○ 米Netflix(ネットフリックス)が広告付きの料金プランを開始したり、米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)が音楽配信サービス「Amazon Music Prime」の再生方法をシャッフル再生のみに絞ったりするなど、ここ最近サブスクリプション系のサービスで従来にない変化がいくつか起こっている。その背景には何があるのだろうか。
Netflixに広告付きプランが登場。
映像や音楽などのコンテンツを多数取りそろえ、毎月一定額の料金を支払う代わりにそれらのコンテンツが楽しみ放題になる、サブスクリプション系のサービスが人気となって久しい。現在ではコンテンツ以外の様々な分野にサブスクリプション系サービスの仕組みが広まり、「サブスク」と呼ばれるなどしてITに詳しくない一般ユーザーにも定着するに至っている。
多数のコンテンツなどが使い放題になることからコストパフォーマンスが高いとして、急速に人気を高めてきたサブスクリプション系サービスだが、2022年11月に入ると、好調だったサブスクリプション系サービスに変調の兆しが見られるようになってきた。中でも変調を強く印象付けたサービスの1つが、ネットフリックスの映像配信サービス「Netflix」である。
ネットフリックスといえばサブスクリプション系サービスの草分けとして知られ、日本でもオリジナル作品を多く配信するなどして人気を高めている。そのNetflixが2022年11月に入って、日本をはじめ世界のいくつかの国々で順次提供を開始したのが「Netflix広告つきベーシックプラン」である。
これは従来最も安価なプランであった「ベーシック」(月額990円)より200円安い、月額790円で利用できるプランで、安い代わりに映像再生時に1時間当たり平均4分間の広告が流れるというもの。他にもライセンスの関係で一部の作品の視聴ができない、映像のダウンロードができないといった制約があるが、基本的には広告を入れることにより、従来より一層安価に利用できることに重点を置いたプランのようだ。
Netflixのサービスで、これまで映像に広告が入る料金プランを提供したことはない。それだけにこのプランは、Netflixの傾向に何らかの変化が起こっているからこそ導入されたものと見て取ることができるだろう。
好きな楽曲を選べなくなったAmazon Music Prime。
そしてもう1つ大きな変化を見せているのが、アマゾン・ドット・コムの音楽配信サービス「Amazon Music Prime」である。これは映像配信の「プライム・ビデオ」などと同様、アマゾン・ドット・コムの有料会員サービス「Amazonプライム」を契約していれば利用可能なサービスの1つで、再生できる楽曲は上位の有料音楽配信サービス「Amazon Music Unlimited」で配信されている楽曲のうち200万曲のみに限られていたものの、それらを制限なく自由に再生することができた。
そのAmazon Music Primeに大きな変化が見られたのは米国時間の2022年11月1日。アマゾン・ドット・コムはAmazon Music Primeの仕様変更を発表したのである。その内容は、1つに曲数の追加だ。
Amazon Music Primeは今回の仕様変更により再生できる楽曲数が大幅に増え、Amazon Music Unlimitedと同様、1億曲全てを聴くことができるようになった。それだけであれば大きなメリットとなるはずなのだが、もう1つの変更が大きな批判を呼ぶこととなった。
それは楽曲の再生方法がシャッフル再生のみに変更されたこと。つまり好きな楽曲を選んで聴くことができなくなってしまったのである。一部のプレーリストでは例外的に好きな楽曲を再生できるのだが、それ以外の楽曲は全てシャッフル再生しか利用できず、次の曲に送るなどの操作にも回数制限が加わるなど、再生時の制約が非常に多くなってしまったのだ。
それら操作の上限を超えた場合、Amazon Music Unlimitedを利用するよう促すメッセージが現れるようになったことから、一連の仕様変更はAmazon Music Unlimitedへの誘導をより重視したものといえるだろう。だが従来好きな楽曲を選んで音楽を楽しんでいたAmazon Music Primeのユーザーには「改悪」と捉えられる向きが多く、国内外問わず仕様変更に対する不満が増えているようだ。
市場飽和と景気減速で限界が見えてきたサブスク。
しかしなぜ、このタイミングでサブスクリプション系サービスに変調の兆しが出ているのか。大きな理由の1つは、サブスクリプション系サービスの市場飽和とそれに伴う競争激化であろう。
これまで契約数の急拡大によって売り上げを伸ばしてきたサブスクリプション系サービスだが、先行する地域ではユーザーの伸びが停滞しつつある。実際Netflixの決算資料から各地域での契約数推移を見ると、2022年はアジア太平洋地域でこそ堅調な伸びが続いているものの、欧米やラテンアメリカなどそれ以外の地域では契約数が減少しており成長鈍化が著しい。
その一方で、米国では米The Walt Disney Company(ウォルト・ディズニー・カンパニー)の映像配信サービス「Disney+」で、広告付きのプランを2022年12月より提供すると発表、加入者拡大に力を注ぐなど競合との競争が激しくなってきている。Netflix広告つきベーシックプランが導入されたのも競合の動きと無関係とは言い難く、足元の競争環境が激化しているからこその変更と言えそうだ。
そしてもう1つは景気減速への懸念だろう。アマゾン・ドット・コムが新規採用を数カ月間停止すると発表したことが報道され話題となっており、米国での景気減速を受けIT大手にも今後業績が悪化する懸念が出てきている。
そうした状況下で売り上げを増やすには、とりわけサブスクリプション系サービスにおいては有料、あるいはより高額のサービス利用を増やすことが重要となってくる。Amazon Music Primeの仕様変更も、より上位のAmazon Music Unlimitedの契約を増やして売り上げを伸ばす狙いが大きいと見ることができよう。
こうした動向を見ると、かつてビジネスモデルがもてはやされたサブスクリプション系サービスも、市場飽和や環境変化などによってその仕組みに疲弊感が出ていることが分かる。それだけにサブスクリプションに限界が見えてきた今後、新たなビジネスモデルの追求がIT業界全体で求められるといえそうだ。