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今や経営課題となったサステナビリティ 中堅・中小企業の処方箋とは。

○ 経営課題の一環として認識が広まるサステナビリティ。

企業が社会の一員として、地球環境の保全、人権の尊重、従業員の満足度、地域への貢献といった様々な責任を果たしながら、企業価値の向上と永続的な成長を図っていく「サステナビリティ」に対する取り組みが、大手企業のみならず中堅・中小企業にも求められるようになってきた。

SDGsやESGなどの社会課題解決への取り組みが、企業の資金調達にも影響を与えるようになってきたのも理由の一つだが、サプライチェーンにおいて、大手企業が取引先企業に対して、CO2排出量や人権への配慮などの情報を求める動きが広がってきているのだ。この動きは欧米を中心に始まり、米国やEUでは「非財務情報」の開示が取引要件の一つになりつつあるという。

従来のCSRが企業活動の付随的な位置付けで捉えられていたのに対して、経営視点を中核に据えているのが、今求められているサステナビリティとも言えるだろう。

「企業が持続的な成長を図っていくためにも、サステナビリティは今や経営課題の一つと解釈すべきです」とSAP ジャパンの上硲優子氏は述べ、取り組むべき具体的な内容として次の4つのポイントを挙げた。

SAP ジャパン株式会社<br>インダストリー&カスタマーアドバイザリー統括本部<br>事業推進部<br>上硲 優子氏 
 
Θ SAP ジャパン株式会社・インダストリー&カスタマーアドバイザリー・
統括本部事業推進部・上硲 優子 氏。

(a) 気候変動への対応:企業活動におけるCO2排出量の削減、カーボン・ニュートラルの達成、製品ごとのCO2排出量の定量化など。
(b) 循環型社会への対応:使用材料のリサイクル比率の定量化、化学物質管理や関連規制への対応、廃棄物の減量など。
(c) 社会的責任への対応:人権の尊重、雇用機会の平等化(ダイバーシティとインクルージョン)、従業員の満足度の向上、法令順守など。
(d) 各指標の見える化、意思決定への組み込み、および、規制などにのっとった適切な開示。

サステナビリティを推進するには、上記の取り組みの前提として、「自社は何のために存在するのか」といったパーパス(目的)の設定から始めていくことになるが、実務の面で課題になるのがいわゆる非財務情報の収集、管理、および開示である。

製造業の大きな課題でもあるCO2排出量に関しては「GHGプロトコル Scope1~3」*¹や「TCFD」*²、人的資本であれば「ISO30414」など、関連する国際的な基準や規制に従った算出や開示が求められる。また、大手の取引先がサプライヤチェーン各社に調達品のCO2e(換算値)の提供を求めるケースも増えている。

SAP ジャパン株式会社<br>インダストリー&カスタマーアドバイザリー統括本部<br>ミッドマーケットソリューション部<br>部長<br>青沼 大輔氏
Θ SAP ジャパン株式会社・インダストリー&カスタマーアドバイザリー・
統括本部・ミッドマーケットソリューション部・部長・青沼 大輔 氏。

SAPの10年以上の経験を基に、独自のモデルで顧客を支援。

サステナビリティに取り組むには様々なアプローチがあるが、SAP ジャパンが提案するのが、「Exemplar(エグゼンプラー)」と「Enabler(イネーブラー)」のモデルだ(図1)。

「Exemplar」とは見本や模範といった意味の英語だ。ERPシステムの提供元として知られるSAPは、2009年に『そもそもSAPは何のために存在すべきか?』という問い直しを行い、『より良い世界づくりへの貢献』と『人々の生活の質の向上』という2つのパーパスを定め、様々な観点からサステナビリティに関する取り組みを進めてきた。

そうしたコミットメントや成果をいわばベストプラクティスの一つとして踏まえながら、顧客のサステナビリティ戦略や実務をサポートしていく考え方を示したのがExemplarである。

「単に非財務情報を収集して公表するだけでは十分ではないことを私たち自身が学んできました。例えば、従業員満足度のスコアが上がると財務的にはどのようなインパクトがあるかを解析しモデル化するなど、様々な取り組みを行っています」と上硲氏は説明する。「そうした経験やノウハウをExemplarとしながら、お客様がご自身の会社をどうしていきたいのか、といったパーパスを定めるところを含め、様々なお手伝いをしています」(上硲氏)。

なお、SAPは2023年までにカーボンニュートラルを実現するという野心的な目標を掲げている。2014年にはデータセンター電力の100%を再生可能エネルギーに転換済みで、その他、社用車のEV化、出張移動の可視化やカーボンプライシング制度の導入、オフィスのエネルギー効率の向上、CO2排出量の見える化などを進めている。

カーボンニュートラルに向けたこうした取り組みやノウハウも同社のExemplarを構成する柱の一つであり、CO2排出削減や気候変動対策を進めたい企業に有益な支援をもたらしてくれるだろう。

(図1)サステナビリティに対するSAPの取り組み。前述の4つのポイントに対して、Exemplar(山の右側)とEnabler(左側)を通じて、顧客のサステナビリティ戦略をサポートする
 
(図1)サステナビリティに対するSAPの取り組み。前述の4つのポイントに対して、Exemplar(山の右側)とEnabler(左側)を通じて、顧客のサステナビリティ戦略をサポートする。

CO2排出量を含む非財務情報の収集や管理をシステム化。

もう一つの「Enabler」は実現手段を意味し、サステナビリティをサポートする同社の製品やサービスを指す。

ERPの代名詞ともなっている「SAP S/4HANA」(または「SAP ERP 6.0」)を中核に、気候変動への対応、循環型経済への対応、社会的責任への対応、および、見える化や意思決定を支援するソリューションを提供中だ。

(図2)SAPが提供するサステナビリティソリューションの一例。気候変動、循環型経済、社会的責任、そして総合的なレポーティングへの対応を支援する
 
(図2)SAPが提供するサステナビリティソリューションの一例。気候変動、循環型経済、社会的責任、そして総合的なレポーティングへの対応を支援する。

例えば製造業において製品のCO2排出量を管理したい場合は、製品のCO2フットプリントを計算する「SAP Product Footprint Management」、データの可視化を行う「SAP Analytics Cloud」、調達先の多角的評価を行う「SAP Ariba」などの導入が推奨される。

また、人的資本の管理を目的とする場合は「SAP SuccessFactors」や「Qualtrics Employee XM」の導入が適当だ。

青沼氏は、「SAPと聞くと大企業向けのERPをイメージされるお客様も多いのですが、実際は売上高500億円以下の中堅・中小企業が導入企業の半数を占めています。最近はそういった規模のお客様から、サステナビリティについてもシステム化を検討したい、といったお問い合わせをいただくことが増えています」と説明する。

ただし、サステナビリティだけを理由に、ERPを含めた大幅なシステム更改を行うのは現実的ではないとも指摘する。「ITシステムの老朽化に伴う更新や、企業としてDXを推進するためにITシステムを刷新する際に、サステナビリティという要素を新たに加えながら、システム設計やソリューション選定を進めていただくのが適切でしょう」(青沼氏)。

(図3)製品のCO2排出を管理する「SAP Product Footprint Management」と、データを提供する「SAP S/4HANA」、見える化および分析を行う「SAP Analytics Cloud」のイメージ。ERPの「SAP S/4HANA」が持つ各種マスタデータや業務データ(入庫など)と排出係数を使ってCO2e値を計算する。計算結果は利用者の使い方により、SAP S/4HANAに組み込まれた分析レポートでの表示や、ダッシュボードでの表示を行う
 
(図3)製品のCO2排出を管理する「SAP Product Footprint Management」と、データを提供する「SAP S/4HANA」、見える化および分析を行う「SAP Analytics Cloud」のイメージ。ERPの「SAP S/4HANA」が持つ各種マスタデータや業務データ(入庫など)と排出係数を使ってCO2e値を計算する。計算結果は利用者の使い方により、SAP S/4HANAに組み込まれた分析レポートでの表示や、ダッシュボードでの表示を行う。

企業価値の向上と永続的な成長を目指す礎に。

ここ最近は大規模な気候変動も日常化し、サステナビリティのテーマの一つでもあるCO2の排出量削減は待ったなしの状況だ。また、投資家が投資先企業を選定する際に、直近の業績だけではなく、ESGと略される長期的な成長に必要な要素を重視する動きも活発になっている。

「サステナビリティの重要性がますます高まっている今、一日でも早く検討を始め、取り組みを強化していただきたいと思います。その上で、ExemplarとEnablerを提供できるSAPに相談してみよう、と考えていただければうれしく思います」と上硲氏は訴求する。

また、青沼氏は、「大手の取引先が、サプライチェーンを構成する中堅・中小企業に対して、CO2排出量や人権への配慮などの情報を求める動きが日本でも広まっていますし、米国やEUでは取引要件の一つになりつつあるのが現状です。サステナビリティにかけられる人員が限られる中で、システム化によって効率的な管理を推進していただければと思います」と述べる。

経営や財務にもインパクトを与え得るサステナビリティを推進するには、パーパスの定義、経営戦略とのひも付け、資源(人員・組織)の再配置と業務プロセスの変革、非財務情報の収集や管理、見える化と意思決定プロセスへの組み込み、規制やガイドラインにのっとった開示など、様々な取り組みが必要だ。

SAPの強みであるExemplarとEnablerを上手に活用しながらサステナビリティの強化を進め、企業価値の向上と永続的な成長に向けた改革を進めていただきたい。


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