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『死神』去年と違ったクリスマス

2011-12-23 12:25:37 | 小説『死神』
死神

去年と違ったクリスマス

ルカは雪が降ってくる空を見上げた。
雪が目に入りそうになる。
…幽霊のように実体をなくせばいいだけなんだけど。
「寒くないか?ルカ。」
恋人のごとく声をかけたのは、2ヶ月ほど前にルカを死神にしたディレス。
年齢不詳。
外見は17歳であるルカの2つ3つ年上に見えるが。
「…幽霊って便利ね。」
「は?急に何を言い出す。」
「寒さ感じないじゃん。」
「実体化しなければ、とつくが。」
ルカはなんとなくため息をつき、歩き始めた。
町は明るく、控えたイベントを楽しみにしている。
「クリスマス、ねぇ…。」
去年のクリスマスでは、妹のリサもルカもまだ生きていた。
3ヶ月前に妹が風邪をこじらせたことから、すべてが変わって。
「リサは浮幽霊、私は死神。悪い意味で夢みたいだわ…。」
「ま、そういう意味では初めてのクリスマスだろ。」
ディレスがそういって笑った。
前は笑い事じゃないって怒っていたけど、もう慣れてきた。
もう終わってしまったことなんだから。
忘れないと、前に進めない。
「なんかほしいものあるかー?」
ディレスはのんびりと言う。
「は?」
「いや、せっかくだからさ。」
照れくさそうに笑うのを見たルカは、少しだけ、笑った。
緊張感のカケラもなく、まるで人みたいなディレス。
そういうところ、いいなぁと感じてたりして。
――――そういうのも、いいかもしれない。
人じゃなくて、死神。
まるで生まれ変わったみたいに、死神として存在していこう。
過去を思い出すのはつらいけれど、ポジティブに考えないと。
「そーですねー…黒薔薇のブローチ・」
「…黒百合な。」
「あ、そうそう。それのこと。」
ディレスがした死神の自慢話の中で、唯一いいなぁと思ったのがこれ。
「や、それは無理だろ。仕事回ってこねーし。」
ディレスも未だに死神の仕事をした回数は一回だそうで。
「龍牙様って意地悪?」
「そーでもない。妹一筋。」
「…シスコン?」
「…それはまた別だと思うんだが。」
「でもそうなるじゃん?」
「龍牙様がシスコンだったらお前もだろ。」
「なっ、それとこれとは話が別でしょっ!?」
ぎゃーぎゃー騒ぎながら歩いていく黒ローブの2人を隠すように雪は降り続ける。
ルカにとって、ある意味初めてのクリスマスだ。
でも、人だろうと死神だろうと、別に変わりない日常。
過去のことを重荷にしていたら、それこそリサに悪いだろうし。
いつかまた会えるだろうし。
今は先に進むことを考えて。

メリークリスマス。

改めて今日この日が、私の死神としての出発点だ。



written by ふーちん


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