見出し画像

雑感録

これもビートルズだ! その4『BEATLES FOR SALE』

 
BEATLES FOR SALE(1964年)

ビートルズファンは優しい。
せっかく『A HARD DAY'S NIGHT』で全曲オリジナルを果たし、そのクオリティも上がったのに、このアルバムは『WITH THE BEATLES』まで後退している(タイトルも安直だし)。
なのに、「この頃のビートルズは疲れがピークに達してたんだよ」「ますますスケジュールが過密になってるのに、1年にアルバム2枚の契約でクリスマス前に出さなきゃいけなかったんだよね」と、聴く側が言い訳してあげているのだから。
『Love Me Do』を一刀両断に斬り捨てた中山康樹先生ですら、カバー曲を聴けだのマニアックな選曲がいいだのと、一生懸命に擁護していらっしゃる。
まあ、マニア向け、研究家向けには聴きどころが多いのかもしれないが(そうじゃなくても聴きどころがない訳ではないが)、なんぼ事情があるにせよ、客に言い訳をさせるようではプロとはいえんな(笑)。

あと、よく言われるのがボブ・ディランの影響(特にジョン)。
詞が内省的になっただの、曲がフォーク調になっただの、マリファナを覚えただのと言われているが、マリファナはともかくとして、詞が愛だの恋だの一辺倒じゃなくなったり、アコースティックギターを多用したりというのは、アイドルから脱皮して音楽的に幅が広がっていく過程では必然であって、別にボブ・ディランに会わなかったとしても、遅かれ早かれそうなっていた。
たまたま、そういう時期にボブ・ディランと会ったというだけのことだろう。
ハーモニカだってデビューのときから使ってるし。
ちなみに個人的には、恋だの愛だのだけじゃなくて、自分のことを詞に乗せたり、メッセージ性の強い歌というのは苦手なのだが、幸い英語の歌ではピンとこないので、さほど気にしてはいない(ちなみに好みは中後期のポールの淡々とした詞やジョンの言葉遊び系)。
なお、この時期シングルでは『I Feel Fine/She's a Woman』をリリースしているが、単複分離の原則を仕切り直しして、アルバムには収録されていない。

01 No Reply
もともとはどこぞの若造のために書かれた曲なんだそうな、
ジョンがやけにエコーを深くかけてぼやき出したかと思ったら、いきなりポールといっしょになって「あっ、そうだ!ラーイッッッ!」と怒り出す。
ちょっと落ち着いてはまた怒り出す。
叫んだら気が晴れたのか、「イファイワ、ユ~ッ!」と勇ましく行進を始め、みんなも手拍子で送る。
ぼやいて怒って機嫌が直ったということで、版権関係者のディック・ジェイムスおじさんが「自己完結している完璧な曲」と意味不明なコメントをしたらしい。
ちなみに、2番で彼女んちに電話したけどまたまた居留守を使われちゃったとか言ってるけど、ジョン曰く、当時イギリスでは彼女に電話するなんてやつは滅多にいなかったとか。ウチではまだ電話さえ引いてなくて、僕が小学生になる頃までは、緊急の用事のときは近所のタバコ屋にかけてもらうようにしていたものだ。今では考えられないような話だろうな。

02 I'm a loser
内省的も何もそのまんまじゃん。英語が分からなくても気恥ずかしくなるようなタイトル。ジョンもそこまで深刻に考えてる訳がないと思うが、ポールに至ってはとても元気にコーラスを歌い、軽快なランニングベースを聴かせてくれる。結果、負け犬だと深刻ぶって悩むなんてバカみたい、という強いメッセージソングになっている。

03 Baby's In Black
全編ジョンとポールのツインボーカル。最初の大サビではまるで分身したかのように二人ともダブルトラックになり、なぜか次のバースの頭まで引っぱって「メイク」で突如分身の術がとける。次の大サビはスルーしたかと思ったら、バースの途中で右がぶわっとくる。最初プレーヤーの故障かと思ったが、単なるえらいラフなステレオミックスのようだ。リマスターの時に何とかならんかったんかいな。
ちなみに歌詞はBlack=喪服かと思ってたら、そういう訳じゃないようだけど、スチュを失ったアストリッドということで、当たらずとも遠からず。

04 Rock And Roll Music
ご存知チャック・ベリーのカバーで、ポールがピアノにまわってジョージがベースを弾いてるらしい。以上。

05 I'll Follow The Sun
ポールがデビュー前の子どもの頃に書いたらしいが、冒頭のバースはジョンのダブルトラック? 作り手のポールが歌ってないことはないと思うけど、ジョンの声だけに聴こえるんだけど…。

06 Mr. Moonlight
初めて聴いたときは「何じゃ、この歌は!?」とびっくりしたくらいインパクト大。オリジナルはドクター・フィールグッド&ジ・インターンズとかいう知らない病院のひとたち。今聴くと、歌のうまいおやじがカラオケであえてクールファイブを歌っているような印象がないでもない。

07 Kansas City/Hey-Hey-Hey-Hey!
ポール十八番の絶叫ロックの先駆け。声質もロック用の兆しあり。とはいえカバーだもんなあ(ちなみにオリジナルはリトル・リチャード)。Hey-Hey-Hey-Hey!の合いの手が大合唱のようでおもしろいけど、なんか音がよくないような気がする。ヘッドフォンがびびってんのかな。

08 Eight Days a Week
当時は例を見ないフェードインのイントロなんだそうだが、あんまり効果はない。やるんならもう1回イントロを繰り返した方がよかったんじゃないかと思うけど、まあ、だいたい最初にやった例なんてそんなものか。ジョンのボーカルは基本左から聴こえるのだが、コーラスでおっ、ジョンが珍しく上のパートを歌ってると思ったら、そのあと別のパートをやってるような気もする。ダブルトラックとハモリがこんがらがってよく分からんという、実は複雑な曲(僕だけ?)。

09 Words of Love
タイトルだけ聞くと、いつも頭に中に「セイダッワ~、ラア~」と『RUBBER SOUL』の収録曲が流れてくるのだが、バディ・ホリーのカバー。ビートルズにしては音域が低くて、曲はAメロの繰り返し。間奏も単にボーカルがないだけといった感じのシンプルさ。盛り上がりそうで盛り上がらないんだけど、なんか味があっていいなあ。

10 Honey Don't
後にポールが『TUG OF WAR』で共演したカールおじさんのカバー。まあ、リンゴの声に合っていると言えば合っている、のんきな曲。
ジョン「おまえの歌のときにいつもオレたちが騒いでうるさいだと」
リンゴ「そうだよお」
ジョン「じゃあ、コーラスつけてやらん。ポールも歌うな」
リンゴ「いいよお」
という訳で、ボーカルのリンゴとソロのジョージ以外はスタジオミュージシャンのふりをして静か。リンゴもちょっとさびしかったのか、律儀にソロで手伝ってくれたジョージに「リンゴのためにもう1回やってちょ~」とかいって間奏を2回提供している。

11 Every Little Thing
最近、そんな名前の邦楽グループがいたなあ、よく知らんけど。歌はジョンの方が目立つけど、書いたの実はポールらしい。ドンデン!のリンゴのティンパニーが印象的。ジョージは遅刻してきたそうで、罰として一人居残りでギターをオーバーダビング(4トラックでよかったね)。

12 I Don't Want To Spoil The Party
リンゴのために書かれたそうだが、やっぱりやめたとジョンが歌っちゃった。基本ジョンとポールのツインボーカルらしいが、バースの部分はジョンの一人ハモリにも聴こえる。まったくこの二人ってば、声質は全然違うのに、ハモると声が解け合っちゃうんだよなあ。やっぱ宿命のコンビだよ。

13 What You're Doing
ドン!ドドン!ッタトタン!とポールがやっつけで作った曲。そんな自分が許せなかったのか、えらい剣幕で歌ってるし、ジョンもそんなポールを許せなかったのか、3番で堂々と歌詞を間違えている。ステレオバージョンでミスしたテイクが使われているのは何度かあったけど、この曲についてはモノでも同じ。恨みと違って怒りは持続しないものだから、録り直して勢いを失うより、間違ってても怒りのエネルギーのある方をとったんだろう(んな訳ないと思うけど)。

14 Everybody's Trying To Be My Baby
10同様カールおじさんの曲のカバー。おなじ人のカバーでも、リンゴがやるのとジョージがやるのとではこうも違う(当たり前)。でも、それがカールおじさんの曲の特徴なのか、いささか一本調子で盛り上がりに欠けるのはどちらも同じ。やけに深いエコーのかかったダブルトラックのボーカルに軽快なギター。まるで「ジョージ、おまえ一人でやっとけ」とでも言われたような感じ。こうして地味なアルバムはしれっと終わっていくのである

つづく
CONTENTS

ビートルズ・フォー・セール
EMIミュージックジャパン
このアイテムの詳細を見る

ビートルズ・フォー・セール
(モノ/旧盤CD)
EMIミュージック・ジャパン
このアイテムの詳細を見る

ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近の「ビートルズ」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事