山博之第3ビジネスユニット戦略企画グループグループリーダー)場合があるからだ。