
『エクスマキナ』がイブの楽園追放を、『アナイアレーション』はタルコフスキーの『ストーカー』に言及した作品だった。この奇妙奇天烈なホラーを理解するためには、やはり本作の元ネタを探し出す必要があるだろう。その重要なヒントとなるのが、主人公ハーパー(ジェシー・バックリー)が身につけているヒラヒラのクラシックドレスなのである。ロニー・キリア演じる“同じ顔の男たち”を撃退するためキッチンナイフをふりかざすその姿、なんとダリオ・アルジェンドのカルト映画『サスペリア』※のジェシカ・ハーパー?!とクリソツではないか。
ユング心理学を取り入れた『サスペリア』は、少女が見た淫らな幻覚のメタファーがこれでもかと並べられていたが、そのあたりの演出が本作でもそっくり真似されているのである。例をあげると
①森の中のトンネルと水溜→膣と羊水
②綿毛に包まれた植物の種子→精子
③腐って地上に落下する林檎→卵子
④郵便受けに突っ込まれた腕→膣に挿入されたペニス
⑤2つに裂けた垣根や男たちの手→陰唇
が、サスペリアのジェシカ・ハーパーがノンケだったの対し、本作のハーパーはバリバリのフェミニスト、レズビアンとは言わないまでも、女性を小馬鹿にしてマウントしてくる男たちの顔がみな同じに見えるほどの男嫌いなのである。つまりこの映画、黒人の旦那が自殺したショックでフェミニズムに目覚めた女が見た“幻覚”だったのではないか。インタビュー記事を読んでも、何一つ参考になることは言わなかったアレックス・ガーランドだけに、流行りのフェミニズムを(観客にわからないよう)思い切りこきおろしていたのではないか。
夫の自殺から立ち直るために、カントリーハウスにしばらく滞在することにしたハーパー。森を散歩中偶然見かけた素っ裸のグリーンマン(アダムというより男性版イヴと言った方が当たっているだろう)にストーカーされていると勘違いしたハーパーは、警察に通報して男を逮捕してもらう。しかし何故か男はすぐに釈放され、モンローのお面を被ったクソガキからは“クソ女”よばわり、地元の神父からは「旦那に謝罪するチャンスを与えなかったのでは」と逆に忠告され、思わず怒りが込み上げてくるのであった。
男である私から見れば単に親切心から言っているだけなのに、フェミニストの方々はそれを馬鹿にされたと思い込み、つい“ファック・オフ”と叫んでしまうのである。ついに家宅侵入してきたグリーンマンの腕に(ペニスのメタファーかと思われる)ナイフを突き立てて(受精)させてしまうハーパー。この後のグロを遥かに通り越した4連続◯◯シーンは一体何を意味していたのだろう。男女の役割がまさに逆転してしまう悪趣味なマスキュリズムによって、フェミニストたちの顔に泥を塗ろうとしたことは間違いだろう。
そして、その時になって初めて我々は映画タイトルの意味に気づくのである。手の平の聖痕を元妻に隠すようにしながら、処男懐胎?!によって復活した黒きイエス?はこう語るのだ。欲しかったのは生前ハーパーが旦那に与えることを頑なに拒んでいた“愛”だったと。女たちだけでなく、男たちだってちゃんと傷ついているんだぜ。
#me-too(MEⅡ≒MEN)だと。
※ルカグアのリメイク版『サスペリア』は反フェミニズム映画だった。
MEN 同じ顔の男たち
監督 アレックス・ガーランド(2022年)
オススメ度[


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