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インサイトを生み出す「分析の素養」、担当者に必要なスキルセットとは。

○ 前回は、戦略からデータへの落とし込み方と、組織としてどのような姿勢でデータ活用を進めていくべきかについて論じました。今回は、これらのデータから「示唆(insight=インサイト)」を生み出すために、データを扱う担当者がどのようなスキルセットを持ち、どのような考え方を持って分析に臨むべきかを考察します。

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(出所:123RF)
                                                   (出所:123RF)

分析の基礎となるデータベースの知識。

まず必要になるのは、データベースを扱うための知識です。あなたの企業でも、様々なデータをデータベースに格納しているでしょう。データ分析のために必要とするデータは、うまくすると1つのデータベースにまとまっているかもしれませんが、多くの場合で複数のデータベースに点在しています。

その場合、自分の目的に合ったデータがどのデータベースにあるのかを把握しなくてはなりません。データのありかが分かれば、参照先を変えることで個々のデータを利用できるようになります。

各システムから集めたデータは実際に突き合わせをして、自分の目的に合った形式になっているかを確認します。データの格納形式が、目的とする分析に適していなければ、あらかじめデータを望むかたちに整形しなくてはなりません。

この段階では、データマイニングなどのデータ解析で使う複雑な手法から、日常的に行う軽微なデータ修正まで、様々な知識が必要になります。自部門にデータサイエンティストのような専門家がいる場合を除き、担当者が自身でデータを整形することになります。

例えば、見込み客の業務内容について、1つのフィールドに、「マーケティング,営業,IT」というように複数の情報が「,」で区切られたデータとして登録されているデータベースはどうでしょう。本来はこのままでも十分なのかもしれませんが、「営業」に携わる見込み客全員という視点で分析する場合、1つにまとめられた情報を複数のフィールドに分離して格納するなどの作業が必要になります。

顧客企業ごとの年間売り上げを集計する際によくあるのが、データベースごとに「マーケットワン・ジャパン」「マーケットワン」「マーケットワン・ジャパン合同会社」というように、同一の会社なのに社名が揺らいだまま登録されている場合です。人が見れば、1つの会社をデータベースに異なる社名で登録していると推察できますが、システム上は企業ごとに売り上げを足し合わせるといった処理が困難になります。この場合、正式名称である「マーケットワン・ジャパン合同会社」にそろえるなど、基準に沿った整形が必要になります。

重要なのは、データベースが使うどのフィールドがユニーク値(ID)になるかを考えることです。これができていないと、複数のデータベースに分散するデータを結びつけていく作業がうまくいきません。複数のデータベースにある共通のIDを見つけて、データ同士のルックアップ関係を考え、自分の手元でデータを修正するといった作業と、そのための能力が必要になってきます。

データ整形の際に、手元のシステムへのインポートやデータベースからのエクスポートはCSVファイルなどの共通形式を使います。個々のシステムでは見栄えよくデザインされているデータでも、その中身はCSV形式のデータです。

これらのデータを整形する際には、最低限でもExcelなどスプレッドシートの知識が求められます。筆者は、ワークマンの専務取締役である土屋哲雄さんが、「エクセルを主軸とする社員教育」に取り組んだ記事を読んで感銘を受けました。記事には、「エクセルが、他人事だった仕事を『自分事』に変えた」など、従業員の意識変化も述べられています。

参照記事:はじめに:『売り上げ2.6倍で業績過去最高! ワークマン式エクセル』

スプレッドシートを扱えることは、データベースを活用したデータ分析の基礎能力といえるでしょう。

必要度が高まった「統計学の知識」。

データベースにかかわる知識を踏まえた上で必要になるのが、「データ分析」そのものの知識、つまり統計学の知識です。

その重要性から、高校の学習指導要領が改訂され、2022年に高等学校に入学した生徒から「統計教育の一層の充実」が図られています。「統計的な内容は数学の実用性を生徒に感じ取らせる、適した内容だとも言えます」という記述もあります。

参考文献:統計学習の指導のために - 学校における統計教育の位置づ(総務省統計局)

前回の記事で筆者は、「分析の本質は比較である」と述べました。その上で重視しているのは、複数の「変数」がどのような影響をもたらすかについてです。ビジネスで意味があるのは、「因果関係」と「相関関係」の分析です。

相関関係の例として、「夏の暑い日は、スポーツドリンクの売り上げが伸びる」という文章を挙げてみましょう。その日の気温とスポーツドリンクの売上高に相関関係が存在することを表したものです。あるデータの中から2つの変数(気温と売上高)を切り抜き、それらが相関するかどうかを回帰分析で分析し、結果を導きます。

これに対してよくある間違いが、「変数間に相関はあるものの因果関係がないケース」です。例えば、営業担当者の企業への訪問回数と売り上げに相関関係がある(訪問回数が多い企業ほど売り上げが高い)とします。この結果から「営業担当者の訪問回数を増やさないと、その企業からの売り上げが伸びない」という結論が導かれてしまう可能性があります。

しかし、実態は営業担当者の訪問回数にかかわらず、売り上げが高い企業もありえます。それらの可能性を加味しながら、訪問回数と売り上げに相関関係があるのかを常に検証しなくてはなりません。

例に示したように相関関係と因果関係の違いを見誤ると、間違った施策や行動につながってしまいます。担当者はデータ分析結果から考察をする際に、常に疑ってかかる意識を備えるべきです。

データ分析の始まりは「仮説」から。

最後に重要な点として、分析を支えるのは「仮説」であるということを強調しておきます。これまでの連載でも仮説の重要性は何度も述べました。データの整形や分析には多くの時間がかかり、その切り口を見つけるために、様々なアプローチを試す必要があります。ただ闇雲にアプローチを試すのでは、時間がいくらあっても足りません。

2つの変数の関係を考える際には、まずその変数が何に当たるかという仮説を立てて、それを検証する手順があります。変数を抽出する際に、プログラミングによる分析で、複数の要素を解析するという手法も存在します。しかし、この分析は高い能力を求められるため、多くの組織にとって非現実でしょう。

そのため、相関関係や因果関係が存在すると思われる変数に対しては、日々のビジネス状況を考慮して仮説を立てます。

例えば、営業の効率性を測るデータ分析をするには、各種のデータ要素の中から何が影響を与えるかという営業担当者の日常的な活動を理解し、仮説を立ててそれを検証する必要があります。具体的には、顧客への訪問に同行して「どのような会話をしているのか」「事前準備をどのようにしているか」などから、「事前準備を丁寧にしている営業担当者の商談の質が良い」という発見(=仮説)が見えたとしましょう。そこで「商談1件当たりの事前準備時間と売上高に相関があるのではないか」と仮説を立て、それを検証できれば、営業の効率性を高める法則を、データ分析で導けたことになるでしょう。

データ分析の過程での仮説は、単にデータを眺めているだけでは思い付きません。自社のビジネスや戦略についての理解や、関連する担当者が日常的に何を考えているかという知識を得るコミュニケーションが重要になってきます。これはデータ分析のための「ソフトスキル」といえるかもしれません。

分析に携わる担当者に求められる素養としては、データそのものに精通しているか、あるいはこれまでデータ分析を勉強してきたかといった「ハードスキル」を想像する人が多いのではないでしょうか。一方で、効率的に有意義な示唆を導き出し、その活動を推進していく上で、ソフトスキルも大きな要素となります。

データを分析する担当者には、ビジネスを理解して、それを数学的な知識によって論理的に結びつける能力が求められます。アイデアを創出する右脳と、論理性を駆使する左脳の両方を、バランス良く働かせることが不可欠でしょう。


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