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押さえたい生成AIと既存システムの関係、5つの導入パターンを理解する。

○ ChatGPTをはじめとする対話型AI(人工知能)サービスの登場を受けて、生成AIを活用しようとする企業が急増している。単にチャットボットとして利用するだけでなく、生成AIを組み込んだ新サービスの開発や、企業システムと組み合わせた業務の効率化など、活用の幅が広がっている。

とりわけ、膨大な文書データで学習した大規模言語モデル(Large Language Model、LLM)を使うAIの進化はすさまじい。自然な文章の生成や文章の要約、翻訳などが可能になっている。今後も対話型生成AIをはじめとする生成AIを活用する企業は増えていくだろう。では、生成AIを既存の企業システムに組み込むにはどうすればよいのか。ここでは、生成AI導入の5つのパターンを説明する。

大きく分けると5つのパターンがある。

生成AIの導入方法は多岐にわたる。日本ディープラーニング協会(JDLA)の理事を務めるABEJAの岡田陽介代表取締役CEO(最高経営責任者)は「実装方法を大きく分類すると5つのパターンに分けられる」と説明する。

1つめは、LLMを自社のオンプレミス環境に導入するパターンだ。自社で保有するさまざまなデータを学習してLLMを構築する。LLMは自社で構築するか、AI生成ベンダーに構築を依頼することになる。クラウド環境で運用する場合は、プライベートクラウドなどセキュアな環境を使う必要がある。この方法のメリットは、外部のAIサービスに情報を流さずに自社内ですべてが完結することだ。他のパターンと比較すると「機密情報や個人情報を取り扱いやすい」(岡田CEO)という。

パターン1:自社でLLMを開発する
画1、パターン1:自社でLLMを開発する。

一方、デメリットもある。それが「現段階では開発コストが膨らんでしまうこと」(岡田CEO)だ。LLMをはじめとする生成AIのモデルを自社で構築するには、自社内にデータサイエンティストをはじめとするAIの専門家集団が必要だ。エンジニアを雇えばコストがかかる。さらに構築した後もメンテナンスを続けなければならない。OSS(オープンソースソフトウエア)の進歩や環境の整備により数年後には状況が変わっている可能性はあるが、岡田CEOは「現状でこのパターンを採用できるのはごく一部の大企業に限られる。日本でも数社しかないのではないか」と語る。

パターン2:生成AI事業者が提供するWebサービスを利用する。

2つめは、Webサービスを利用するパターンだ。今では、米OpenAI(オープンAI)が開発する「ChatGPT」や米Google(グーグル)が開発する「Bard」、米Microsoft(マイクロソフト)が開発する「Bing」のチャット機能など、多くの対話型生成AIが登場している。これらのWebサービスを使い、自社の業務に役立てる。

パターン2:生成AI事業者が提供するWebサービスを利用する
画2、パターン2:生成AI事業者が提供するWebサービスを利用する。

このパターンのメリットは、AIを開発するコストを抑えられることだ。自社でLLMを開発するのに比べれば、格段に開発コストが低くなる。

一方、デメリットもある。外部のサービスにデータを直接渡すため、「機密情報や個人情報の取り扱いに細心の注意を払わなければならない」(岡田CEO)。サービスによっては、事業者側でデータを使わないよう設定できることもあるが、全く利用されない保証はない。

また、Webサービスではできることの範囲が限られていることもデメリットだ。対策としては、オープンAIが2023年3月に発表したChatGPTのプラグインを活用する方法などが考えられる。

パターン3:生成AI事業者が提供するAPIを利用する。

Webサービスを利用するパターンに似ているが、生成AI事業者が提供するAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を利用するというパターンもある。自社で開発したシステムからAPI経由で生成AIの機能を呼び出すことで、独自の仕組みを構築できる。フィルタリングなどの仕組みを組み込めば、外部に機密情報や個人情報が流出してしまうことも避けられる。

パターン3:生成AI事業者が提供するAPIを利用する
画3、パターン3:生成AI事業者が提供するAPIを利用する。

ただしこの方法は、Webサービスを利用するパターン2に比べると開発コストがかかる。運用体制も整えなければならない。また、API経由ではデータを再利用しないとするAI事業者もあるものの、Webサービスを利用するパターンと同様に機密情報や個人情報の取り扱いには注意する必要がある。

パターン4:クラウドなどの社外システムを経由してAPIを利用する。

マイクロソフトは「Azure OpenAI Service」というサービスを提供している。マイクロソフトのクラウドサービスであるAzure上でオープンAIのLLMを利用できるようにするものだ。こうしたサービスを利用することで、社内システムからクラウドなどの外部システム経由で生成AIのAPIを呼び出せる。

パターン4:クラウドなどの社外システムを経由してAPIを利用する
画4、パターン4:クラウドなどの社外システムを経由してAPIを利用する

外部システムは、外部ベンダーが開発済みの仕組みを使う場合と、クラウド上などに自社または外部ベンダーが構築する場合がある。外部ベンダーが提供する仕組みとしては、米PingCAP(ピンキャップ)の自然言語で操作可能なデータベースサービス「TiDB」などがある。

このパターンのメリットは、Azure OpenAI Serviceなどをうまく利用することで運用コストを下げられることだ。デメリットは、開発コストがかかることである。また社外システムの管理体制次第では、情報漏洩などのセキュリティー面の懸念もある。

パターン5:生成AIを活用するSaaS事業者のサービスを利用する。

最後は、SaaS(Software as a Service)事業者が提供するサービスを利用するパターンだ。例えば、PDFデータを読み込んで質問に応答するサービスや、テキストデータを要約するサービスなど、多くのサービスが既に提供されている。これらはSaaS事業者が生成AI事業者のAPIを利用して実現している。

パターン5:生成AIを活用するSaaS事業者のサービスを利用する
画5、パターン5:生成AIを活用するSaaS事業者のサービスを利用する。

メリットは、オープンAIやグーグルが提供していない独自の機能を低コストで利用できることだ。ただし、信頼に足るSaaS事業者かどうかを見極める必要がある。いかに魅力的なサービスを提供していたとしても、データの管理体制に問題はないかといった点は十分に確認しなければならない。


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