池波正太郎の「散歩のとき何か食べたくなって 新潮文庫」の一文に
こんな文があります。
『みがきぬいた清潔な店内
皿の上でタップ・ダンスでも踊りそうに、生きがよいカツレツ。
私は先ず、ロース・カツレツで酒かビールをのみ、
ついで串カツレツで飯を食べることにしている。』
平成6年から恵比寿で働いて、24年の歳月が流れてしまった。
食べに行こう行こうと思いながら、もう平成30年になる。
今、全国にある「とんかつ屋」がお手本としたお店。
究極至高の名店、その名は「とんき」。
昭和14年の創業です。
79年もの歴史をもつ、老舗とんかつ店です。
正月も過ぎた頃、JR目黒駅で降りて「権之助坂(ごんのすけざか)」を下り、
家具屋「ACME」に寄ってソファーを買い、「大鳥神社」に向かいます。
その足で「太鼓橋」をわたり、
左たもとに「太鼓うなぎ屋(創業300年)」が建っていたの思い出しながら
「目黒雅叙園」を右に見て「大円寺」に向かいます。
大円寺は大黒様、「目黒の七福神巡り」で人が詰めかけています。
干支方位が敷石に彫られています。
JR目黒駅に向かう「行人坂」の急坂をよいしょよいしょと登ります。
登りきる手前の路地を左に入ると、憧れの「とんき」が見えてきました。
開店は16時、時計を見ると15時半。すでに8人が並んでいます。
シャッターが開く頃には、40人以上の行列が寒さの中立っています。
早めに並ぶ理由は、カウンターから見える職人技を見たいがため。
白木の長~い清潔なカウンター、庭も見える奥の角に座ります。
品数はこの14の短冊のみ、無駄のない厳選された品数です。
ビールにはピーナッツ、ぬる燗には昆布と椎茸の佃煮のアテが出されます。
ビールは正月用のキリンラガー、お酒は大関 上撰。
店に入ると、まず目に入るのが広い広いカウンター席です。
2階はテーブル席、個室もあり、1階は全席カウンター、
清潔で余裕を持った広さの厨房を、コの字に取り囲んでいるカウンター席は、
ひきしまった空気が流れ、多くの照明に照らされて、
極上のパフォーマンスを見させてくれます。
カウンターの上に置かれた、爪楊枝入れ。
コップが何気なくかぶせられ、お店の気の使いようが分かります。
特に注目したいのは、とんかつを切る専門の職人さんです。
一分の無駄もなく “切り分けていく“その動きは見ているだけで飽きません。
カウンター席の後ろには、椅子が置かれ順番待ちの方が並んでいます。
疑問に思うことは、待つ人はランダムに座って、順番はどうなっているのか?
「とんき」のベテランの職人さんは、入ってきた順番とオーダーを、
完全に記憶しているのだそうです。
料理が出来るまでの間、職人たちのプロフェッショナルな仕事が観察できます。
とんかつの揚げ方も、小麦粉と卵を3回つけてから
目の細かいパン粉をつけるのも独特で、160℃に熱したラードで
20分ほどかけて、じっくりと揚げています。
千切りキャベツを盛る人も適量を正確に、パセリも綺麗に飾り付けています。
席に座って30分ぐらい経ったでしょうか。
注文していた「ロースかつ定食」と「ヒレかつ定食」が目の前に並びます。
付け合せは「キャベツ」と「トマト」と「パセリ」と「からし」のみ。
キャベツが無くなると、どこからともなくお代わりが添えられます。
「ご飯」も自由、「豚汁」は一杯なら、お代わりを尋ねられます。
※このシステムが、他のとんかつ店に波及しています。
つれあいが気づきました。自家製の「お新香」の下には、
ひと滴の醤油が分からないようにさされています。
「ヒレかつ」と日本酒も合いますね~
当然ながら とんかつ の美味さは当たり前。
実にジューシーかつ、旨味たっぷりの上質な肉が使われています。
それを包む「とんき」ならではの「クリスピーな衣」が、
上質な肉を包みこんでいます。
こちらにも、ひと滴のソースが右下にかけられています。
「ロースかつ」は、もちろんジューシー
とんかつの普通の切り方は、縦に切られていますが、
タテ切りに加えて、一本ヨコ切りが入っています。
しかも真ん中にヨコ切りするのではなく、
微妙に中心をズラした比率で12個切られています。
とんかつ屋とは思えない、“さらしの厨房が見事“な店の雰囲気です。
清潔に保たれた厨房には、衣をつける人、揚げる人、切る人、
皿の準備をする人、かつを盛る人、提供する人と、
すべての仕事に担当する職人がいて、みな黙々と自分の役割に徹しています。
専門の職人たちの動きはまさしくプロそのものです。
その様子を眺めながら、揚がるかつを待つ時間もまた至福そのものです。
ちなみに、ロースもヒレも、どちらも美味しくて悩みどころですが。
もしも2人で行くのならば、ロースとヒレを分けて注文したほうがよく、
3人ならば、それに串かつを入れればよいのかも。
やっと念願が叶いました
一生に一度は食べておきたい とんかつ と この風情、もしも誘われて断る人は
またひとつ、楽しむチャンスを逃すことになりますよ。
それぐらいの、目黒「とんき」のかつです。
夕暮れのお店をあとにしながら、満ち足りた表情になるのは
私だけでしょうか つれあいも 満足げです。
※ひとつ残念なことは、御飯と豚汁の出し方が、逆になっていること。
みなさん、御飯は左、豚汁は右にと並べ変えていました。
正式にのれんわけしているのは
東京だと「高円寺」「駒込」「国分寺」「三軒茶屋」の4店舗
東京都以外だと、「新潟」「新発田」「牛久」の3店舗。
●お店データ『とんかつとんき』
住所:東京都目黒区下目黒1-1-2
営業時間:16:00~22:45
定休日:火曜・第3月曜
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