〇 インボイス制度対応とは:2023年10月開始、電帳法対応を含めシステム化する例も。
インボイス制度への対応とは2023年10月に国税庁が開始するインボイス制度に企業が対応することを指す。2022年に施行された改正電子帳簿保存法(電帳法)への対応と併せて、システムによって対応する企業が多い。
本記事ではインボイス制度への対応とは何か、同制度に対応したシステムを導入するメリットとデメリット、基本的な機能、料金相場、活用のポイントを、デジタルを使った組織内の業務に詳しいPPAP総研の大泰司章氏が分かりやすく解説する。併せて、日経クロステックActiveの記事から、代表的なサービスや事例などを紹介する。
初回公開:2022/5/8
1. インボイス制度への対応とは。
インボイスとは、売手(請求書の発行元)が買手(請求書の受取先)に対して、正確な適用税率や消費税額など一定の事項を記載し伝える適格請求書のことである。2023年10月に国税庁が、消費税の仕入税額控除の方式として「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」を開始することで、インボイスの作成や送受信を自動化するシステムが必要となり、多くの企業とその取引相手が対応を迫られている。
「適格請求書(インボイス)」と「インボイス制度」については、国税庁が公開しているWebサイトで分かりやすく解説している。
適格請求書(インボイス)とは
売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるものです。
具体的には、現行の「区分記載請求書」に「登録番号」、「適用税率」及び「消費税額等」の記載が追加された書類やデータをいいます。インボイス制度とは、
<売手側>
売手である登録事業者は、買手である取引相手(課税事業者)から求められたときは、インボイスを交付しなければなりません(また、交付したインボイスの写しを保存しておく必要があります)。
<買手側>
買手は仕入税額控除の適用を受けるために、原則として、取引相手(売手)である登録事業者から交付を受けたインボイス(※)の保存等が必要となります。(※)買手は、自らが作成した仕入明細書等のうち、一定の事項(インボイスに記載が必要な事項)が記載され取引相手の確認を受けたものを保存することで、仕入税額控除の適用を受けることもできます。
インボイス制度の概要(国税庁Webサイトから抜粋)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice_about.htm
ほとんどの場合、売手は現行の「区分記載請求書」(請求書)に登録番号と適用税率、消費税額などの記載を追加する形で制度に対応する。ただしインボイスは請求書の体裁を採ることが必須ではなく、領収書や支払通知書、EDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)で流れる請求メッセージでも代替できる。買手は必要な事項が記載された書類を保存することで、消費税の仕入税額控除の適用を受けられる。
この制度を踏まえ、買手は売手に対して、国税庁に「インボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)」として登録し、インボイスを発行するよう依頼するのが一般的である。既に買手となる企業の購買部門が売手(企業や個人)に、事業者登録に関わる問い合わせを始めたという話を耳にするようになった。
インボイスの発行は紙でも電子データでも可能だが、インボイス(の原本または写し)は改正電帳法の対象となるため、売手も買手もやり取りしたインボイスを約7年間保存する義務を負う。このため、2022年の改正電子帳簿保存法への対応と合わせて、制度開始のタイミングで、インボイスを電子データで発行・保存する仕組みを採用する企業が増えている。
インボイス制度への対応方法。
制度に対応するためには買手も売手も、販売管理・仕入管理・会計・経費精算などのシステムの変更が必要となる。自社開発のシステムを利用している企業では、制度開始に向けた対応を進めていることだろう。上記のシステムにクラウドサービスやパッケージを採用している企業は、ベンダーに対応状況を確認すると良い。
ここで特に重要なのは、売手から買手にインボイスをどうやって受け渡すかである。
(1)メールに添付して送信。
最も簡単な方法は、紙で郵送していた請求書をインボイスの形式にした上でPDF化して、メールに添付して送ることだ。この方法はコロナ禍を経て、さらに一般化したといえる。請求書のメールでの送受信が容認された企業も多いだろう。
ただし、このとき注意すべきは、請求書をPPAP方式で送ってはいけないということだ。
これは、請求書の送信を装ったなりすましメールが非常に多く、受信側でマルウエア感染やビジネスメール詐欺(BEC)の被害を受けた事件が多発しているからだ。メールでのやり取りを選定するなら、S/MIMEなどを使ったなりすまし対策を導入することが望ましい。
(2)クラウドサービスの利用。
請求書の枚数が多い場合、請求書の送受信に特化したクラウドサービスを使うと便利だ。これらのサービスでは請求書のPDFをやり取りできる。送信側が書類の内容をCSVデータとしてアップロードすれば、クラウドサービス側で書類として整形してくれる機能は便利といえる。
請求書だけでなく、見積書や注文書など企業間の全ての取引文書に対応できるものが多い。もちろん、改正電子帳簿保存法にも対応している。
(3)クラウドサービスを利用してPeppol(ペポル)を利用。
Peppol(Pan European Public Procurement Online)とは、インボイスなど電子文書をオンラインでやり取りするための国際標準規格である。このPeppolをベースにした日本のデジタルインボイスの標準仕様「JP PINT」を、EIPA(E-Invoice Promotion Association:デジタルインボイス推進協議会)が策定している。
JP PINTには、国内の主要なERP(統合基幹業務システム)・販売・会計システムのベンダーが対応を表明している。対応しているシステム間では、手動で再入力することなくインボイスを受け渡せるようになる。
EIPAは、PDF化したインボイスを「電子インボイス」と呼び、JP PINTに準拠したXMLデータのインボイス「デジタルインボイス」と区別している。
(4)EDIで対応。
EDIシステムでもインボイス制度への対応が進んでいる。受発注を含む全てのメッセージの、請求や支払明細などを含む部分を変更することで制度に対応する。
これまでEDIシステムで取り引きをしている企業は、そのままインボイス制度に対応できる。これを機にEDIに参加するのもよいだろう。ERPと連携した「中小企業共通EDI」は、導入のハードルが低い。
(5)インボイスを紙で渡されてしまった場合の対応。
電子的にインボイスを受け取りたいとしても、売手(発行側)の都合により紙で受け取らざるを得ないこともある。例えば店頭などでは、インボイスに当たる請求書や領収書、レシートを紙で渡すケースも多いだろう。
これらのインボイスを電子的に一元管理するには、受け取った側(買手)が、紙をスキャナで読み取った上で、手入力をしたり、OCRによってデータ化したりする対策が必要になる。
(6)QRインボイスの利用。
売手が紙で渡す応用例としては、インボイスの一部にその内容をデータとして取り出せるQRコードを記載する方法がある。
ビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA)では、発行側が紙のインボイスにQRコードを印字し、受取側がそれを読み込んでデジタルデータとして取り込むための規格を策定している。この規格を利用したアプリケーションは、デジタルインボイス支援研究会(EIS)が普及の旗振り役となっている。
2. インボイス制度に対応したシステム導入のメリットとデメリット。
インボイス制度に対応したシステム導入のメリット。
(1)ペーパーレス化
システムによるインボイスのペーパーレス化が可能となる。これに伴って、ビジネスのスピードアップや保管スペースや検索時間、印刷・郵送コストの削減、さらにはセキュリティの強化も見込める。
(2)デジタルによるデータ入力
PeppolやQRインボイスなどを読み込める環境を整えることで、インボイスをデジタルデータのまま処理できるため、アプリケーションへの入力の自動化が可能となる。
(3)改正電帳法への対応
インボイス対応をうたうシステムは原則、2022年の改正電帳法が定めた電子取引に対応できている。このため、改正電帳法への対応とインボイス制度への対応を同時にする企業も少なくない。
インボイスにとどまらず、見積書や注文書といった受発注文書の電子化も合わせて進めると、業務効率はさらに向上するだろう。
インボイス制度に対応したシステム導入のデメリット。
(1)コストの発生
電子化の検討や導入にコストがかかる。さらにシステムの運用や、利用者の教育などでもコストが発生する。
(2)運用の煩雑さ
企業によってはインボイスの処理に限って電子化する場合もあるだろう。ただしこの場合は、紙と電子の取引文書が併存することになり、運用が煩雑となる。
3. インボイス制度に対応したシステムが備える機能
以下では、インボイス制度に対応したシステムが備える機能を整理する。
(1)インボイス作成と送信
インボイス制度の要件を満たすデータを作成し、相手に送信する。メールで送信する場合は、受信側でトラブルが発生しないよう、S/MIMEを採り入れるなどしてなりすまし対策に配慮する。クラウドで送信する場合は、クラウドサービスのアカウント認証に不備がないか確認するなどセキュリティ対策を徹底する。
売手から届くインボイスは、PDFファイルのような人間が見て分かる形式だけでなく、EDIのメッセージやXMLファイルのように機械可読の形式のこともある。両方のメリット生かすために、売手が送るPDFにXML形式のデータを埋め込んで送る機能を備えているサービスもある。
(2)インボイス受信とシステムの取り込み。
インボイスがデジタルデータとして活用できる形式となっていれば、買手側のシステムが自動で取り込める。売手の事情により紙のインボイスを受け取った場合、OCRなどを使った「紙の電子化作業」が発生してしまう。
(3)インボイス発行事業者の確認
買手がインボイスを受け取った際に、記載された登録番号(国税庁に適格請求書発行事業者として登録した事業者が通知された番号)をチェックして、売手(インボイスの送り主)が適格請求書発行事業者であるかどうかを確認する。
売手が適格請求書発行事業者ではない(登録番号を持たない)場合は、消費税の税額控除ができないためだ。登録番号は、国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」(https://www.invoice-kohyo.nta.go.jp/index.html)で検索やダウンロードが可能である。同サイトでは、企業のシステムと接続するためのWeb-APIに対応したシステム間連携インターフェースも公開している。
(4)発行者なりすまし対策。
上記サイトで、インボイスに記載した登録番号を持つ適格請求書発行事業者の存在を確認できるが、インボイスがその事業者から発行されたものかどうかは確認できない。相手を確認するには、EDIやPeppolなどの送受信の経路を保証するサービスを経由しなくてはならない。
この問題を解決するには、「電子署名」や「eシール(法人による電子署名)」を利用する。送り主がその法人であることを電子署名やeシールによって確認することで、送受信の経路を問わず、受け取ったインボイスだけで発行者が本物であると確認できる。
4. インボイス制度に対応した代表的なサービス。
インボイス制度に対応した代表的なサービスとして、10のサービスを挙げる(日経クロステック Active調べ)。
-----電子請求
(1)BtoBプラットフォーム請求書:インフォマート BtoBプラットフォーム請求書のWebページ
(2)インボイス・マネジャー:TKC インボイス・マネジャーのWebページ
(3)Misoca:弥生 MISOCAのWebページ
(4)MakeLeaps:リコー MakeLeapsのWebページ
(5)バクラク請求書:LayerX バクラク請求書のWebページ
-----PDF作成、eシール
(6)SkyPDF:スカイコム SkyPDFのWebページ
-----スキャナ保存
(7)e-Success:アンテナハウス e-SuccessのWebページ
-----EDI
(8)BANKING ERP:地銀ネットワークサービス BANKING ERPのWebページ
-----QRインボイス
(9)フィリーウェイシリーズ:フリーウェイジャパン フィリーウェイシリーズのWebページ
(10)Haratte:Ambirise HaratteのWebページ
5. インボイス制度に対応したシステムの料金相場。
インボイスを手動でメールに添付して送るのであれ追加的費用はかからないが、量が増えると対応が難しくなる。そこで、売手としても、買手としても利用できるクラウドの電子請求などのサービスの利用をお薦めする。
6. インボイス制度に対応するポイント。
猶予期間が2023年末となっている改正電帳法への対応が済んでいない企業は、インボイス制度が始まる2023年10月までにセットで導入することを考えるとよいだろう。改正電帳法は、インボイスを含む見積書や注文書等の受発注に関わる取引文書全体を対象としており、共通する部分が多い。さらに、決済までを視野に入れ、デジタルの活用により、取引に関わる業務全体の効率化を図るべきだ。
インボイス制度対応の現状について、日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)とアイ・ティ・アール(ITR)が実施した「企業IT利活用動向調査2023」の結果(2023年1月調査実施)の一部を紹介する。
Q13_5:インボイスの作成・発行の検討状況(2023年)
- 電子インボイスで検討中である:41.3%
- 書面インボイスで検討中である:28.5%
- 検討する予定である:20.5%
- 検討していない:9.8%
Q13_6:電子インボイスの発行方法(2023年)
- メールに請求書等のデータを添付して送信:41.5%
- クラウドを利用し請求書等のPDFやCSVデータを発行:40.5%
- クラウドを利用し請求書等をペポル(標準インボイスJP PINT)に変換し発行:11.1%
- EDIシステムにより発行:6.9%
上記の結果からは、インボイスの電子化を検討している企業が全体の4割で、電子化したとしても、その4割はメールにファイルを添付する方針であることが分かる。残念ながら、制度開始後も紙でのインボイスのやり取りは残り、やり取りもメールで添付を選択する企業が少なくないといえる。
発行する/受け取るインボイスの枚数や、業務の性質、取引先との関係性にもよるが、手軽に始められるクラウドサービスが多数出てきている。今回の制度は、システム化によって負荷を軽減できる余地が大きい。これを機に、インボイスの電子化を検討してほしい。
7. インボイス制度に対応した代表的な事例。
8. 注目のインボイス制度に対応したサービス。
以下では、注目のインボイス制度に対応したサービスを紹介する。