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雑感録

これもビートルズだ! その3『A HARD DAY'S NIGHT』

 
A HARD DAY'S NIGHT(1964年)

とんとん拍子とはまさにこのこと。
英訳すると「ホップ」「ステップ」「ジャンプ」である。
『PLEASE PLEASE ME 』でデビューし、
『WITH THE BEATLES』でイギリス制覇、
そして『A HARD DAY'S NIGHT』で世界制覇。
もっとも、今でこそアルバム主体でシングルは“シングルカット”するのが主流となっているが(それもビートルズが始めたようなものだが)、この頃はまずシングルありき。
まずはアメリカ人には似合わないような、情熱的な邦題とは裏腹に奥ゆかしい『I Want to Hold Your Hand』(「手を握りたい」だからね)でアメリカ人の心を掴み、『Can't Buy Me Love』でひれ伏せさせた。
江戸×タリバン(エド・サリバンね、念のため)だの全米チャート独占だの、怒濤のアメリカ・インベイジョン物語は耳にイタコが取り憑くぐらいお聞きだろうからここでは略すが、米Capitolの横暴はここから始まる。
デビュー前のデッカ同様、当初ビートルズを蹴っていたCapitolは『I Want to Hold Your Hand』のB面『This Boy』を『I Saw Her Standing There』に差し替えてリリース。
今さらながら出遅れたことに気づき、あるものないものくっつけたりはっつけたりして、『Revolber』までオリジナルを無視したレコードを出し続けるのである(企画編終盤はまあ許せるが、同じタイトルで中身が違うというのはあんまりやろ)。
とにかく、その頃まだ1歳にもならない僕には、当時の熱狂ぶりが実際のところいかほどのものだったのか想像のしようもないが、ビートルズの急激な躍進ぶりに、リバプールのファンはさぞ誇りに思っただろう。

そんな中に投入されたのが映画『A HARD DAY'S NIGHT』。
白黒テレビ(そんなものがあったんだよ)がやっと普及したくらいの時代のことだから、これではじめて動くビートルズ見た人も多いだろうし、イギリス以外では、やっと誰がジョンで誰がポールだか認識できたという感じだったらしい。
「エルビスの映画のように、突然歌い出すようなものにはしたくない」というジョンの言葉通り、ドキュメンタリータッチのこの作品は単なるアイドル映画とは一線を画するとして高い評価を得たのだとか。
僕に言わせれば、これのどこがアイドル映画じゃないのかという気がするのだが、それがジェネレーション・ギャップというもなのか。
ただ、主役をジョンでもポールでもなくリンゴにしたというところには、ビートルズの意向か監督の考えかは知らないけれど、十分に意図は感じられる。
ちなみに『ビートルズがやってくる。ヤア!ヤア!ヤア!』という邦題は、あの水野晴郎(そんな人がいたんだよ)が考えたのだとか。
当然よく目にする邦題だが、残念ながら実際にその言葉を口にしているのは、いまだかつて聞いたことがない。
今回のリマスターで、アルバム邦題からも取り下げられたようだ。
めでたしめでたし。

とにもかくにも『A HARD DAY'S NIGHT』。
映画に使われたということで既発の『Can't Buy Me Love』が映画未使用のB面『You Can't Do That』とともに収録され、映画のタイアップということでタイトルナンバーのシングル(B面は『Things We Said Today』)が同時発売されて、「アルバムとシングルの政教分離(?)」という方針は一部くずれたが、今回初めてカバー曲なし!
おまけに前作の反省でジョージが書かなかったのか、書いたけどボツにされたのかは知らないが、ビートルズのキャリア中唯一のオールLennon/McCartney。
さらには
ジョン「今度の映画の主役はおまえにやる」
リンゴ「やったー」
ジョン「代わりに歌わせん」
リンゴ「いいよお」(映画通り、ノーテンキだが実は傷つきやすい)
という訳でリンゴのボーカル曲も入っていない。
ただ、アルバムと平行してEP『Long Tall Sally』の制作が進められており、タイトル曲+『Slow Down』『Matchbox』と3曲のカバーを収録(もう1曲はジョンの『I Call Your Name』)、うち『Matchbox』はリンゴのボーカルと、何となく辻褄を合わせたような形になっている。
ちなみにここでいうEPとは、シングル盤のサイズで4曲とか6曲とか中途半端な曲数が入ったレコードのこと。僕が小さい頃の話なのでよく覚えてないが、いわゆるシングル盤(45回転)とは回転数が違った(LPと同じ33+1/3回転?)のかな。

技術的には『I Want to Hold Your Hand』から4トラックレコーダーが導入され、レコーディングが複雑化(実は4トラックレコーダーは前からEMIにあったらしいが、ポピュラー音楽の録音には使われてなかったらしい)。
ビートルズが音楽的革新をなしえた一つの要因は、ガンダムにGパーツやマグネットコーティングが施されたごとく、ビートルズの成長にあわせてレコーディング技術が進化していったことも見逃せない。
ステレオミックスも前2作とは異なり、基本ボーカルはセンター、楽器は右に左にとステレオらしくなっている。

01 A Hard Day's Night
ジャーーーンと、あまりにも有名なオープニング。そしてこれまた有名なサビのジョンとポールの早変わり。初期のLennon - McCartneyの得意技だが、ジョンはこの技であり得ないくらい広い音域を獲得していたのである。ジョンもポールもダブルトラックのボーカルは左右に分かれてるみたい。ピアノと12弦ギターによる間奏は弾けそで弾けない倍速プレイ(弾ける人には弾ける)。

02 I Should Have Known Better
『恋する二人』という意味不明な邦題付き。このアルバムは邦題のつけられた曲が多いが、アメリカ同様、日本でも直前の『I Want to Hold Your Hand』からビートルズ人気に火がついたため、邦題までつけて積極的な売りに出たんだろう(それにしちゃトホホな邦題ばっかしだが)。それにしてもこの曲のボーカル、ジョンがわざと子どもっぽく歌ってるような気がしてならないなあ。

03 If I Fell
出だしのジョンのボーカルにびっくり。ステレオミックスではダブルトラックになっていて、おまけにリバーブが強い(出だしだけ)。しかし、リマスターで美しいボーカルハーモニーがさらに美しくなった。ポールのハモリは特に楽譜を用意したとかではなく例によってテキトーだが、テキトーでこれなんだから素晴らしい。なのに、これもモノとステレオのテイクが違っていて、2回目の「ワズインベイン」をポールが歌い損ねてる。相当キモの部分のミステイクをわざわざ使わんでもよろしかろうに。『恋に落ちたら』の邦題は、まあマトモな方かな。

04 I'm Happy Just To Dance With You
『すてきなダンス』という以下同文。
ジョン「今回は曲なんか作っても入れてやらんからな」
ジョージ「え″~」
ジョン「かわりにオレの曲を歌わせてやる」
ジョージ「またあ?」
という訳で、さすがにジョンも悪いと思ったのか、やけに色っぽいコーラスでジョージをもり立てている。ドーンドゥーン、ドーンダーンの印象的な音はリンゴのアフリカンドラムなんだそうだ。

05 And I Love Her
ジョン曰く、ポールのバラード大作序曲なんだとか。リマスターされたせいか、拍子木がやけに印象的に響いている。3番のシングルトラックとか、ギターのアルペジオが2回目以降1小節遅らせてあったりとか、小技がけっこう効果的。ポール自身もお気に入りの曲のようで、後にさらにスロー、さらにアコースティックにして、ヘイミッシュのコーラスをフィーチャーしたバージョンを『UNPLUGGED』で披露。これ、かなりイケてます。

06 Tell Me Why
えらく分厚いコーラスの曲で、ジョンのかなりテキトーなバラバラのダブルトラックが笑える。なによりキモはジョンのファルセット「イズデ♂§♀‰∂☆〻ドゥウウウウ~」。何て言ってるんだか分かりゃしない。

07 Can't Buy Me Love
前述の通り、既存のヒット曲。ステレオらしくツインギターが左右に分かれて聴こえるが、その奥にまったく別のソロがかすかに聴こえる。たぶん、オーバーダビングで消したつもりのものが別のトラックに少し残ってたんじゃないかな。

08 Any Time At All
ここからはレコードのB面で、映画未使用。この曲では、パンと何かが破裂したかと思ったら、いきなりのっけからジョンとポールの早変わり。しかも「エニタ~イマット~」のひと言だけ!。初めてレコードを裏返してこれを聞かされた人は、さぞびっくりしたに違いない。下降するピアノのベースが4小節目で面白い音を弾いている。

09 I'll Cry Instead
確かに日本人がそのまま呼ぶにはゴロが悪いが、いくらなんでも『ぼくが泣く』って邦題はないやろ。『This Boy』=『こいつ』と双璧をなすクソ邦題である。映画のために用意した曲ながら監督に蹴られたそうだが、まあその程度の曲だと僕も思う。ライナーノーツには「ポール初のベースソロ」とあるが、いったいどこを指して“ソロ”と言ってるんだろう。何よりこの曲のベース、やけにムラがあって、ちっともいいとは思わないんだけど。

10 Things We Said Today
『今日の誓い』以下同文。たぶんポールのダブルトラック一人ハーモニーで、歌わせてもらえなかったジョンはアコースティックギターを力いっぱい「ジャガジャーン!」と鳴らしている。ちなみにジョンはオーバダブでピアノを弾いてるそうで、そう言われてみればピアノの音がするようなしないような…。

11 When I Get Home
『家に帰れば』以下略、とはいかないが、凝った構成の割には印象が薄い。やっつけでつくったのを無理矢理捻ったような感じがしないでもない。

12 You Can't Do That
『Can't Buy Me Love』のB面曲。ポールとジョージのコーラスがやけにカッコイイ(特にジョージ)。リズムとリードの間の子のようなギターソロ(右チャンネル)はジョンのプレイだそうな。

13 I'll Be Back
なんだか不安定に落ち着いた曲。コーラスワークもカッコいいが、「ジャ、ジャ、ジャ、ジャ、ジャ、ジャ、ジャン」と「タレラ、チャーン」のギターがやけにカッコイイ(いったいどこのことだか分かりますか?)。2曲前の『家に帰れば』を受けて、『家に帰るよ』と邦題をつけるかと思ったが、さすがにそれは控えたようだ。

つづく
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