〇 TCP/IPの後継技術になるか、常識を破る「QUIC」と「ICN」の衝撃。
アプリケーションの高度化やデータ通信量の増加に対応するため、TCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)の後継となる技術の検討も始まっている。その代表格が「QUIC」というプロトコルだ。TCPに取って代わる可能性があるとして注目されている。
QUICは、米グーグルが自社のWebサービスで大量のアクセスを高速に処理するために開発した独自プロトコルをベースにしている。同社はこのプロトコルを2015年にIETF(Internet Engineering Task Force)へ提出。その後、TLS(Transport Layer Security)の機能を取り込み、HTTP以外にも使えるようにするなどの変更を加えて標準化へと至った。
UDPでTCP相当の信頼性を確保。
QUICの主な特徴は、「TCPと同等の再送制御や輻輳制御を備える」「通信開始時の決まりごと(ハンドシェーク)による遅延が小さい」「複数の通信路を利用して通信を効率化する」「いったん通信した相手と再接続する場合はハンドシェークなしで通信できる」の4つだ。
従来のWeb通信はTCPとTLSを使う。QUICはUDPを利用するため、TCPと同等の再送や輻輳の制御を組み込んだ。さらに、TLSによるハンドシェークを利用して1度のやりとりだけで通信路を確立できるようにした。
またQUICは、TCPで問題となる「ヘッドオブラインブロック」を回避できる。これは、TCPセグメントを連続で送るとき、先頭のセグメントにエラーが起こるとその再送が完了するまで、後続のセグメントを送れないという現象だ。
従来のWeb通信では単一の通信路を使うため、先行するTCPセグメントでエラーが発生すると後続するセグメントを処理できない。一方、QUICを使った通信は複数の通信路を確立して、並行してデータをやりとりする。ある通信路でデータが損失して再送が必要になっても、別の通信路で並行してデータを送信できる。
さらにQUICでは、TLS 1.3の0-RTT(Round-Trip Time)という機能を使うことで、再接続の処理を高速化できる。従来のWeb通信では、一度通信したことがある相手でも、再度接続する場合はTCPの3ウエイハンドシェークやTLSのハンドシェークを行う必要がある。一方0-RTTでは、こうした事前のやりとりをせずに通信路を再確立する。
コンテンツの「名前」で通信制御。
IPを使わない次世代のネットワーク技術の研究も進んでいる。その1つが「情報指向ネットワーク(ICN:Information Centric Network)」と呼ばれる技術だ。
インターネットでは、クライアントがコンテンツを取得しようとするときは、まず大本のサーバーに対して直接要求する。例えばCDN(Content Delivery Network)の場合では、要求を受けたサーバーがキャッシュサーバーにリダイレクトして、キャッシュサーバーがコンテンツを送信する。
この仕組みでは、最初に必ず大本のサーバーにアクセスするので、人気があるコンテンツのサーバーへのアクセス集中が避けられない。数百億~数千億台もの機器がつながるIoT(Internet of Things)が普及すると、通信環境が逼迫する恐れがあるといわれている。
こうした課題を乗り越えるべく研究されているのがICNだ。ICNでは、コンテンツの受信者は、コンテンツの保持者ではなく、ネットワークに対してコンテンツを要求する。ここでいうネットワークとは、キャッシュサーバーの機能を備えるルーター群を指す。また要求の宛先は、欲しいコンテンツの「名前」だ。
要求を受け取ったルーターは、もし自身がその名前のコンテンツを保持しているのであれば、それを受信者に返す。保持していない場合は、その名前に応じた通信経路にあるルーターに要求を転送する。
こうして最終的にコンテンツを保持するルーターに要求が届き、コンテンツが送信されるという仕組みだ。コンテンツ保持者へのアクセスが集中しないことなどから、より効率的なコンテンツ配信が可能になるとみられている。
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