
エンディングにあるシーンを突っ込んだがために、いらぬ臆測を呼んでしまったコリアンドラマ。家族に見放され気が狂った父ちゃんと身重の母ちゃんは、実はあの火災で焼け死んでしまったのではないか、と。私が素直な目?で観たところ、母ちゃんの衣に火がうつった瞬間、正気にもどった父ちゃんが身を挺して母ちゃんを救った、と捉えるべきだと思うのだ。ゆえに、火災の後のハッピーな展開は、娘ユニの幻覚などではなく現実に起こったことなのだろう。
では、なぜ家具リサイクルショップの夫婦と子供たちが泣き崩れるシーンをわざわざあそこにいれたのだろうか。今まで🛣️のSAを転々としながら詐欺を働いて食いつないできた家族。警察にとっつかまった父ちゃんが脱走に成功したはいいものの、精神病が再発、地獄へとはまりこんでいく。それとは反比例して、父ちゃん以外の家族は新しいパトロンを得て幸福を逆に掴んでいく。食い逃げやスーパーで万引きをするあんな甲斐性無しのクズ親父死ねや!と、インフレで普段厳しい生活を強いられている我々は当然そう思うのだ。
しかし、韓国人映画監督イ・サンムンは、あえてそこに“情けの雨”を降らせるのである。たとえ家族を幸福にできなかったとはいえ、ラスト自分の身を挺して奥さんとお腹の子を救ったのである。燃え盛る炎の下敷きになってしまった2人を、傍観することしかできなかった血の繋がっていないリサイクルショップ店夫婦とは対照的に。あっけなくこの世を去ってしまったこのダメダメ親父ギウ(チョン・イル)のために、誰か一人ぐらい涙を流さしてもバチは当たらないのではないか。イ・サンムンはおそらくそう思ってこのシーンを追加したのではないだろうか。
監督はこのダメ親父ギウのキャラクターにリアリティを吹き込むために、繁華街で物乞いするホームレスの皆さんに入念なリサーチを重ねたという。そのかいあってか『万引き家族』のリリー・フランキーや『パラサイト』のソン・ガンホにも勝るとも劣らない、“貧乏父さん”の新たなるロール・モデル形成に成功している。イ・サンムン監督はさらに、子供を亡くした別の夫婦を登場させ、このままいったら飢え死必至の子供たちの“リサイクル(再生)”役を担わせているのだ。
「どうやって暮らしてるの」
「ここ(SA)にはなんでもある。人もたくさんいるし」
ギウが投資詐欺にあって一文無しになってしまった貧乏家族は、多分2万ウォンなんてはした金が目的ではなく、殺伐とした現実社会=🛣️ではもはや絶滅状態の“人の小さな親切”にふれることによって、ここまでなんとか生き延びることができたのだろう。その小さな親切が大いなる慈愛に変わったとき、天から代償を求められた。そう考えるのはあまりにも残酷すぎるであろうか。
高速道路家族
監督 イ・サンムン(2022年)
オススメ度[


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