○ 2023年が本格的に始動し、ビジネスの方向性を展望する記事が出てきている。米Wall Street Journal(WSJ)は1月3日(日本時間)に、「2023年の生活を変えるテクノロジー」と題した記事を掲載した。
この記事で筆者が注目したのは米Apple(アップル)に関する話題である。同社は知名度や注目度が非常に高い米国企業であるためか、WSJの記事でも外せない話題のようで、この展望記事にもたびたび登場する。読み込んでいくと、iPhoneの製造に関する動向から、2023年の世界的なトピックになりそうな事柄が見えてきた。
気になるアップルの動き。
WSJはアナリストのリポートや報道を手掛かりに、アップルが2023年に複合現実(MR)向けヘッドセットを発表する可能性があると指摘している。高解像度のディスプレーと複数のカメラを搭載した「没入版」である。米IDCによる調査で米Metaが9割を握るとされるVR市場に、新たに参入する見込みだ。さらに、同社が体温の測定や姿勢を監視できる「AirPods」用センサーを研究中で、健康管理機能付きのイヤホンを発売するかもしれないということなどを挙げている。
そして欧州連合(EU)の法律が可決し、2024年からEU域内で売られる電子機器にUSB Type-Cの充電ポート設置が義務付けられる。アップルがiPhoneへの搭載において法律に従うことを表明しているものの、2023年に発売される見込みのiPhone新モデルで実現するかが1つの論点だとWSJは指摘している。
急速に進む「米国の中国離れ」。
ここまでは、アップル自身の取り組みとアップルのユーザーへの影響をとらえた話題だと言える。だが、WSJの記事においてもう1つ気になるのが、iPhoneを中心とするアップルの生産体制にまつわる指摘である。
ロシアによるウクライナ侵攻などにより、2022年は地政学的リスクが一気に高まった。2023年は、台湾有事への危機感が実ビジネスに及ぶ可能性があり、それが未来に向けてやや暗い影を落としている。米国と中国は、スマートフォンを含む電子機器の製造だけでなく、電気自動車(EV)用の電池、太陽光パネル、原材料、知的財産でも相互依存性が高い。そのため、別々の道を選んでサプライチェーンや製造拠点を独自に構築するといったことはなかなか難しい状況にあるとしている。だがWSJは、それが現実に起きようとしていると指摘する。
既に、アップルは製造拠点を部分的に中国から移転させ、メキシコなどが新たに製造拠点として注目を集めている。中国製の安価で実用性のある技術を活用する代わりに、中国共産党の世界支配を許してはならないという考え方が、米国で広く浸透しているようだ。こうした背景によって進む「米国の中国離れ」の動きは、次期iPhoneの出荷遅延、品薄につながり、さらに影響はそれだけにはとどまらないと考えられる。