ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

JOKER

2019年10月16日 | 映画館で見たばっかり篇


『ハング・オーヴァー』シリーズをはじめとする下ネタコメディばかりを撮ってきたトッド・フィリップスがここにきてまさかの路線変更。ホアキン・フェニックスの狂気?迫る怪演も話題をよび本作はヴェネツィアで金獅子賞に輝いている。

ジャック・ニコルソン→ヒース・レジャーと続いた、バットマンのヴィランとして有名なジョーカー誕生までを描いた前日譚なのだが、現代アメリカの世相を反映しているといえなくもない。貧富の格差がゴッサム・シティ市民の不満を呼び、その怒りの矛先が市長に立候補したブルース父に向けられ、やがて大規模な暴動へと発展していく様子が実に克明に描かれているのだ。今現在は一応平静を保っている我が国とて他人事ではないのである。

本作はまた、面白くもなんともない所で突如笑いだす完全な精神障害者としてジョーカーことアーサーを描いており、市の財政事情でカウンセリングと薬剤投与を打ち切られたアーサーが療法士に向かってこんな不満をもらす。「そんな病気なんてない、だから普通にしてろ」とみんなに思われることがいかにつらいかをとつとつと語るのだ。もしかしたらトッド・フィリップスの実体験をそのまま映画の中に描き込んだのかもしれない。

ガリガリに痩せたホアキンの異常なほどの巻き肩と猫背は、見ているこちらが気持ち悪くなるほど。除け者にされるアーサーの怒りがその狂気とあいまって、療法士→母親→ブルース父→TV司会者へと次第に膨張し、市民の金持ちに向けられた不満と生々しく呼応していく様子は、まるでマーチン・スコセッシの『タクシー・ドライバー』を見ているかのよう。TVの人気司会者役で登場するロバート・デ・ニーロが辿る結末や、そのショーへの登場シーンを鏡を見ながら模倣するアーサーの姿は、同作へのオマージュであろう。

一歩間違えれば暴動を煽動している映画ともとらえられかねない本作だが、トッド・フィリップスは精神障害者アーサーの妄想を逆手に利用することによってうまく切り抜けている。リーマン3人組と母親、ピエロ仲間の○○以外はおそらくアーサーの自己陶酔が招いた妄想であり、見た目あんなにキモいアーサーにアフリカ系の美人シングルマザーが簡単に身体を許すはずがないのである。あらゆる意味で真に迫っているこの映画、“ジョーク”で済めばいいのだが…

JOKER
監督 トッド・フィリップス(2019年)
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